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Wizard Complex  作者: 久遠
第二章 凶つ呪言《まがつまがごと》
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Complex2-4 凶つ呪言3

 春馬(はるま)は説明を終えると、手元のグラスを取り上げその中身を一気に飲み干す。

「その後も、結構な騒ぎになったんですけど、実際の怪我人もいないし、事情をどう説明すればいいのか分からなかったんですが、六堂(りくどう)さんが先生方と話をつけてくださいまして」

「マジで? これが、春馬のトコの先生を丸めこんだん?」

 経緯への質問よりも先に、少年の付け足しの発言の方に衝撃を受けた(なお)が、思わず突っ込みを入れると、

「正確には……私じゃない。心哉(しんや)さんに……頼んだ」

 珍しく、直ぐに真っ当な回答がされて、直は安堵のため息をつく。

「ああ、あの人な。なら納得や。若いくせにあの人、妙に口が回るもんな」

 当真(とうま)心哉。直や(ひとえ)だけでなく、刹那(せつな)も含めた共通の知り合いで、彼もまた、魔術師である。少々、目付きが鋭い点を除けば、男前で、単ほどではないがコミュ力の高い青年だ。電話越しに話したのであれば、実際の年齢より落ち着いているように思えるので、説得もしやすいだろう。心哉の名前が出た事に納得し、直はそれ以上深く追求することもなく、本来の話に戻る。(しのぶ)と春馬の問いかけの視線は敢えて無視する形で、だが。

「そんで? さっき、アンタ勘違い言うてたけど、何でやねん」

 直の質問に、刹那は連続して喋るのはつらいとばかりに、僅かの間をおいてから、

「術を……貰いに行った、帰り……だった。強奪ではなく、模倣で。……思えない……襲われる、とは……けど、感じたから……殺気、咄嗟に」

 刹那の非常に分かりにくい回答に、直は眉を寄せて、頭の中で整理する。

「その本に溜めこむための魔術を貰いに行ったら、帰り道で殺気を持った相手がいたから、とりあえず撃退してみました。そういうことか」

 微かな首肯を受けて、単の顔を伺うと、こちらはかなりおおげさな首肯。

「ええと、その事情のわかる方だけで、視線で会話されると……その」

 忍がやや不安そうに口を挟むと、直は頭をかきながら、口をへの字に曲げる。

直太(なおた)君、そういう風に説明を端折る癖は治した方がいいよ? こういう時は、『それはヒミツです』とか言って、指を立てればいいんだよ」

 実際に人差し指を振りながら微笑む先輩に、呆れた視線を送るが、顔に似合わぬ厚い皮に阻まれて全く意味をなさない。

(ずっるいなぁ~。自分は言えない事があると黙りこむくせに)

 説明を丸投げされて、直はますます渋い顔になるが、雇い主となる友人に改めて説明する。

「この真っ黒黒介(まっくろくろすけ)の魔術は、こいつの持ってる魔術書に封じ込められた魔術を『呼び出して』使うんやけど、それは勝手に湧いて出てきたりするもんやなくて、発動した魔術そのものを魔術書に吸収させる必要があんねん」

 さらっと、他人の家の秘密を漏らす直に、

「ちょっと、直太君!」

 単が慌てて止めに入るが、以外にも秘密を語られた当人は冷淡に、続けて、とだけ告げる。この態度に、直は別の意味で口をへの字に曲げて唸る。

 単が止めたように、本来、魔術師の家の秘密や弱点を語るのは禁忌である。しかも過去の事とはいえ、敵対していた人間があげつらうのは、ルール違反どころの話でなく、ぶち殺されても文句は言えない。しかし、刹那はそれを抗議することもなく、あっさりと認めた。

