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殺人×サツジン  作者: 五十鈴十五
序章
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序章

         序章 開幕はバラバラ


 001 前置き。


「やあ。☓☓。相変わらずの冴えない顔だな」

 

 突然現れた青年は、そんな事を言う。ぼくは、皮肉の意味も込めて、できるだけ笑顔で、


 「うるせえよ」


 と答える。

 さて、ぼくはこの青年のことが嫌いである。それが何故かなんて、理由はいらない。

 『嫌い』に意味を求めること自体間違っている。

 理由でもなく、意味でもなく、結果を語るとするならば、この男がどうしようもなく天才に生まれてきたからだ。天才というのは、凡人からすれば恐怖の対象でしかなく、嫌悪の対象でしかない。

 そんなやつに好かれるというのは、どうしても嫌悪感を抱かずにはいられない。

 ぼくは、ふつうの人生を送りたいのだ。

 皆から注目されたり、賞賛されたくないのだ。


 「嫌だな、別にいいじゃねえかよ。もっと俺に絡んでくれよ」

 「嫌なのはこっちだ。お前みたいなのと一緒にいると、まぁた厄介事に巻き込まれる」


 そう、この男はとても、途轍もなく、厄介事に遭遇しやすいのだ。だからあだ名は『厄介男』。(ぼくは、やっくんと呼んでいる。拒絶の意味を込めて)

 とても良いあだ名じゃねえか、と言うとこいつは、「もっとエレガントでカッコいい名前が良いな」と抜かす。そんな風にナルシシストだから未だに童貞なんだろうが。

 まあ、そんな事はともかく、こいつ『童貞男』間違えた『厄介男』が話しかけてくる時は、決まって面倒な事に巻き込まれている時なのである。

 はあ、さっさと要件を聞かないとしつこくストーキングしてくるからな。

 仕方がない。聞いてやろう。


 「で、お前はまたどんな面倒な事を引き連れてぼくのところに来たんだよ?」

 「おおやっと聞いてくれたか!これがなぁ、聞いて驚け」

 「さっさと済ませろ」


 厄介野郎の頭にシャーペンを刺す。


 「いたぁ!ごめんて………じゃあ手短に話すぞ。

  俺、昨日友達の 草生茂 っていうやつの家に遊びに行ったんだが、その時に遭っちまったんだよ」

 「何に?」

 「殺 人 鬼」


 やっくんは、人差し指を立て顔を近ずけてくる。うざいし、暑苦しい。


 「殺人鬼ってのは今ニュースでも取り上げられているあれか?」

 「ああ。そうだ」


 やっくんは頷く。


 「で、どんなものを見たんだ?」

 「ばらばらになった、人の死体だよ」


 ばらばら殺人。

 ああ、またすげーもんに遭っちまったもんだ。これも一種の才能だぜ、やっくん。

 なんだ、天才っつうのはこんなものにまで才能を発揮できるのか!僕が出会うなら綺麗な女の人の死体が良いけれど。

 しかしこれは一市民にはどうしようもないだろう。


 「ごめん、やっくん。それは警察をあたれ」

 「無理なんだって。その死体は警察と見に行ったときには血痕も、死体も、文字どうり跡形も残ってなかったんだよ。だからもう警察は取り合ってくれない」


 何も残さず、忽然と。

 あの時と、同じ。


 「そうか……仕方がない。それならぼくが解決してやる。天才とは言っても厄介で役立たずなやっくんのために、ぼくの平凡な脳をフル回転させてやろう」


  ぼくは大きく息を吸い込み、脳を動かす準備をする。

 



 「それじゃ、頑張ってみるかな」

 

