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Wizard Complex  作者: 久遠
第一章 549さん
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Complex7 549さん~エピローグ

 それから数日後の土曜日、御影(みかげ)(なお)はT県にある閑静な住宅街の奥にある比較的新しい霊園にいた。

 いつものように、「放課後、暇なら付き合って」と言ってきた織部(おりべ)(ひとえ)に連れられて来ただけなので、一体誰の墓参りなのかすら、直は知らない。

 それどころか、なるべくシックな服装でね、何て言われたので、仕方なく部屋を漁ったのだが、制服以外にそんな物は存在しなかったため、結局何時も通りのセーラー服とあいなった。対して、単は本人が口にしていた通りの黒のシックなスーツ姿で、普段より大人びて見えた。

 元の作りが違うとは言え、この差はどうなのだろう。そんな事を真剣に考えさせられるほど、単のスーツ姿は様になっていた。

 霊園の管理者である僧侶と話していた単が、頭を下げて礼を言うと、直を手招きしながら奥の墓地へと歩き出す。

「それで、一体全体、誰の墓参りなんや」

 直は途中で買った白い百合の花束と線香を揺らしながら聞く。

「『549さん』のだよ」

 さらり、と返ってきた言葉に直が硬直すると、

「正確に言うと、その噂の元になった人のお墓があるの」

 反論の言葉を封じるように単が早口で続ける。

 一体、何のつもりか知らないが、単の目的が、先日殺し合いをした怪物を生み出した人物の墓参りだと聞いて、直はただ呆れた。

 そして、要するに単は始めから、全部知っていたのだということに今更気が付いた。

「考えて見れば、『549さん』の噂を調べてたんは、仕事絡みだった訳やから、身元調査は万全だったちゅう訳やね」

 溜め息交じりボヤく直に、単は申し訳なさそうな表情を浮かべる。

「ホントはね、言おうと思っていたのだけれど、話す間もなく衝突しちゃって……」

 確かに、あの変態教師を捕まえようとしたところに出現されて、『549さん』自体の説明に関しては、中途半端なところで終わっていたような気がする。

「虐められて、自殺した少女はいたの。日記に綴られていた内容は、ショッキングなものばかりで、当時、関東圏ではかなりの騒ぎになったわ」

 ゆっくりと歩きながら語る単。その内容を聞きながら、友人の桜井(さくらい)(しのぶ)が言っていた事と同じだなぁ、と思った。

 憧れの単お姉さまのために、随分と正確な情報を集めていたらしい。流石は良家のお嬢様と言ったところか。

「それは、良いとしても。なんでわざわざ、墓参りなんて」

 だが、直にしてみれば、誰かを守るために、怪異を倒すなんて事は日常茶飯事だ。いちいち気にしていたら、身が持たない。それでもつい口にしてしまう

「まずは、自分がハッピー。それから他の人もハッピー。それから、お互いちょっとだけアンハッピー」

 単は唐突に、彼女が信条としている言葉を呟く。その真意が量れず、直は沈黙したまま目で続きを促す。

 それを受けて単は言う。

「わたしは、せっかく彼女が掴んだ幸せを、壊しちゃったんだよ。それがどんなに歪んだものだったしても、ね」

 単の声に混じる濡れた響きに、直はわざと一歩下がってその背後に回る。

 暫しの間、無言で綺麗な通路の間を歩く。区画こそ切ってあるものの、今だ墓石がほとんど立っていないため、何となく風変わりな美術館のようだな、と直が思った時、単が立ち止まり、小奇麗な墓石の前で立ち止まった。

「ここだよ」

 家名の刻まれた日本風の墓石ではなく、石版を置いたような西洋風のそれは、確かに『549さん』には相応しい気がした。

 そして、ふと桶と水がいらないといわれた理由も判った。

 直は、そこに刻まれているアルファベットの名前をちらっとだけ見やり、記憶する前に眼を逸らす。

 なのに、単は直から花束と線香を受け取ると、その墓前に供えると座り込んで手を合わせる。

「ええと、こっちのあなたには初めまして、だよね。こんにちは。わたしは織部単。もう一人の貴方を殺してしまった人間です」

 夏はまだ遠いのに日差しが暑い。手を翳して空を見上げれば、雲一つない青空。

「ごめんなさい。謝って済むものではないけど、謝っておきたくて来ました。それに、もう一人の貴方にも約束したから……貴方が最後に望んだ事。それを叶えた魔法を壊してしまったのは、きっと本当の貴方はこんな事望んで無いと思ったから」

 単の独白は続く。線香の煙が眼に染みて、直はそのまま瞼を下ろす。

「歪んでいたとは言え、夢を叶えられた貴方がわたしは羨ましい。うん。きっと嫉妬していたんだと思う。

 わたしは夢を叶えられない人間だから」

 織部単は魔術を知っているが、魔術を()らない。それが単の生き方を()げてしまっている。

 御影直とは真逆の、『魔術師の憂鬱ウィザード・コンプレックス』。単が抱える大きな『瑕』。

「でも、それとは別に、人に迷惑は掛けちゃイケないと思った。だから止めちゃいました。その事をこちらの貴方がどう思うかは分かりません。不愉快だったり、悲しいと思ったりするかもしれないね。だから、その代りとは言わないけど、本当の貴方の事、知ってもらうために色々手を尽くします」

 魔法使いになれなかった少女の、魔法使いへとなった少女への、懺悔と鎮魂の祈りを、魔法使いになりたくなかった少女が聞き届ける。

 


 それぞれが抱える『(コンプレックス)』がせめていつか、癒されるように……

 誰のためでもなく、直はどこかにいる誰かにそっと祈りを捧げたのだった。

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