第七節 部活動②...誘拐事件
「予想外に楽しめたね。」
映画鑑賞後、俺は幼馴染ーズに感想を求められて、最初に思った事の口にした。
この世界の映画は残念な事に、「撮影後、各地に放映」というようなものではなかった。「記録」を利用して、「映画館」に役者達を揃い、何らかの物語を演じさせてから、後で「過去の記録を再生」という方法でを観客に見せている。
その為、俺の元の世界での「トランジション」や「クローズアップ」など、視点の切り替えができない。映画というより、演劇を見た気分だ。
とはいえ、ここは魔法ありの世界だ。
場面変更に幻惑魔法が発動され、観客の周りまでも巻き込んで、劇場内全ての景色が変わる。臨場感たっぷりだ。
演出にも拘っている。所構わずに様々な魔法が使われ、キャラクター達の心理を分かりやすく魅せる工夫をされていた。バトルシーンなどでは実際の魔法の撃ち合いもする。過去の「記録」だと前もって知っていても、自分の方に飛んでくる魔法に思わず身構えてしまう。
役者達もみんなホントプロ!撮り直しが効かないからなのか、真に迫る素晴らしい演技力を見せてくれた。治癒魔法が進み過ぎているせいか、大怪我を顧みず、まるで本当の殺し合いをしているかのようだ。実に脱帽ものだった。
こっちの世界の映画が例え俺の知ってる「映画」と違うものであっても、出来栄えに優劣を付けられないな。
「初めてだったから、つい二本連続に観てしまいました。
我儘に付き合ってくれてごめんなさい、ありがとうございました。」
頭を軽く頷き、みんなに謝罪と礼を述べた。
みんなも笑みで返事してくれた。星もクールな態度を見せたが、嫌がってる態度ではなかった。
クローズアップが出来ないこの世界の映画、アクションは楽しめるが、ロマンスはどうなんだろうと気になって、好奇心を抑えきれなかった。
それで二本連続に観た!別に「初めて」だから、楽しく燥いでた訳じゃないから!
時間は既に午後の二時過ぎ、俺達一団はまたも安いファミレスで、遅れた昼食を摂った。
舌が肥えても、昔の外食時の癖はなかなか変わらないようで。
特に大人数で駄弁たい時、どうしても最初に「ファミレス」が頭に浮かぶ。
けど、今回ファミレスを選んだのは俺ではなく、雛枝だった。一昨日の晩飯は俺に合わせて高級レストランを選んでくれたが、彼女は元々ファミレスが一番好きらしい。
俺もファミレスで食べたいと思ってたから、それを伝えたら、「双子のシンパシー!」と喜ばれた。この時の雛枝は実に年相応な可愛い女の子だと感じた。
「それでそれで!次はどこに行きます、姉様?」
食事が済み、ファミレスに居座っている暫く、よほど「姉様」にこの国を堪能して欲しいのか、雛枝は次々と氷の国の観光地を挙げる。
「『水晶宮』でしょう?『海王殿』
でしょう?『クジラ墓地』も一見する価値があるし。
いっそ海流に乗って、この国の端っこから端っこまで一周するのもいいかも!」
「もう『次』の話?
私としては、まだまださっきの映画の感想話がしたいんだけど。」
燥ぐ雛枝と違って、俺の方はもう映画がもたらしてくれた高揚感が収まって、怠さが戻ってきていた。
「ヒスイちゃんも楽しかったよね〜?百面相するくらい楽しかったよね〜?」
すっかり俺の膝の上が定位置にしたヒスイちゃん、その耳元に息を吹き掛ける。
「二つも幸せな終わりでよかったです。
何も読めなくて、ドキドキしましたよ!」
くねくねと体を揺らしながら、ヒスイちゃんがはにかんだような笑みを見せた。
「ハラハラした?」と訊くと、元気のない「うん...」が返ってきた。「ワクワクした?」と訊くと、満面の笑顔で「はい!」と返事した。
人の心が読めるこの子にとって、先の分からない娯楽が初めてだったのかもしれない。文字の勉強はまだまだ足りてないっぽいけど、屋敷に書庫があるから、帰ったら連れててあげよう。
「ねっ、そろそろどっかに行こうっ、姉様!
ね〜!姉様姉様姉ー様ぁ〜!」
今日は疲れているから、動きたくないと前もって伝えたはずだが、映画を観たせいか、雛枝のガイド魂に火を付けたようだ。
かくいう俺も、雛枝が口にした観光地の名前に興味をそそられて、疲れているのに、見に行きたい気持ちもある。
「時間が勿体ないよ、姉様!
