世界とセカイ
無限に広がる緑の大地、いくつもの都市や街、村、海や山や川、現実の世界と何一つ変わるものはなくともその世界の全てである。見渡す大地は広くまるで地球そのものだ。
頭の中で突然サイレンの様な音が響き渡ると同時に飛び上がった。無理やり大きく息を吐き呼吸を整える。手に力を込めると少しだけ汗ばむ。生きている。
見渡せばそれは全て仮想空間の中の景色であるにも、関わらず現実のものと比べ物にならないリアリティがある。風も吹けば太陽もある。VRMMOとはよく出来ているなと関心するほどであった。
そしてここから始まる色んな景色がエルを興奮させていた。「レジェンドオンライン」において職業選択は3つしかない。防御特化の剣士、範囲魔法火力特化の魔術師、そして最大火力の弓師。エルはその中で剣士を選んだ。初期装備の古びた剣を見て振り回す。街の外なのでモンスターという敵もいるので続々と薙ぎ倒していく。まさに水を得た魚のような顔付きでエルは楽しんでいた。
新人プレイヤーが訪れる一番最初の街に「エド」がある。そしてこのゲーム最大の都市でもある。今日リリースしたばかりのレジェンドオンラインでは今エドが大いに盛り上がっていた。
「さぁさぁ!うちのギルド入りませんかー!?」
あちこちで勧誘の声が聞こえてくるがエルは目的地まで見向きもしなかった。
それよりも早く早く強く、という気持ちの方が大いに勝っていた。
モンスター狩りをして金貨を稼いだエルは装備品を入れ替えてまた旅立とうとしていた。しかしそんな中で悲鳴が聞こえてきた。
うっ、と自嘲しながら仕方なしに悲鳴の聞こえた路地に出てみるとやはり、というような展開にエルは頭をかいた。
「なにやってんの?おっさんたち」
突然現れた中性的な顔立ちのエルの前には女の子を男3人で取り囲んでいる。
「関係ねぇだろ!すっこんでろ!別にPKしようなんてしてねぇんだ!」
生身の身体では無いとはいえ男3人に、囲まれて悲鳴あげてる時点でアウトだろ、と思いつつもエルは特に何も手を出す気持ちはなかった。
街ではプレイヤーキルは許されていない、しかしだからといって女性を襲っていい理由にはならない。そしてオンラインゲームならではのこういう行為はよくある事をエルは知っている。
「あっそう。んじゃいいけど君らもうすぐママんとこ帰るよ。あと3秒で」
1…2…3……と数えていくエルに男達は戸惑い、そして言う通りに二人の前から姿を消した。囲まれていた女性は唖然としていたが暫くして正気に戻った。
「あ、あの!ありがとうございました!こういうゲーム初めてで……」
レベル3魔術師ね、確かに初心者っぽい話し方、動きではあるがこのゲームでは今は皆初心者だ。
「そう。んじゃ!」
素っ気なく踵を返すと何故か装備の服の裾を掴まれてエルはギョッとした。うわ、めっちゃめんどくさいやつだ。
「あの……」
そしてこの出会いがエルとマイの運命であったことを2人はまだ知る由もない。