WAVE:00 オンステージ
メインモニターの中に広がる虚構の宇宙をプロフェシーが翔ける。
紺色で塗装された背部の大型スラスターが噴き出す光りの奔流は、機体のメインカラーと同じ鮮やかなオレンジ色だ。
赤黄色の光りを曳きながら闇を斬り裂き突き進む姿は、まるで一条の流星。だけど、この流れ星は絶対に燃え尽きない。
単眼カメラがグリーンのバイザー内で敵機を捉える。
オレは右腕装備のトリガーを素早くクリック。
背中の主力推進装置に四基マウトされた右腕装備――といっても右”腕”で使ってるワケじゃないけど――有線式フォトン・ガンポッドが展開する。
「ガンポッド行くぞ! 当たれよっ!!」
有線誘導で遠隔操作される四基の銃座がロックオンされた敵機に襲い掛かる。
敵機はガンポッドの攻撃を避けようとスラスターを噴かすけど、そんな浅いムーブじゃプロフェシーの攻撃は躱せない。
「こいつが本命だ! 貰ってけっ!!」
オレは左右のアームトリガーを同時にクリック。
プロフェシー――厳密には新作用に改修されたプロフェシーS G――が主力装備の大型実体鎌ハーヴェスターⅡを水平に振り抜くと、その刃から三日月型の光弾が放たれる。
ガンポッドは相手の動きを制限するための囮だ。牽制が主目的の右腕装備じゃ火力不足は否めない。メインのダメージソースは主力装備によるキツめの一撃だ。
とはいえ、プロフェシーの本分は近接格闘。主力装備でも遠距離攻撃の鎌斬裂波じゃまだ足りない。だから、やることはひとつ。
「プロフェシー、加速!!」
左右のデュアルスティックを前に倒しながらブーストトリガーを押し込む。オレの操作に合わせてモニター内に描出されたプロフェシーがスラスターから力強く光を放ち加速。そのまま敵機を格闘攻撃が可能なダブルロックオン圏内に捉える。
「敵機捕捉……。こいつでどうだ!」
オレは左右のアームトリガーをリズミカルに連続でクリック。ダブルロックオンした敵機にハーヴェスターⅡでコンボを叩き込む。残り耐久値を持っていかれた敵機がモニターの中で爆発四散。「命を刈り取る禍々しいなんちゃら」改め「命を刈り取るスゴく禍々しいなんちゃら」の威力、思い知ってけ!
オレは勝利の余韻を噛みしめながらコンソールを操作してサブモニターを呼び出す。そこには簡略化されたステージのマップが表示されている。敵勢力を意味する赤と緑のマーカー数を確認。ううむ、まだ結構残ってるな。
今プレイしているのは「カラー・トライヴ」と呼ばれるゲームモードだ。参加メンバーが青、赤、緑の三軍に分かれて戦い、タイムアップ時に残存戦力の最も多い軍が勝利、という至ってシンプルなヤツ。
『【オラクル・ギア・セカンドライド ジ・スター・ライト・ファンタズマ】カラー・トライヴモード、STAGE:0 0 9 4 【亡霊宙域のファンハウス】終了600秒前です』
あと十分か。もうひと暴れできるかな。
「宙埜さん、そっちはどんな感じ?」
ヘッドセットのマイクを通して友軍のライナーネーム「cyan」こと、宙埜カナタさんに通信を入れる。
<こっちは花凛ちゃんと一緒に十機ぐらい墜としたところ。小瀬川君の方は?>
「オレは六機目を墜としたとこ。どうする、一度合流する?」
<カナタお姉様、私は反対ですわ。せっかく二人きりになれたのに、あのようなハムスターの如き小動物にかかずりあう必要はありませんわ>
「おい、こら、そこの女子中学生《JC》。誰がハムスターみたいなクソチビだ言ってみやがれコノヤロウ」
<あら、嫌ですわ。私、そこまで下品なdisは飛ばしていませんわよ? まぁ、とっとこ走り出しそうな雰囲気はあると思いますけど>
「オレは確かに若干小柄な方かもしれんが、そこまでコンパクトじゃないぞ。そこんとこ間違えるなよ? いいなあくまで"若干"小柄だからな?? よーく、覚えておけよ???」
<花凛ちゃん、あまり小瀬川君のことを煽らないでね。彼は年長者だよ。あと、小瀬川君も少し落ち着こうね>
<……分かりましたわ>
「……了解」
オレのことをハム太郎呼ばわりする生意気なJCにはいろいろと言ってやりたいこともあるが、あんなヤツでも宙埜さんの可愛い(可愛くねーけど!)後輩という事実に変わりはない。青森の猿ヶ森砂丘よりもクソタレでっかい心で許してやる。感謝しろよ?
