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冒険者の俺は焼き菓子の店に通う

作者: 瑞 雪平


「予想以上にいたな……まあ、これで終わりだ――」


 俺はいつも通り依頼をこなしている。

 今回の依頼は――街の近くの森に出現したCランクの魔物、コボルトの全滅である。

 受けたはいいものの……30体以上倒した。

 報酬がやけに多いと思ったら敵の数も多かった……。


 ギルド職員は10体以上は確認していると言っていたが、少し騙された感じがする……。

 まあ、文句を言える範囲ではないが……。

 コボルトを腰に付けている魔法の箱(アイテムボックス)に入れて――血を浴びた両手剣を風魔法使い、吹き飛ばし、ギルドに報告に行く――。


 ギルド職員にコボルトを見せて依頼を完了。

 報酬として大銀貨1枚を貰い、ギルドを出るようとすると――。


「お~い、カイト! たまには飲もうぜ!」


 冒険者仲間がビールジョッキを片手に手招きして俺を誘っている。


「悪いが、今日も野暮用があるから遠慮する」


「なんだよ~()()()()()はいつも帰宅が早いな~また今度な!」


 俺は手を上げてギルドを出る。

 疾風の剣士――仲間からいつの間にかにそう言われるようになった。

 単に風魔法が得意から言われているのではなく、依頼はすぐに終わらせるからその名になった。

 俺からしたら簡単な依頼をこなしているだけの事、それにある店に寄って買いたいからである。


 しかし……日が暮れて店はやっているだろうか。

 夕方には店を閉まる頃だ。


 帰り道――街中の大通りを小走りする。

 見えてきた、周りは大きな建物に挟まれた小さい店――焼き菓子の店だ。

 店には明かりがついていて、まだやっているみたいだ。


 大きな窓ガラスから見える、頭に三角巾をつけて、ツインテールにしてエプロンをしている金髪で小柄な美少女――ユナーテが椅子に座って、足をブラブラしていていた。

 店内に入ると、俺に気づいて椅子から立ち上がる。


「いらっしゃい……今日は遅かったね……」


「ああ、思っていたより時間が掛かってしまってな、まだお菓子はあるか?」

 

「ある……ちょっと待って……」


 ユナーテは店の奥にいった。

 売れ残りのお菓子を取りにいったか。


 彼女は次々とお菓子を持ってきてテーブルに並べる。

 アップルパイ、レモンパイ、マドレーヌ、フィナンシェ、ブラウニーと大量に。


「今日は……売れ残りが……多い……」


 ユナーテは下を向いて、落ち込んだ。


「全部買うよ、いくらだ?」


「いいの……? 多いから日持ちが……」


「俺にはアイテムボックスがあるから時間を止められる。日保ちは関係ないよ。後、明日から隣街に用事があるから買えないからな」


「いつもありがとう……銀貨2枚だけど……いい……?」


「わかった、銀貨2枚だな」


 俺はユナーテに銀貨2枚を渡すと無表情だが、少し顔が明るくなった。


「ありがとう……今すぐ包装するね……」


 ユナーテは包装用の紙にお菓子を包み、俺に渡す。


「どうぞ……」


「ああ、受け取ったよ」


「また来てね……」


「次は早く来るからチーズケーキよろしくな」

 

「うん……待っている……」


 受け取ったお菓子をアイテムボックスにしまい、ユナーテは手を振って見送ってくれた。

 

