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吟遊詩人にでもなれよと馬鹿にされた俺、実は歌声でモンスターを魅了して弱体化していた。ギフト【歌声魅了】と先祖の水竜から受け継いだ力で世界を自由に駆け巡る!魔力無しから最強へ至る冒険譚~  作者: 綾森れん
序章:最弱から最強へ/Ⅰ、幼少期(6歳~)

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03、ジュキエーレ出生の秘密

 アンジェねえちゃんは風魔法を解くと、何食わぬ顔で家の前の坂道に着地した。


「ただいまー」


 木製の玄関扉を押し開けると、あたたかい夕飯の香りがふわりとぼくを包み込む。


「おお、ジュキ! 母ちゃんから聞いたぞ」


 部屋の中から父ちゃんが、満面の笑みを浮かべて現れた。大きな手で、ぼくの頭をぐりぐりと撫で回す。


「かわいくなりやがって。俺の子とは思えねえ美少女っぷりだ」


 ガハハと大声で笑うと、軽々とぼくを抱き上げた。そのまま部屋の中を大股で歩いて、ぼくを食堂の椅子に座らせた。


 キッチンでは母ちゃんがお鍋をかけ回している。


「ジュキちゃん、おねえちゃんと屋台巡り、楽しかった?」


 母ちゃんの優しい声を聞いた途端、ぼくは泣き出しそうになった。ねえちゃんと見て回ったフェスティバルマーケットも、大道芸人のおじいさんが見せていた人形劇も、いじめっ子たちに投げつけられた言葉のせいで遠い過去みたいだ。