<じゃあ、とりあえず合流しようか。小瀬川君と私達の中間位置あたりで大丈夫?>
「問題ないよ。場所はそっちで指定して」
<了解。それじゃ、ポイントの情報、送るね>
軽快なSEと同時に、メインモニターの右下にポップアップが表示される。宙埜さんからのショートメールだ。合流地点の座標を確認して、そこにプロフェシーを向かわせる。
眼前のメインモニターに映るのは電脳空間に構築された仮想の宇宙。そこでオレ達オラクル・ギアのプレイヤー、通称ギアライナーは死なない戦争に興じている。
旧作から数えてもう五年以上は遊び続けてるかな、このゲーム。
今となっては完全に生活の一部だし、空気を吸うみたく当たり前にプレイしてる。
オラクル・ギアを開発したアルバトロスは、この秋、シリーズ第二作『奏甲託閃のオラクル・ギア・セカンドライド ジ・スター・ライト・ファンタズマ』をリリースした。
オラクル・ギアシリーズはプレイヤー数ウン百万を誇る世界的人気のゲームだ。
つーか、極東の島国で発達したマイナー文化の「ロボットアニメ」を下敷きにしたこのゲームが、どうしてここまで広範なプレイ人口を獲得するに至ったのかといえば、そこにはプロジェクトXも裸足で逃げ出す熱いメイキングドラマがスイッチオンなんだけど、面倒なので説明はパス。気になる人は生半可なハッキングで調べて欲しい。ゲームは誰かのものじゃない(遠い目
まぁ、とにかく、世界レベルで絶大な人気を誇るゲームの完全新作だ。公式からの情報公開後も、各種メディアはのべつまくなしに情報を流し、オレ達ギアライナーも寄ると触ると新作の話ばかりしてた。
そんな具合にお祭りムードは醸成され、リリース前日にはオレがホームにしているゲーセン「アクト・オブ・ゲーミング」で、新作稼働記念の大バトロ大会が開催されたりもした。
そこでオレは、一身上の都合から正体を隠しながらオラクル・ギアをプレイしていた宙埜さんや、イベントの発案者である先輩ライナーにして超有名プロゲーマーの風狼田アキラさんと戦った。
宙埜さんにはギリギリ勝利したけど、風狼田さんには勝てなかった。けど、ギャラリーの皆はフロニキとオレの対戦で熱くなってくれたみたいだから、そこは良かったと思う。って、別に負け惜しみじゃないからな。
<赤軍の数が今のところ一番多いね。緑軍の方は……ちょっと旗色が悪いみたい>
完全に思考が「前回までのあらすじ」モードになっていたオレをゲームに引き戻したのは宙埜さんからの通信だった。鈴が鳴るような澄んだ声はヘッドセット越しでも変わらない。
「えーと、それじゃあ、緑軍の方はスルーして赤軍減らしてこうか?」
<私もそれでいいと思う。花凛ちゃんの方は大丈夫?>
<私はカナタお姉様のお側に仕えるだけですわ。どこまでもご一緒します~>
<はいはい、頼りにしています。でも、何事も程々にね……?>
やーい、釘を刺されてやんのw
と、オレが心の中で草を生やしたその時だ。
<うーん、残念だけど、そうは問屋が卸さないっぽーい>
ヘッドセットから流れてきたのは聞き慣れた友人の声。冬眠明けの熊のように少し眠たげな調子だ。
その声とほぼ同時に機体が敵機に捕捉されたことを意味するロックオンアラートが鳴り響く。
おおっと、こいつはヤバい!
<ドカンと一発、派手にいってみよっかー?>
メインモニターの中でプロフェシーが爆発的なブーストを見せる。オレは考えるよりも先にトリガーを強く押し込んでいた。ほんの一瞬前までプロフェシーの存在した空間を青白い光弾が通り過ぎていく。うーん、我ながら惚れ惚れするような超反応だったな。
「おいおい、透吾、不意打ちとは卑怯じゃねーか!」
<眠いこと言わないで欲しいなー。対戦中に隙を見せてる方が悪いんだよー。てか、今のよく躱せたねー。進化した人類っぽーい>
「わははは、いいぞ、もっと褒めろ!」
<えー、伊吹ってば、調子ノリ過ぎっぽーい>
はは、調子に乗って何が悪い。こうゆうのは自分から積極的にアゲていかないとな。あと、さっきからぽいぽいうるせーよ。どっかの四番艦か?
