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第四節 考古学部②...最初の希望者は幼馴染

テンションの高いまま知らない人とペラペラ喋ることありますか。

 現れた人物はかつて「私」の幼馴染で、俺が高校入学時に一度だけあった男子生徒だ。


 名前は何だけ?

 憶えていないけど、憶えていないことを知られたくないな。


 しかし、変だな。

 俺がこの世界でこの女の子の体になってから、実は長い時間で他人と触れ合ってはいけないんだ。


 魔法耐性が極めて弱い俺は、魔力量の多い人が苦手で、長い時間その人と触れ合っていたら、段々と気分が悪くなるのだ。

 それは時間が長ければ長いほど、距離が近ければ近いほど、そして相手の魔力量が多ければ多いほど、気分が悪くなりやすい。


 いや、なる。誰であろうと、きっとなる。早い遅いの問題だ。

 だからメイド隊の中の何人が俺から距離を取っていて、魔力量の少ない何人しか俺に触れられない。

 具体的の例を挙げれば、玉藻(タマ)桃子(モモ)(リン)などの肉体派はよく俺とスキンシップするが、メイド長の早苗・魔法才能のある柳さん(オジョウ)はできるだけ俺に触れないように距離を取っている。


 しかし今、俺は彼と密接した状態で居るのに、少しも気分が悪くならない。寧ろ彼からいい匂いがするから、逆に気分がいい。


 だが、いい加減離れよう。

 男の体臭が「いい匂い」に感じるのは普通じゃない。


 俺は彼から三歩下がって、45度のお辞儀をした。

「すみません。人がいると思わなくて...」


「いえ、いいえ!いいえ!俺こそノックもしないでドアを開けてすみません!」

 彼は俺に90度のお辞儀をした。


 全く、ピュアな男の子だな。

 しかし、予想通りに彼の頭はあと少しで俺とぶつかるところだった。もし一二歩だけ下がったら、間違いなく彼に頭突きをされるだろう。

 タマの時の過ちはもう犯さない。


「あれ、君は入学の時に...」

 名前を思い出せないので、彼に自分から名乗れるように、今彼のことを気づいたかのように振る舞った。


 俺の言葉に反応し、彼は頭を上げて、まっすぐに背筋を伸ばした。

「久しぶりです、守澄さん。お元気で何よりです。」


 固い!何て固い挨拶だ!

 しかも名乗っていない!


「『守澄さん』じゃなくて、いつもの呼び名。いつも私をどう呼んでいたのですか。」意地悪に言って彼の反応を楽しむ。


 想像通りに、彼は言葉を忘れたように口をパクパクして、やっと意を決して出した声はとても小さかった。

「ななちゃん...」


 愉快...


「そうだよ!ななちゃんだよ!」俺は楽しくなり、上半身を左右に揺らした、「で、何か用か。」

 言った直後に、自分のバカさ加減に気づいた。

 部活棟に入り、どっかの部室に入るのは「入部希望」一つしか理由がない。


「そうか!入部希望者だな!入って、入って!」

 俺は彼の手を掴み、強引に部屋に入れた。

 どこか座るところがないかって部室を見回ったら、まったく整理されていない部室を見て、苦笑いをした。


「ごめんね。部長だけど、私も今日入ったばかりなんだ。」


 とりあえず、彼を自分が先程までに座っていた椅子のところまで引っ張った。途中で「臨時机」の上のパソコンが邪魔だなと思って、片付ける為に一度彼の手を放した。それが終わり、彼の方に振り向いたら、うろちょろして椅子に座ろうとしない彼の姿を目にした。

 まったく、座ればいいのに...なに変に遠慮しているのだろう。


「ほら、ここに座って。」俺は彼の後ろから、その肩に両手を乗せて、彼を押して強引に椅子に座らせた。

 そして素早く「入部届」と「ペン」を彼に渡して、「はい、どうぞ」とだけ言って、笑顔のまま彼の側に立っていた。


 基本、押しに弱い人なら、ここで「入部届」に名前を書くけど、彼がそういうタイプな人間であって欲しいなぁ。


 彼は俺と暫く見つめ合っていたら、ため息一つついて、自分の名前を「入部届」に書いた。

 ...ふふぅ、俺様1ポイント...

 白川 輝明...


「難しい漢字だね。」

 読み方は何パタン考えられるが、知り合いなら、ここを間違ってはいけない。


「はは...よく言われます。」

 よく言われるのかよ。


「初めて見た時にも思ったのだが、(かがやき)(あかり)って、どんだけ明るい名前だよ。」

「両親につけられた名前に文句は言えません。」彼は苦笑いを見せた。


 しかし、まだ彼から名前の読み方を聞き出していない。もう諦めて、彼に真実を明かそうか...いや、まだ早い!