 ユナーテはいつも1人で店を切り盛りしている。 

 母親は幼い頃病気で他界。店主であった父親は去年、仕入れ交渉に行く途中で、魔物に襲われて他界した。

 不幸にも程があった……彼女は父親の店を無くしたくないと思い、1人で頑張っている。


 最初は1人で店をやっていけるかと思ったが全然問題なかった。

 彼女は親父さんと負けないくらいの腕を持っていて、作るのが上手だ。

 いつも親父さんのお菓子を食べている俺からしたら変わらない味としっとりした生地はしっかり再現して美味しい。

 無口無表情だが、店の看板娘だったから接客も普通にできる。

 評判も良く、常連客も多い、街内で収まらず隣街まで評判を呼んでいる。


 だけど、作る量が限られる為、親父さんよりは多く作れず、ほとんど売り上げないと生計を立てられないみたいだ。

 そこで俺は依頼が終わったら必ず店に寄って、売れ残りをいつも買って帰る。

 同情ではない、彼女が作っているお菓子が美味しいから買っている、それだけのことだ。

 

 いつも依頼の帰りに買っているから人気であるチーズケーキは絶対に売れ残ってはいない。

 たまに休暇を取って行く時しか買えない。

 そんな日々が続いている。


 家に帰ると真っ先にアイテムボックスからお菓子を出して食べる。

 相変わらず美味しくて、飽きない――自分のご褒美としては最高だ。

 キツイ依頼が来ても冒険者を続けられる。



 ――翌日。


 

 今日は隣街の知り合いに武器のメンテナンスを行ってもらう。

 最近魔物が多くて切れ味が悪くなってきたからそろそろ危ない。


 朝早く出発をし、焼き菓子の店の近くを通ると、菓子を焼いている匂いがする。

 逆に匂いがしてない時は休業の合図みたいなものだ。

 今日も彼女は頑張って菓子を作っている。


 



 ――――◇―◇―◇――――





 ――1ヶ月経過した。



 朝早く起きていつも通りギルドに向うが、焼き菓子の店を通っても匂いがしない……。

 これで5日目だ。

 珍しく長めに休業しているが、体調がでも崩したのかな?

 無理していなければいいのだが……。


 すると、慌ててユナーテは店から出て来て、涙目に俺にしがみついてくる。

 

「どうした……何があった……?」


「お願い……助けて……」


 ユナーテは恐る恐る口にした――。


 仕入れ先である村の近くにAランクの魔物――ミノタウロスが住み着いてしまい、いつも運搬を頼んでいる商人の通行止めになってしまった。

 それも砂糖だ。

 お菓子にとって命でもある砂糖がここ最近手に入らなくて困っているらしい。

 店に出す量は無くなったみたいだ。

 まだギルドに手配されていなく、このまま続くと家賃が払えなくなってしまうみたいだ。

 

 切実な問題だな……。


「お金は出す……助けて……」


「いや、ギルドに正式に手配しないとダメだぞ。勝手に引き受けるのは違反になるからな」


 非正式での依頼は違法だ。

 もし受けてお金を貰ったらギルドカードの剝奪になる可能性がある。


「じゃあ……ギルドに……依頼する……」


「依頼はしなくていい、俺が行く。その代わり条件がある」


「何……?」


「チーズケーキを2ホール作ってくれないか? それが報酬だ」


 非正式でもお金以外なら問題ない。

 ギルドに依頼してもミノタウロスくらいの強力の魔物だと、金貨1枚は報酬として用意しないと手配ができない。

 ユナーテの負担になってしまう。

 

 それを言ったら彼女は呆然として見ている。


「それだけで……いいの……?」


「ああ、俺に取っては十分な報酬だ」


「うぅ……ありがとう……」


 少しホッとしたのか涙を流してしまう。


「大丈夫だから、それじゃあ、今日中に終わらせるか」


「気をつけてね……」

 

「ああ、疾風の剣士に任せてくれ!」


 ユナーテは明るい表情で手を振って見送ってくれた。


 さて、早く終わらせるか――。

 確か仕入れ先の村はここから50㎞だったはず。

 遠いが俺には関係ない。 


 街の外に出て、風魔法を使う。


「――アクセラレーション!」


 脚に風魔法を付与して街道を走る――。


 風魔法を付与した脚なら素早く走れて2時間で着く。

 風魔法の特権ってやつさ。



 ――2時間経過し、仕入れ先の近くの森に着いた。

 

