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オドの虜囚(とりこ)  作者:
序章 屋敷の虜
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外への道

この屋敷の部屋は、玄関扉を入って左側に手前から応接間、食堂、キッチンと広々と取ってあり、右側は手前は広く玄関前スペースになっていて、正面にある階段が始まる辺りから、物置、管理室、風呂場、使用人部屋と細かく区切られてあった。

二階もあるようだが、そちらはまだ足を踏み入れたことなかった。

奥の部屋のドアを片っ端から開いていた雅樹は、イライラと言った。

「みんな普通の部屋だ…窓しかない。」と、回り込んで左側の方へと走った。「ここか…キッチンだ!」

雅樹が、そこへ飛び込んで行く。

巧が続いて、(つむぎ)も急いで理沙を引きずるようにしてそこへと駆け込んだ。

そこは、綺麗に掃除されてある、キッチンだった。

雅樹が、壁のスイッチを入れて照明が明るく照らす中、雅樹は裏口らしい他の扉より幾分細めの扉を見つけてそれに駆け寄っていた。

ノブに手を掛けて振り回すようにして開けようとするが、やはり扉は微動だにしなかった。巧が、それを予想していたのかキッチンをうろうろと歩き回り、流し台の引き出しから包丁を見つけて来てそれを構えた。

「これを突き刺してみよう。木製なんだから、いくらなんでも破れるはずだ。」

雅樹は、頷いて扉から離れた。巧は、包丁を肩の上に構えて思いっきり扉の真ん中へと突き立てた。

バキンッ

鈍い音がした。

「うわ…!」

巧がうずくまる。

「巧!」

理沙と雅樹が、同時に巧に駆け寄った。カランと音を立てて、包丁らしきものが床へと落ちた。巧のうずくまっている足元には、見る見る血だまりが出来て来ている。

「巧!どうしたの?!」

紬は、遅れて巧に駆け寄る。巧は、足を押さえて呻いていた。

「…いてぇ…。」

雅樹が、言った。

「包丁が折れて、先が跳ね返って来た勢いで巧の脚に刺さったんだ!」

理沙が、急いで窓の掛かっているカーテンを引き剥がし、折れた包丁で切り裂いて細長い布を作った。それで、血がどくどくと流れて来ている巧の左太ももの辺りを、しっかりと押さえて縛り付けた。

「お腹とか胸でなくて本当に良かった…。」

理沙が、血まみれになった手を流し台で洗い流しながら言う。巧は、雅樹に手助けされながらキッチンにある椅子へと腰かけて、痛みに顔を歪めながら言った。

「脚でも充分痛ぇんだからな。でも、確かに頭とか胴体だったら今頃大変だったわな。」

雅樹は、その間もあちこちの窓をガンガンと拳で叩いて回っていたが、鈍い変な音がするだけで、とてもガラスを叩いているような音ではなかった。そして、どのガラス窓もびくともしないままで、雅樹は最後の窓を叩いた後、その場に座り込んだ。

「…駄目だ。どうなってるんだ…ガラスじゃないのか。防弾ガラスとか、見た目は木製だが鋼鉄が仕込んである扉とかなのか?」

紬は、小刻みに震えて来る手を必死に押さえながら、首を振った。

「いいえ、違うと思う…だって、明らかに微動だにしないなんておかしいもの。木製のドアの中に鋼鉄が入ってても、表面の木製の部分ぐらいはえぐれてもおかしくないわよね?なのに、傷すらつかないんだもの。」

理沙は、紬を見た。

「じゃあ、何だって言うの?宮脇さんがあんな事になって…まさか、誰かがここへ閉じ込めようと魔法でも使ってるってことなの?まさか、あなたあの社長に頼まれて、私達をここへ閉じ込めて実験にでも使おうとしてるんじゃないでしょうね!」

それには、巧が青い顔のままなだめるように言った。

「こら、よせ理沙。だったら、紬が一緒に来てるのはおかしいじゃないか。それなら、最初からオレ達だけをここへ来させたら良かったんだからな。変なことを考えるな。」

理沙は、巧にキッと向き直った。

「そんなこと言って!ここへ来なければあなただってそんな怪我をしなくて済んだし、このままじゃ私達だって宮脇さんみたいに爆発して死んでしまうかもしれないのよ!あんなの…あんなの、普通じゃないわ!きっと新しい兵器がなんかを、私達で試そうとしてるのよ!」