「どうして先から敬語を使ってるの?」

「え?」

「昔の私たち、敬語を使っておしゃべりしていたのか。」

「...いいえ、ななちゃんだけ敬語を使ってました。」


 あれ、しまった!「私」は敬語を使って彼とおしゃべりしていたのか。ミスった?


「今の私は、もう君に敬語を使ってないよ。なら、君も昔のように私と話していいじゃない?」


 彼は少し迷い、「そうか、そうだな」と言って、「やっぱりななちゃんは優しい」と呟いた。


「そこ!」俺は大声を出して、彼に指さした。「私たちはもう子供じゃないよ!いつまでも『ちゃん付』は嫌だ。呼び捨てにして!」


「え!呼び捨て?」彼は俺の提案を聞いて、おろおろし始めた、「でも、呼び捨ては流石に...昔のように『あき君』でも、俺は構わない。」


 へぇ、「私」は彼のことを「あき君」で呼んでいたのか。


「でもね、あき君。『君付』は基本自分より年下の人に対してだ。私は年下だよ。」

「でも、同じ一年生だろう?」あき君は少し驚いたようだ。


 ま、おかしいと思うよね、普通。


「あははは、私は小学五年の時に飛び級して、みんなより一つ下だよね。」

 メイド達から聞いた話だけど...

 あき君は「そうか、だからか...」とか呟いて、納得してくれた。

「でも、呼び捨てはやはり恥ずかしい。せめて奈苗...さん、とか...」

「私は呼び捨てにするよ、いいの?」

「んんぅ、ナニカ。」

 とぼけるあき君。

「だから、私に一方的に呼び捨てにされて、損してると思いません?」

 あら、うっかり丁寧語が出た。まあいいか、彼はまだ俺のこの言葉遣いの訳が分からないでしょう。


「ああ...うん。えっと、はは...」

「どうしたの?言葉忘れた?」意地悪を言ってみた。

 彼は「いや、そういうわけじゃ...」と言って、やはり言葉を「忘れた」ままだった。


「だから、『奈苗』、と呼んでくれますか。」

 俺は両手を合わせてから、指だけくっついた状態で両手を離した。彼の顔を覗くように少し頭を傾けて、彼に笑顔を見せた。


 彼はすっごく困っている顔を見せた。

 面白い!

 今の俺は少しテンションが高いな...でも楽しいからいいか。

 彼は長い時間をかけて、「なな、なな」と繰り返して言って、「え」の音だけは出てこない。


「ごめん!ななちゃん。もう勘弁してくれないか。とても恥ずかしくて言えない。」

「えぇぇぇぇ...」

 もう諦めたのか。


「じゃあ、私、君のことを『(かがやき)君』と呼ぶよ。はい、『(かがやき)君』。どうしたの、『(かがやき)君』?いい天気だね、『(かがやき)君』。」

 流石の『(かがやき)君』呼ばわりされたくない彼は、「もう許してくれ」と言わんばかりに、「深い」苦笑いを見せた。


「『(かがやき)君』もやめてくれないかな。もう『輝明(てるあき)』と呼び捨てしていいから、『(かがやき)君』はやめてください。」

 てるあき...ようやく名前の読み方を聞き出せた。


 さて、もういい加減彼を「許してやろう」。

 俺はため息一つついて見せた、「まだ『呼び捨て』するのはレベルが高かったね。わかったよ、あき君。」と言った。

 あき君はようやく胸をなで下ろしたように、顔を下に向けて座るようになった。

 こっちは立っているので、座っている彼が頭を下に向けると、長い彼の前髪が彼の顔を隠したら、女の子にも見える。


 ...ウィック、買って来ようか...


 俺は別の椅子を見つけ出して、彼の対面に置いて座った。「臨時机」の上に腕を靠れて、頭を腕に乗せて、俯いている彼の顔を覗き込んだ。


「ねぇ、あき君。君はどのクラスに入ったの?」

 あき君はその時に、俺のことに気づき、勢いよく背をまっすぐにした。


「俺は、えっと...Xクラス。ななちゃんは?」

「私はSクラス。」

 他にもA・B・C・Dの四つのクラスがあるが、XとSだけはちょっと特別だ。


「Sクラスか。さすがななちゃんだな。」

「どうして?」

「悪い意味ではない。やはりななちゃんは『天才』だと改めて思っただけだよ。」


 ...天才...

「チッ」うっかり舌打ちをしたが、すぐに彼に気づかないように笑顔を見せた。


「どうして私を『天才』と呼ぶんだ?」

「...Sクラスに入っているから...」

 だからか...


