トルコアイス作成
家庭科室はガヤガヤしていました。
「今日の昼、白雪ちゃんが『かわいい私は、ベリーベリー、ラズベリー♪』とか蝶みたく躍りながら歌ってて、笑劇だった」
「私も目撃しました。白雪様のチャーミングな姿を心の一眼レフに残しましたよ! 鱗粉が舞ってるのが、たしかに見えました!」
「先生心配してたよね……」
『(各々の笑い声)、さすがは白雪ちゃん(様)』
なにがさすがなんでしょう……? 小首をかしげつつ、中から漏れ聞こえてくる談笑を耳に、家庭科室の扉を開けます――。
見渡す限りの、人、人、人、人、人人人人人人人人人人――。
中の光景に、思わず、ぎょっと目を剥いてしまいました。呆気にとられつつ、呟きます。
「おお、これまた……」
家庭科室には、人が仰山詰めかけていたのです。面子は言うまでもありませんが、もちろん同校の生徒のみで形成されています。つまるところ、女子高生たちが、教室という箱に、ぎっしり詰め込まれている感じですね。
あまりの人口密度に、正直、引きました。
すると、横で、
「Unbelievable! また増えてるのですよ!!」
ネイティブなアンビリバボーを発した一花が、飛び上がりながら手を叩きました。嬉しさを全身で表現するスタイル――素敵です。
「ワオ! Excellentです!」
遅れて、恵美ちゃんが笑みを浮かべて、グッドサイン。一花と比べると、控えめですね。
二人とも嬉しそうで何よりですが……、
「ここまで来ると、もはやクレイジーです」
思わず、口に出してしまいました。てへ。
皆の衆が、私を見てきました。
『Really?』
即時、総突っ込みがきました。圧が凄いです。
「Sorry.……失言です」
コワイコワイです。
災いはいついかなるときに降りかかるかわかりません。失言には気を付けねばなりませんね。
私の思考に割り込むように、一花が発言。
「白雪様の料理を食べたい人がこんなにいらっしゃるとは感激なのです!!」
目が煌めいています。
しかし、感激してばかりもいられません。
「流石に、ちょっと多いですね……あぶれた人が動線を塞いでしまっています」
不安を呟いた私が一花に目で促すと、一花が呼び掛けながら整理します。
「ギャラリーの皆さん。これより料理をするので妨害にならないように、隅で待機していてほしいのです。あとなるべくお静かになのです」
一花が指で静かにのポーズをしました。
「早く来た面々が、もう作り始めてますね。既に何品か食いしん坊ガールズに提供されています」
私が視線を送ると、先に来ていた部員たちに会釈を返されました。
「あの方たちの胃袋を満たすのは最優先事項なので、助かるのです!」
なにせ食いしん坊ガールズですものね……。
「私たちも始めるのです!」と意気込んだ、一花が早速手を洗います。
「ええ、部長として負けていられませんね!」
私も対抗意識を抱きつつ、手を洗います。食中毒なんて出たら、部として一発KOです。廃部まではいかなくとも、活動縮小は免れません。私が原因だった場合、部長職を解かれる可能性まであります。ともあれ、せっかく掌握した調理部を失うのは本意ではありませんので、手洗いは皆で励行しています。そういうわけで、衛生面は本当に気を付けねばなりませんので、入念に。
「ですね」
恵美ちゃんも洗います。
洗い終えたら清潔な手巾で手を拭いて――、
「では準備に取りかかりましょう。必要なものを――」
「――はい!」
一花が俊敏な動きで、色々持ってきました。速すぎです。
「洗い物が増えるのは好ましくありません」
三人分の道具から一人分を受け取り、後は突っぱねます。洗い物は極力少なくするのが私のポリシーです。
「え、あの? 私たちの役目は……」
恵美ちゃんが困った顔で訊いてきました。なにかお手伝いをしたいという心がけは評価しますが、今回はトルコアイスの作成です。それくらいなら私一人でやって見せますよ、という意思を表明します。
「応援係です。今回は私に任せてください! 3人分の力を発揮します!」
「さすがは白雪様! 部員を労る、いい部長なのです!」
一花に煽てられて、やる気に満ち溢れました。なので、エプロンつけてかっこよく決めます。
