第五節 親友①...早速二人目の希望者が来ましたか...
友達と喧嘩した後、普通すぐに仲良しに戻れないよね。
次の日、久しぶりの満月の予定。
俺はいつものように校内でぶらぶらすることを止めて、考古学部の部室に入った。
部室内に誰もいなくて、片付いてしまった所為か、逆に長期間使われていなくて、寂れた部屋のように感じる。
昨日、あき君に「無茶な試練」を与えたから、もうここに来ないかも。
そう思うと、少し楽な気分にもなったが、同時にちょっぴり寂しくなった。
俺はドア正面の自分の席に座って、パソコンを開く。何か面白いものでもあれば?と捜して、時間を潰す事にした。
キーワード:アイギス。
ヤギの皮で作った防具、または人を石にできる楯。
ふーん、防具に楯か。
てっきりまた何かの動物・幻獣だと思ったが、まさかの「装備品」であった。
でも、敷地に魔法の「結界」を張っている柳さんにびったりだな。
キーワード:ラビット。
兎。
キーワード:クロコダイル。
鰐の一種。
キーワード:ケットシー。
人語をしゃべる二足歩行の猫妖精。
キーワード:カメレオン。
体の色を変化できる蜥蜴。
......
つまんない...
昨日の高揚感が嘘みたいだ。
これが「倦怠期」か。
まだパソコンと知り合って半日も経っていないのに、もう飽きたのか。
それも仕方ないのかもしれない。何せこのパソコンに「ゲームソフト」が入っていないし、元の世界でいつも使っているネットゲームサイトも見当たらない。
時代が進みすぎて、ゲームそのものがなくなったのかな。それは嫌だな。
つまらないな...
一人でいるのは本当につまらないな...
寝よう。
俺は机の上に両腕を乗せて、うつ伏せした。
その時、トントントンッと、三回ドアが叩かれた。
そして、「失礼します」と言う声と共に、部室のドアが横に開かれた。
「あれ?もう来ないと思ってたのに...」
入ってきた人はあき君だった。
俺を見て、あき君は困った笑顔を見せた。
「お前を一人にしないよ。」
彼がまた来たことに喜びを感じるが、そのキザなセリフにツッコミを入れた。
「なにそれ、口説き文句?」
我慢できずに笑ってしまったが、別にあき君を嘲笑している訳じゃない。
むしろ感謝だ、ちょっと寂しかったし...
「でも、ここに来たってことは、もしや本当に見学希望者を連れてきたの?」
一応「試練」だから...
まぁ、連れて来なかったら、一日くらい余裕を与えても良いけど...
「ああ、その、連れてきたのは、きたけど...」
そう言って、あき君は後ろにいる生徒に道を譲った。
そこにいるのは金髪の女子生徒。
中等部で2か月ぐらいしかクラスメイトになれなかったが、俺にとってとっても印象深いあのクールビューティさんだ。
「彼女は俺と同じXクラスの千条院星さんです。」
「星?」
うっかり彼女のあだ名を口にしたが、彼女にはそのあだ名を聞かせたことはない。
呼ばれた彼女は誰の事が分からなく、周りに「星」という人を捜した。
しかし、勿論彼女以外の「星」はいなく、最終的にあき君の視線から、それが自分のことを指しているのに気づき、俺に視線を向けた。
「ななえ?」
驚きの声と共に、彼女は俺のことを初めて名前で呼んだ。
いや、寧ろ彼女が俺を呼ぶこと自体、初めてかもしれない。なのに、いきなり名前を呼び捨て?
あの「決闘」の日から、俺達は一度も会っていない。俺と友達になりたいと抜かしたこいつは、俺が学校に行けなくなった間、一度も見舞いに来なかった。
なのに、どうして今日俺の前に来た?どの面を下げて俺のところに来たの?
