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エピローグ、陞爵

「アルジェント卿、皇后陛下があなたに騎士よりもっと上の爵位を与えたいと望んでいることはご存知ですな?」


「え、ええ」


 かろうじて返事をした俺の声は緊張でかすれている。


 俺を娘にしたいとかいう正気の沙汰とは思えねえ計画が、まさか現実になっちまうのか!?


「皇后陛下は侯爵位を与えたいなどと実現不可能なことをおっしゃいましたが、宰相殿が一代限りの男爵位が妥当だと申し上げました」


 まあ、そうだよな。皇后様の一存ですべてが決定するほど馬鹿っぽい仕組みじゃないことに安堵する。


「しかし皇后様がアルジェント卿の功績――オレリアン様の亜空間魔法を事前に食い止めて皇帝陛下のみならず、帝都の貴族たちや多数の重臣を救ったこと、さらにオレリアン様を正気に戻してくださったことなどと照らし合わせて、男爵位では釣り合わないとおっしゃいました」


 俺は緊張で身を固くした。結論から言って欲しい!


「結局、皇帝陛下が子爵に陞爵(しょうしゃく)するならよいと決定された」


 すでに決定してんのかよ……


「おそらく陛下はアルジェント卿の処遇を、多種族連合(ヴァリアンティ)自治領のスルマーレ島領主であるルーピ伯爵の配下に、とお考えだったのでしょう」


 そっか、子爵って伯爵を助けるイメージあるもんな。ルーピ伯爵はユリアの親父さん。俺を騎士に任命した人だ。


「陛下はアルジェント子爵の領地としては、故郷の村をやればいいだろうとおっしゃっていた」


 皇帝も、行き当たりばったりでいい加減なことを言い出すもんだ。


「俺の故郷ってモンテドラゴーネ村のことですか? 村長いるんですけど?」


「村長の領地というわけでもなかろう」


 多種族連合(ヴァリアンティ)自治領では、それぞれの種族が自治を行っている。商業と貿易が盛んなスルマーレ島のように大きな金額が動く地域には領主がいるものの、竜人族やセイレーン族といった少数民族は自分たちの村で千年以上、変わらぬ暮らしを続けているのだ。 


「え、俺の領地になったら何すればいいの?」


「好きにしたらよかろう。税を取り立てたいならそうしなさい。何もしたくないなら、これまで通り村長に村の統治を一任している、でよいではないか」


 えー、そんなもの!?


「モンテドラゴーネ村というからには山なのだろう?」


「山っつーか丘ですかね」


「うむ、山一個分の領地なら子爵位であれば充分だろうというのが、陛下のお考えだ」


 すっげーやっつけ仕事。やっぱり安定の安穏帝(あんのんてい)クオリティ!