<小瀬川君、響ちゃんが来るよ。気を付けて!>
宙埜さんからの通信にオレは素早くコンソールを操作。
サブモニターの簡略化された全体マップを周辺マップに切り替える。そこには、プロフェシーを示すモスマンのアイコン目掛けて高速で接近する緑軍のマーカーがあった。
オレのプロフェシーにも引けを取らない加速力。こいつは……!
<ぶっきーパイセン、油断してるとこの前みたいに絨毯爆撃をプレゼントしちゃうぞ〜〜>
<ああ、そう言えば、いつぞやの対戦で響にこっぴどくやられてましたわねー>
<ふふ〜〜ん、ボクと花凛の親友タッグにかかればあれぐらいチョロいチョロい〜〜。まぁ、今は敵同士だから、みんなまとめて焼くけどね〜〜>
<私とカナタお姉様は遠慮しておきますので、今回もあちらだけ焼いてあげて下さいな>
いちいち嫌なことを思い出させるな、こいつら。宙埜さんの後輩コンビは性格が少しアレなのでは? なお先輩である宙埜さんを慮って婉曲表現でお送りしてる模様。
<テンションマックス〜〜! リニア・ミサイル・ランチャー発射〜〜!!>
オレはデュアルスティックとブーストトリガーを操作して、高速接近する戦闘機型のギア――名前は……えーと、ドリームキャッチャーだったな――から発射された右腕装備の中型のミサイルを紙一重で回避。そのまま、反撃のガンポッドをお見舞いだ!
スラスターから射出されたガンポッドがドリームキャッチャー目掛けて光子弾を撒き散らす。が、その全てを急旋回で躱されてしまった。ううむ、はしっこいヤツ。
<ふふ〜〜ん、残念だけどハズレなんだよなあ〜〜。スピードもマックスってね〜〜>
性格は難アリだけどいい動きしやがる。そこは認めてやろう。
<あれれー? 伊吹ってば僕の存在を忘れてるっぽーい?>
ヘッドセットからロックオンアラートが流れる。透吾が愛機ウィッカーマンの主力装備、大型電磁加速砲メガ・ソリッド・バスターでプロフェシーを狙い撃つ気だ。
「心配するなって、オレはそんなに友達甲斐のないヤツじゃねーよ。あと、その語尾はやめておけ!」
ウィッカーマンのメガ・ソリッド・バスターは長射程&高威力がウリの武装だけど、トリガーをクリックしてから発射されるまでに長めのモーションが存在する。強力な武装やカスタムには何らかの制限を設けてバランスを取る。オラクル・ギアはそうゆうゲームだ。
だから、ロックオンされてからといっても、慌てず騒がずに落ち着いて行動すれば問題なし。オレは手慣れたスティック捌きでプロフェシーを操り、ウィッカーマンの攻撃をやり過ごす。
<うーん、また躱されたっぽーい。って、結構気に入ってるんだけどなー、語尾による安易なキャラ付け>
いや、さすがにその発言はお艦のゲームとファンに失礼だろ。後でちゃんと謝罪しとけよ?