姉様がこの国に滞在できる時間は残り十日余りしかないじゃありませんか!?
一分一秒も無駄にできないわ!」
「気持ちは分かるけど、ね。
でもね、雛枝、一回の旅行でこの国の全てを見るなんて、そんなあり得ない事を考えてないよ。
ってか、間違えた!『旅行』ではなく『合宿』だ。遺跡探検が主の目的で、活動記録を書いて、生徒会に提出しなければいけない。」
「でも、姉様!あたし達は後十日でお別れなのですよ!?
もっと姉様を色んな所に連れて行きたい!
もっと姉様に色んな物を見せてあげたい!
あたし、ようやく姉様と再会したのに...いやだいやだいやだ!」
雛枝が駄々っ子になっちゃった!
はぁ...
考えてみれば、雛枝にとって、俺は何年も会ってない双子の姉。普通の歳の近い兄弟と違って、双子は同い年でも、まるで元が一人のように仲が良いらしい。
騒がしい雛枝と違って、奈苗は昔から大人しい子だったらしい。が、やはり双子だからか、性格の違い程度では仲の良さに影響はないのかな?
寂しかったんだろう。
そう考えると、彼女の気持ちを俺も応えてやりたい。
けど...
「ひなちゃん、今生の別れではないから、ななちゃんを困らせないで。」
「うるさい黙れ!」
俺にフォローを入れてくれたあき君に、雛枝が一蹴した。
しかし、あき君はめげず彼女の説得を続ける。
「また時間が空いたら、遊びに来る。
なんなら、俺の方からも長期休みの度に、ななちゃんに氷の国に行くように勧めるよ。それか、ひなちゃんが日の国に遊びに来ても良いよ。
俺達、まだ学生だけど、もう『子供』じゃないから、な?」
「くっ、輝明の分際で、言うじゃねぇかよ!
でもね...あのね、やっぱあたし達はまだ『未成年』だよ?ビザどうするの?
あたしは結局、母様が日の国に行きたくないせいで、姉様とずっと会えてませんでしたわ。
その点、どうするつもり?どうにかしてくれるの?」
「それは...」
あき君から助けを求める視線を向けられた。
いや、俺に振らないでよ!
今回の旅行だって、名目上は「考古学部の活動」だ。保護者同伴で、しかもたぶん、「守澄財閥」も裏で手を回していると思う。
雛枝の祖国はもう「氷の国」で登録しているから、成人までは出国が認められないだろう。
あの「お母様」も、絶対俺のいる日の国に来ないだろうし、今の時期に雛枝を守澄邸に招待するのは...ん?
「雛枝、留学に興味ない?」
「留学?」
「そう。」
ふっと思いついた事だが、「留学生」としてなら、雛枝も日の国に来れるじゃないか?
「お父様が建てた『私立一研学園』にXクラスがあって、『一つでも、他人より優れているところがあれば入学可能』という、お父様が決めた特殊な入学条件。
もちろん、かなり厳しい条件だと思う。たぶん、全世界の人間の中で『優れて』いなければいけないと思うが、雛枝はもうその条件を満たしているのでしょう?」
「それは...中学生でも可能ですか?高校卒業前なのに、行けるの?」
「あぁ...『中学生』は無理かも。
でも、来年から高校生でしょう?
ウチの学園の高等部に各国からの学生で一杯だったよ。
もしかしたら、Xクラス以外にも入れるかもよ。」
またも適当な事を言った。
この世界の人は「国」ではなく「種族」によって分かれている。
ぱっと見、誰かが何の種族なのかを推測できても、どこの国の出身までは分からない。
でも、どうせ雛枝はXクラスに入るんだから、俺のこの小さな嘘がばれる事は...
「ななえちゃんには分かります?」
望様はとてもやさし~い口調で、俺の小さな嘘に疑問を呈した。
「...はい、適当な事を言いました。
ごめんなさい。」
早速嘘がばれてしまった。
そういえば、この場に生徒名簿が見れる「教師様」もいたな。
もう、望様!わざとだろう!?
普段は俺のボケを全スルーする癖に、何でこういう時だけきちんとツッコミを入れる!?