「納豆やお餅を使うのは邪道です! 不肖ながら白雪が本場相当の味を見せてあげます!」
「白雪様、頑張ってなのです!」
一花がすっと材料を手渡します。
「さあ、いきますよ! 黄身たち、大人しくトルコアイスになりなさい!」
「卵黄だけにですね!」
恵美ちゃんの補足が入ります。
「素材にこだわり、ヒュセインさんに顔向けできるものを!」
羊乳を取り出した私は、水を得た魚のようにテキパキと工程をこなしていきます。そうして、ギャラリーの応援を耳に、近くのお店でトルコアイスを提供しているトルコ人のヒュセインさんレベルを目標に頑張りました――。
「よし。おそらく完成でしょう」
レシピは知らないので分量は勘と経験則でしたが、出来たっぽいので、びよーんなトルコアイスに四苦八苦しながら、どうにかこうにか小皿に取り分け味見しました。
「うーん、まあまあですね。本場のアイスに近付けたのでしょうか……?」
「私も味見します」
「あ、どうぞ」
恵美ちゃんが、私の指からスプーンを取り、パクり。
「こ……これは!」
恵美ちゃんが目を見開き、スプーンが落っこちます。
「おっと、なのです」
すんでのところで、スプーンを一花がキャッチ。
「私もいただくのです」
一花、口にいれた途端、目を見開く。
「! 全然、まあまあではないのです!! ものすごく美味しいのですよ、これ!」
一花が驚きを隠せないといった様子でパクパクしています。
「……そうですか?」
「完成度高いです! 自信を持つべきです!」
恵美ちゃんがそう言ってくれました。
「極上の珍品なのです!」
「Exactlyです!」
なにやら二人で絶賛を博しています。英語が飛び出しましたね。
「あっ、皆さんもどうぞお食べください」
物欲しそうに見ていた皆の衆にもおすすめします。
すると、我先にとトルコアイスを受け取りに来ます。私が動こうとすると、引き留められました。
「白雪様のお手を煩わすほどのことではないのです!」
「これくらいは任せてくださいです!」
意気込んだ、一花と恵美ちゃんが配給し始めました。
私が作ったトルコアイスを絶賛する声で家庭科室内は大にぎわいとなりました。
「のび~るトルコアイス、インスタ映えするカモ」
あっ、私がこっそりお呼びだしした朝日ちゃん発見!
突然のお呼び出しだったのに来てくれたんですね。
ファンクラブとお喋り中の一花と恵美ちゃんを尻目に、スマホでトルコアイスをパチリな朝日ちゃんの元へ。
「朝日ちゃん、来てくれたんですね」
スマイル浮かべて、ご挨拶。
「あっ、白雪ちゃん、こんにちは。楽しそうだったから来たヨ。ご招待ありがとネ」
にこやかに挨拶返ししてくれる朝日ちゃんの隣に腰かけます。
すると、朝日ちゃんが、
「ところで、これインスタにアップしていいカナ?」
なんて、トルコアイスをインスタグラムで紹介してくれるみたいなので、
「もちろんですよ!!」
勢い良く、にっこり笑顔で快諾しました。自分の顔は見えませんが、朝日ちゃんに向けて、とびっきりの笑顔を浮かべたつもりです。
したらば、勢い余って、身を乗り出してしまい、お顔とお顔が近くなって、朝日ちゃんの端麗なお顔の解像度があがって――、キスでも出来そうな距離に、どぎまぎします。
「し、白雪ちゃん……、近いよ……」
「ご、ごめんなさい!」
慌てて身を引きます。心臓が早鐘を打ち、頬が熱くなるのを感じました。
「ううん、ありがとネ」
朝日ちゃんが、スマホでパチリ。――したのは、私の顔でした。
「なじぇ、私の顔をとるんです!」
今の私は写真に納められては恥ずかしい顔をしているはずなので、撮られたのが恥ずかしくって、思わず突っ込みました。序盤、舌が上手く回らなかったので、余計に恥かきました。
「可愛かったから、ダヨ」
「そ、そですか……」
頬をかきかき。可愛いなんて意中の人に、そうストレートに言われると、照れちゃいますよぉ。
「保存しといていいカナ?」
「はい、お願いします」
朝日ちゃんが、一瞬怪訝そうな表情になりますが、追求はしてきませんでした。
「そんじゃま、トルコアイスも写真に納めますか」
朝日ちゃんが。改めて、トルコアイスにスマホを向けます。
「よ、よろしくお願いします……!」
力作なので綺麗に撮ってくれると嬉しいな、なんて思っちゃったりして……!