<雨村君は私が抑えるから、小瀬川君は響ちゃんの方をお願い。花凛ちゃんは小瀬川君のフォローにまわって貰える?>
宙埜さんからの通信だ。クラス委員長をやってるだけあって、指示がテキパキしてるんだよなあ。
<そんな、私はカナタお姉様のお側の方が……>
JCが不服そうな声を上げる。
<花凛ちゃんのテルザじゃスクラには付いて来れないでしょ? それに響ちゃんの戦い方は花凛ちゃんの方が分かっているよね。小瀬川君を助けてあげて>
うーん、オレは特にそこのクソタレやかましいJCに助けて貰う必要性を感じてないぞ。でも、宙埜さんの指示だしなー。受け入れざるを得ないぜ。
<……分かりましたわ。カナタお姉様がそこまで言うなら引き受けます>
「おーい、JC、どうでもいいけどオレの足を引っ張るなよ?」
<あら、そちらこそ私に迷惑をかけないように注意していただけまして?>
「へいへい、精々そうさせて貰いますよー」
<じゃあ二人ともよろしくね!>
「了解!」
<カナタお姉様もご武運を!>
モニターの中で宙埜さんの愛機カメラオブ・スクラ――愛称スクラ――が移動を始める。射撃方向からウィッカーマンの大体の位置を割り出したようだ。
スクラの主力装備は狙撃用のロング・フォトン・ライフル。ウィッカーマンのメガ・ソリッド・バスターの長距離砲撃にも反撃可能だ。加えてプロフェシーとドリームキャッチャーにも引けを取らない機動力で、運動性に難のあるウィッカーマンを攪乱出来る。
透吾の方は宙埜さんに任せておけば大丈夫だろう……そう思ったときだ。
<悪いわね、カナタ! ここは行かせないわよ!!>
あー、やっぱり来たか……。
モニターの中では、甲冑をまとった西洋騎士風のギア、乾の愛機エル・ゾンビが深紅のマント靡かせながら、スクラに急接近。そのままダブルロックオン圏内に入り、回転式突撃槍で格闘攻撃を仕掛ける。
<雨村、ぼんやりしてないで援護射撃!>
<乾さんてば、あまり僕をこき使わないで欲しいなー>
<愚痴らないの。砲戦機は援護が仕事でしょ。ちゃんと働きなさい! ニートは甘えよ!>
乾が透吾をけしかける。
うーん、マズイな。宙埜さんとは言えこの二人を同時に相手にするのはちょっと厳しいかも。
何とかフォローにまわりたいところだけど、こっちもドリームキャッチャーの相手をしないといけない。
あのドリームキャッチャー、カスタムを宇宙戦用に特化してるみたいだ。元々あった変形機能をオミットして追加ブースターとミサイルコンテナの増設で火力と機動性を高めてやがる。二対一でも面倒な相手だ。
<花凛もぶっきーパイセンも綾先輩達のところには行かせないよ〜〜>
<響、道を空けなさい! 私は一秒でも早くカナタお姉様のところに駆け付けなくてはいけませんの!>
<ダメだよ〜〜、ボクの役目は二人の足止めだもん〜〜。どくワケないじゃ〜〜ん>
「問題ねーよ。ソッコーで墜として宙埜さんのフォローにまわるだけだ」
<何それ、ムカつくな〜。言っとくけどボクはそう簡単にやられたりしないからね!>
「いいから、さっさとかかって来いよ!」
<言われなくてもそのつもり!!>
響ことJC二号の声にあわせて、ドリームキャッチャーのコンテナが展開。そこから発射された無数の小型ミサイル――主力装備のマイクロ・ミサイル・ランチャーだ――がプロフェシー目掛けて殺到する。はっ! そんな攻撃食らうかよ!!
プロフェシーは華麗なサーカス軌道でミサイルを全弾回避……といきたかったけど、流石に数発食らっちまった。でも、問題ねぇ。これぐらいのダメージなら戦闘に支障はない。
「こいつはおつりだ! 貰ってけ!!」
ガンポッドと鎌斬裂波の連射で反撃だ。
<残念、はっずれ〜〜>
……あ、またしても全弾回避された。アカン(白目
<まったく、もっとしっかりしていただけますか!>
ヘッドセットからJC一号の脳ミソに響くキンキン声が聞こえる。あー、うるせぇ。
<カナタお姉様が待っていますの! 響が相手でも容赦は致しませんわ!!>
「や、別に宙埜さんは待ってないと思いますけどー?」
「そんなことありませんわ!」
オレのツッコミを全力で突っぱねて、JC一号のテルザが淡いグリーンの機体を加速。そのままフォトン・ライフルを連射する。宙埜さんがいったとおり、JC二号の行動パターンは把握しているらしい。撃ち出された光子弾の幾つかがドリームキャッチャーに命中。とはいえ、牽制メインの右腕装備の数発じゃ、与えるダメージはたかが知れてる。
ミサイルが面倒だけど、強引に近接擦るか? 「切り札」もあるけど、アレは使うタイミングが難しいからな……。
サブモニターでスクラの戦闘を確認する。エル・ゾンビの攻撃を捌きながら、何とかウィッカーマンの攻撃を回避してるけど、やっぱり苦しそうだ。スクラは機体サイズこそ標準だけど、装甲を限界まで削って機動性を確保している。一応、機体を覆うようなマント状のフレキシブル・シールド・バインダーを装備しているけど、ぶっちゃ防御力はそこまで高くない。メガ・ソリッド・バスターの直撃を食らったら耐久値は一瞬でレッドゾーンだろう。
何とか助けにいきたいけど……。
<ぶっきーパイセン、ぼんやりしてたらダメだよ〜!>
ヘッドセットからJC二号の声とロックオンアラートが響く。ドリームキャッチャーが再度コンテナから大量の小型ミサイルを撒き散らしたとこだ。
オレは連続ブーストで迫り来るミサイルをやり過ごそうとするけど、とにかく弾数が多い。またしても躱しきれずに数発食らってしまった。塵も積もれば何とやら、このまま食らい続けると若干ヤバい可能性がなきにしもあらずだ。
『【オラクル・ギア・セカンドライド ジ・スター・ライト・ファンタズマ】バトル・ロイヤルモード、STAGE:0 0 9 4 【亡霊宙域のファンハウス】終了180秒前です』
あ、クソ、もうこんな時間か!