「でも、雛枝!」
「はいっ!?」
「雛枝はどうせXクラスに入るのだから、心配しなくていい。
創立者がお父様だし、『家族優待』で無理して雛枝を『一研』に入れる事も出来ると思うよ。
寧ろ、私がさせてみせる!雛枝も知ってるかもしれないが、あの男、娘に駄々甘だよ。」
「また出だな、ななちゃんの強引さ。」
「あぁ。
断ったら『その代わり』とか言って、何かの条件を捻じ込んでくるだろう。」
あき君と星がとても失礼な事を口にしている。
二人共うるさいな。空気を読んで声を小さくしてくれたけど、俺の耳にも入らないように気を遣ってくれ。
「ごめん、姉様。
やっぱ無理かもしれません...」
驚く事に、雛枝が急に俯いて、後ろ向きな返事をした。
「最近、色々立て込んでて...もうこの国から出られないかもしれませんし、姉様にも来させられない。」
来させない?妙な事を言ったなぁ。
でも、昨日で何となく、今の言葉が出た原因を思いついてしまいそう。
...今はまだ、それを考えたくないなぁ。
「いらないって言ってるでしょう!?」
突然の大声とその後のガラスが割れた音に、喧噪のファミレスが瞬くの静寂を迎えた。
何事かと思い周りを見たら、両手で顔を隠して啜り泣きしている細身の女性と、ウエイトレスに謝りながらその女性を優しく肩を抱く小太りした男が目に入った。
「ごめん、姉様。あたしは、ちょっと...」
そう言って、雛枝は席を外して、かの二人のところに行った。
知り合いなのだろうか?
そう思って、俺は手を止め、雛枝を観察する事にした。
「ななちゃん、気になる?」
「ん?」
食事を止めた俺に気づき、あき君が声を掛けてきた。
「えっ、ナナエお姉ちゃん、何か気になる事でもあるのですか?」
サトリ族なのに、何故か一足遅れて俺の様子に気づくヒスイちゃん。
「ふむ...」
少し思慮して、俺はあき君達に返事せず、「ちょっと、ね」と言い、蝶水さんの側を通って、雛枝のところに向かった。
...何か面白い事が起こりそうな予感っ!
「何かあった?」
「あっ、姉様!」
俺も来たのを見て、雛枝は席に奥に詰めて、自分の席を俺に譲った。
「えっ!?雛枝様が、二人!?」
小太りの男が俺を見て、驚愕に口を開けた。
「あっ、違う違う。私達、双子。」
男を適当にあしらって、俺は雛枝にまた質問をする。
「何かあった?」
「あー、実は...」
雛枝の話によると、目の前の二人が夫婦で、つい一か月前に四歳の息子さんが行方不明になったらしい。
場所はこのファミレスの付近、時間は昼頃。「記録」を確認したところ、急に姿が消えたらしい。
恐らく幻惑系の魔法を使って、姿を消されたらしい。失踪した理由が分からないが、四歳の子供が使えないくらい難しい魔法だから、誰かに誘拐されたと推測できる。
ここまでは誰でも思いつく、「誘拐犯」を探し出す行動に出る。
なので、俺達の目の前の夫婦もすぐにこの区の警察に「捜索願」を出し、喰鮫組にも自分達の子の失踪を伝えたらしい。
と同時に、幻惑系の魔法の使用痕跡というべきか、魔力残滓を自分達も探したらしい。
けれど、一か月経っても、誰も二人の息子さんを見つけられなかった。
二人が「喰鮫の庇護」下の所為か、警察は本腰を入れてなかったかもしれない。喰鮫組はやはり裏社会の人間だからか、真面目に探してくれているかが怪しい。
それで約一週間前から、半ば絶望した奥さんの方は「あの子、あの世でお腹空いているのかも」と言い出して、ずっと食事をしていない。魔力だけで体を動かしていたが、それも尽きかけていて、旦那さんにこのファミレスの中に引っ張られてきた。
そして、遂にさっき、旦那さんが持ってきた、ただの水すら「いらない」とガラスの容器ごとを振り払った。
「二人が『喰鮫の庇護』下だから、雛枝も責任を感じちゃったのか?」
「元々、あたしが勧誘した二人でしたから。
でも、まさかこんな事が...」
「ふ~ん」
子供の誘拐、ねぇー...危険度が高いうえに、メリットが少ない。記録に残らないように注意を払っている事からして、衝動的な犯行だと思えないが、目的が分からない。
個人による犯行だと、警察と喰鮫組がよほどな怠け者の集まりでなければ、一か月もあれば手掛かりの一つくらいは掴めるはず。お互いが足を引っ張り合っているとしても、何も掴んでないのはおかしい。
ならば、組織的な犯行?人に「種族」というステータスを持つこの世界で、「子供の販売」は儲かる闇商売とは言い難い。種族によって、大人になった奴隷が飼い主を容易く殺せる可能性があるし、例え洗脳を掛けられたとしも、幻惑系に得意種族は自力でそれを解けられるし、そもそも、その時から体について消えない魔法の余波が他の誰かに察知されたら、一瞬で警察の「お世話」になりかねない。
魔力耐性ゼロの俺にとって毒である「魔法の余波」や「魔力残滓」などだが、それがあるから、この世界では「奴隷の販売」が非常に難しい。俺個人へのメリットがなくても、心情的に喜ばしい事だ。
だからこそ、分からない。成長期に入る前の僅か四歳の子供を誘拐する理由はなんだ?
