第五節 下層部④...男女比、2対1
性懲りも無く、午夜過ぎたの投稿。
「ななえちゃん、いますか?入りますよ。」
誰かに夢の中で呼ばれたような気がした。けど、すぐにそれが夢ではなく、夢の外から来た声だと理解した。
その誰かさんに返事する為声を出そうが、体が言う事を聞かなくて、目が少し開いた程度が限界だった。
「寝てたのか。
ごめなさい、起こしてしまったようですね。」
「望様...」
段々と体が言う事を聞くようになり、俺は望様を見つめた。
ロックを掛けていない寝所の扉を開いて入って来た彼はベッドの隣に着き、腰を曲げて手で俺の髪に触れる。乱れた俺の前髪を軽く解してくれて、目の中に入らないようにしてくれた。
「むぅぅぅ...」
体に力を入れて、目覚める準備をする。
「疲れているのなら、もう少し休んで良いですよ。」
「いや、もう起きる。」
いくら優しい笑みを浮かべていても、勝手に女の子の寝室に入る男を俺は信じない。寝ている所に男にキスでもされてしまったら堪ったもんじゃないからな。
「私、どのくらい寝てました?」
「凡そ一時間くらいですかな、それ程時間が経っていません。」
「一時間か。」
ベッドを目の前にしたら、寝そべってみたいと思うのは怠け者の性。元々寝るつもりはなかったけど、横になった途端に、俺は眠気に負けたようだ。
原因は昨晩の「添い寝」かな?今朝の「警察沙汰」かな?それとも、両方かな?
「何か用事ありました、望様?」
「『用事』と言える程の事ではありません。もうすぐで停留所に着くから、ななえちゃん達は『どうしてるかな?』と思いまして。」
「停留所?海底にも『停留所』とかありますの?」
「私達には馴染んでない話ですが、『氷の国』では転移魔法陣を使わない代わりに、旅行者の区から区への長距離移動による疲労を考慮して、道の途中に幾つの停留所を設置してる。旅行者はそこで短時間の滞在で休憩をして、営業中の店で当地のお土産などの購入も出来ます。
興味ありません?」
「ん?」
妙な言い回しだな。転移魔法陣の代わりに停留所を設置?
転移魔法陣があれば、一瞬で臨んだ場所の近くに着く。そこからグリフォンなどの交通手段で更に少しの移動で、目的地に辿り着ける。
......
そうか。
行きたい場所に行く為、この世界では先ず「転移魔法陣」を使い、その後で馬などを利用して目的地に辿り着く。足の速い種族はそもそも自分の足に頼る事が多い。
だから、この世界では「移動時間」というものを深く考えない。1時間以上に掛かる長時間移動は普通ではない。
だけど、理由は分からないが、氷の国は転移魔法陣を使わない。その代わりに游房などの乗り物を使うが、時間が掛かり、乗員である人は疲れる。その疲れを何とかする為に、「停留所」というものを設置した。
この世界では、「停留所」は珍しいものなのだ!長時間移動を当たり前である俺の住んでいた世界と違って、基本無いものだ!
望様の言葉を「妙な言い回し」と思ったのは俺が違う世界から来た人だからだ。変と思った事で、俺がこの世界の人じゃないと、人にばれてしまいかねない!
...ばれてしまったか?