「これはこれは、『全国チャンピョン』の千条院星様ではありませんか。今日はこの侘しい考古学部に何か御用でしょうか。」
俺の挑発的言葉を受けて、彼女も少し怒ったようだ。
「私はただ白川さんに誘われて、考古学部に見学しに来ただけです。
貴女がこの部活の部長だと知ったら、そもそも見に来ない...かもしれません。」
ほほーう、あき君に誘われたから来たか。こいつはいつからあき君と知り合いになったのだろう。
それはともかく、俺に会いに来たわけではないのか。
勘違いした自分が恥ずかしい。そして自分に恥ずかしい思いをさせた彼女がムカつく。
「そうですかそうですか。『男に誘われて』ここに来たのか。随分とピンク色な頭になったな、ひかり様。」
「...貴女はもっと素直な人だと思っていた、まさかこんなに捻くれた人だと思わなかった。」
俺は素直だよ!
素直にお前を苛めているだけ。
「それはそれは、済みませんでしたね。
どこの誰かさんが『友達になろう』と言っておきながら、私が屋敷に籠っている間に一度も見舞いに来なかった所為、かもしれませんから。
なので、許してね。」
「それは...返事を貰っていないのに勝手にご自宅に訪ねるのは...
っていうか、なんで僕のことを『せい』と呼ぶ?」
そこを攻めるのか。
確かに許可を貰っていないけど...知ったこっちゃないね。
「『ひかり』とか大層な呼び方に『星』の文字を恥ずかしげもなく使っている奴に、そのまま『せい』って呼んで充分でしょう。
君だって、私のことを『ななえ』と呼び捨てしたでしょう?」
「それは、勝手に呼び捨てしたのは悪かった。でも...」
彼女は口喧嘩に慣れていないのかな。相手に口喧嘩で勝ちたいなら、自分から謝っちゃうダメだよ。
「そして、ようやく私と再会した今、『男に誘われた』とは、『友達』とか聞いて呆れますわね。」
「っ...」
星は顔を下に向き、何かに耐える様に体が震え出した。
「どうしました?図星を突かれて怒ってます?」
容赦なく追い打ちをする俺に、彼女は小声で返事した。
「別に、...じゃなくていい...」
「え、なに?聞こえマセーン?」
「うるさい...」
うるさい?
「ふっ、はっきり言わないとわからないよ、『せい』ちゃん。」
「うぜぇって言ってんだよ!この乳牛!」
彼女は突然大声を上げた。
乳牛!?うぜぇ!?
何この低レベルな「口喧嘩言葉」?子供?
「何それ?自分が貧乳だから、巨乳を僻んでいるの?」
もっと頭使って口喧嘩しろうよ!
高校生にもなって、二三句言い負かされたからって、相手を罵るとか、何歳児だよ!
「乳牛を乳牛と呼んで何か悪い?この乳牛!」
「乳牛乳牛うるせぇよ!よく噛まないな、この上から下まで一直線!」
「お前こそ早く舌を噛め!そしてさっさと垂れろ、その肉塊が!」
一瞬、知らないババァの垂れおっぱいを想像して、吐きたくなった。
「自分にもう希望がないからって、人を恨むなよ!」
「あるよ!まだ育つ時期だよ!」
「いや、もうないね!高校生にもなって、そのぺったんこはもう育たない!」
「育つ!これから育つ!お前こそ、今の時期にあの大きさでは、将来体より大きくなって、顔を見えなくなればいい。」
「そん時喜んで乳牛になろうじゃないか。君みたいに男と勘違いされるよりはマシだ!」
「男と勘違いされるほど小さくないよ!寄せればそれなりにある!」
「しないとわからないくらい小さいのだろう?それ、男だってできる!」
「できるわけないだろうか、男は!」
こいつ、筋肉ムキムキな男を知らないな!
ってか、体は女の子であるが、俺は何で胸のことで女の子と争っているのだ?
そんな口喧嘩が収取つかなくなりそうな時、あき君が間に入ってきた。
「二人とも、落ち着いて、喧嘩はよくない。」
しかし、タイミングが悪かった。
今の俺は正に「怒り心頭に発する」状態だから、このタイミングで誰かに邪魔されたくない。
「あき君は黙ってて!」
「白川さんは黙ってて!」
俺は怒りをそのままあき君にぶつけて彼を怒鳴ったが、星も同じく彼に怒鳴った所為で、俺達の言葉が見事にハモってしまった。
俺は驚いて彼女の方に目を向けたら、彼女も同じくこっちを睨んできた。何故かそのまま彼女と睨み合った。
暫くして、目が疲れてきた俺はどうしてこんなくだらない争いをしたのかと冷静になった。俺は自分を落ち着かせる為に、一回目を閉じて深呼吸した。
「で?星は考古学部を見学してどうするの?