...まぁ、他にも色々変態的な、または猟奇的な理由も考えられるが、それは一旦考えない事にしよう。
「雛枝はどうしたい?」
「あたし?」聞かれて戸惑う雛枝だが、「...力になりたい」とはっきり俺に返事した。
「ただ、下手に期待を抱かせるのもよくないと思うわ。」
そう言って、暗い顔をする雛枝。
なるほど。既に幾つのよくない結末を脳に浮かべているのだろう。
この夫婦にとって気の毒だが、一か月も見つかっていないのなら、都合のいい結果が出るのは考えにくい。
その事、この二人にも予想できる筈だ。「あの世」と口にした以上、「考えた事がない」なんて事はありえない。
それでも今日も探しているって事は、せめて骸だけでもとか、あるいは「悪い可能性」を考えないようにしていただけとか、それでかもしれない。
...雛枝はそんな二人の力になりたい、か。
けど、遍く「記録」という大魔法に覆われたこの世界で失踪事件か。
ふーん...
「見つけてあげるよ。」
俺は自信満々に、目の前の両人にそう言った。
自分の耳を疑ったのか、雛枝を含め、俺の周りの三人全員が目を丸くして俺を見つめた。
この時、俺は初めて奥さんの顔を目にできた。一週間だけ何も食べてないのに、奥さんの顔が何週間も食事していないかのように、頬が凹んでいて、血が通ってないようだった。
「ほ、本当に...」
「えぇ、本当。」
「見つけて下さるのですか!?」
何処からその力が出たのか、奥さんの方がいきなり身を乗り出して、両手で俺の肩を掴んだ。
その両手も骨と皮膚がくっついているかのようになっていて、初対面であるにも拘らず、掴まれた俺は少しも気分が悪くなかった。
「ちょっ!姉様に...」慌てて俺を掴む奥さんを引き外そうとする雛枝。
その行動を予想した俺は透かさずに雛枝の伸ばした手首を掴んだ。
「雛枝、あき君と蝶水さんを呼んできて。」
「ね、姉様?」
「たった今、私達の次の行き先が決まった。
お二方のお子さんを、必ず見つけようね。」
「...分かったわ。」
渋々、雛枝は俺の側を通って、あき君達を呼びに行った。
「本当に...見つけられるのですか?」
旦那さんに諫められ、俺の肩から手を放した後の奥さんは冷静になり、不安に俺に尋ねる。
「はい!必ず見つけて差し上げます。」
満面な笑顔で返事した。
「本当か?あの子、まだ無事なのか?」
「無事かどうかは分かりませんが、きっと生きています。」
「生きてっ!?」
「それは真実なのか!?」
俺の「きっと生きています」という言葉に、旦那さんの方も興奮気味になり、睨むように俺を見つめた。
「はい。」
「どうしてそんな事が分かる?」
「分かりませんよ。信じているだけ。」
「信じて...?」
「自分達の子供なのに、信じていないのですか?」
「し、しかし...もう一か月も...」
「されど、まだ一か月。
私は『病弱』だから、よく分からないのですが、一か月飲食無では人は死ぬのですか?」
「ぁ、いいえ。我が種族なら、ひょっとしたら...」
へぇ、マジでまだ生きている可能性があるって事か。
俺としては完全にこの夫婦を化かすつもりだか。生きている可能性があるのなら、もうちっと本気でこの事件に臨もうか。
そうしている間、雛枝はあき君と蝶水さんを連れて戻ってきた。
「何事なんだ、ななちゃん?」
「ちょっとあき君達に手伝って欲しい事があってね。」
俺はあき君と蝶水さんを手招きに近くに呼び、対面に座っている夫婦二人を紹介した。
「...んで、蝶水さんにはお二人の手伝いをしてもらいたい。
得意でしょう、幻惑系の魔法?」
「...そっすね、得意ではありますか?」
「うちのメンバー、得意そうな奴がいなくて。蝶水さん頼りだね。
お願いできます?」
現メンバー全員の得意魔法を掌握した訳じゃないけど、こういえば、蝶水さんも断れないだろう。
と、俺は思ったが、予想以上蝶水さんが難色を示した。
「お嬢、いいっス...でしょうか?」
雛枝の姉だから断れないけど、やはり嫌なのか、蝶水さんは雛枝に助けを求めた。
それに対して、蝶水は「今は姉様の護衛でしょう。」とあしらった。
しかし、幻惑系の魔法がそんなに嫌いなのか?
