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Wizard Complex  作者: 久遠
第二章 凶つ呪言《まがつまがごと》
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Complex2-6 凶つ呪言5

 夕闇の迫る林の中で、一人の男が地面にしゃがみ込み、何事かを呟いている。それは聞く者が聞けば、人を呪うための言葉であると気付くだろう。しかし、そこは本来、とある一族の私有地であり、彼を含めた多くの人間が、おいそれと立ち入ることのできない場所であるだった。

 だが、男にはそうした常識的な理屈が通用しない、異能の力の持ち主であった。監視カメラなど、彼にかかればないも同然なのだ。

 故に、男がどれだけ汚らわしい言葉を吐き出そうと、それを咎める人間など、存在しないのだ。

 やがて、男の唇が動きを止めて小さく息を吐き出す。

(全く。何でこんな手間のかかる仕事になってしまったんだか……)

 何の魔術的加護もない子供を一人、殺すだけの楽な仕事。そのはずだったのに、よもや虎の子の式を食われ、挙げ句、逆凪を受ける羽目になるとは夢にも思わなかった。

 簡単な仕事過ぎて、甘く見すぎていたのも、原因なのだろう。

 逆凪の身代わりを用意もせず、安易に呪いを掛けた為に、もろにダメージを喰らって3日ほど動けなくなってしまい、依頼主に散々罵られた。挙句の果てに、この件に関する失敗を、ネットワークを通じて他の得意先にばらすとまで言いだしたのだ。

 仕方なしに、必要経費は全て自分持ちで、暗殺の再実行を引き受けざるを得なくなってしまい、大損もいいところだった。

(しかし、本当に運が悪いな。まさか、『魔術喰らい』の六堂とはなぁ。喰われた式神から、こっちの使う術式はバレバレだろうし、本当についてねぇ)

 この業界はそこそこ広いが、相手の使う術式やその癖を見分けられれば、その正体におおよその当たりは付けられる。

 逆に言えば、使う魔術を見てしまえば、相手が誰だか知るのはそう難しい事ではないのだ。なぜならば、この世界の魔術師は自分たちの力で魔術を生み出したわけではないからだ。

 古い魔術師の一族は魔術の研鑽などと謳ってはいるが、その実、自分たちは異世界で使用されている魔術を夢見などで『見る』事によって、知覚し、そのモノマネをできるようになった、と言うのが真相なのである。

 只、夢見で感じ取れる魔術というものには相性があり、基本的に一番初めに『感じ取れた』一系統の魔術にのみ特化していきやすい。故に複数系統の魔術を操る一族は賞賛と嫉妬の両方を得るし、一系統すら使いきれない者は蔑まれるわけだ。

 男の一族は、この一系統すら使いこなせない半端者で、先祖代々、創始者の作った式を受け継いできただけの、消え行く魔法使いだった。

 そして、仕事の邪魔をした彼女は、『特化した』魔術を使いこなす一族の出身だった。とは言え、ここ近年その頭角を現し始めただけで、未だ一流とまでは言えないのだが……

「この近辺で、魔術を喰らう魔術書を持っている、黒ずくめの餓鬼って言えば、こいつぐらいだからな」

 回復してから、いくつかの伝手を使って調べたが、該当する確率の最も高いのは、宮代市に棲みつく通称『十家』のうちの一つ。その当主様だった。

 そして、それは魔術師にとって最も忌み嫌われる相手だったのだ。使用された魔術を奪取するという、最悪の盗人(・・・・・)

 正直、どういった攻撃手段や防御手段を持ち合わせているのか、全く見当も付かない。本来なら、避けて通りたい相手なのだが、さる筋から仕入れた情報が彼を六堂家の魔術師と決断をさせた。

 すなわち、六堂は魔術書を喪い、今は魔術の再収集の真っ最中だという噂だ。

(ロクに魔術を使えない状態っていうんなら、三流の俺でも、二流の六堂を出し抜く事は可能だ。上手く行けば、あの六道の魔導書を手に入れることだって夢じゃない)

 男の脳裏に、資料で見た深紅の革で装丁された魔導書が浮かぶ。

 残りの心配の種は、今日、六堂が連れてきた二人の方だ。

 髪の長い、大人びた少女は恐らく問題ないと思われる。鍛えているのは見てとれたが、全くと言っていいほど、無防備な動きは明らかな素人だった。恐らく、多少の格闘技術はあるが、障害にはなり得ないだろう。

 では、もう一人の方はどうか。いくつかの大きなトランクを持ち込んでいたが、あれは何なのだろう。

 微かではあるが魔力の気配が漏れていた。十中八九、何らかの魔術的道具だと思われる。

 それが複数個。一体、どこのお大尽なのか、と問い質したくなるような光景。もう、それだけで相手の特徴を捉えたようなものなのに、情報屋の検索には全くヒットしなかったのだ。

(複数の魔術道具を操る小僧ってのが、解らん)

 少なくとも、これが少女と言うのなら、六堂の含まれる『十家』の中にも該当者はいるし、青年と言うなら、別の家系の心当たりもある。

(手持ちの式神を全部持って来て、正解だったかもな)

 相手の戦力が把握できない以上、本来なら引くべきだ。しかし、何の情報も得ないままでは話にもならない。いくつかの戦力で強硬偵察、というのも手段の一つではある。

 男は一つ頷くと懐から人型に切り抜いた紙片を取り出し、念を込める。

 それはたちまちに姿を変え、一体の人型へと変じる。俗に言う大鎧を纏った武者姿。しかし、その背丈は2mを超える、明らかに人を超えた超常の存在。

「よし。行け。とりあえずは挨拶がわりだ。あの屋敷にいる人間を皆殺しにするつもりで行け」

 男の命に、鎧武者は宙を舞い、姿を消す。それを見送った男は桜井邸を見やると薄く笑い、

「お手並みを拝見させてもらおうか」

 心中を呟くと結果を見守ることにした。


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