入部するの?しないの?」
俺は自分の席に戻った。
今更、彼女の呼び方を変えるつもりはない。
「別に考古学部に興味はない。」
そんなことを言った彼女は、逆に空いていた一つの椅子に座った。
そして、「ただ、お前を不機嫌にできるなら、是非入部したい。」と言った。
なるほど、彼女はちょっと勘違いをしている。
「別に不機嫌になっていないよ。
入部するなら、歓迎する。」
俺は隣の「無書棚」の引き出しから、空白の「入部届」を一枚取り出した。
「ここに名前を書いて。」
そう言って、俺は「入部届」を彼女に渡した。
彼女は俺の行動に驚きと戸惑いの表情を見せて、「どうして?」と聞いてきた。
「だって私は、君を親友だと思っているから。」
言葉に出した後、俺は少し恥ずかしくなったので、自分の顔が赤くなってないかと心配になった。
赤くなっているかもしれないので、俺はあき君と星にばれないように、さりげなく窓から外を見ることにした。
静かになった部室から文字が書く音だけが響いていた。そしてその音が消えた時、俺は振り向いて、星の側に行った。
星は俺に気づいて、無言で書いた「入部届」を俺に渡した。
恥ずかしいのか、彼女は俺と目を合わせてくれない。顔を逸らしと事で俺に見せたその横顔がトマトのように赤くなっていた。
俺は「入部届」を受け取ったが、彼女にかける言葉が何故か出て来ないし、顔もすごく熱い。
そんな時に、あき君は空気読まずに口を開いた。
「なんだ...二人は仲良しなのか。安心した。」
その言葉に恥ずかしさが頂点に達した感じがして、俺は彼に逆切れした。
「いつから星と知り合ったの?」
「いつからななえと知り合った?」
面白いことに、俺と彼女の言葉がまた重なった。俺は彼女に目を向くと、彼女も俺に目を向いていた。
何故が「負けたくない」気分になった俺は、あき君に近寄ってさらに質問をぶつけた。
「彼女とどういう関係?」
「彼女とどういう関係?」
今度は全く同じ言葉を言ってしまった。
彼女は何故が俺と同じくあき君の側に寄っていて、俺と同じようにあき君を睨んでいた。
俺はそんな彼女を強く睨んだら、彼女も睨み返してきた。
なんかムカつく...
それから、俺は彼女と競うようにあき君に質問を交互にぶつけた。
別に答えを求めていないから、した内容も忘れるくらいくだらない質問ばかりだった。
なんでこんなくだらない競争したのだろう、俺は?
「ってことは、星がひとりぼっちで練武しているところ、あき君に見られて、それで同情を買われて知り合いになった?」
少し時間が経って、俺と星が冷静になってから、どういう風にお互いが知り合ったのを話し合った。
「『ひとりぼっち』とは人聞きが悪い。私の相手に務まる人物がいなかっただけだ。」
星は淡々と語った。
その態度はちょっと気に食わない。
「へぇ、私に敗れたくせに?」
俺の意地悪の言葉に、星は無言で目を逸らした。
しかし、この言葉にあき君がかなり大袈裟に反応した。
「え!千条院さんが敗けた!?」
「そんなに驚くようなことかな...」
流石に傷つく。
確かに、今の俺はか弱い女子。それは否定しようのない事実。
それでも、「おめぇじゃムリだよ」的に舐められるのは嫌だ。
「ごめん。別にななちゃんを軽く見ている訳じゃないんだ。」
俺の心情を察したのか、あき君はすぐにフォローを入れた。
「ただ、千条院さんが誰かに敗ける姿が、ちょっと想像できなくて。」
そんなにすごいのかな、全国チャンピョンさんは?
流石の当時の星も「年齢制限」で「小中学部」に入れられたんでしょう?よく知らないけど...