宙埜さんのフォローは無理でもこいつぐらいは墜としておきたい。
オレは牽制にガンポッドを展開しながら、プロフェシーをドリームキャッチャー目掛けて加速させる。ここはやっぱり、多少強引でも近接を擦るとこだろ。
その時だ。
淡い緑色の閃光がプロフェシーの脇を掠めていったのは。
あ、あっぶねぇなー! こいつは……テルザの主力装備ハイメガ・フォトン・ランチャーか! モニターを確認すると、テルザの右肩から折り畳み式の砲門が展開している。
「おい、JC、何だ今のぶっ放しは! 危うく巻き込まれるとこだったぞ!!」
<ただの支援射撃ですわよ。一応、友軍同士なのだから巻き込まれたところでダメージはありませんでしょ>
「それにしたってダウン値は累積されるだろ! そこ狙われたらどうすんだよ!?」
<あはは〜〜、ぶっきーパイセン、とんだフレンドリーファイアだったね〜〜>
「うるせぇよ! お前のツレだろ。後でよく”教育”しとけ!」
<あら、私、”教育”されるようなことは何一つしていませんわよ>
「うがーーー、JC共そこになおれ! 先輩がホームのルールを教えてやる!!」
<もう、花凛ちゃんも響ちゃんも小瀬川君のこと煽るのは止めなさい!! 小瀬川君も少しスルースキル身に付けていこうか。戦闘中に冷静さを失うと負けるよ?>
<あらー、小瀬川、アンタ意外と煽り耐性低かったのねー>
<乾さん、伊吹をあまり苛めないでねー。ああ見えても案外精細なところあるんだよ>
宙埜さん以外全員うるせーぞ! オレの煽り耐性は平均だ。そこのJCコンビがアレなだけなんだよ! それを分かるんだよ!!
『【オラクル・ギア・セカンドライド ジ・スター・ライト・ファンタズマ】バトル・ロイヤルモード、STAGE:0 0 9 4【亡霊宙域のファンハウス】終了です。ギアライナーの皆様はお疲れ様でした』
あ、馬鹿なやり取りをしていたら終了時間になってもーた……。
ゲームの終了を告げるアナウンスに続いて、モニターに今回の対戦結果が表示される。
オレ達の所属していた青軍の残存戦力が、透吾達の緑軍を上回ったので一応は勝利したことになるけど、不完全燃焼甚だしいな。
手っ取り早くバトロで宙埜さん以外全員と決着を付けたいところだけど、そういや今日はバイトのある日だった。心残りだけど、今日はここまでだな。あの性悪JCコンビはそのうち絶対に泣かしちゃる(ゲームで
オレはギアのコックピットをモチーフにデザインされた閉鎖型筐体――ライナーピット――から出ると愛用のゲーミングヘッドセットを首にかけ、軽くストレッチ。一昔前の閉鎖型筐体に比べると随分マシになったらしいけど、やっぱり長い時間遊んでると体が凝ってくるな。
「そういえば、小瀬川君達はこれからアルバイトだっけ?」
近くのライナーピットから出てきた宙埜さんが聞いてくる。
ふわっとしたショートボブの髪型と眼鏡がよく似合う可愛らしい女の子だ。
「……へ? う、うん、そうだよ、これからバイトいく」
ゲーム中は大丈夫なのに、こうやって普通に会話するとまだ少し緊張する。
そして、胸のあたりが、何だかホワホワしてくるんだ。
「伊吹ー、バイトいくならヒナのこと拾ってあげないとー」
隣のライナーピットから出てきた透吾が言う。
身長180センチを越える透吾が窮屈そうにライナーピットから出てくる姿は、冬眠を終えた熊がエサを求めて巣穴から出てくるのに近い風情がある。
