伏線はしっかり処理しても新しい伏線は発生するのが理り
神室荘の管理人山根さん03
下の階の堂守と管理人の山根と会った翌朝、那津はドアを叩く音で目を覚ました。
「もしもーし?えーっと彩葉那津さん!朝御飯って山根さんが読んでますよ!」
元気な堂守の声がドアの向かいから聞こえる。
「ふぁい…」
「ひゃあ⁉︎」
ガチャリと那津が扉を開けると昨日髪につけてあげたヘアピンを止めた堂守が顔を真っ赤…では無く相変わらず真っ青にしながら立っていた。
「…?どうかしましたか?」
「い、彩葉那津さん!ふふふふ!服を着てください!」
「へ?」
寝ぼけながら自分の体を見るとジャージを履いただけだった。つまるところ、半裸だ。
「ご、ゴメン!」
「あわわわわ!えっと…ご、ご馳走様です!…じゃない!」
バタン!と慌てて扉を閉める。何か堂守から聞こえた気がしたが、慌てていて那津には聞こえていなかった。
因みに…これを知った堂守は心底安堵したとかしなかったとか。
かくして一悶着あった後、一階の食堂に案内してもらった。勿論、堂守に。
「あ、おはようございます。那津さん」
「おはようございます…朝御飯は…」
何ですか?と聞こうとした時、食堂のキッチン前のカウンターに1つだけ味噌汁、白飯、焼き魚、漬物が載ったお盆が置いてあった。
「山根さん…もう一つは?」
「え?食べるのは那津さんだけですよ」
「堂守さんのは?」
コテンと首をかしげる山根。いやいやと手を前で振り、堂守を見て一つ違和感に気づいた。
「…堂守さん?何か…透けてません?」
「え?…あー…だって私、死んでますもん」
数秒間、石と化す那津。たっぷり十秒固まった後に堂守の肩を揺さぶりながら否定する。
「いやいやいやいやいやいや…堂守さん?冗談うまいですね?でもほら触れますよ?」
「うん、何でだろうね」
「じゃあ幽霊って証明してくださいよ」
那津がそう言うと堂守は徐にテーブルへと歩み寄り、通過する。
最早開いた口の塞がらない那津である。
そんな那津をそのままに、堂守はテーブルの真ん中でしゃがむ。丁度首だけ天板の上に出る。
「生首!」
「あはははは!」
「あ、あははは…………………は?」
笑顔の堂守、笑い転げる山根、乾いた笑いをする那津。
「…え?マジですか?」
「うん、マジマジ」
途端に手を地面についてぐったりする。それもそのはず。普通に考えて、非科学的な幽霊が存在するなんて誰が信じるだろうか?
それが目の前にいてしかもふざけている。
誰がこんな光景を信じられるだろうか?
「因みに堂守さんは世間でいう貞子さんですよ」
「はい♪怨めしや〜♪」
「貞子のイメージが粉微塵に砕けていく…」
『貞子』と呼び捨てにした途端くねくねとしながら「いきなり呼び捨てなんて…まさかもう彼女として認識されて⁉︎」と言い出している。
那津はもう疲れて何をどう突っ込むべきかしばらく思案したが、諦めて朝食を取ることにした。
その日の午後。
「なーつさん!」
「はいは…い?」
那津が昼寝から起きて目を覚ますと、跨っている堂守が。
「…何してるんですか?」
「え?夜這い?」
「今は昼ですが?と言うかさらりと凄いこと言いましたよね?」
取り敢えず降りて貰おうと足掻こうとして気付いた。
「堂守「貞子と呼ばなきゃ嫌」…貞子さん、まさかとは思いますけど…」
「むぅ…呼び捨てじゃ無いのがアレですけど…そうです!絶賛金縛り中です!」
「そんな絶賛いらないですよ⁉︎」
金縛りを振り解こうとするとパキンといって結構あっさり解けた。
「「…え?」」
目を丸くする堂守とあっさり解けた事に少し驚く那津。
取り敢えず下半身の上に跨っている堂守を抱き上げて下ろすと、パンツだけの格好だったのでタンスからジーンズと黒地に白い筆文字で『地球人』と書いたTシャツに着替えた。
その間堂守はひたすらペタンと座って眺めていた。
「さて、堂守さん。何の用ですか?」
「な、那津くん?笑顔が怖いなんて器用な事よく出来るね…?」
「正直に言えば許します…言わなかったら…」
「い、言わなかったら…?」
ゴクリと喉を鳴らす。
「部屋に入った瞬間にア○ソックを呼ぶ用にセッティングする」
「はい!用事は…あれ?何で来たんだっけ?」
コテンと首を傾げる堂守。その額にチョップをする那津。
「痛い⁉︎」
「そりゃチョップですから」
「女の子を叩くなんて酷…あ、すいませんもう口答えしないからその手を下ろしてぇぇぇ!」
再びチョップを構えると頭を抑えながら土下座する堂守。
兎に角堂守から目を離して気付いた。
「あれ?鍵掛かってるよね?」
「那津くん、私幽霊だよ?」
理解した瞬間チョップが堂守の額に飛ぶ。
「ほっ!」
避ける…が。
「にぎゃっ⁉︎」
今のチョップは左手だった。それを避けた所を右チョップが後頭部に炸裂。
前のめりに倒れる堂守。完全に気を失ってるのか目を回してキューッと唸っている。
「はぁ…やり過ぎちゃったかな?」
仕方なく自分の寝ていた布団に寝かせ、横に座って顔を眺める。
フワリと風で前髪が浮いて素顔が露わになる。
暇なので膝枕をしながら簪で髪を纏めて置いて、着物も置いておく。
この後、堂守が起きて膝枕に気付き再度失神するのは言うまでもなく、着物と簪に至っては狂喜したのは、また別の話である…