「オーケー、わかった。
星は練武の時にあき君と知り合って、ライバルになったと。
二人の出会い話はここで終わり、次は私と星の出会いの話を始めよう。」
俺は椅子を持ち上げ、星の側に置いて座った。自分が女の子であることを良いことに、星を抱きしめて、顔をくっつけた。
「最初は星が私を一方的に嫌っていた。」
そう意地悪を言って、星の反応を確かめた。
俺にくっつかれて、恥ずかしそうに俺を直視しないが、嫌がっている星はそれでも離れようとしなかった。
その星をかわいく感じて、さらに強く抱きしめた。
「でも、私に熱〜く求められて、星も遂に折れて、私と親友になりたいと言い出したんだよね~。」
あき君に視線を向けると、そこには座り心地悪そうにしている少年がいた。
かわいい女の子二人が仲良くしているのを見て、うらやましいだろう?
わかる。わかるよ!
他人(主に男の子)から見ると、百合は良いものだよ。
「変な言い方をするな。
お前がしつこく私に付き纏っているから、仕方なく相手しただけだ。」
「でも『親友になろう』と言い出したのは君でしょう?」
「そう、だけど...」
星が黙り込んだ。
そこで、あき君は恐る恐るに手を上げた。
「あの、すいません。話が全然分からないんだけど...」
あれ?すべてを話したつもりだが...
「『わからない』とは...?」
俺は聞き返した。
「ぶっちゃけ、何一つ説明していない。」
あき君が呆れた顔をした。
「仲良くなった経緯も、ななちゃんが千条院さんに勝った方法も、何も説明していない。」
言われてみれば、確かに...
「わかった。もうちょっと中身を説明するよ。」
俺は答えた。
「まずね、私達は練武の授業でペアに組まれていた。」
「練武授業のペア?どうして二人がペアなんだ?
普通は身体能力が一番近い二人がペアになるはずじゃ?」
「恐らく、その前の授業でほかの生徒が既にペアが決まったからだろう。
その日に転入した星と、ようやく退院し登校した私、偶然私達二人が余った。
そして、あのゴリラ先生が『じゃあ、余り同士が仲良く』って感覚で適当に、余った私達をそのままペアにしたじゃないのかな?実力の差も考えずに。」
実際はかなり優秀なトレーナーなのは、その後で分かったのだが、な。
「ゴリラ?もしかして、天津川先生?」
天津川?何その妙にかっこいい苗字?
「ごめん、あき君。私、あのゴリラの名前に興味ないの。」
苗字負けした見た目残念野郎をディスって、さっさと話しを進む。
「でね、私はあの日、星にファーストコンタクトを取ったの。
分かる?全国チャンピョンに話しかけるのだよ。一生分の勇気を出して、ビクビクして、それでもちゃんと声に出した私は凄いと思う。
それに、私って結構人見知りじゃない?なのに自分から話しかけたのだよ!」
「人見知り?」
「ん?」
あき君と星が同時に訝しむ顔をした。
いや、別にボケてる訳じゃないよ。
当時の俺はまだ自分自身がよく分かってない状態で、自分が身も心も女だと思い込んでいた時期だったから、「人見知り」にもなる。
「どしたの二人とも、変な顔をして?」
しかし、ボケてみた。
「いいえ、何でもない。」
「......」
流石にまだ距離感が掴めていない所為か、両人共に俺のボケをスルーした。
まぁいい。これからゆっくり、調教していこう。
「でもね、星はそんな勇気のある私に対して、いきなり『去ね』とイケメンボイスで言った。
そうでしょう、星?」
「すまない。あの時はちょっとイライラしてた。」
「え?何に対して?」
「...」
ん?
星は自分にとって、都合の悪い事に無言になるタイプな人?
「まあいい、過ぎた事だし、私はもう気にしていない。」
俺も俺で、まだ星達との距離感が...