紬は、必死に首を振った。

「そんな!あの会社は貿易会社だし、兵器の開発なんてしてないはずよ!研究機関は持ってない会社だもの!ナイジェル様は、本当に私的な用だからって言って、ここのセキュリティを依頼したいと言ったの!何かの兵器を試したいとしても、どうして私達を選ぶの?そんなの、どこでやっても同じじゃないの!現に電車で同じようなことがあったでしょう。あれだけ大々的に知れ渡るようなことをしておいて、今更こんな場所に隠して私達を殺して何になるっていうの!それなら私邸なんて選ばずに、公共の場所でランダムにした方が見つからないのに!」

雅樹が、その言い合いを聞いていて、フーッと肩を落とすと、大義そうに立ち上がった。そして、言った。

「紬の言う通りだ。今は内輪揉めなんてしてる場合じゃない。とにかく、ここから出る場所がないのか、一度あっちこっちの窓を念のために叩いて回ろう。それでも出られない時は、外部と連絡を取るための方法を考えなくちゃならない。」と、巧に歩み寄った。「歩けるか?ここで待っててもいいが。」

巧は、ゆっくりと立ち上がって、左足に重心を移してみてから、顔をしかめた。

「少し痛むが、思いっきり縛り付けてくれてあるから出血も止まってるし思ったほど痛くない。こんな所で一人で座ってた方が何が起こるか分からないし怖いからな。」

雅樹は、頷いて手を差し出した。

「掴まれ。さっさと出口を探そう。」

巧は、雅樹の腕を取って立ち上がった。その反対側の横には、理沙がついている。紬は、そんな三人の後ろへついて歩き出したが、理沙が自分と距離を置くようにしているのは、なんとなく感じ取れた。




巧は、思ったよりしっかりと歩けるようだった。

時々痛みに顔をしかめるが、それでも足を引きずるようなことは無かった。

そうして四人であちこちの窓ガラスを、それこそトイレの窓まで叩いて回ったが、全てがまったく手ごたえがなく、果たしてガラスに触れられているのかどうかさえ、分からないような状態だった。

そんな理解の出来ない不思議な状況に、目の前で宮脇が爆発する様まで見ている理沙は、段々に落ち着きも無くなって来て、ブツブツと独り言を言いながら、自分の世界へ籠りがちになってしまっていた。それでも、こちらから話しかければ答えもするし、完全に気がふれてしまっているのでもないようで、紬は気に障らないようにあまりに近くに寄らないようにしていた。

そんな状況を見ていて理解している巧が、理沙の側に居るようにして、なだめてくれているのが、紬にはありがたかった。

何だかんだで、巧と理沙は大学時代からずっと付き合って来た仲なのだ。理沙のことは、巧が一番理解しているようだった。

その巧が、言った。

「二階の部屋も、調べてみるか。二階の窓だって割れたらカーテンでも何でも使って地上に降りられるだろう。」

雅樹が、ため息を付きながら言った。

「そうだな。閉じ込められたままだとしても、二階のことも知っておかないと何かあった時困るだろうし。」と、紬を見た。「行ってみよう。疲れてないか?」

紬は、驚いて顔を上げた。理沙は、巧を引っ張って先に階段へと向かっている。雅樹が、こちらを気遣ってくれているのが、今の紬にはとても嬉しかった。四人しか居ない男女の中で、しかもこんなに不安な状態で同性に無視され続けるのはつらい。

紬は、無理に微笑んで頷いた。

「大丈夫。体力だけはあるから。ありがとう。」

雅樹は、微笑み返して紬に合わせて二階へと足を進めながら、前を行く巧と理沙をちらりと見て小声で言った。

「…気にすることないよ。あいつ、昔からこうと思ったらそればっかだろう。だから、無事に脱出出来たらケロッとして謝って来るって。」

紬は、苦笑して頷きながらも、そんな時が来るのだろうかと、少し不安で、寂しい気持ちになっていたのだった。

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