一章 二羽
黒石の烏は、とても美しい鳥でした。その翼はまるで大理石のように艶やかで、嘴も鏡面のようにきらりと輝いています。人々は特別に美しいその鳥を、黒石の烏と呼んでいました。
黒石の烏は、二羽いました。どちらも美しく、気高い烏でした。二羽はつがいであり、いつも一緒にいました。共に飛び立ち、共に舞い降りるのです。人間が人間として生き始めるよりもずっと前から、彼らはそうしていました。では、いつからかというと、地球が初めて月食を見た時からでした。黒石の烏は二羽とも、その時生まれました。その時の名残でしょうか。瞳だけは、月食のような赤色だったのです。
けれどもやがて、黒石の烏は一羽になりました。もう一羽は殺されてしまったのです。人間に狩られてしまったのです。彼らは、人間と生きるには美しすぎました。もう一羽は、その悲しい瞬間を目の当たりにしていました。たった一発の乾いた銃声、火薬の匂い、そして、愛する妻の最後の鳴き声を、彼はその後忘れることができませんでした。
動かなくなった妻を、人間達がどこかへ連れていきます。
「どこへ行くんだ。待って。待ってくれ。どこへ連れていく。やめて。やめてくれ。私の愛しい妻を、どこへ連れていく。やめて。やめてくれ。私達を放っておいてくれ」
黒石の烏はそうなきながら妻を追いかけました。けれども人間たちはそうとも知らず、世界でこんなに美しい鳥はいないと、大喜びでした。彼らは黒石の烏が世界に二羽しかいないことを、知りませんでした。
人間たちの中にいた、一人の若い男が追いかけてきた黒石の烏に気づいて声を上げます。
「やあ、見てみろよ。もう一羽、黒石の烏がいるぞ。あいつも狩ろう」
そう言いながら若い男は銃を構え、照門を覗きこみました。周りの何人かも手を叩いて喜びましたが、一番歳をとった男は静かに首を振りました。
「何を言う。一日に二羽も黒石の烏を狩るなんて。ほら、いくぞ」
威厳のあるその声に、反発するものは誰もいませんでした。人間達は妻を連れて馬に乗りました。
「ならば私も殺してくれ。ひとりで生きていたって悲しいだけだ。ならば私も殺してくれ」
黒石の烏はそう叫んで追いかけたかったのですが、悲しみのあまり息もできず、涙で世界は歪みました。
美しい美しい草原で、やがて黒石の烏はひとりであることを知ったのです。