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サトリな俺のライトな学園生活 ~悩める相談者と優しい嘘~  作者: みどー
第一話「エスパーと〝鉄拳〟の風紀委員長」
4/15

3/〝鉄拳〟の風紀委員長、参上!

久々の更新となってしまい、すみません!

今後は月に1~2回のペースで更新したいと思います。

また、前話にエピソード追加を行っています。今話はその続きとなっております。ご承知おきください。



 その日の午後の授業、5限目はなんとか起きていられたが、6限目の途中からは記憶がさっぱりない。恐ろしき秋の陽気。

 授業中だろうと、眠りこけることにあまり抵抗感をもってないっていうのもどうかと思うが、だって古典だし、つまらないし、眠いし、この教師は怒らないで有名な天使様だし、しょうがないってもんだ。気持ち良く夢の中へGO!


「……くん」


 んー、なんか遠くから声が聞こえる。しかも、なんか揺れてるような……。


「伊達君ってば!」

「う……ん……はっ!」


 大声で名前を呼ばれて、パッチリと覚醒した。

 やべえ……完全に寝ちまってた。流石の天子様もお冠か!?

 そう思って慌てて顔を上げると、そこにあったのは教師の顔ではなく、黒縁眼鏡を掛けた女子生徒の顔だった。


「あれ? あり……さわ?」

「もう……やっと起きてくれたよぉ」


 目の前にあったのは、怒っているのか呆れているのか良く分からない有沢の顔だった。

 てか、なんで有沢に起こされてんだ?


「……有沢、授業は? もしかして、終わった?」

「はあ……授業どころか、ホームルームも終わって、もう放課後だよ?」

「げ! マジか!?」

「大マジだよ。先生、呆れてたよ? 前田君でさえ起きてるのにって……」


 ぐあ……それはかなりの低評価だ。今度から居眠りはしないように気を付けねば。

 つーか、件のケイジが見当たらないのはなんとしたことか……親友なら放課後になったんだから、起こしてくれてもいいだろうに。


「なあ、有沢。ケイジの奴、どこに行ったか知らないか?」

「え、前田君? さあ……ホームルームが終わった途端、教室から出ていっちゃったけど?」

「あ? あー、なるほど」


 ケイジの奴、俺をほったらかしにして、さっさと謝礼交渉に行きやがったか……薄情者め。

 まあ、いいか。そのお蔭で、目の前には有沢、放課後で教室には生徒は疎ら、寝ていたから眼鏡は机の上っていうなんとも好都合な状況だ。【本心体】もバッチリ有沢の背後に視えている。

 ここはもう訊ねてみるしかないだろう。本人に確認するのはご法度と言われたが、裏を返せば、それは好意を持っているかどうかさえ訊ねなければいいってだけだ。


「なあ、有沢、ちょっと訊いていいか?」

「え、なに? いいよ?」

「今日、昼休みにつれてきた菊池ってやつのことだが、アイツとは仲がいいのか?」

「え? 菊池君? うん、学年委員会で一緒になるから、その時には良くお話しするよ?」

「学年委員会……?」


 なんだそれ? 聞いた事もない委員会だ。


「えー、伊達君、知らないなんて言わなよね?」

「いや、知らん。なんだそれ?」

「……」


 あ、有沢が怒ってる。頬を膨らませて、いじけるように怒っている。けど、その頬を膨らませた顔がへんてこすぎて全然恐くない。


「はあ……あのね、学年委員会ってのは、月に一回、各クラスのクラス委員長が集まって、学園や生徒会に環境や校則の改善要望がないかを話し合う委員会なの」

「へえ、そんなのがあったのか」

「おかしいなあ……私、その委員会で要望案を出すからって、クラスの皆にいつも意見を求めたりしてるはずなのに……それを知らないなんて、おかしいなあ」


 ジロッと非難の目を向けてくる有沢。恐くないけど、気まずくはある。

 とりあえず、頭は下げておこう。


「ええっと……なんか、すまん」

「もういいよぅ! それで? 菊池君がどうかしたのかな?」

「ん? ああ、アイツってどんな奴なのかなって素朴な疑問さ。一応、相談者の事も知っておいた方がいいしな」

「ふぅん、そうなんだ。うーん、菊池君かー」


 唸る有沢。難しい質問をしてないはずなのに、目を閉じ、右手を顎に当てて考え出す。

 何をそんなに考えているのか気になって、少し視線を有沢の背後にずらす。


『菊池君かー。あの人、真面目そうだし、根は良い人だと思うんだけど、あの堅い口調がなぁ、私ちょっと苦手なんだよねぇ。それに目つきもちょっと怖いし……。ああん、ダメダメ! 菊池君と出会ったばかりの伊達君にこんな事言ったら変な先入観持たせちゃうよね? もっと言葉選ばないと。ええっと……』

「ま、真面目で良い人だよ、菊池君は」

「…………」


 き、菊池ぃ! ダメだ、これはダメだよ。完全に脈なしだよ、お前。なんでこんな風に思われてる女子を好きになったわけ!?