「まだ少しおねむのようですね。」
そう言って、望様は俺の頭を優しくポンポンと叩いて、微笑んでくれた。
「もう少し寝る?欲しいものがあれば、買ってあげられるか。」
俺が考え込んだ事を、望様が「寝ぼけている」と思い違いしたようだ。
それは有難い事だが、子ども扱いされるのは止めてほしい。俺はお前の妹じゃない。
「いらない。欲しいものがあったら、自分で買う。」
頭の上にある望様の手を払い、身体を起こす。
どうやら、俺は「異世界かどうか」を過剰に気にしているようだ。普通に考えれば、「異世界」なんてありえないもの。
自分が「異世界人」だと告白しても、普通は誰も信じない。寧ろ、頭の心配をされる。
...バカらしくなってきた。
これからは、あまり言葉に注意を払わない事にしよう。
「雛枝、朝だよ、起きて。」
まだ寝ている隣の雛枝を呼ぶ。
「むぅ、起きてるよ...」
目を閉じたまま、雛枝が返事した。
どう見ても夢の中なのに、「起きてる」と返事するとは。
「姉様がちょっと出掛けるから、良い子で寝ていてね。」
そう言って、俺はベッドから離れようとした。
が、雛枝は俺の服を掴んで、「やぁ、起きてるってば...」と言って放さない。
「姉様と一緒に行く...」
そう言って身体を起こした雛枝だが、今もまだ目を閉じたままだ。
仕方ないから、俺はため息をして、雛枝の手を掴んだ。
「手を掴んでるから、ちゃんと付いて来て。」
「は~い。」
俺は靴を履き、雛枝にも靴を履かせようとしたか。彼女は目を閉じているが、足だけで自分の靴を探りあててそれを履いた。
その行動を見て、雛枝は確かに起きていると俺は判断した。起きているが、目を開けたくなくだらけている。人に甘えているとも言える。
懐かしいなぁ、中学生前の妹にそっくりだ。「取り憑かれている」レベル。
双子でも、妹は妹だな。
「あれ?」
手で個室の扉に触れる前に、突然扉と壁が下に沈んだ。
「あ、ごめなさい、ななえちゃん。急でした?」
振り向いて望様を見つめたら、彼は先程に部屋内のボタンを押したと思われるポーズを取っていた。
「別に謝るほどの事じゃない」と返事しようとした俺だが、壁が沈んだ事によって目に入った光景に驚いて、口をポカンと開けた。
「なにこれ...?」
寝る前に見ていた游房の金属の壁が、今は透明なガラスの壁となっていて、外にある海が見える!
しかも、外が凄く明るい!多くの光の玉が海の中に浮かんで、周りを照らしている。
「きれい...」
自然と言葉が口から出た。
見覚えのある魚が沢山泳いでいて、光の玉に照らされて七彩を放っている。ぶつかりそうな程に游房に近づいて来るが、その手前に方向をずらして、すれ違っていく。
鯨と思える巨大な魚が並んで泳いでいる。見た事のない水母のような透明な身体を持つ生物が游房に張り付いて、ヒッチハイクしている。自らも光を放つ何かの生き物に追い越されそうになっている。
「少し前に、游房の内壁を下ろすように頼んでみたのですが、意外とすんなり下ろしてくれました。」
「下ろす?」
「えぇ、『下ろす』。全ての内壁は下の方に収納できる仕組みですから、『下ろす』。
下の方だけ透明ではないでしょう?」
足元に目を遣ると、望様の言う通りに、下の方は「床」のままだった。ただ、上に目を遣ると、天井も「天井」のままだった。
俺は望様の目を見て、指で天井を指した。
「一番上の階は天井も透明ですよ。」
動きと目線だけで俺の質問に理解してくれた望様。更に視線を下に向けて、おまけ情報をくれる。
「この階なら、『床も透明かも』とみんなが期待していたけれど、そうじゃなくて残念がっていました。」
つまり、みんなも一度は1階に来ている、と。だけど、部屋に入って来なかった、と。
優しいのか、優しくないのか、どっちだろう?
......
壁を収納、か。
「つまり、この游房は海の中も見える...じゃなくて、見せてくれる凄いク...えっと、『部屋』って事ですか!?
水圧に耐えられる厚いガラスで出来て、悠々自適に住める...けど、魚に囲まれて住める!
えっと、なんというか...す、凄い!凄すぎる!」
凄すぎて、表現する言葉が思いつかない!
ロマンチックすぎるだろう、これ!水族館に住んでいるみたいじゃないか!
「望様、最高です!ホント、もう最高...『最高』という言葉しか思いつきません!」
「あはは、ななえちゃんにとっては初めてでしたな。
初めて星達を水族館に連れていた時の事を思い出すな。みんなもこのくらいに喜んでいた。」
「あるの、水族館?日の国に?」
「えぇ、ありますよ。今度、ななえちゃんも連れてってあげようか?」
「いや、もう来てるじゃないですか、水族館!
