あたくちはお腹がすいたのでちゅわ
その日、エルジェベトちゃんのために、歓迎の宴が催されました。頭には今まで被ったことのない輪っかと、今まで着たことのない服。エルジェベトちゃんは、ミロンの隣の台に乗せられ、目の前にあるリンゴや干し草、そして見たことのないハーブの香り高さに、思わず手が伸びていました。
「うまうまでちゅわっ!」
「これ、今からわしのスピーチがある。我慢しなさい」
エルジェベトちゃんは手持ちのハーブを食べきり、少しお鼻をぴくぴくと動かしてミロンを見ると、またハーブに手を伸ばし
「これ!」
と怒られてしまいました。エルジェベトちゃんが不服そうな顔を見せると、ミロンは片手を上げて
「皆のものよ! 旧き預言が現実のものとなった!」
しょりしょり。
「皆のものも知っての通り、ドブネズミ一族が」
はむはむしゃむしゃむ。
「我々デグー一族を脅かしておる」
かっかっかっ。
「しかし本日、伝説の賢者様が現れ……」
ぴゅーぴゅーぴよぴよ。
「わしの隣で既に食い物に手をつけておる……。少しは静かに出来んのか!?」
流石にミロンも眉間に皺が寄り、エルジェベトちゃんをギロリと睨み付けます。エルジェベトちゃんは、手にした干し草を噛んで飲み込み。ミロンの顔をまじまじと眺めていました。
「いや失礼。曲がりなりにも賢者様に対する態度ではなかった。少し言葉が過ぎたと思わせてくれんか?」
エルジェベトちゃんはリンゴをはむはむと頬張りだし、ミロンに止められてしまいました。
「ぷわぁっ!」
エルジェベトちゃんも黙ってはいられません。
「ぷわぁではない! 今大事な話してるのっ! 大人しくしなさい!」
「あたくちはお腹がすいたのでちゅわ! かいぬちちゃまは『いくらでも好きなだけ食べなちゃい』っていっぱいおやちゅも出ちてくれたのでちゅわっ!」
「全く行儀が悪い! 黙って聞いてなさい!」
エルジェベトちゃんはふて腐れて、尻尾をつついてみたり毛繕いをしたりと、大人しくすることにしました。
「え~、それで、何だったかな……。あとの預言によれば、伝説の格闘家と癒し手、そして勇者が現れ、オクトドン世界に平和をもたらすであろう! 今日は存分に祝おう!」
突如沸き起こる大歓声に、エルジェベトちゃんはビクッとし、柱の向こう側に隠れてしまいました。
「……先が思いやられるわい……」