「それから、またも練武の授業。今回は私が先手を取って、先に攻めていた。
もちろんまったく当たらず、またも私がスルーされた。」
「...」
やはり無言になる星だった。
「その時、星に私を嫌う理由を聞いたが、『カメレオンだから』って曖昧な答えで返された。」
「すまない。」
「うんうん。
もーう、素直な星は可愛いね。」
気づいていたけど、星は素直な娘だ。
「それからね、私も意地になって、絶対に『あの金髪を見返してやる』と決めていた。」
「金髪?」
「ご想像の通り、星の事よ。
あの頃の私はかなり星を嫌っていた。だからあんな不公平な勝敗条件を吹っ掛けた。」
「...嫌ってたんだ。」
「昔の話だよ、星。今は違うよ。」
ってか、当時は「お互い様」だろう?
「勝敗条件は?」
「...」
「ん?ななちゃん?」
あき君の質問に敢えて返事するのを我慢した。
三人でお話ししているのに、星だけが「積極性がない感」だ。
「星もなんか言って。」
「え?」
「私達のエピソードでしょう?星も語って。」
「え?あぁ...うん。
おほん...『私に一撃でも入れられたら、ななえの勝ち』というルール。」
一言だけで、俯いた星。人と喋るのが恥ずかしいのか?
いや、そんな事はないだろう。
ない、だろう...?
「ななちゃんの方は?」
「私?
私が飽きるまで。」
「それは...確かに不公平だな。
よくそんな一方的な勝負を受け入れたな。」
あき君が苦笑いをした。
「私も不思議に思ってるよ。『よくそんな一方的な勝負を受け入れたな』、星」
「自信があった。
どんな時でも、絶対に避けられると思ったんだ。」
「私も、流石にトイレの中でも避けられると思わなかった。」
「私も、トイレの中まで攻めてくると思わなかった。」
「トイ...!」
あき君が絶句した。
「私達の勝負はTPOを弁えないんだよ。」
悪びれる事なく、開き直ってみた。
「...弁えてほしい。」
初めてなのか、慣れていないのか、星が弱々しいツッコミを入れた。
「つまり、千条院さんが攻撃を避けられなかったのは、その、用を...足している...その...最中...」
ほほー。トイレの話が出たのに、それでも付いて来ようとするのか、あき君?
これは、弄らねぇ訳にはいかねぇな。
「嫌だ、あき君。不潔!」
「白川さん...」
「ち、違...そういう意味じゃなくて!」
予想通り、俺と星の連携攻撃に、あき君は顔真っ赤になって慌てる。
えっへん!今の俺は女の子!女の子なのだ!
「でも、その時でも当てれなかったね。
どうして避けられるのだろう。」
「誰にも負けないように、努力したから...」
「じ、実際!千条院さんは凄いよ。
全国練武大会の時も、傷一つ負わずに優勝した彼女は、一つの伝説を作ったと言っても過言ではない。」
無理矢理気を取り直したのか、あき君が再度、会話へ参加した。
が、今回の俺は彼を弄るより、彼の言葉に気を取られた。
「そんなにすごいの?」
伝説とか、大げさすぎだろう。
「初めて負けた相手はななえだった。
その前も、それからも、誰にもまだ負けていない。」
「ななちゃん、お前は誰にも触れることすらできない千条院さんに一撃を入れた、誇っても良いことだ。」
「マジか...」
星はまさかの『回避MAXのチートキャラ』とは...
「だから早く教えて!一体どういう手品を使って、千条院さんに攻撃を届けた?」
「何であき君がそんなことを知りたかる?」
あき君、ちょっとがっつりすぎじゃない?
「最近、白川さんはずっと私と手合わせしている。」
「全く相手にならなくて困っている。」
「白川さんはよく相手を務まっている。大丈夫だ。」
「情けなく振り回されているだけだよ。
せめて、一撃でも入れられたら...」
「私の攻めにあそこまで耐えられる人も多くない、白川さんは充分に私の相手を務まっている、誰にも文句言わせない。」
「なっているのか?俺は白川さんに振り回されてただけのような気が...」
「二人だけの世界に入らないで!」
俺は怒鳴った。
急に星がお喋りするようになった事にも、その相手があき君である事にも、怒鳴り声をあげた。
「そ、そんなじゃないっ...です!」
「ホントかなー?」
スキル、睨みつける!