氷の国の海底自然水族館...最高過ぎて、言葉が出ない。」
外の魚を驚かそうとガラスの壁を叩くが、予想通りにガラスが厚くて、音が伝わって行かない。
それ所か、一番近くの魚を選んだのに、叩いた手が魚と拳三個分くらい離れているように見えた。めちゃくちゃ厚いガラスの壁だった。
「あぁ、呼吸が、呼吸が苦しい...」
またも何かに抱き着きたい衝動に駆られた。
その生贄となったのは今も目を閉じて、しかし俺の手を握る雛枝だった。
「いぃやぁぁぁ...」声を押さえて叫び、力も控えめて雛枝を抱きしめる。
「うぇぇ...」雛枝は蛙が潰れたような声を出した。が、それでも目を開かない彼女だった。
「すー、はー、すー、はー...」
雛枝を放して、深呼吸する。
「あまり驚喜させないでくださいよ、望様。呼吸、止まるかと思いましたよ。」
「それは、あはは...予測の難しい事ですね。」
望様は笑い乍ら返事した。
それを見て、昔の男の自分と比べ、「素敵な笑顔だな」と思った。
けっ、イケメンか!
いつものように心の中でイケメンを貶すが、殆ど怒りを感じなくなっていた。「俺も大人になったなぁ」と思い、その原因はきっと「美女メイド達に囲まれていた生活」をしているからだと思った。
「そういえば、他のみんなは?もう先に停留所に行っています?」
望様に確認する。
「いや、まだ着いていません。
みんななら上にいると思います。」
そう言って、上の階を指さす望様。
娯楽設備が置いてる多目的部屋の2階か。
あそこはマッサージ椅子以外、後やけにリアルに作られた人形が沢山あったな。何に使えるのだろう?
後は色んなボードゲームやトランプ、ゲーム機はない。残念だが、この世界ではパソコンはあるが、ゲーム機のようなものはない。
...ホント、ないんだよ、ゲーム機が...;;
「上に上がりましょうか?」
「うん、行きましょう、望様。」
俺は雛枝を引っ張りながら、階段に足を乗せた。
......
...
2階に着いたら、目に入ったのはマッサージ椅子に腰かける「怠け者の三匹」だった。
しかも、あき君が真ん中で、ヒスイちゃんが彼の左に、そして星が彼の右に座っている。
三人が並んで座っていて、一番右の方が空いている。
「ははっ...あき君あき君あき君...」
女の子二人に両側に座らせて、なに様のつもりだろう?
「珍しい事もあるな。」
「え?」
望様の言葉に思わず反応した。
「あは、いや...」
俺の反応を見た望様は恥ずかしそうに口に手を当てて、星の方に目を遣った。
「星が他の誰かの隣に、自ら座るのが珍しかったのですから、つい。」
まぁ、クールな星なら、確かにそうかもしれない。
そして、そうと望様から知った後で、俺の中の嫉妬の炎が更に勢いが増した。
「......」
あき君達に気づかれたくない俺は、無言で先ず雛枝を近くのソファーに連れていた。
「ぅん...」
寝息にも聞こえる声を出して、雛枝は俺にされるがままに、ソファーに座った座らされた。
その後、俺は端に置いている椅子を一個持ち上がって、あき君の前に置いた。
その椅子に座り、あき君に睨んだ。
三人とも、目を閉じてマッサージ椅子を堪能している。俺の存在に誰も気づいているが、気にしていないようだ。
そう思うと、少し悲しくなってヒスイちゃんに目を遣ったが、その時のヒスイちゃんは俺を見つめていて、無言で空いている四つ目のマッサージ椅子を指差した。
いや、そうじゃない!そういう問題じゃない!
でも、サトリなのに、そう勘違いするヒスイちゃんは可愛い!今すぐ抱きしめたい。
その衝動を抑えて、俺はあき君を睨み続けた。
すると、何か不思議な力を使って感づいたのか、あき君が不意に目を開けた。
「ななちゃん?」
「良いご身分ですね、白川輝明君。」
「え?」
「女の子二人を侍らせて、王様気分でしょうね。ね、あき君?」
「...え?」
俺の言葉を聞いたあき君はゆっくり、周囲を見渡した。自分の現状を認識して、暫く考え込んでから、俺の言葉の裏が読めたのか、急に立ち上がって、両手を前に交互に振った。
「ち、違う!何もおかしな事なんてしてない!