「蝶水さん、どうしても嫌なのか?
幻惑魔法に対して、何か嫌な思い出でもあるのですか?」
「...個人的な事情っス。けど、大した事ありません。
幻惑系全種の属性組み合わせの魔力残滓を探ればいいっスよね?」
「一か月も経ってるけど、探せる?」
「『記録』にも残れない程だけど、たぶんまだ...」
「なら、助かる。」
嫌っていても、達人級か?
「けど、ななちゃん。話を聞く限り、俺は何の為に呼ばれたのか、分からないんだか?」
「シンプルな連絡役です!ごめんね、あき君。」
「俺が連絡役?」
「私は念話無理だ。知ってるよね?
んで、あき君には望様の連絡先と雛枝の...連絡先、知ってるよね?」
「一応...壁を張られてなければ。」
壁?ブラックリスト的の意味だろうか?
「してないわよ。
こっちから連絡したくないし、連絡されたくないだけで。」
そう言って、両手を組んで、あき君から目を逸らす雛枝であった。
ツンデレか!
「だそうだ。
お願いするね、あき君、蝶水さん。」
そう言って、二人を催促するようにあき君の背中を叩いた。
「私、護衛のはずじゃあ...」と小声で愚痴る蝶水さん。
言われてみれば、将来考古学部に(できれば)いれる予定の雛枝はともかく、蝶水さんは部外者だ。部長の俺の指示に従う必要はない。
「あのな、ななちゃん...」
何かを聞き出しそうな顔で振り向くあき君。俺は「いいから」とその背中を叩いた。
「お二方、あき君達をお子さんが行方不明に関係ありそうな場所に連れてて行ってくれませんか?」
丁寧語を使ったが、俺は目の前の夫婦二人も催促を掛けた。
「あ、うん。ありがとう、雛枝様の双子様。」
「世話に...なります。」
旦那さんに体を預けて立ち上がる奥さん、今にも倒れそうだ。
流石に不憫に思って、俺はバックの中からポーション一本を取り出して、旦那さんの方に投げつけた。
「奥さんに飲ませて。着く前に倒れられたら、話になりませんから。」
「何から何まで、ありがとう。」
歩きながら、旦那さんはポーションの蓋を開けて、奥さんに渡して、飲ませた。
俺と雛枝はファミレス内に留まって、四人が出て行くのを見守ってから、自分達の席の方に戻る。
「姉様、失踪者の心当たりがあるのですか?」
「いや、全然。」
「えっ!?」
戻るまでの短い間、雛枝は俺の自信満々な態度に疑問を持ち、その後の俺の回答に口が半開きした。
俺はそれに気にせず、残ったみんなのところに戻るが、席に座らず、机に両手に乗せた。
「ヒスイちゃん、さっきの事をみんなに伝えて。」
「え?あ、はい!