目をそらした瞬間、あき君...お前は死刑だ!
「か、勘弁して、ななちゃん。
俺は別に...」
「ふーん...」
...この辺でやめておこう。
なんか...嫌な予感がする。
「それで、星、あき君は凄いの?」
ちょっとモヤモヤするが、感情を無視して、星に質問する。
「魔力は大したことはないけど、剣の腕は常人離れ。
練武大会の時にも手合わせしたかった。」
「そんな、俺なんてまだまだ...
それより、ななちゃんはどうやって千条院さんに勝ったのを教えてくれ。」
「汚い手を使って勝った。」
この二人がまた「二人の世界」に入りそうだったので、すっっご~~く、積極的に会話に参加する事にした。
「汚い手?」
「私のピンチな時に星に救われたのだが、私は恩知らずに、そのまま星に再戦を申し込んだ。」
「ピンチな時?」
「そこは気にしなくていい。」
自分自身を思い出すきっかけとなったが、俺の貞操が危機一髪な事件だった。
そんなの、進んでしたい話じゃないだろう?
「ななえが中学時に...」
「いいから!」
まさか、星が俺の意を汲まず、あき君に事件の事を話そうとした。
「あの、星、耳貸して。」
手招きで星を呼び、彼女の耳元に近づく。
「なに?」
「彼に知られたくない。」
「なんで?」
天然か!
「...恥ずかしいじゃん!」
「はぁ...」
ため息を漏らす星...俺の方がため息を漏らしたいよ!
「で、結局、私は疲れ果てて、畳の上に座り込んだのだが、星が私に手を差し伸べた。
それが、私が用意した最後の罠だと気づかずに...」
「最後の罠...!」
少し邪悪な声を出した俺に、あき君が目を大きく開いた。
「あ、ごめん。
気を引かせる言い方をしたけど、実はただ星の伸びてきた手を私が叩いただけだ。」
「オウゥ...」
あき君が余りにも真剣な顔だったので、ちょっと罪悪感が...ないな!はっはっはっ!
あき君の間抜け顔、結構可愛いね。
「まぁ、こんな感じで、私は星に勝ったのだ。」
胸を張って、腕組のポーズを取った俺。
「でも、何でその時にいきなり『友達になろう』と言い出したのだ?」
俺は星に見つめた。
星恥ずかしく目を逸らして、小さな声で「なりたかったから」と呟いた。
「なんで?
私、あの時なんか特別な事をした?どうしようもなく友達になりたいと思われてしまうようなことをした?」
戸惑いが消えない俺。
星は一回深呼吸をして、覚悟を決めた顔で俺に向き合った。
「告白する!」
え?
告白!!!
愛の!?
「僕、ずっと前から、ななえと友達になりたいと思っていた。」
あ、違った。
でも、同レベルな衝撃的な事...
「へぇ...全然気づかなかった。」
とても仲良くなりたい態度ではなかった。
寧ろ「てめぇ、うぜぇ」って感じだし...
「すまない。私、口下手だった。」
星が理由を答えた。
そんな理由!ってか、今も口下手だ!
っとツッコミたいが、止めておこう。俺はボケるのが好きだが、ツッコミ担当になりたくない。
「そして、私に敗れた時、勢いで『友達になろう』と言い出した訳だ、か?」
「僕はお前が努力しているところを見た、まっすぐな女の子だと思った。
僕に勝つ為に、嫌なことをされても、耐えてる姿も見た、健気な女の子だと思った。
そして、僕に勝つ為に、時と場所を考えずに攻めてくる姿に感動した、一所懸命な女の子だと思った。」
「べっ、べた褒めだね〜」
ちょっと恥ずかしい。
「けれど、最後の勝負の時にショックを受けた。
僕に勝つ為に、手段を択ばず攻めてきた、汚い真似をしていた、とても今まで見てきたお前ではないと思った。」
「あ...」
記憶が戻った後だからな。
「そう思ったが、もう立ち上がる力も残っていないのに、お前はそれでも勝つ事を求めた。しかも、そんな自分自身も利用し、僕の油断を誘って僕に勝った。
そこまでして僕に勝ちたいのかと思うと、逆に僕が今まで観察したお前そのものなのだとも思った。
またお前と友達になりたいと思った。」
今まで観察?