「ありがと、じゃっ載せるネ☆」
「お願いします!」
何度お願いしているんでしょう私は。
とにもかくにも――。
朝日ちゃんのインスタグラムの投稿に私の作った料理が載るなんて――、今日はなんていい日なんでしょうね。夢のようです。
「早速、沢山反応来たよー」
幸せワールドにトリップしていた私は、声にはっとすると、朝日ちゃんが画面をこちらに向けていました。
「さすがカリスマインスタグラマー朝日ちゃん、反応が秒ですね!」
「題材もよかったんダヨー」
「……そうでしょうか」――そうなのです。
口ではとぼけつつ、心の中ではうんうんと頷きます。なんたって、私もかわいいですからね!
それではご拝見、どのような反応が来ているのか、除き見ます。刮目。
「スクロールしてイイヨ」
許可が出たので、朝日ちゃんのスマホをお触りしちゃいました。(注釈:距離感が素晴らしいことになっていますが、理性を保てなくなりそうなのであえて意識しないように意識してます。)
「……ふむふむ」
当たり前ですが、朝日ちゃんに対するものが多いです。
あ、『白い髪の女の子カワイイね♡ モデルさんかな?』というご意見が!!
モデルさん――最上級の褒め言葉ではないですか!
飛び上がって舞いたい気分までハイになりましたが、朝日ちゃんにご迷惑はお掛けできないので、抑えます。心の中でガッツポーズ!
「ありがとうございました!」
「ど、どしたの急に? どういたしまして?」
そんなこんなで家庭科室は今日も大にぎわいなのでした。おしまい。
「白雪様ー、有明さんと何してるのです?」
いつの間にかそばに来ていた一花が首をかしげました。
平和に終わるかと思いきや、新たな波乱の幕開けです。
この話の登場人物の紹介
・冬野白雪ちゃん:主人公。雪のように白い髪(白髪言うな。)で、氷のような透き通ったアイスブルーの瞳の美少女。意外と有名人で『白雪ちゃん』と呼ばれることが多い。実は、調理部部長である。
・舞坂一花:白雪ちゃんのルームメイト。なぜか白雪ちゃんを敬愛している。アプリコットオレンジのふわふわとしたツインテールにリボンが特徴の美少女。白雪ちゃんのことを様付けで呼ぶ彼女には、白雪ちゃんの匂いを嗅ぎ分ける能力が備わっていて、白雪ちゃんに懐いている彼女はまさに忠犬のよう。結構なお洒落さんでその上、愛嬌がある。調理部の部長補佐であり、調理部で運営しているカフェでメイドをしている。白雪ちゃんを好きすぎて拗らせちゃった彼女は、白雪様ファンクラブを立ち上げ、そこの会長をしている。白雪ちゃんから妹のように思われている。
なのです口調
・小宮恵美ちゃん:調理部部員。白雪様ファンクラブ所属。ピンキーベージュなふわふわな髪をミディアムくらいの長さにした人形のようにかわいい美少女。うん万のハートのネックレスを首から下げ、リボンカチューシャをしている。小柄で少女趣味な彼女も実はとても人気があり、お菓子をもらっているところをよく見かける。学院の母体である宗教の敬虔な信者でもある彼女は、お菓子、特にマカロンが好物。実は、被服部部長であり、調理部と兼部している。
ですキャラ
・有明朝日ちゃん:白雪ちゃんのクラスメイト。明るい茶系の髪をした美少女。胸は貧相だけど、心が広い。カリスマインタグラマー。お化粧が上手く、制服の着こなしからして、他の生徒とは一線を画す。なんかキラキラしている。女の子からよく告白されるらしい。
カモ、ダネ等語尾が特徴的。
・ヒュセインさん:トルコ人。店でトルコアイスを提供している。




