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神室荘の管理人山根さん  作者: 亜暮 維璽
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日常は非日常であってまた日常でもある

神室荘の管理人山根さん05


ついに始業式の日となった。


心機一転。まさにその言葉をあらわすかのように外の景色は桜が咲き誇っている。


そんな朝、那津の部屋から那津(本人)の怒声が地を這うように聞こえる。


「…はい、二人とも正座」

「な、那津くん?違うんだよ?」

「そ、そうよ?ほら、添い寝を…ね?」


冷や汗全開で正座させられているのは堂守と咲子である。


必死に何か言い繕おうとしているが、那津から漂う只ならぬオーラに気圧されている。


「はい堂守さん質問です」

「はい!」

「僕の年齢は幾つでしょう?」

「こ、高校一年生!」

「そう、高校一年生。思春期真っ盛りだよね?」

「はい!」


淡々と冷めた目で質問する那津に大声で何とか耐えようとする堂守と、何か感じ取ったであろう横でプルプルしている咲子。


そんな事は御構い無しに那津の質問は続く。


「で、そんな思春期真っ盛りの男子の部屋に下着だけで来るのはどうなんですか?えぇ?」

「いやぁ…その…ナニが火照っちゃったんじゃないかなぁー…とか?」


スパァーンッ!と、丸めた新聞バットが堂守のこめかみを捉える。


途端に「あふん⁉︎」とよく分からない奇声を上げながら横に飛び布団に埋まる。


暫くビクビクと痙攣していたが力尽きたようにパタリと足が落ちた。布団から尻のみ出して撃沈して居る様は見て居る方としては何とも居た堪れないものである。


勿論、咲子は目を潤ませながらその光景を見ている。


「で?咲子さんも何か弁解(見苦しい言い訳)、ありますか?」

「ちちちち!違うのよ⁉︎ほら!アレ…えっと…そう!寝惚けて来ちゃったのよ‼︎」

「全裸で?」

「そうよ!私は基本裸族なのよ‼︎」


ふーんと言った那津に安堵したのか咲子はふぅ…と溜息を零す。


「あ、股見えてるよ」

「嫌ぁぁぁぁぁぁ⁉︎嘘嘘嘘嘘⁉︎」

「うん、嘘。でもって…」

「え…あ…しまっ」


スッパーーーーーン‼︎と堂守の比にならない程のスイングで新聞バットが咲子の脳天に叩き込まれる。悲鳴をあげる事なくアッサリと意識を狩られた咲子はそのまま畳に額を激しく打ちつけながら撃沈した。


「最低限で、二人共服着せとくか…」


疲れた面持ちの那津は、箪笥から赤地に黒の筆文字で『降水確率:世界全国にてアルマゲドン72%』と書かれたTシャツと、今回は黒のチノパンを出すと着替えさせた。


因みに、咲子は本当に全裸だったので理性をギリギリ何とか保ちながら、仕方なく己の下着を履かせる那津であった。


そんな濃すぎる朝を終え、食堂で山根特製の朝御飯を摂ると制服に着替えた。


ボケーっと時計を見ると時間は八時。慌てて走って玄関に向かう。


「行ってらっしゃい」

「はい!行ってきまーーす!」


大声で返事をして扉を開け、飛び出す。それを庭を箒で掃きながら山根が軽く手を振る。


やがてその後ろ姿が見えなくなると、山根は未だ那津の部屋で撃沈しているであろう二人を回収しに向かった。


そして場所は変わり学校…神奈川県立臨海学園。


那津は何とか間に合い、息急き切った状態で教室に着いた。幸い、まだクラスはまばらにしか人がいなくて目立たなかった。


「よう!那津元気ぃ⁉︎」


聞き慣れた声とバシンバシンと肩を叩いて来る手。


振り返ると中学から親友の狗神(いぬがみ)大介(だいすけ)が居る。


「いてーよ!」

「ぐばし⁉︎」


綺麗なアッパーカットが狗神の顎を捉える。そのまま宙に浮かせて飛ばす。


が、生来狗神家の人間は人間離れした耐久性を持って居る。なので…


「いてーよ那津!俺じゃなかったら病院or保健室直行だったぞ⁉︎」

「さすがワンちゃん!タフいね」

「聞いてる⁉︎ねぇ!俺の話聞いてる⁉︎」

「ほい、ビーフジャーキー」

「いただきます!」


キャンキャンと吠えるもののビーフジャーキーを出された途端、それを奪いつつ必死に齧り付く。


と、その時扉が開き、オールバックの若い先生が入って来た。


「はいはい座れよー」


かなり軽く手を叩きながら気怠げにそう言う。


生徒達はみんな席に着き早速点呼が始まった。


「一番、明石(あかし)早紀(さき)

「はい」

「二番、狗神(いぬがみ)大介(だいすけ)

「はい」

「い、多いな…次、三番、彩葉(いろは)那津(なつ)

「はい」

「四番、植木(うえき)鉄平(てっぺい)

「はい」


トントン拍子に進む出席。一通りの名前を呼び終えるとパタンと出席簿を締めてカゴに投げ入れる。


徐にパイプ椅子から立ち上がると担任の先生も自己紹介に入る。


「今年から県の教職員になった熊藪(くまやぶ)大輝(だいき)だ。歳は二十。好きな物は酒。…よし、じゃあとっとと体育館に行けよ」

「先生は?」


眼鏡をかけた青年…二尾(にび)秀太郎(しゅうたろう)が手を上げて問う。すると熊藪は気怠げな視線を向けると一言。


「寝る」

「え?でも…」

「ほらほらガキじゃないんだから話し合って行け」


しっしっとまるで犬や猫でも追い払う様に手を振られ全員廊下へと出る。


仕方なく、全員諦めながら体育館へと向かった。

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