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シニガミ  作者: 春は化物
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一章 2部

 

 足元にあるカンテラのようなものを頼りに歩いた。すると地下のメインのような広い廊下に出た。私がいた部屋はこのメイン通りから枝分かれした廊下のうちの1つの末端部分だったらしい。私がいた部屋以外にも小部屋もがたくさんあるように見える。

もしかして...ここは本当に独房なのかもしれない。


 北に行けば恐らく階段か何かあるだろうが、ここで気になったものがある。南に少し進めば扉がある。しかも風の流れを感じるのだ。もしかして実はここは一階で、その扉からは外に出られるのではないだろうか?誘拐犯は私が監禁されていた部屋に鍵もかけなかったんだ。きっとその扉にも鍵はかかってないはずだ。


 私は良く言えば前向きに、悪く言えばご都合主義的に南にある扉に向かった。



 ――嫌だ。



 ふとそんな言葉が頭を刺した。嫌だ。この扉は、嫌だ。嫌だってなんだ?よくわからない。けど、嫌なんだ。この扉は、開けられない。いやいや、何を言ってるんだ、私は。悲劇のヒロインぶってるのか?霊感強いアピールか?霊感なんて生まれてこのかた感じたことない。嫌な予感がする、それは確かだ。


 重厚な鉄の扉。窓が付いているがよく見えない。真っ暗だ。それでも、ここからは風の流れが感じられるんだ。私、外に出ないと。

 ドアノブに手をかけた。その瞬間――


「……っつ!?痛い?!」


 激しい痛みが全身を襲った。電流?そんなものじゃない。まるで全身を針で刺されたかのような苛烈な痛み。思わず手を離した。


 なんだこれ?痛いだけじゃない。二度とそのドアノブを触りたくない恐怖、脳が伝える警告。これはまずい。この扉からは出られない。


 北側に向かおう。痛みに悶えていたがそうもしていられない。時間がないんだ。誘拐犯がいつ戻ってくるかわからない。私は肩までかかる髪をふるふると震わせ、気をしっかり保ちつつその扉に背を向けた。


 北側に少し進み始めた。両隣には私がいた部屋のような鉄製の薄い扉がいくつかあった。しかし私がいたところと違い全てこの大きな廊下に面している。


  ……。


 一瞬だった。

 言葉も出ない。

 そこにあるのは得たいの知れないものと遭遇した恐怖。

 誘拐犯?

 違った。甘かった。そんなものじゃない。

 腰が抜ける。

 足が震える。

 たぶんここは地下室、いや現世ですらないのかもしれない。


 左側の扉が突然開いた。そこに立っていたのは2メートルはあろう巨大なバケモノだった。膝まで伸びた長い髪。顔の左半分はえぐれて中身が飛び出している。右目は目なんてものじゃない。白目と黒目の色合いが逆だ。泣いているように血が零れている。ゴツゴツした顔と裏腹に体はひどく痩せ細っている。よく見たら、体は向こうを向いているのに顔だけ180度振り返り私を見ている。


 ――逃げなければ。


 わかってる。わかっているんだ。

 でも足が動かない。

 バケモノの目がこちらを見ている。

 顔の左半分からは脳のようなものがトロトロと垂れている。

 バケモノは笑顔でヨダレを滴らせながら近づいてきた。

 どうする?もうここで死ぬのか?

 いや死ぬより怖い。

 このバケモノに殺される。

 逃げたい。

 逃がして。

 腰が抜けて立ち上がれない。

 吐き気をもよおす腐臭と目も眩むような頭痛。

 後退りしつつ壁際に追いやられた。

 なにか、なにか……。


 私は咄嗟にカンテラのようなものを手に取った。

 そして力を振り絞りそれをバケモノに投げつけた。


 カンテラのようなものがバケモノにぶつかり、ガラスが割れた途端バケモノは勢いよく燃え始めた。どうやら蝋燭かなにかが引火してくれたらしい。バケモノの髪が長いことが幸いしたのだろう。


 この隙に私は体制を建て直し、北へ、北へ、走った。


 バケモノの叫び声が聞こえる。この世のものとは思えない甲高い金切り声。立ち止まり、振り返ると薄明かりのなか、燃え盛るバケモノの姿が見える。こちらへ向かってくる様子はないらしい。のたうち回ったのちに自らが出てきた部屋の中へ這いずりながら戻っていった。


 私は酷いことをしてしまったのだろうか?そんなこと考えられる余裕がない。今は道徳の授業をしてるわけではないのだ。逃げよう。逃げる、いや、生き延びなければ。あんなやつがいるくらいだ。きっとここは想像の遥か上の地獄だ。



 ――お姉ちゃん。無事かな。



 まだ心臓は高鳴っている。動悸が止まらない。そんななか、私はお姉ちゃんが無事かどうか、さらに不安が募った。お姉ちゃん。捕まっているのかどうかもわからないけど。むしろ私が安心したいがためにお姉ちゃんに会いたい。


 …お姉ちゃん。


 頭痛を堪えつつ、ぽつりと呟き、私は歩き出した。

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