 心の中で菊池に対して合掌すると同時に、改めて菊池が変わった奴なんだと、再認識するに至るのだった。

 つーかさ、有沢も大概な。

 今日会った印象から、菊池が怖い人って感じは受けなかった。決して、目つきも怖くない。堅物ではあるようだが、有沢の言葉を借りるなら、『真面目で良い人』なのだろう。まあ、要するにあれだ。有沢を見ている時だけ、目つきが変わってるってことなんだろうけど……。菊池よ、お前の熱視線は有沢に届いてなかったようだぞ?

 うん、ある程度誤解も含まれているようだが、これで菊池への報告内容は決まった。後は……。

 俺は机に上に置いていた眼鏡を掛けて、有沢にもう一つ質問することにした。


「あー、菊池の事は大体分かった。ありがとさん。ところでさ、もう一つ訊きたいんだが、菊池の知り合いに『沢近さん』って人がいるか知ってるか?」

「さわ……ちか……さん?」


 有沢は目を丸くして、はてと小首を傾げる。そして、ややあって思い至ったのか、ああと呟いた……と思ったら、今度は眉を顰めて、難しい顔をし始めた。

 表情がコロコロと変わって面白いが、最後の表情は解せない。あれは一体……?

 そんな考えを巡らせていると、有沢が「あのね、伊達君」と真面目な表情で呼び掛けてきた。


「伊達君の言っている『沢近さん』って、多分、風紀委員長の沢近愛理先輩だと思う。菊池君、クラス委員長以外にも風紀委員もやってるから」


 菊池の奴、風紀委員までやっていたのか。あの野郎、自己紹介の時にはそんな事一言も言わなかったのに……さては、敢えて黙ってやがったな。やはり策士。

 けど、風紀委員、か……。


「風紀委員長……沢近愛理……」

「うん。聞いた事ないかな?」

「……わるい、ないわ」

「…………」


 あ、有沢の奴、分かりやすく溜息ついて呆れやがった。なんか、腹つんだけど……。


「あのね、沢近先輩は、この学園では風紀委員長として有名な人なんだよ」

「どう有名なんだ?」

「ええっと……それは……なんて言ったらいいんだろう?」


 有沢は何故だか困惑の表情を浮かべる。余程、その沢近先輩の事が形容し難いのだろうか?

 しばし待っていると、有沢は意を決したようにまたも真面目な表情で言ってきた。


「沢近先輩はね、〝鉄拳〟の風紀委員長って呼ばれている人なの」

「て、鉄拳……?」


 なんだそれ? 物騒この上ない呼び名なのだが……。


「うん、〝鉄拳〟の風紀委員長だよ。沢近先輩はね、風紀を乱す人を絶対に許さないの。そういった人には鉄拳制裁を加えて、素行を改めさせるんだって。噂だと、校内の不良グループを打ちのめして、病院送りにしたとかなんとか」

「おいおい……そりゃなんでも冗談がすぎるだろ?」

「うん、私もそう思うけど、学園内ではまことしやかに囁かれている噂なんだよ。皆、それを信じて、『沢近』って名前を聞いただけで、恐れおののいてるし……」


 マジですか……。

 不良グループを病院送りにした女子? どんな女子だよそれ。……ゴリラみたいな? うーん、そんなイメージしか湧いてこないぞ……。

 て言うか、そんな奴に俺は目を付けられたってことか? なんかやばくね、それ。


「あのね、伊達君。こんな事言うと噂を信じているみたいで嫌なんだけど、沢近先輩にはかかわらない方が良いと思うよ?」


 有沢は心配げな表情を向けてくる。

 有沢は噂なんかを信じて、誰かを差別したり、軽蔑したりは決してしない。これは俺を心配してのことなのだろう。


「ああ……そうだな。忠告、ありがとな」

「えへへ」


 素直にお礼を言うと、有沢は照れ臭そうにはにかんで笑った。

 しかし、残念だったな、有沢。もう遅いのだよ。ええ、とっくにその沢近先輩に目を付けられてますから。


 その後、有沢を待っていたのであろう女子生徒に有沢は呼ばれて、俺達の会話はそこで打ち切られた。


「ごめんね、伊達君」

「いや、こっちこそ帰り際に詰まらない話に付き合わせて悪かったな」


 俺がそう返すと、何故か恥ずかしそうにおかしな事を言った。


「う、ううん。だ、伊達君とのお話なら私は詰まらなくなんてないよ」


 そのまま有沢は走って教室から出て行ってしまった。

 ……は? なにあれ? どういうこと?

 意味不明、としか言いようがない。

 そのまま有沢は走って教室から出て行ってしまった。


 一人教室に取り残された俺は、有沢が聞かせてくれたことを整理することにした。

 〝鉄拳〟の風紀委員長、沢近愛理。さて、どうしたものか……。

 そもそも、なんでそんな怖い人に目を付けられねばならないのか?

 例えば、俺が謝礼なんかとって他人の悩み事を解決してるからか? それが風紀を乱していると判断された……? いや、違う。菊池は俺が謝礼を取っていることを知らなかった。だとすれば、一体何が……?