 周りにいなかったから、もしかすると、森の中にいるはずだ。


 辺りを探すと――遠目だがハッキリ見えた。


 デカい図体に茶色肌、大きな斧を両手に持ち、2本の角に牛の頭――ミノタウロスと確定した。



「ブモォォォォ――――!?」



 俺に気づくと、雄叫びを上げて、デカい足を地面に蹴りつけて向かってくる。


 俺はアイテムボックスから両手剣を持ち、構える。


 ミニタウロスは斧を上から降り落として俺を攻撃する。

 単純だ――遅すぎる。

 横に躱して、片方の腕を狙う。


「――――旋風刃!」


「――――ビモォォォ!?」


 剣を風――竜巻を纏い、勢いよく切りつけて片方の腕を切断した。

 あまりの痛さでミノタウロスは叫んでしまう。


「ブモォ!? ブモォ!? ブモォ!?」


 相手は息が荒く、片方の手で一心不乱に斧を振ってくる。

 俺は剣で受け流す――片方だけなら力の強いミノタウロスでも簡単に受け流すことができる。


 隙が見えたら相手の斧を思いっきり弾き、足を「旋風刃」で切断する。


「――――ビモォォォ!?」


 片腕と片足を失えばこっちのものだ。


「ブモォォォォォォ――――!?」


 最後の悪足掻きとして斧を投げつけてきた。

 無駄だ――今楽にしてやる。


「――――疾風絶刃!」



 敵の首を疾風の如く、一瞬で切り、首が飛び跳ねて倒した。

 これで、安心して通れるな、ついでに村にも寄っておくか。



 ――夕暮れ前には街に戻り、ギルドに行き、ミノタウロスの解体をお願いして、すっかり夜になってしまった。


 さすがに夜だと待ってくれないから明日言うか。


 焼き菓子の店を通ると明かりがついていた。

 窓を見ると――椅子に座って待っている。

 まだ店にいたのか……。


 中に入ると――俺に駆け寄る。


「おかえりなさい……どうだった……?」


「ミノタウロスは倒したぞ。証拠としてこれを――」


 俺はアイテムボックスから解体してもらった角と魔石を出した。


「ありがとう……これで再開できそう……」


 ユナーテは涙を流して止まらない。


「大したことはしてないから泣かないでくれ。それと村にも寄ったからついでだ――」


 再びアイテムボックスから袋に入った。砂糖を大量に出した。


「えっ……砂糖……」


「さすがに砂糖はタダではと言えないが、支払った分は払ってくれよな。これですぐに再開できるから美味しい菓子を――」


 その瞬間ユナーテは思いっきり抱きついてくる。

 それも笑顔で……。

 初めて笑顔を見るな……可愛い……。


「いつも……私を救ってくれて……ありがとう……」


 そう言って1時間ほど離れてくれませんでした……。


 

 ――翌日。


 

 お礼としてチーズケーキをご馳走してくれるのだが……多い……。

 2ホールのはずが、10ホールも出てきた……。


「こんなにいいのか……」


「うん……いっぱい食べてね……」


 まあ、食べきれなかったら持ち帰るけどね。

 久々にチーズケーキだ――大変美味しくいただきました。





 ――――◇―◇―◇――――




 その後、焼き菓子の店は無事再開をしてお客も減ることなく大盛況であった。


 そしていつもと変わらない日々が戻ったが、ある変化が起きた。


 依頼帰りに店に寄ると――。


「おかえりなさい……待っていたよ……」


 ユナーテは笑顔で俺を迎えてくることだ。


 他の人には無表情だが、俺だけ笑顔で返してくる。


 笑顔も可愛いし、手助けした甲斐があった。


 お菓子を買う以外に彼女の笑顔を見る為に俺は焼き菓子の店に通う理由ができた。

 

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