25、サムエレ、意中の銀髪ツインテ美少女と再会する
馬車旅も四日目。今日も俺たちの馬車は、帝都を目指す劇場支配人・作曲家・歌手を乗せた馬車のうしろを走っている。
午後になると街道沿いの林が、次第に暗くなってきた。
「なんかここらへん、雰囲気やばくね?」
隣のレモに話しかけると、
「瘴気の森に近付いてるからよ。街道沿いはほんの入り口だけど、奥に入ると魔物が巣食う危険な領域よ」
「帝都の東側って瘴気の森に囲まれてるんだっけ」
「そう。学園の歴史の授業で習ったんだけど、現皇帝家であるレジェンダリア家は、自然の防壁である瘴気の森に守られて力を蓄えたんだって」
そんな話をしていたら、向かいに座ったユリアが窓から見上げて、
「おっきな鳥さんが近付いてくるのー」
空を指さした。
「またモンスターか?」
「違うのー。あれ、多分わたしたちが移動するとき使う鳥さんだから」
みるみる近づいてくるロック鳥の背には、ユリアの言う通り人影が見える。
レモは用心深くロック鳥を目で追いながら、
「獣人族の乗り物ってこと?」
「そだよー。ほら、乗ってるの狐とイタチの獣人さんでしょ?」
俺の目ではよく分かんねえけど、耳のついてるヤツ二人のうしろにへばりついてる金髪に、見覚えがある。目をこらしているうちに、ぐんぐんと高度を下げるロック鳥。
「あれ、サムエレじゃねぇか……?」
「えっ、ジュキとパーティ組んでた眼鏡の男?」
まずいと思ったらしいレモ、ロック鳥にさっと背を向け反対側の窓の方に顔を向けた。
だがロック鳥は俺たちではなく、前の馬車に向かった。ほっと胸をなで下ろす俺にレモが、
「また人違いしてくれたのかしら」
こちらを向こうとしたのもつかの間、ロック鳥が空中で減速し、俺たちの窓に近付いてくる。
ロック鳥の羽毛にしがみついているサムエレと、目があった――と思った次の瞬間、
「――あぁっ……!」
上ずった声をあげた途端、サムエレがいきなり鳥の背中から馬車の窓に飛び移ってきた!
「ぼ、僕のジュリアさん!!」
両手で馬車の窓枠をつかみ、走行中は跳ね上げてある昇降ステップで足を支えつつ、車内に首を伸ばしてくる。信じらんねえ……こいつの執念こわっ!
「今日は女騎士の格好なんですねっ!? それとも侍女姿が変装だったのかな!?」
何そのいつもと全然違うテンション。引くんですけど。
「どなたですか?」
とりあえず、しらばっくれてみる。ちなみになるべく口を開けないように話さねばならない。獣人族同士、相手の口の中に牙が見えたら同族だと分かる上、先祖返りしている俺は舌先を見られてもバレるのだ。
「僕をお忘れですか!?」
泣き出しそうな顔をするサムエレのうしろから、ハーピーの女性が顔をのぞかせた。
「わーっ、綺麗な娘! あれっ? きみ、どこかで見覚えが――」
そういえばこのハーピーさん、俺たちがルーピ伯爵邸にいるとき手紙を運んできた人じゃんか! 思い出すなよー! 心の中で祈っていると、ユリアが窓の方に身を乗り出した。
「ファルカちゃんじゃーん!」
「わーい! ユリアさまーっ!」
「帝都まで配達のお仕事?」
「今日は違うんです。この二人に雇われて――」
振り返ったファルカさんの視線の先に、ロック鳥に乗った獣人族二人組。
「ど、どぉも~、ユリア様……」
なぜか気まずそうな薄笑いを浮かべる。
「あなたたち、うちで雇ってる子たちだよねっ?」
「はい、お世話になっております。あのぉ、ユリア様、レモネッラ嬢とアルジェント卿と旅に出られたはずでは?」
まずい。イタチ男の問いに戦々恐々としていると、狐女が背を向けたままのレモを指さした。
「あっ、あのカチューシャ、うちの島で観光客用に売ってる猫人族変身セットじゃない?」
「本当だ!」
イタチ男も顔を輝かせる。
「うちのかーちゃんが内職で作ってるやつ! 買って下さったんですねー!」
「すごい観光客価格だよな、あれ。あんなぼったくり商品をよくまあ」
狐女の冷静な言葉に、
「なんですってーっ!? かわいいと思って買っちゃったじゃない!」
レモ、振り返っちゃったよ……
「あ。レモネッラ様。お久しぶりです」
一応、頭を下げるサムエレ。こいつのこういう杓子定規なところ、俺苦手だわ~
「この方が公爵令嬢様で間違いないんだな?」
嬉しそうな狐女。
「――ということは」
サムエレがつぶやいた。ついに気付くか、俺の女装に――
ついにサムエレ、銀髪ツインテ美少女の正体に気付くのか!?





