一章 001
一章 始まりの終わりは結局終わり
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Q,これなーんだ。
A,死体。
001
例の廃ビルは、ぼくの家から徒歩30分ほどの所にぽつんと存在していた。
ぽつんと、なんて、かなりの高さを有するビルに失礼極まりない表現だけれど仕方がない。近くまで来てもその存在を認識出来なかったのだから。
認識の出来ないものなんて、この世には存在しないのだ。
そんなぼくの中の常識が、なんでもないこの廃ビルに恐怖を覚える原因だろう。
廃ビルは、『廃』という漢字が似合いすぎる状態だった。窓ガラスは所々割れていて、ビルの中の机やソファはボロボロ。おまけに虫の遊園地。
誰か、ここ一帯に殺虫剤をぶちまけろ。
まあ、虫はともかく、一言で言ってしまえばThe廃ビルという感じだ。
ああ、やだ。帰りたい。恐怖で頭が黒ひげ危機一髪だぜ。(意味わかんない。)
でろんでろんだよ。脳みそ妖怪。間違えた。脳みそ溶解。脳漿に溶けちゃうよ。どぅるるるるるー。
怖すぎて人格がぁぁぁあ。
全くやっくんも人が悪い。ぼくちんが虫嫌いだと知っての狼藉か。ええい、その首叩き切ってやる。皆の者、であえいって言って出てくるのは虫ばかり。虫どもお前らも打ち首じゃああ。
前言撤回。
廃ビルに恐怖を覚える原因は、虫ランドが建設されていたからの様だ。
「なあ、やっくん。もう家に帰りたいんだけど」
「早ええよ!お前は事件を解決する為に来たんだろうが」
怒るやっくん。
「いや、でも虫ランドがあるとは聞いてない」
そもそも、虫はこの世界に存在してはならない。
「虫だって、俺たちと同じ生き物だ。しゃあねえだろ」
「おいおいやっくん。じゃあお前豚さん牛さん鳥さんおねえさんはどうなんだ?生き物じゃねえってのか?」
「おねえさんは、豚牛鳥とは全く関係性がねえだろーが。
まあ、食べるという行為をさせてもらっているけれど、俺の中で血となり肉となり、豚牛鳥は今日も頑張っているのだ」
「何言ってんだてめー」
「言葉遣い直せよ」
そうだ、落ち着けぼく。こんなキャラじゃ無かった筈だぞ。
はい、吸ってー、吐いて吐いて吐いて吐いて吐いて吐いて吐いて吐いて吐いて………あれ、おかしいな。落ち着きすぎたのか、心音がしない。
「永遠の眠りにつく気か、お前は!」
やっくんのミギストレート。
こうかはばつぐんだ。ぼくは、たおれた。
「いい加減にしろや。☓☓。次は筋肉バスターだぞ」
わーお。常人にゃあ使っちゃいけない技をやっくんは習得済みのようだ。
「仕方ないな。虫くらい我慢してみせるさっ」
「☓☓史上最もかっこ悪い台詞だな」
じゃあ、現場検証開始。
※※※
現場検証において、一番大切なのは、証拠と如何に結びつきの強い推理をできるか。である。しかしながら、ぼくは警察ではないし、メガネの小学生探偵でもないし、まして、天才でもない。
では何が出来るのか。
選択肢は一つ。考えることを止めないことだ。
考えることを止めたら、それは操縦をやめた飛行機のようにどんどんと、落ちて堕ちて墜ちるのだろう。
そして至る先は底辺の屑だ。それこそ、虫以下の存在と言えるだろう。虫より下にはなりたくないなあ。
さあ、考えろ。思考しろ。頭を働かせ、脳を動かせ。
ぼくの様な凡人でも、出来ないことは殆どないだろ。
第一に、このビルは誰でも侵入出来た。
第二に、死体が見つかったのは、一階のソファの上。
第三に、殺されたのは女。
第四に、死体は三秒後くらいにばらばらになった。
第五に、殺人鬼が犯人かもしれない。
さて、こんな風にまとめてみたが、どうにもぴんと来ない。
「やっくんは、どう思うよ」
「うーん。分からん。一番厄介なのが、見つけた死体がばらばらになったって所なんだよな」
同感だ。全くもって意味不明だ。
「ばらばら。死体。殺人鬼」
と、やっくんは、呟く。
「元から切られていた?いや違うか」
「なあ、やっくん。君の他にそのバラバラ死体を見た奴はいないのかい?」
やっくんは、少し黙ってから口を開く。
「実は一人いるんだ」
「なんで言ってくれなかったんだよ。なんだ?言いたくない相手なのか」
「いや……うん。そうだな。お前が聞くと怒るだろうと思って………」
「誰だよ、ぼくが聞くと怒る相手って」
「無解 明だよ」
無解 明。むかいあきら。むかいむかいむかいむかい。
「なあ、やっくん。なんであんな奴とつるんでんだ?
ぼくは前の事件の時に言った筈だ。あいつとはつるむなと。しかし何故だ。君は未だにあいつとつるんでいるのか。何故だ。解せない。全く理解できない。
君の思考は破綻している。あれだけの事をされたのに、何故未だ関係を持っている?
ぼくの為じゃない、君の為に言ってるんだ。
繋がるなと関わるなと近づくなと言った筈だ。
なあ、やっくん」
「ああ、言われた。だから関係を断とうと、離れようとそう思った。
そして、茂の家に行く途中正確には家から出てすぐにあいつと会って、そういう話をしたんだ。もう関わらないって話をな。
そうしたらあいつ、ずっとストーキングしてきてだからたぶん・・・」
「なるほど、ストーキングをしてやっくんについて行ったから、死体を見てしまったと」
「ああ」
そうかなるほど。しかし、無解明が目撃者とは……
死んでしまいたい気分だ。
神様どうか、来世はもっといい人生が歩めますように。