 ※※※


 「さて、じゃあやっくん。詳しい状況ってやつを訊きたいんだが」


 ぼくは、手元にあったメモ帳を捲りやっくんに尋ねる。


 「いやあ、実は昨日茂の家には10:30に行く予定だったんだが、遅れちまってね。12:00に家を出たんだ。その道中だよ。近くの廃ビルの中を見たんだ」

 「何故だい?」

 「何となくではないんだ。―――悲鳴が、聞こえたんだよ」


 悲鳴、か。確かにいきなり悲鳴が聞こえたら、そこに入らざるをえないだろう。


 「男の声?それとも女?」

 「女性の声っぽかったけれど、結構低めだったからもしかすると、男かも」

 「何だよ、分かんねえんじゃねえか。使えねえなあ」


 これだから、ただの天才は嫌いなんだよ。

 人を頼っておいて、自分では何も分かっちゃいない。

 の〇太くんと同じだぜ。ぼくは夢のポケットも、時空を歪ませるドアも持ってないっつうの。持ってるものって言ったら、頭につけて飛ぶことのできる竹トンボくらいだよ。冗談だけど。

 「でも」とやっくんは言って、「女だと思うよ。覗いたときに死体はスカートを穿いてたんだから」と続けた。 

 「じゃあ、女だろうが!」シャーペンでやっくんの腕を刺した。「ぎゃわあああ」とか言いながら、よっぽど気持ち良かったのか、やっくんは足元でびくびく中だ。何イってんだよ。ティッシュはぼくの部屋には無いんだぞ? 


 「くそ、☓☓。お前本気でやりやがったな。シャーペン肉に刺さってんだけど!」

 「何だ、イっちゃってるのかと思ったら、悶絶してただけか」

 「くそ痛え」


 やっくんは、シャーペンを腕から引き抜く。いい感じに肉も一緒についてくる。おお、いいダイエットだね!女子に教えたら?絶対もうかるぜ、やっくん。

 まあ、それはともかく、閑話休題。


 「で?終わり?」

 「いやいや、待て待て。まだ続きはある。悲鳴が聞こえて、廃ビルの中に入って、バラバラ死体はまだ無かったんだ」

 「無かった?いや、でもやっくんはそこでバラバラ死体を見たんだろう」

 「ああ。そこで見たよ。でも俺が最初に見たときは、原型を留めていたんだ」


 原型を、留めていた。つまり、人の形をしていたということだ。

 頭があり、首があり、腕があり、腹があり、足があったということだ。

 やっくんは説明を続ける。


 「俺が死体を目撃して、その3秒くらい後死体がばらばらになったんだ。

 怖くなって逃げ出そうとしたとき、背後に人の気配を感じたから振り返ると立ってたんだ。殺人鬼が」

 「うーむ」


 なるほど、全然分かんないぞ。

 3秒でいきなり死体がばらばら。そんなことあり得るか?人為的でない。あまりにぶっ飛んでいる。


「ヘイヘイ、天才。お前どう考えたら殺人だと思うんだ?お前のお目目が可笑しいか、それじゃなきゃ幽霊の仕業だぜ」と思った。というか口に出してしまったようだ。

 「うん。俺も最初はそうかもって思ったよ。でも、ほっとけねえだろ!もし人が死んでて、でもそれが公にならないなんてのは亡くなった人が可哀相だ。あまりにも酷だ。

 俺は、人は死んだらきちんと愛されていた人々に見守られて、安らかに死ぬべきだと思う。だから!」

 「分かったよ。やっくん」


 君がどうしようもないお人よしだって事は。

 だけれど、お人よしは何も救えない。守ってやることはできてもね。

 ぼくは、相当に捻くれているのだろう。それにはきちんと理由があるんだよ。

 ぼくは、大切な人を失わないために、大切な人を作らない手段として捻くれているんだ。

 なあ、やっくん。君はどうしてそんなにも、他人の為に熱くなれる?君が君だからか。ぼくは、君のそんな所が結構羨ましかったりするんだぜ。

 だからぼくは、そんな君の為に、


 「やっくん。現場に案内してくれ」





 少しぐらいは、手を貸してやってるんだよ。 

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