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吟遊詩人にでもなれよと馬鹿にされた俺、実は歌声でモンスターを魅了して弱体化していた。ギフト【歌声魅了】と先祖の水竜から受け継いだ力で世界を自由に駆け巡る!魔力無しから最強へ至る冒険譚~  作者: 綾森れん
序章:最弱から最強へ/Ⅰ、幼少期(6歳~)

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04、音楽との出会い

 年が明けてから、ぼくはアンジェねえちゃんに手を引かれて手習い師匠さんのおうちへ行った。


 石畳の坂道に、淡い冬の日差しがほのかなぬくもりを投げかける。時々見かける近所の白猫が、陽だまりで丸くなっている。


 ねえちゃんのおさがりを着て外に出るのはまだ抵抗があったけれど、すれ違う村の人たちはぼくを見るとみんな、なぜか笑顔になった。


「ジュキちゃんが健康上の理由で女の子の格好をしてるってことは、ちゃんとお師匠さんに伝えてあるから、安心してね」


 ねえちゃんはぼくの背中を優しく叩いて、坂の途中にある家の前で立ち止まった。


「じゃ、私は魔法の先生のところに行くから、がんばるのよ」


 ねえちゃんの背中が坂道を登って、遠ざかっていく。


 ぼくは手習いの先生のおうちを見上げた。扉をトントンって叩けばいいのかな。


 深呼吸したとき、坂の下から二人の男子が大股で歩いてきた。


「お、誰かと思ったらシロヘビの化け物じゃねーか!」


 あ! お祭りでぼくをいじめた赤い髪の子!


 ぼくは震えあがって後ずさりした。


「今日も女の服かよ? え?」


 どうして怒鳴るの? ぼくは震える手で、斜めがけした革鞄のたすきを握りしめた。


「こいつ化け物のくせにワンピースなんか着て、髪まで結んで気持ち悪いっスよ」


 黒髪の少年もぼくをあざ笑う。ぼくは大きく息を吸うと、言い返した。


「ぼくは化け物じゃない! 先祖返りだもん!」


 父ちゃんも母ちゃんも褒めてくれたんだ!


「ギャハハハハ!」


 なぜか図体のでかい赤髪が、ふんぞり返って笑った。


「俺様はなあ、おめぇの歳の頃にゃあ火魔法を使って、親父の工房で働いてたぜ?」


「おいらだって土魔法で父ちゃんの畑仕事、手伝ってたね!」


 そういえばねえちゃんも、ぼくが物心ついたときからずっと魔法が使えるんだ。


「せっかくの先祖返りも外見だけじゃなあ?」


 赤い髪の子が広い肩幅でずいっと、ぼくに覆いかぶさってきた。汗臭い。


「役立たず!」


 黒髪の少年もはやし立てる。


「外見だけ魔物のくせに実力は人族以下! ギャハハハハ」


「ヒャハハハ!」


 二人の笑い声がぼくを追い立てる。


 たまらず、くるりと背を向けると、ぼくはもと来た道を駆け出した。


 坂道の途中に、ねえちゃんが勉強している魔法の先生のおうちが見えてきた。だけどぼくには関係ない。ぼくは魔法が使えないから、きっとあそこに通うことはないんだ。


 見ないようにして走り抜ける。


 やがてぼくの家が見えてきた。二階のバルコニーで母ちゃんが、風魔法を使って洗濯物を乾かしている。みんな当たり前のように魔法を使っているのに、ぼくだけできない。


 父ちゃんみたいな強い男になりたいのに病弱で、女の子の格好をしなくちゃいけない。


 手習い師匠のところに通いたくても、人と違う外見のせいで怖くてみんなと学べない。


 どうしてぼくだけ何もできないの?