 分からない。何故、俺が目を付けられたのか。その覚えが全くない。これはいっそ直接対面して確認した方が早いような気がしてきた。いくら『鉄拳の』なんて呼ばれていても、風紀委員長をやってるくらいだから、いきなり殴りかかってくることはないだろう。

 ま、とは言え、こっちから出向くことまですることはない。向こうから来た時に間違えず対応すれば問題ないはずだ。

 うん、結論は出た。結局、なるようになれだ。

 俺は一人納得して、教室を出て家路に着いた。


 次の日の放課後、誰も来ない場所――所謂、校舎裏に菊池を呼び出した。

 大変心苦しくはあったが、有沢が菊池に対して抱いている感情をありのまま報告した。

 その時の菊池は目で見て分かると言う程ではないけれど、落胆していた。ま、そりゃあそうなるわな。

 その後、俺は菊池に謝礼は後日でいいと伝え、その場に菊池を一人残し、そそくさと去った。

 まあ、後は当人同士の問題だし、これ以上、俺が口出しすることではない。俺は依頼されたことを果たすだけだ。

 こうして、菊池からの依頼はめでたく(?)達成されたのだった。


 けれども、そのまた次の日のお昼休みに問題は勃発した。


 授業が終わり、教師が教室から出て行くのと入れ替わりに、あんまりにも鮮明な声が飛んできた。


「はーい、ちゅうもーく!」


 その声の聞こえてきた方にクラス全員の視線が一気に集まる。

 見れば、教卓の前に見たこともない女子生徒が立っていた。

 後から後悔することになるのだが、この時の俺は不覚にもその女子生徒に目を奪われてしまっていた。

 小さい上に際立った目鼻をした顔は美形としか形容できない。おまけに肩先まで伸びた髪は両サイドで結んでツインテールにしているのが文句なく似合っている。さらには、女子としては長身な上、手足は長く、すらっとした体型、けれども出るところはしっかり出ているという、まるでどこかのモデルのような容姿だ。

 あー、こういうのなんて言うんだっけ? ええっと……そうそう、完全無欠の美少女だ。

 そんな見知らぬ美少女が突然教室に現れたものだから、クラスは騒然となった……と思ったら、なにやら聞こえてくる声が不自然だ。


「おいおい、あの可愛い子誰だ?」

「おまっ、馬鹿か! 黙ってろ! あれはな……」

「なんであの人がうちのクラスに……」

「これ、やばいんじゃね?」


 何故だか聞こえてくる声は不穏なものばかり。クラスは別の意味で騒然となっている。

 そんな状況を楽しむかのように美少女はニッコリと微笑み、次にとんでもない発言した。


「この中に、1年3組の菊池の恋愛相談に乗った伊達とか言う奴がいるだろー? ソイツはどいつだ?」


 その美少女は何故だか男勝りの口調で、そしてどうしてか俺を探していた。

 一斉にクラスの視線が俺に集まる。美少女はその視線を追って、彼女を注視していた俺と視線が合った。


「へえ、お前がそうなのか」


 不敵な笑みを零す美少女は、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。


「お、おい、覚! お、お前、一体何をやったんだよ?」


 前の席に座っているケイジが声を潜めて俺に尋ねてきた。どうしてか、声に怯えが混じっている。


「あ? なんだそれ? どういうことだよ?」

「馬鹿、お前知らないのか!? あの女はなぁ――」


 ケイジからその先の言葉を聞くことは叶わなかった。何故なら……。


「んー? 私がどうしたって?」


 何故なら、その美少女が俺とケイジとの間に立って、俺達の会話を遮ったからだ。


「ヒ、ヒィ!」


 ケイジは情けない悲鳴を上げて、椅子から転げ落ち、隣の机に後頭部を勢いよくぶつけて倒れてしまった。凄く痛そうだ。

 美少女はそんなケイジには目もくれず、俺をじっと見据え、そして訊ねてきた。


「お前が伊達覚で間違いないな?」

「そ、そうだけど……あんた、一体誰だ?」

「私か? 私はな……」


 その先の言葉を固唾を飲んで待つ。

 そして、美少女はそんな俺の動揺を見透かしたように、不敵な笑みを零したまま、名乗った。


「私は2年1組の沢近愛理という者だ」

「…………は?」


 この美少女が……沢近愛理? 〝鉄拳〟の風紀委員長で有名な、あの沢近愛理?

 え? 違くね? 何かの間違いだろ? だって、俺のイメージじゃ、ゴリラみたいな女で……。


 それは予想だにしていない名前だった。この時の俺はあまりの事に間の抜けた顔をしていたに違いない。


「む……こっちに名乗らせておいて、なんだその反応は?」


 気に入らないと不機嫌顔になる沢近愛理を名乗る美少女。まあ、この時の俺の反応は確かに失礼であったことは間違いない。

 けれど、彼女にとってそれは些末な事だったのか、その表情はすぐに元の不敵な笑みに戻る。そして、彼女はトンデモないことを言ってきた。


「伊達、ちょっと顔貸しな」


 まるで不良かチンピラかと思えるようなそんな一言で、平穏だった高校生活が終わりを告げようとしているのだと、俺はなんとなく悟ったのだった。



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