...気になる言葉も出てきたが、今はスルーしておこう。
星はあれか?ドM?なぜそれで、逆に「やはり友達になりたい」とかいう考えが出たのだろう?
「お前が僕の手を振り払った事にかなりショックだった、もう完全に嫌われたなと思ったから。
そんな時、お前が『勝負』の話をした。
最初からああいう事も罠の一つとして張っていたと、僕をその罠に嵌める為に、『汚い真似』もただの囮だったと。
お前以外、そこまでして僕に勝とうとする人間はいなかったし、実際僕に勝った人間もいなかった。
しかも、体の弱い『カメレオン』の娘だと...
僕はお前という人間に興味が湧いた。
お前と仲良くなりたい、友達になりたいと思っていたし、何より、もっとお前の事を知りたいと思った。
そしたら、なんか自分の感情を抑えられなくなって、お前の言う通りに『勢いで』!『友達になろう』と言った。」
「あ、あの、星、やめて。
ちょっと、やめて!」
ちょっと引いたが、熱く語る彼女に俺は感動した。
彼女に好かれていることに喜びを禁じ得ない、心が男だから!
まるで本当の「愛の告白」のようだった。
思えば、俺が彼女に「星」というあだ名をつけたのは、単に「名前が星だから、『星』でいいじゃん」という軽い思いだった。しかし、彼女の思いを聞いた今、自分は「なんと失礼な奴だ」と思い、とても申し訳ない気分になった。
「そうか...星がそこまで私の事を思っているのは知らなかった。」
己が恥ずかしい。
ならば、俺も真剣に彼女と付き合おう。
「星、改めて聞きます。
私は君の『永遠の友達』になりたい、君の『親友』になりたい。
君は、私の『親友』になってくれますか。」
オフザケをしないで、本気で聞いた。
それで感動したのか、星は両目に涙を含んで、小さく頷いた。
俺も俺で、かなり嬉しくなり、彼女の両手を握り、暫く彼女と見つめ合って、笑い合った。
「あの?」
空気を読まずにあき君が口を挟んだ。
「一つだけ聞いてもいいか?」
「何をあき君、空気を読んで!」
俺は小さく怒って、手を放さないまま、あき君に睨んだ。
「二人の仲がいいのは分かったが、一つおかしな点がある。」
おかしな点?
「何々?どこがおかしい?」
俺は星の手を放し、あき君の話をちゃんと聞くことにした。
「お二人は『勝負の日?』に友達になったのよね。」
「ええ、そうだか。」
「それなら...余計なお世話になるか。
その、仲良し具合が...
ななちゃんが屋敷から出られなくなったの日は丁度『勝負の日』の次の日、だったっけ?」
「え?そうだけど。
よく知ってるね?」
「まぁ、その...」
返事をあいまいにするあき君。
怪しいぞ!これは怪しいぞ!
「それより!
それからお二人は全然会っていないんだろ?
だから、今日いきなり仲良くなっているのがちょっと違和感というか...」
そう言われると...あれ、そうだねと思う自分がいる。
実は俺、単純に「美人を苛めたい」「美人の顔に頬ずりしたい」と思って、過剰にコミュニケーションとスキンシップを取っているだけで、普通なら誰もしない事なのかな?
俺は普通じゃないから、したんだけど、一応星に拒まれてる事も覚悟をしてた。拒まれなかったけど。
拒まれなくてよかった。
「星、私、あの日から星の事を心の中で『星』と呼んでいるが、星も同じでしょう?
私の事を心の中で『ななえ』で呼んでいるでしょう?」
少し焦ってる気持ちを隠す為、星に話題を振った。
「そう、だか。」
何が聞きたいのかがわからない星、分かりやすい戸惑いの表情を見せた。
「つまり、私達は既に心の友だよ。」
自分でも適当な事を言っていると思うが...