「ああ……つまり、あの近辺で魔術を貰う交渉をした、その帰り道だったから、その相手に狙われたかと思って撃退した、ということなんですね」

 春馬は納得したように頷くと、ふと思いついたように言葉を続ける。

「と、言うことは、あの旋風はやはり何らかの魔術だったんですね? それをあの口が食べたから、狙われていたのが、僕だと分かった?」

「話が早くて助かるけど……こういう話を何の疑問もなく受けいれてしまうのは、お姉さん、ちょっと意外」

 春馬の頭の回転の速さに感心しつつも、その将来に不安を抱く単に、今度は忍が答えを返す。

「ええと、それに関しては事情があると申しますか……簡潔に言いますと、祖父の関連で裏側にそうした現実的でない事を、処理する方がいたりするんです」

 まさか、それがゲンを担ぐ、と言う意味合いではなく、事実だったとは思いもしなかったのだが。

「なるほどなぁ。そういうわけか……にしても、ボクや単さんが魔術師やったって、知ってどう思ったんや?」

 今までは、一応秘密にしていた家業をカミングアウトさせられたのに、その反応があっさりしていたので、どうにも居心地が悪い。かつて、同様の理由で友人を失くしたことのなる直にとって、忍の淡白さは正直、受け入れがたいものがあった。

 しかし、直のそんな言葉に忍は首をかしげつつ、

「気にならなかった、と言えばウソになります。けれど、事情は誰にでもあります。私だって、家の内情で知られたくない事がありますし、そこはお互いさまということにしませんか?」

 国内でも有数の政治家の血筋、と言うものにかかる重圧やしがらみには悪いモノもある、と言外に語られて、直はしぶしぶ頷く。

(けど、それは忍が抱えとる秘密じゃないやろ……ボクのは、ボク自身の問題なんやで?)

 内心では納得がいかないけれど、それはまた別の機会に譲るしかない。

「それじゃとりあえず、刹那ちゃんからあらかじめ聞いておいた、今回のお相手なんだけど、陰陽道の系統みたいなんだって。使い魔って言うより、単純な命令を実行するだけの式だったみたいだから」

 落ち込みかけていた直は、単のさらっとした発言に思わず、

「そんなん聞いてへんわ! そしていつリサーチしたねん!」

 と、二度ツッコミをいれる。その勢いをまるっと無視した単はのほほんと頬に人差し指を当てる。

「直太君がムスッとしてる時?」

「さいで……」

 疲れたように呟く直に、単は更なる笑顔で、

「で、どうしたらいいかな、直太君? ワタシ、陰陽道って映画で見た奴しかしらないんだよね」

 悪びれる事のない笑顔にデコピンを放ちつつ、直はここに来る道中で練っていた作戦の説明を始めるのだった。



 とは言え、人の護衛なんて言うものは、基本的には待ち。防御に徹することになる。対象となる人物に張り付いて、襲撃側の手を潰して行くしかない。当然、その間、護衛役は傍を離れることなどできない訳で。

「おいこら、真っ黒黒介。アンタ、先週末からずっと一人で春馬に張り付いとったんやってな?」

 直の問いかけに、影法師はゆっくりと頷く。

「その間、風呂とかどうしてたんや?」

 無言。沈黙。一切の動作なし。パチン、と指を鳴らすと背後にいた単が満面の笑みで、

「忍ちゃん。ちょっとお風呂借りるね?」

 と宣言すると、刹那を抱えあげ、ひゃっほ~いと奇声を上げて家の奥へと消えてゆく。

「あれもなぁ。もうちょい考えて動けばいいものを……女が一週間も風呂入らなんて、ありえんっちゅーの」

 思わず呟くと、忍が心底意外そうに、

「それはそっくり直さんにもお返ししますわ。そんな趣味の悪いジャージじゃなくて、もう少し着るものや、お化粧とかに気をつかえば、まあなんとか、どことなく女の子にちょっとだけ見えなくもないのに」

「余計なお世話や。なんやねん! ボクが女の子に見えへんとでも言うんか?」

 直の怒声に桜井姉弟は深く頷く。その迷うことのない肯定に、青筋を浮かべて頭をかきむしる直。

「確かに! ボクは! 極太マジックで書いたようなざっくりとした顔立ち、とか言われるが、決して男ではない! たとえ、単さんに! 直太君呼ばわりされても! ボクは女や!」

 大きく息を荒げながら捲し立てる直を見て、忍は優しく語りかける。

「大丈夫。分かっています。判っていますわ。直さんが、あえて女子力低めに振舞っているのだって」

「そんな、妄想的な優しさはいらん! てか、ちょい待って、ボクはそんなに女ぽっくないんか?」

 心底、やりきれなさそうな声を出す直。そんな馬鹿なやりとりは、単が刹那を連れ帰るまで続いたのだった。

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