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9月1日

作者: 東師越

 妹が自殺した。


 そういう事で処理されたけど、俺は違うと知っている。


 妹は殺された。


 俺はそう捉えている。


 根拠はある、相談もされたし生々しい傷の跡だって見た。


 それでも俺は、助けられなかった。


 逃げたんだ、妹の問題から。


 どう言い訳したって、正当化なんて出来やしない。


 俺は一生、その後悔と共に生きていかなければならない。




   ※ ※ ※ ※ ※




 中学2年生のゴールデンウィーク明けから、妹は不登校となった。


 俺は少し心配した程度だったが、親父と母さんは当然だがものすごく心配していた。


 これが当然といえるのは幸せだろうから、裕福とは違うが貧乏ではない(うち)で育った妹に、不登校になる理由なんて無いと思っていた。


 最初は部屋から一歩も出なかった訳では無く、俺達家族なら分かってくれると思っていたから話し合いだってした。


 だが肝心の、不登校の理由だけは話さなかった。


 そこを言えない妹に、家族であっても味方出来るかと言われたら難しい。


 親子は無条件で愛し愛される関係じゃない、1番長く多く関係性を構築出来るだけで、そこに親子という都合の良い補正があるだけだ。


 所詮は他人、両親も神様じゃないから完全に分かってあげる事は出来ない。


 しかし家族だけが頼みの綱だった妹は、無条件で信じてくれなかった俺達に失望して部屋から出なくなった。




   ※ ※ ※ ※ ※




 8月31日、というか深夜だから9月1日か、喉が渇いて目を覚ました俺は、数ヶ月ぶりに妹と台所で再会した。


 最初はぎこちない挨拶とかで終わるかと思っていたが、妹の方から相談があると言って妹の部屋に向かう。




 妹の不登校の理由は、SNS上での誹謗中傷で心が傷付いたからだと判明した。


 正直、嘘だろ、と思った。


 ニュースとかでSNSでボロクソに書かれ、犯罪だろと思える言葉も書かれて誰々が自殺した、というのはよく聞いていた。


 俺がSNSもほぼしてなくて無知だから、それで死ぬとかメンタル弱すぎるだろ、と冗談半分で心の中で笑っていた。


 でも妹がそれに陥ったと聞くと、そういう価値観が変わるかと思ったらそうでもなかった。


 スマホを見させてもらったら、中々えげつない言葉が画面にびっしり書かれている。


 この時俺は、怖いと思った。


 発言者の顔が見えないから、どういう感情を乗せて文字を打っているのか分からない。


 絵文字やら顔文字やらスラングを使って感情を伝える方法はあると思うが、それらが無いと本当に怖い。


 分からないから真に受けてしまう、分からないから口にしてみたら普通なのにケンカ腰に見えたりする。


 分からないから、傷付いてしまう。


 表情も声色も分からない事がこんなに威圧的に感じるなんて、思いもよらなかった。


 妹は助けを求めたが、無知な俺が何か出来る訳でも無く、適当に言葉を並べてその場から逃げた。


 また明日冷静に考えてから色々話し合おう、と、俺は俺の脳内だけで完結させてしまっていた、それを妹に話さなければならないはずなのに。


 明日は、来なかった──




   ※ ※ ※ ※ ※




 困った時はここに連絡してみるといいとニュースや学校で何度も言われているのに、俺はそれらを思い出す事が出来なかった。


 俺でこんなだから、被害者の妹がどれだけ辛い目にあったのかなんて想像出来やしない。


 それでも寄り添い、ケアをする事が必要だと思いつく事も出来なかった。


 無知は無力とイコールだと、思い知らされた。


 ナイフや銃などで人を殺すのは極悪非道に違いないが、催眠術や超能力も無しに死に追い込ませる言葉は、最強なんじゃないか。


 ペンは剣よりも強し、これに初めて共感できた9月1日だった。


 これから俺は一生後悔しながら生きていく。


 大事なのはそこから大切な事を学んで、いざという時に実行出来る事だ。


 もう2度と、妹のような犠牲者は出したくない。






 そんな決意の裏で、今日もどこかで誰かが誹謗中傷の被害に遭っている。

読んでくださりありがとうございます。


これを読んでくれた方が、少しでも考えてくれたなら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう悲劇は実際にあるのでしょうね。でもなによりやるせない気持ちになるのは、この語り手が結局、妹が死んでからも一線離れた場所に立って物事を見つめているように感じることです。「脳内だけで完結…
[良い点]  発言や言動には責任が伴い、言葉は時に刃になります。  皆がやってるから便乗してやるのは良くないと私も思います。  とても少ない文字数で、東師越先生の強い意思を載せたまとまりの良い短編で…
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