「あいたた、体がバキバキだよー。ライナーピットってもっと大きく作れないの?」
透吾が不満を口にしながら伸びを始める。
その時だ。
聞き慣れた声が一階と二階を繋ぐ階段の方から聞こえてきたのは。
「お疲れちゃーん☆ 呼ばれて飛び出てヒナくん推参っ!」
アホっぽい台詞と共にオレ達の前に現れた眼鏡男子は、ヒナこと大庭日向。透吾とオレの共通の幼馴染みだ。
一緒にオラクル・ギアをプレイすることが殆どだけど、たまに今日みたいに別のフロアで他ゲーム――主に女児向けアイドルゲーム――を遊ぶこともある。
多分、オレ達がいつまで舞っても拾いにこないから、痺れを切らしたのだろう。
別に忘れてたワケじゃないぞ。ちょっとゲームに夢中になり過ぎていただけだからな?
「あ、ひなタンパイセンだ〜〜。アイドル活動乙〜〜」
「……相変わらず脳細胞が壊死してそうなノリですわね」
JC一号が心底うんざりした表情で言う。
気持ちは分からないこともない(分かるとは言っていない
「お、JCコンビやんけ。今日もセンパイ達に揉まれたのか?」
「う〜ん、どちらかといえばボクがぶっきーパイセンを揉んであげた感じかな〜」
「おい、コラ、勝手なこと言ってんじゃねー!」
「え〜〜、でも、ボクのキャッチャーに手も足も出なかったじゃ〜ん」
「そうですわよ。潔く負けを認めて下さいませ。みっともない」
「おい、何でお前が勝ったみたいになってるんだよ! アホなの!?」
「失礼ですわね。人をアホ呼ばわりするそちらの方がアホなのでは?」
「だから、花凛ちゃんも響ちゃんも、年長者を煽るのはやめてね」
「あら、いいじゃないカナタ、面白いし。折角の見世物、楽しまないと」
「あははは、乾さんは性格悪いねー。何を食べたらそんな風になるのか僕は興味あるっぽーい」
「おーい、透吾、乾の表情が若干引きつってるぞー。あと、伊吹、そろそろ出ないとバイト遅刻だからな?」
「ねー、ここ暖房強くない? 何だか喉が渇いてきたわね……。雨村、今の暴言は聞かなかったことにするから飲み物おごりなさいよ」
「あまむーパイセン、せっかくだからボクにもおごってよ〜〜」
「うーん、何がせっかくなのか僕にはさっぱり分からないっぽーい。日本語でよろしくー」
「綾も響ちゃんも、あまり人にたかるようなことは言わないの。あと、花凛ちゃんはいきなり抱き付いてこないでね。まわりの人が驚くから……」
「問題ありませんわー。私とカナタお姉様の関係を積極的にアピールしていきましょう」
アピールなんぞしなくてもいいから、JC一号は可及的速やかに宙埜さんの側から離脱すべき。迷惑がってるだろ。それでも邪険にしないのが宙埜さんのいいとこなんだけど。
「伊吹ー、そんなことより早くバイトいこうぜー」
「う〜〜ん、ボク、お腹減った〜〜。おやつ食べた〜〜い」
「雨村ー、わたし達も豊島珈琲いくわよー。ケーキセットおごりなさーい」
「あははー、絶対にお断りだねー。爆発した方がいいと思うよ」
「爆発って、雨村君少し物騒だよ……。あ、ちょっと、花凛ちゃん、どさくさ紛れに変なところ触らないで!」
「カナタお姉様〜。だいしゅきですわ〜〜」
「う、うわ、二人とも女同士で何やってるんだよぉぉ。もう見てらんねー。伊吹、おれは先にバイトいってるからなー!」
あーあ、何だか収集が付かなくなってきたぞ。どうすんだよ、コレ……。
つーか、JC一号、お前はいい加減宙埜さんから離れろよ!
【To Be Continued……】