Complex2-9 凶つ呪言エピローグ
週明けの月曜日。色々な後始末をしていたせいで、完全に休日は潰れ、ボクの優雅な生活はすっかり台無しになってしまった。
それもこれも、あの真っ黒黒介がロクな背後関係も調べずに犯人を潰してしまったせいや。
心の中で、あの不吉極まりない生き物を罵りながら寮を出る。
ウチの学園はお嬢様学校で有名なだけあって大きな敷地を抱えとるんやけど、この寮はその中心に位置しとる。何故かと言えば、学園関係者が住む施設やら、その関連の施設があって、どこからでも行き来しやすいようにされとるからや。
なんで、学園の校舎に行くまでは少々歩かにゃならん訳やけど……
「おいこら、真っ黒黒介。なんでお前がここにおんねん」
先週の土曜日も口にした台詞をそのまんま口にするという芸のない事をしてしまい、思わず顔をしかめるボクに、六堂刹那はゆっくりと頭を下げる。
「きょ、うりょく……に、感……謝」
コイツがわざわざ、ボクに礼を言いに来た? マジかい。けど、そんな程度の事でほだされたりなんかせんわ。
「はん。言っとくけどな、ボクはお前が嫌いや。大嫌いや」
「安心、して……わた、しも…そう」
ボクの攻撃的な言葉に、真っ黒黒介は珍しく即答で答えを返してきた。テンポの良い会話が好きなボクとしてはいい事なんやろが、内容は最悪やった。
「さよけ。んじゃな。二度と面見せんなや。次は問答無用で殺すで」
殺気を叩きつけながら横をすり抜けるボクに、これまた珍しく答えが返る。
「それは、ない……できない」
「ああ? なにやとコラ?」
思わず振り返り、その胸倉をつかみ上げる。
「でき、な……い、と言った」
「舐めとんのか、ワレぇっ!」
締め上げを強くしながら鼻先がつくような距離で声を上げるボクに、それでも真っ黒黒介は告げる。
「ひ、と殺し……はでき、ない。……あ、なたは……そう、いう……覚悟を、持って……いる」
コイツ。何でそんなことを知っているんや。
「だ、から……無理」
そう告げる六堂刹那の瞳をボクは見る。この女の顔を見るのは二度目。それで、理解する。この女が本気でそう思っている事が、理解できてしまった。
「……胸糞悪い。消えや」
思い切り突き飛ばして、後ろも見ずに早足でその場を去る。
動けない程度に痛めつける事はできるが、アイツの言うとおり、ボクはアイツを、いや人を殺せないと改めて自覚してしまった。
もう、人殺しはたくさんや。それが、本音。
それが『魔法使いにされてしまった』ボクと、『魔法使いに戻ろう』とする六堂刹那との差。
単さん。やっぱり無理や。アイツとボクは全然違う。友達には絶対なれへん。
心地よい朝の日差しとは裏腹に沈む込むボクの心は、黒く染まっていく。
それでも、ボクはアイツの言葉に屈したくはなかった。
だから、前を向く。いつかこの『瑕』を克服して、乗り越えるために。
けれど、ボクはこの日、学校を休んだ。
それは残念ながら、心が弱くなって、とか過去の思い出に囚われてとか、そんなセンチメンタルなものではなく。
「あ、直太くん! 待ってたよぉ」
校門前で待ち構えていた単さんに拉致されたからだと、言い訳しておこう。
しまらんなぁ。
了