「え、あぁ、そう、だね...」
でも、星は俺の言葉に同意した。
なるほど。
星は人付き合いに慣れていないんだ。
「なんか意味違わないか。」
でもあき君は星と違うのようだ。
「それと、先ほど二人の喧嘩は本気っぽかったか。
打ち合わせ無しで喧嘩のフリをしたのか。」
「流石にそれはできない。」
俺は「予想」をできても、「予知」はできない。
「でも、あき君の疑念もわかる。
さっきまで喧嘩している二人がいきなり仲良しになるのはおかしい、でしょう?」
「二人の仲を裂こうとしている訳じゃないんだが、どうしてもわからないんだ。」
最もな事を言うあき君。君は探偵か?
あき君の疑念を解くために、俺は頑張って彼に分かりやすい理由を捜した。
そして、俺が見つけた理由は...
「私は星と口喧嘩をしているが、別に星が嫌いなわけじゃない。」
こう言っても、きっとこの気持ちはわかってくれないんだろうから、「つまり、子供に対する親の態度だよ。」と付け加える。
「子供がどんなに親を怒らせても、親は結局子を嫌いになれないでしょう?」
我ながらいい例えだと思う。
「喧嘩しているのに、まったく怒っていないのか?」
あき君は聞き返す。
「少し違うね。
怒っていたが、『怒って』いない...説明するのが難しいね。
実際私は星との口喧嘩を楽しんでいたね。久しぶりに気持ちよく喧嘩できた。」
別に怒るのは好きじゃないが、今の俺は「守澄家のご令嬢」、本気で怒るとみんなに避けられてしまうから、常に周りを気を付けて自分を制御している。
それが、意外と気苦労だ。ストレスが溜まる。
ふと気付いた、あき君は何故か俺の方を見ず、俺の後ろに視線を向けている。
「どうしたの、あき君?」
別に大して気にしていないが、一応聞いてみた。
でも、あき君の返事は意外なものだった。
「えっと、俺は何の力にもなれないけど...頑張って。」
頑張る?何を?
「うおぉ!」
いきなり両肩を掴まれた感覚に驚いて、俺は変な声を発してしまった。
後ろに振り向くと、そこにはいつの間にか俺の後ろに回り込んだ星がいた。
「僕が本気で嫌な思いをしたのに、お前には『子が親に逆らっている』ようにしか感じてない?
そうなのか?」
あれ?なんか星が怖い?
今の星の顔がとても口には出せない鬼の形相をしている。
「星、待って!待って!話せばわかる!
私達は親友だろ!」
星は何も言わずに、止まったまま眼球だけを動かしている。
怖いよ!怖い怖い!
何を考えているのかはわからないが、怒っているのはわかる。
「待て、星。何をしようとしているのかはわからないが、それはバッドアイデアだぞ!
もう一度を考え直して、頭の回転をして回してください!ね、私が悪かった。
話せばわかるから...」
しかし、俺の言葉は無力で、星の心に響かなかったようだ。
星が突然俺を椅子から立たせた後、後ろから俺を抱きしめて、俺の胸を鷲掴みをした。
「このおっぱいか?大きいおっぱいをしているから、母親のつもりか!
僕のが小さいから、お前と比べてただの子供という意味だな!」
痛い!イタイ、いたい、痛い、イタい、いたイ!
ちょっ、なにこれ?痛すぎる!
「せ、い...お願っ、はなし、て...」
呼吸が苦しくなり、言葉を口に出すことすらままならない。
「こんな脂肪の塊を持ってても、何か意味あるか?ただ大きいだけなおっぱいに、何か意味あるのか?」
いや、今胸の話をしていたっけ?
「大丈夫、だ、星。小さい胸にも、需要、あるから...」
貧乳はステータスだ...
「そんなマニアックな需要いらない!」
俺の言葉は星の頭に届かず、星がさらに両手に力を入れた。
いたぁぁぁぁぁい!
無理無理無理!爆発する!
なんだこれ?女性が胸を掴まれるって、こんなに辛いものなのか。
もう何を言えば星が俺を解放してくれるのもわからないから、俺は只管に「やめて」・「お願い」の言葉を繰り返すだけだが、結局星が俺を解放したのは俺の体感時間の1時間後だ。
...実際は五分しか経っていないらしい。