翡翠ちゃんとこの変な椅子に座って、手探りに使ってみたら、意外と気持ちよくて。
それで座っていたら、千条院さんが来て、使い方を教えて、それで...」
思い切り目を泳がしているあき君、不審者みたいに慌てている。
「この並べは偶々。翡翠ちゃんが一番左側に座ってから、俺が並んで座ってて、それで千条院さんが俺の隣に座ってて...それだけの事!
変な意味がある訳じゃないんだ!本当だよ!」
「何だ?」
あき君が騒いでいた、最後に星も目を開けた。立っているあき君と座って彼を睨む俺を見て、不思議そうに頭を傾けた。
「二人は何の話してるのだ?」
「星にとっても関係のある話だよ。」
俺は星の今座っているマッサージ椅子を指差す。
「何故普通にそこに座る?」
「何故って?」
星は空いている隣のマッサージ椅子に目を遣って、少し思考した。
「特に理由などない。空いている所に座っただけだ。」
「何故座ったのがこっちであって...」
俺は一度星の今座っている椅子を指差して、続けて彼女の右にある椅子を指差す。
「...そっちではない?」
「それは重要な事か?」
星は俺の言いたい事が全く気づいていない。
あき君以上に鈍い。
「重要でしょう?とても深~い意味があるのよ!」
俺はあき君を一度指差して、あき君と星の間を縦に手刀を入れた。
「この距離感。この距離感!」
「何の話だ?」
それでも俺の言いたい事が分からない星はあき君に助けを求めた。
「あ、えっと...俺の口からは...」
だけど、あき君は誤魔化した。
星は俺達が何かを隠しているのかと怪しむような目つきで俺とあき君を睨む。
「ななえの話が分からない。」
と、星は残念な結論を出して、またマッサージ椅子に背を預けて、目を閉じた。
結構分かりやすいヒントを出したつもりだったが、分かって貰えなかったようだ。
はっきりと「星とあき君の距離が近い!」と教えてあげた方がいいのかな?そうすると、俺が星に気があるとばれてしまうんじゃ。...?
ユリは、見ている分は好きだが、決してその輪に入りたくないのが俺だ。
なので、そんな事は言えない!同じノーマルな俺と星なのに、星に「ユリ」と思われれば、どうなると思う?
「があ、もう!」
なんだか頭痛くなったので、あき君達を放っておく事にした。
「雛枝、上に行くよ!」
大声で雛枝を呼び、彼女に目を遣った。
いつの間にかソファーで横になっていた雛枝、よく見ると、何かを枕代わりに頭を載せていた。
「って、タマ?」
さっきまでいなかったタマが、何故か今は雛枝の枕となっていて、逃げようと苦しそうに蠢いている。
俺の「抱き」を避けられるのに、何故か雛枝の「抱き」を避けられないタマ、どうしてだろう?