えっと、ナナエお姉ちゃんが言いたい事は...」
「いや、口ではなくて...」
テレパシーで全員に伝えて。と、頭の中でヒスイちゃんに語り掛ける。
すると、「あ、そうですね」という言葉が俺の脳に入った。
「なるほど、そんな事があったのですか。」
一秒未満の後、望様の返事が来た。どうやらサトリ族のテレパシーでの物事の伝達に、ほぼノータイムで行えるみたい。
便利だな。
範囲制限さえなければ、念話よりも便利だな。
「事情を分かったところで、これからの予定をお伝いしたいと思います。
まず、類似事件があるかどうかを確認する為に、俺と雛枝はここより一番近い喰鮫組の支部に直接に訊きに行き、望様達には警察の方からできるだけの情報を引き出して欲しい。」
「この区の警察からか。」
望様の眉間を寄せる。
例え他国のでも、望様は警察と関わりを持ちたくないだろうし、それ以外にも心配事があるだろう。
けど、大人に行ってもらわないと真面目に取り合ってくれないだろう。心配事の方も、対処法はある。
「一般人に軽々しく語る話じゃないと思うから、ヒスイちゃんも一緒に行って。重要かどうか分からない情報の場合、一応全部望様に伝えて、望様に判断してもらえ。」
「は、はい!ヒスイ、お役に立ちます!」
ヒスイちゃんは健気に両手を拳にしてあげて、「頑張ります!」のポーズを見せた。
うん、マジで頑張って。今回の事、結構ヒスイちゃん頼りなんだ。ヒスイちゃんの頑張り次第、最大八割の課題が達成できるともいえる。
「が、頑張りま、すっ。」
「うん、頑張って。」
ちょっと弱気になったヒスイちゃんに笑顔で残酷な返事をした。
「行うかどうか、望様に任せますが、策として一つあります。同じ『子を誘拐された親』のフリをする。
過去に千条院輝君が誘拐された経験のある望様と星達なら、うまく化けれると思います。」
星はともかく、望様はうまく演じれると思う。
「そして、出来るだけしつこく、ヒステリックに演じて、警察署内の全警察に聞こえるように暴れてください。ヒスイちゃんに最も多くの思考を読ませてあげるように。」
「あの短時間で、そこまで考えたのか。」
そう言って、敬服な眼差しを送ってくる望様。
だけど、今回は正直少しだけ、見下されたような気分だ。
「『子供にしては』よく考えた策、ですよね。不足の分があれば、望様が足しておいて。」
皮肉を込めて、望様に悪態をついた。
「いいえ、素直に感服しています。よく考えた策だと思います。
特に足すべき部分も思いつかないし、奈苗さんの策のままに動こうと思います。
けれど、人数配分に少し不明なところがあります。」
「あくまで役割的に三チームに分けただけで、人数を平均に割る事を考えていません。
あき君は連絡係にしたのはそのまま通り、加えて無為に望様チームの人数を多すぎない為。後、一応『喰鮫組の蝶水さんのみ』というのは少しだけ心配もあります。」
「へぇ、色々と気を遣っているって訳ですか?」
「望様チームにヒスイちゃんは必要不可欠です。
タマは今、猫だから、どのチームにも行けるが、ヒスイちゃんの傍にいて欲しいので。
望様の妹である星は望様チームに居ても不自然はない。若い望様が存在しない失踪者の親として無理で、『兄弟』ならいけると思う。星がいれば、信憑性を増すし。
等々と、私なりに色々と考えていますよ。」
「あはは...
今の話を聞いて、寧ろちょっとななえちゃ...奈苗さんが末恐ろしく思えました。
人員配分が適材適所、しかも短時間で論理的に...」
喋り過ぎだったのかしら。
今の望様の顔に、冷や汗をかいているように見える。
「では...」
俺は飲み物のカップしか残ってないテーブルを一瞥する。
「これ以上に居座るのは止めましょうか、皆さん?」
俺の言を聞いて、みんなも俺と同じような苦笑いを見せながら立ち上がって、ファミレスを出る。
俺は支払いの為、一番最後に出る事になった。実際は遊び旅行だが、名目上は「部活の合宿」だから、全員が揃ってる場合、学校が費用を負担する仕組みだ。
公費旅行、最高!
「姉様?」
「きゃっ!びっくりした。」
雛枝に耳元で突然声を掛けられて、俺は大声を出した。
人がよろしくない事を脳に浮かべる時に、急に話しかけないで欲しいぞ。
「ねぇ、姉様、本気で探すつもりですか?」
「えぇ、もちろん。」
「何の手掛かりもないのに?」
「手掛かりはこれから見つけに行くところじゃない?」
「つまり、何も分からないのに、軽い口約束したのですか。」
まぁ、その通りだ。
雛枝に図星をされたか、特に罪悪感を感じてない俺であった。
「雛枝。
やっぱ、私にとって、ただ遊ぶだけでは物足りないみたい。」




