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05 新しい魔王

 

 ●○●○●○●○●○●○



「魔王である我が……こんな簡単に死ねると思っているのか……」

 コトハ邸の前――ある程度大きい道路で魔王と勇者は対峙する。魔王は邪悪というマントに身をくるみ、自らの身を守っていながらもその口からは吐血している。対して勇者はセンターラインを堂々と跨ぎ、余裕の表情で尻を突いている魔王を見下ろしている。

 そこには戦った痕跡はほとんどなく、近隣の住居にも何ら被害は出てない。電信柱だって壊れていないし、壁に穴も開いていない。地面のコンクリが蹴られた衝動で歪んだり穴が空いたりしているわけでもなく、物質的には何か損害があるというわけでもないのだが、精神的な被害というべきか――勇者と魔王の間だけ大気がひずみ、何物をも間に入れようとしない断固とした姿勢を両者構えている。

 だがしかし両者は互いに動かない――魔王は次の一手を持ちうる限りの思考回路を駆使して脳内で策略を逡巡させ、対して勇者はどのようにしてやろうかというような醜悪な勝利の笑みを浮かべ目をきらりと光らせる。


 静寂の口火を切ったのは魔王だった。

「喰らえ我が隷属者――ゾンビアーマー!」

 どこからか出てきた鉄の鎧が勇者と魔王の前に立ち塞がる。

「舐めんな」

 勇者が冷たく言い放つだけで、出てきた鋼の鎧に罅が入った。勇者と魔王の間に大気の壁があったのは比喩でも何でもない――ただの事実。その気圧差に耐えきれなくて鋼はいとも容易く崩れ去りそうになっている。

 魔王の命もここまでくれば風前の灯か。


「えーっと、新しい魔王――っつーかソリュード。お前に俺は倒せねぇよ」

「我の事は魔王と呼ぶがよい。我とて魔王――勇者に負ける存在ではない」

 どこからかエコーでもかかっているような響きを放ち、高らかに朗々と笑い声をあげる。

 勇者は、一度背中に背負った鞘に剣を収めたところをもう一度取り出して、あーっとだなぁ……、と何か言いたげなことを口どもる。


 そしてそのまま、魔王に向かって剣先を高く振り上げ走りゆく。

「魔王は二人も、この世界にいらないよなぁ」

 勇者はそう言って、ソリュードを討ち取った。

 聖剣エクスカリバーはソリュードの体の隙間から生じる瘴気をすべて回収し、その剣の胎内に邪悪を呑み込んでゆく。

 剣は邪悪を呑むたびに少しずつ大きさを変え、腹を膨らませる。腹――といっても、この場合剣のちょうど中心部分になるだろう――がぽっこり膨れていて、とても剣としては使えなさそうなフォルムに変化してしまっている。

 しかし、その剣は浄化作用も持ち合わせているのか、どんどんその部位が縮んで、やがて元の切れ味がよさそうな姿に形を変えた。

 その一連の行為を通じて、剣はその光沢に磨きをかけ――光を吸収し、そのものが発光しているのかと疑うくらいには光を反射させる。


「どうだ、力は蓄えられたか? ケイリュ」

 勇者は、魔王を討ち取り、誰もいなくなったコトハ邸の前でただ呟く。だが、その言葉は誰かに向けられたようなものでもあって。

「はい、魔王様・・・。万全でございます」

 そしてどこからともなくケイリュと呼ばれた者からの声が聞こえる。

 その発生源は西洋剣のフォルムをしている『聖剣エクスカリバー』。ケイリュと呼ばれたその名前に、剣自身が反応し、呼応している。

「あんな偽物じゃ噛みごたえもないだろうに。さあ、ここから始まるのは魔王自身で征く――虐殺タイムだ」

 ラジャー、という声が剣から聞こえ、勇者――もとい魔王は街へと繰り出した。



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