「雛枝、行くよ。ほら、タマを放して。」
「ぅぅ、猫...」
うとうとして身体を起こす雛枝、頭が上げた瞬間、タマが「にゃうっ」と逃げた。
それを特に気にする素振りのない雛枝は俺に向かって、手を伸ばした。
だけど、俺は敢えてその手を掴めないようにしてみた。そしたら、雛枝は手を挙げたまま寝息をした。
どうやら、彼女は自分からそれ以上動くつもりはないらしい。
仕方ないから、俺は彼女の手を掴んで、引っ張って歩き出した。
そうして、3階に上がる前に、あき君は俺に駆け寄って、「な、ななちゃん、誤解しないで欲しいんだか...」と言った。
「別に誤解も何もない。あき君は二人の女の子の間に座ってた、それだけの事だろ?」
「でも、何も変な事してない!それを信じてくれ。」
「いや、それは信じてる。」
「ホント?」
「当たり前だろう。でないと、とっくに制裁を加えてる。」
俺はあき君の股の間に目線を遣った。
そんな俺を見て暫く、ようやく意味を知ったあき君は慌てて自分の股を手で隠した。
「なな、ちゃん...?」
信じられないものを見るような目で俺を見るあき君。
「一応『男の弱点』を知ってるよ。」
「え?どこから!?」
慌てるあき君。
...まぁ、気持ちは分かる。
もし、俺が女の子に「男の弱点、知ってるぞえ」と告白されたら、驚き、悲しみ、混乱、慌てる...女の子に対しての「理想」が、全力で俺に「現実」を否定させようとするのだろう。
それ程に、男は女の子に夢を抱いているんだ。
だから、「幼馴染な女の子に『男の弱点』と言われた」あき君の今の心、現実から目を逸らそうとするその思い、よく分かる。
「傷物にしたら、踏むからね。」
俺はあき君に宣言した。
「ふ、踏む!?」
あき君がボーっと、海を見つめた。
耳にした言葉を理解した瞬間、思考停止した模様。可哀想に...
「思い」は理解できるが、気遣うつもりはない。
可愛い妹キャラヒスイちゃんと、超美人の俺の親友の星。
その気がなくても、この二人を自分の両側に居させるあき君、マジで羨ましくて...羨ましくて羨ましくて...許せねぇんだ!
放置だ!放置!あき君はこのまま放置!
そう思って、俺はあき君から離れた。
「良いんですか、ななえちゃん?」
少し俺達と距離を取って、遠くで見つめていた望様の傍に着いた途端、彼から妙な質問をされた。
「何か?」
質問する事が分からなく、俺は聞き返した。
「はぁ...何でもない。」
何故か望様にため息を吐かれた。
何故かは分からないか、それより...
「望様、高みの見物をしましたね?」
俺は俺とあき君達のやり取りに対して、何もしなかった望様を鷹の目のような鋭い視線で睨んだ。
「私と風峰さんの口喧嘩を止めてくれたのに、今回はただ見てるだけでしたね。」
「あはは、大人が口出ししてはいけない雰囲気でしたからな。少し年齢の差を感じて、感傷してました。」
「無理に誤魔化さなくていいよ。何、『年齢の差』って。
『楽しく見させて貰いました』とでも言えばいいじゃないですか?」
「そんな事はありません。本当、『青春って良いな~』と思っただけです。」
「ハァ!?」
更に鋭い視線で望様を睨んだ。
...何やってんだろう、俺?
今回の事、望様は完全に部外者だろう?
何喧嘩を売るように彼を睨むんだ、俺?どこがおかしいのか、俺?
「すー、はー...」
深く息を吸って、それをゆっくり吐き出す。
「ごめんなさい、望様。先程の私はどこかおかしかったようです。
望様に理不尽な怒りをぶつけて、失礼致しました。許してください。」
俺は90度のお辞儀をして、悪い態度を取った事に謝った。
「大丈夫ですよ、ななえちゃん。ななえちゃんの歳では、至って普通の事ですから。」
そう言って、望様はいつものような笑みを浮かべたが、何故か少し楽しそうだった。
その時に、突然眩しい光が游房の中に差し込む。
先程も沢山の「光の玉」が光を放っていたが、それと比べ物にならないほど、今回の光が強い。
まるで太陽の下のようだ。
「停留所に着いたみたいですね。
どうします、ななえちゃん?」
そう言って、俺に手を差し伸べる望様。
俺は今、寝ぼけている雛枝の手を掴んで、連れている。このまま游房を出ると、彼女と逸れる危険がある。
それは避けたい。女の子に危険な目に遭わせたくない。
が、それ以上に、「停留所」が気になる。
「行ってみたい。
どんな場所なのか、とても興味があります。」
男の手だが、俺は望様の手を掴んだ。
女の子に危険な目に遭わせたくないと思うが、雛枝は大丈夫だろう。反則的に強いから。
それに、そろそろ起きて貰おう。どうせもう半分起きているから、「全起き」になって貰って、案内係になって貰おう。
さて、海の中なのに、陸の上みたいに明るいこの場所。何があるのだろう?
楽しみだ。