 父ちゃんが中庭の共同井戸に水を汲みに行くとき、ぼくはスカートの裾をひるがえして、そのあとを追いかけた。


「ねえ父ちゃん、ジュキは誰の子なの?」


「はぁ?」


 振り返った父ちゃんは、あんぐりと口を開けた。


「何言ってるのよ、ジュキちゃん!」


 すぐに反応したのはねえちゃんだった。


「ジュキちゃんは、父さんと母さんの子に決まってるでしょ! 私、ジュキちゃんが生まれた日のこと、覚えてるんだから」


 ぼくより五歳年上のねえちゃんは早口で、村が一面の銀世界へと変わった奇跡の夜に、ぼくが生まれたのだとまくし立てた。


「お産婆さんが産湯で洗った小さな小さなジュキちゃんを、母さんが抱き上げたの私、見てたもん!」


「でもぼくだけこんな鱗が生えてみっともない姿なのに……」


 井戸の前で立ち止まったぼくは、石畳のすきまから生えている雑草に視線を落とした。ツインテールがふわっと、こめかみのあたりにかかった。


「なっ」


 追いかけて来たねえちゃんの顔色が変わった。


「何言ってるのよ! ジュキちゃんの鱗はなめらかで、真珠みたい。すっごく綺麗なのに! おめめは大粒のエメラルドだし、長いまつ毛は銀細工のよう!」


 並べ立てて、ぼくを抱きしめた。


「私の弟は全身宝石みたいだわ!」


「そうよ」


 ねえちゃんが必死で訴える声が聞こえたのか、キッチンにつながる小さな木戸が開いて、お料理をしていた母ちゃんがエプロンで手を拭きながら出てきた。


「ジュキちゃんは母さんの宝物だもの。それに母さん、ジュキちゃんの声も大好きなの。鈴を鳴らしたみたいで、本当にかわいいわ」


 母ちゃんの優しい声音が、ぼくの心をそっと包み込んでくれる。


「ジュキ、そろそろお前の出生の秘密について話さなけりゃな」


 父ちゃんは井戸から手を離して、ぼくの両脇をしっかりつかむと抱き上げた。夕方の空が近くなって、まわりの煙突からお夕飯の匂いが漂ってくる。


「お前の姿は先祖返りなんだよ」


「せんぞがえり?」


 初めて聞く言葉だった。


「そうだ。だから確かに、竜人族の父ちゃんとセイレーン族の母ちゃんの子なんだ」


 父ちゃんはぼくを片腕で抱き、もう一方の手で水桶を持ち上げて部屋に入った。


「父ちゃんの遠い遠いご先祖様が白竜だってのは知ってるだろう?」


「うん」


 村の人たちはみんなそれぞれ、うちは赤竜だ、うちはナントカ竜だって自慢げに話してるもんね。


「父ちゃんの白竜ってのは、とびきりすごいんでしょ?」


「水の精霊王様が白竜だったって言われているからな」


 父ちゃんは色褪せたソファにドカッと腰を下ろすと、膝の上にぼくを座らせた。


「ジュキは先祖返りした姿で生まれたから、白竜の(たてがみ)みたいな銀髪に、真珠のような鱗を持ってるんだ」


 父ちゃんは日焼けした大きな手で、ぼくの手に生えた水掻きをムニムニさわりながら、


「水掻きはセイレーン族由来かもな。でもこの透明な鉤爪は白竜様のものだろうよ」


「先祖返りっていいことなの?」


 みんなと同じ姿に生まれたかったよ……


「いいことに決まってるじゃない!」


 ねえちゃんが大きな声を出す。


「外見だけなんてことはないはずよ! 大きくなったら、きっと強ーい魔法が使えるようになるわ!」


 ねえちゃんの言葉に、ぼくの胸が高鳴る。


 すぐ横のキッチンでお料理をしていた母ちゃんが振り返った。


「ジュキちゃんが生まれた日、村のみんながとってもおめでたいことだからって、お祝いしてくれたわ」


 なつかしそうに目を細める母ちゃんの横顔を、暖炉の火がオレンジ色に染める。


「次の日には旅の聖女様が村にいらっしゃって、ジュキちゃんを守る石を授けて下さったのよ」


「これよ!」


「きゃっ」


 ねえちゃんが勢いよくワンピースをめくりあげたので、ぼくは小さな悲鳴をもらした。


「この変なの……」


 ぼくは猫ちゃんみたいな爪で、冷たい瑠璃色の石をそっと叩いた。


「変じゃないわよ! 聖石って言うんだって!」


 ねえちゃんが楽しそうだから、ぼくは黙っていた。どうしてか分からないけれど、この石を見ると嫌な感じがするんだ。とっても不安になるの。


「ありがたいものなのよ」


 母ちゃんもほほ笑んでいるし、この石が怖いなんて言えないもん……


「そうだぞ、ジュキ。綺麗な瑠璃色の髪をした人族の聖女様が、わざわざこんな辺境の――彼らが亜人領なんて呼んでる地域まで来たんだ」


「じんぞく? あじんりょう?」


 分からない言葉がいっぱい出てきて、ぼくは父ちゃんの膝の上で首をかしげた。


「そうだとも。遠い遠いところには、人族っていう弱っちいのがたくさん住んでるのさ」


 父ちゃんはぼくを膝から下ろすと立ち上がり、テーブルの上のランプに火を入れた。


「ジュキたちとどう違うの?」


 あたたかく照らし出す黄色い灯りの中で、ぼくは首をかしげた。


「見かけはそんなに変わんねえよ。でも人族の耳は小さくて丸っこい。あと犬歯――」


 父ちゃんはぼくたちを振り返ると、自分の牙を親指で示した。


「ここの歯も、とがってねえんだ。人族は俺たちのことを亜人族なんて呼んでやがる」


「ジュキたち、竜人族じゃないの?」


「俺たち竜人族や獣人族を全部ひっくるめて、亜人族って呼んでるらしいな。父ちゃんは俺たちの自治領を出て、遠く人族の都まで冒険者として旅したのさ」


 自慢げに胸を張った父ちゃんが、いつも以上に大きく見えた。


「自治領って――?」


 ぼくが小声で呟くと、


「私たちの住んでいる多種族連合(ヴァリアンティ)自治領のことよ。手習いのお師匠さんのところで習ったわ」


 ねえちゃんがしたり顔で、勉強したことを披露する。


「あれ? この村、モンテドラゴーネって名前じゃなかった?」


「ヴァリアンティ自治領の中に各種族ごとの村や町があるのよ。ヴァリアンティ自治領自体はレジェンダリア帝国の一部。帝国は水の大陸の大部分を治めているの」


 ねえちゃんが博識に見えて圧倒されたぼくは、何も言えなくなってしまった。


「ジュキちゃんも六歳になったんだから、手習い師匠様のところに通うといいわ」


「そうだな、ジュキ。文字も読めるようになるし、地理についても教えてくれるぞ」


「そうすると何かいいことあるの?」


 ぼくの素朴な疑問に、父ちゃんはアッハッハと大声で笑った。


「文字を学べば魔術書を読めるようになって、魔法を使うときに便利だろ? 地理が分かれば、父ちゃんみたいに冒険者をやるのに役立つんだ」


「父ちゃんみたいになれるってこと!?」


 ぼくは憧れのまなざしで、筋骨隆々とした父ちゃんを見上げた。でもねえちゃんは、ぼくのワンピースの裾を直しながら首を振った。


「ちっちゃくてかわいいジュキちゃんに、冒険者なんて似合わないわ」


 ぼくはいつまでも小さいわけじゃない。父ちゃんみたいにたくましい男になるんだ。


「ぼく、手習いのおししょさんとこ行くよ!」


 宣言すると、お料理中の母ちゃんが振り返ってほほ笑んだ。


「母さんも、ジュキちゃんがお勉強するのは賛成よ」

次回、ジュキエーレの固有ギフトが目覚めていくきっかけとなる出会いがあります。

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