 坂道を走り続けていたら胸が苦しくなって、ぼくはこのまま消えちゃえばいいのに、と思った。


 立ち止まると、汗と涙でぐしゃぐしゃになった顔に、冷たい風が吹きつけた。


 気が付けば、小さな村がしがみついている山の、ほとんど頂上まで来ていた。


「海の見える高台に行こう」


 家には戻りたくない。重い足を無理やり動かしたとき、風に乗ってどこからともなく音楽が聞こえてきた。


「パイプオルガン?」


 教会に行くたび聴いていたはずなのに、今はなぜか胸の奥に沁み通っていく。


 たおやかな旋律に導かれて、ぼくは村のてっぺんにある精霊教会をのぞいた。


 聖堂へ、そっと足を踏み入れる。天窓から差し込む柔らかい陽射しが、並ぶ長椅子を照らしている。その脇に立ったまま目を閉じて、ぼくは荘重な音楽に浸っていた。


 はたと演奏が止まった。


「ようこそ。小さなお客さん」


 神父様が立ち上がって、中二階みたいなところから、ぼくを見下ろしている。


「お嬢さんも弾いてみるかい?」


「いいの?」


「もちろんだとも」


 柱の裏にある細い螺旋階段を登ると、パイプオルガン用の椅子へたどり着いた。


 神父様はぼくを抱き上げて、横長の木製椅子へ座らせる。


「わぁ、ペダルがいっぱい並んでる」


 ぼくは足元を見下ろして、スカートから出た足をぶらぶらさせながら歓声をあげた。


「手袋を外してごらん。弾き方を教えてあげるから」


 物静かな神父様の言葉に、ぼくはハッとして両手を引っ込めた。


「ぼくの手、変なんです」


 そのときステンドグラスから一筋の明かりが差し込んで、うつむくぼくの横顔を照らし出した。きっと白すぎる肌の色で、神父様は気付いたのだろう。


「きみは――」


 神父様の大きな手がぼくの肩を力強く抱いた。


「祝福された子だ。決して変なんかじゃない。人と違うというのは、素晴らしいことだ」


 神父様は勇気づけてくれたけど、ぼくは母ちゃん特製手袋を嵌めたまま鍵盤を押した。


 荘厳な音色が、石造りの壁に響きわたる。


「すごい……」


 心にもう一度、明かりが灯ったような気がした。


「これはストップと言って――」


 神父様が、大きなパイプオルガンの左右に並ぶボタンやレバーを操作しながら、


「押し込むと音色が変わるんだ。もう一度同じ鍵盤を弾いてごらん」


 ぼくは恐る恐る一本指で鍵盤を押す。


「わ、ほんとだ! さっきより高い音になってる!」


 パイプオルガンに魅せられたぼくは、それから毎日教会へ遊びに行くようになった。


 神父様は音楽だけじゃなく、読み書きや精霊教会の神話についても教えてくれた。


「むかーし昔、四大精霊王様がそれぞれ空気、水、土、火を作り出し、そこから命が生まれたのです。さあ、命の源となった精霊王様たちに祈りを捧げよう」


 ぼくは手を合わせてちょっと目をつむってから、


「ねえ、しんぷさま。きょうもオルガンさわっていい?」


「もちろん。ふいごに風魔法をかけるから少し待っていなさい」


 オルガンのパイプに空気を送るため、親切な神父様はいつも風魔法を使ってくれた。


 ある日ぼくが右手だけでオルガンを弾きながら旋律を口ずさんでいると、立ち並ぶパイプの下で神父様が茫然と佇んでいるのに気が付いた。


「どうしたの?」


 演奏を中断して顔をあげると、


「ジュキエーレ、君の歌声はなんて美しいんだ」


 熱に浮かされたように呟いた神父様の灰色の瞳から、透明な涙がこぼれ落ちた。


「ジュキの声が、美しい……?」


 神父様の言葉を口の中で繰り返したとき、心にぱっと花が咲いた。村の高台から見える、陽射しに輝く海みたいにキラキラした気持ちになった。


 みんなから先祖返りだと期待されているのに魔法も使えない、ほかの子供たちより体が小さくて弱くて友だちもできない、そんなぼくに初めて「価値のあるところ」が見つかったのだ。

次回「歌声魅了が目覚めた日」です。

ついにジュキエーレの持つ最強ギフトが力の片鱗を発揮します!

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