「皇后様もそれでとりあえずは受け入れてくださった。そこで本題だ」


「えっ、今の本題じゃなかったんですか!?」


「じゃなかったんだな」


 騎士団長はニヤリと笑った。


「帝国随一の戦力である聖剣の騎士を、何も亜人領のルーピ伯爵配下とする必要はない。そこで騎士団長であるワシ――バルバロ伯爵家の配下としたい!」


「えー、めんどくさそう」


「お前……」


 あきれ顔になる騎士団長。


「わがバルバロ家は代々騎士団長を輩出している帝都の名門伯爵家であるぞ! 地方の獣人伯爵家とはまったく違う!」


 お、ちょっと差別意識がのぞいてるな、このおっさん。


「俺自身も竜人族だし、ユリアの親父さんの部下ってほうが気楽でいいんですが」


「ユリアの?」


 怪訝な顔をする騎士団長。


「わたし、わたし!」


 それまでうしろで静かに聞いていたユリアがパタパタと尻尾を振って、右手を挙げつつ飛び跳ねた。


「彼女はユリア・ヌーヴォラ・ルーピ伯爵令嬢。スルマーレ島領主のお嬢さんですよ」


「そうであったか。まさかすでに親しい間柄とはな」


 苦々しい表情になる騎士団長。


「皇帝陛下は、俺をルーピ伯爵に仕える立場でとおっしゃっているんでしょう?」


「まあな」


「べつにあなたの配下にならなくたって、今回のアカデミー残党狩りには参加しますよ? 乗りかかった舟ですし」


 まるで頭痛をこらえるかのように片目をつぶって、騎士団長はため息をついた。 


「わがバルバロ家に仕える子爵になれると言えば、喜んで部下になると思ったのになあ」


 権力なんか興味ねえし、帝国中央の政治に関わりたくもねえ。


「ではアルジェント卿、貴殿の望みは宰相殿に伝えておく」


 騎士団長はねばることなく、すんなりと俺の希望を受け入れてくれた。


「おそらく近いうちに子爵位授与式があると思っていてくれ」


「はぁい」


 俺は微妙にやる気のない声で答えた。


「そうだ、アルジェント卿。帝国貴族は帝都に屋敷を構える者が多いが――」


 騎士団長はそう言って両手を広げ、自慢げに広間を示した。いわゆるタウンハウスというやつだ。


「皇后様がアルジェント卿のために、いつでも宮殿内に部屋を用意しておくとおっしゃっていた。君に伝えるようにと」


「はいはい」


 ありがたいのか身の危険を感じるのか分からねえ特権だな。


「それでだ、アルジェント卿。それからレモネッラ嬢とユリア嬢にも騎士団から正式に依頼したい」


 そうして俺たちには五日後、魔石救世アカデミーを正面突破する計画が伝えられた。


「あなた方三名にお願いしたいのは、地下研究所への潜入だ。ほぼ確実に、アカデミーの作り出したモンスターがうようよしているだろう」


 俺たち三人はだまってうなずいた。


「皇帝陛下は帝国の戦力として魔物を利用することを考えていらっしゃったが、オレリアン様にうかがったところ、魔石を埋め込んだ者にしか操れないということだった」


 情報提供者としてオレリアンが役に立っていてホッとする。彼に罰を与えないよう、俺が進言したようなものだからな……


「陛下は危険な魔物の兵器利用はあきらめて下さった。あなた方にはモンスター殲滅(せんめつ)クエストとでも思って、存分に暴れていただきたい」


「わーい! あっばれっるぞー!」


 一人楽しそうなユリア。レモは冷静な声で質問した。


「帝国騎士団からの正式な依頼ということは、報酬を支払っていただけるのでしょうか?」


「ええ、もちろん。ただ現時点では、どれほどモンスターがいるのか数も強さも分かりません。そこで一人につき日給金貨十枚で考えております」


「ジュキ、どうかしら? 私、ギルドで受ける仕事の相場とか知らないから」


 遠慮がちに尋ねるレモが、お嬢様らしく見えてかわいい。


「いいんじゃねえかな」


 金貨十枚といったらモンテドラゴーネ村で一ヶ月遊んで暮らせる額だ。それを一日で稼げるというのだから、俺たち一人一人に熟練冒険者並みの待遇をしてくれるってことだ。


「ジュキは私たちと同じ金額で不満はないの? ジュキ一人だけ圧倒的に強いと思うんだけど」


 上目づかいで尋ねるレモに、


「不満なんてあるわけないじゃん。あんたがいなきゃ俺、報酬のことなんて忘れてたし、ユリアは癒しだし」


「は?」


 今までしとやかだったレモの表情が、いきなりオークみてぇに変わった。


「なんで私が癒しじゃないのよーっ!」


「わぁごめん! レモは頭脳枠だからっ!」


「私だって癒し枠がいいーっ!」


 目に涙をためて怒るレモを、俺は慌てて抱きしめた。


「あんたの存在は癒し枠なんてもんじゃない、もっとずっと大きいもんだ」


 レモがうるんだ瞳で見上げる。


「俺の心の支えっつーか、生きていく理由そのものだよ」


「ジュキっ!」


 感極まったレモが俺に抱きつく。


 騎士団長とセラフィーニ師匠の視線が痛いけど気にしない!


「二人で世界の果てまで旅しような」


 そう、当初の目的だった偽聖女ラピースラはついに倒した。それでも俺たちの道は続いていく。二人の未来へと。


「ジュキ、私たちで魔人アビーゾからこの世界を守ろうね!」


 笑ったレモの長いまつ毛が少しだけ()れている。


 大切な人への思いが抑えきれなくて、胸の奥で花火のように愛おしさが花開く。気付いたら俺は、彼女のさくらんぼみたいな唇に自分の唇を重ねていた。

これにて第5章完結です!

ここまで読んでいただきありがとうございます(n*´ω`*n)

第6章、書き溜めますので少々お待ちください!!

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[一言] 女子爵にして帝都のアイドル、ついでに聖剣の騎士
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