 私立一研学園。

 その学園は中等部と高等部に分けられているが、中等部と高等部のクラス分けは全然違うものである。中等部は普通の学校と同じ、生徒を約40人毎何クラスに分けるだけだが、高等部は普通の四つのクラス以外、上位20人だけが入る可能のSクラスと、成績最低だが、「一つでも他人より優れているところがあれば、入学可能」の条件を達成して入学した生徒達が集まるXクラス。

 高等部はXクラスの生徒以外、成績優秀者のみが入れる世界最上級の学校。例え「中等部」を通ったとしても、成績の最低ラインに超えていなければ、容赦なく入学拒否される。それ故に、高等部に入った生徒達は無駄なプライドを持っている。Xクラスの在校生を見下し、Sクラスの在校生を敬う。


 下らねぇ...

 Xクラスの別称は「ごみ溜め」クラスであるのも下らねぇ...


「私、2年になったら、Xクラスに替えようかしら。」

「そんな!どうしてだ?」

「あき君がXクラスだから。」


 Sクラスの奴らを揶揄っても、反応が鈍いし、普通すぎる。他のクラスも大差ないだろうが、Xクラスだけは違ってそう。

 何より、俺の成績が悪い。退学にならなくとも、Xクラス落ちは決まりだな。

 あき君が何故か挙動不審になったが、それより俺はこの部屋の片づけが気になる。


「あき君、この部屋の片づけに手伝ってくれない?」

 あき君は一度部屋全体を見渡して、「別に構わない」と言った。


「ありがと。」

 そのまま彼に指示を出そうとしたが、「入部届」のことを思い出した。


「っと、その前に、一緒に入部届を出しておこう。」

「え、一緒に?」

 彼は何故か戸惑った。


「ええ、そうよ。どうかしたか。」

「いいえ、別に何でもない。」

「そう。」

 変な奴...


「じゃ行こう。」

 俺は再び彼の手を掴んで歩き出したら、いきなり彼から手を解かれた。


「ひ、一人で歩けるよ。」

「あぁ、うん。」


 子供扱いされていると思われたのかな。別にそんなつもりじゃないんだが...


「じゃあ、行こうか。」

 まあいいか、気にしないことにしよう。

 俺は彼を導くように前を歩いた。


 幸い教師たちはまだ学園を離れていなくて、俺達はすんなり紅葉先生を見つけた。


「紅葉ちゃん!入部届を渡しに来ました!」

 俺は今のテンションに身を任せて、紅葉先生を背中から抱き付いた。

 しかし、先生は俺のこと気にもせず、ひたすらに自分の論文に集中している。

 俺も意地になって、もっと強く先生を抱きしめていたら、暫くして酷い吐き気に襲われた。


「うぷっ。」

「人を勝手に抱きしめておいて、吐き出しそうな顔をしないで頂けますか。」

 尤もな話だな。


 まさか紅葉先生の魔力量がここまで高いとは...

 俺は先生を放し、少し距離をとった。

 紅葉先生はやはりマイペースに一段落がついてから、俺達に目を向けた。俺はすかさず二枚の「入部届」をあき君から受け取り、先生に差し出した。


 先生は書類に目を通して、眠そうに俺を見つめた。

「いいのか。」


 いいのか?え?なに?

 言葉が短いすぎて、何を指しているのかが分からない。

 でも、「いいのか」かぁ...その言葉から、「よくない」何かが起こると彼女が思っている。それは何なんだろうな。


 俺は「入部届」を彼女に渡した。

 それは彼女が最初に「入部届を出してください」と言ったから、「入部届」を出すこと自体何の問題はない。

 変わったことがあるというのなら、それは「入部届」が二枚になったことだろう。

 二枚になったから、何か不都合でもあるのか?

「人数足りないから廃部の危機」だと「お父様」が言った、だから人数を増やすことは悪いことではない。

 彼女にとって悪いことなのか?

 人数増やした場合、廃部の可能性が減る。それは彼女にとって都合の悪いことなのか?

 いいえ、彼女は最初の時、「私は考古学部に一切気にしない」みたいなことを言ったから、この部活の存否が彼女に何の影響も与えないはずだ。

 彼女に影響を与えないなら、「いいのか」の言葉は他の方面のことを指している。「入部」関係することは彼女以外、入部者である俺とあき君しかいない。彼女があき君と知り合いであるかどうかわからないが、昔、彼女は「私」のメイドである。そのことを先に考慮すべきだろう。

 だとしたら、「いいのか」は俺に関係することと考えられる。俺とあき君が同じ考古学部に入部することで、俺にとっての不都合のことが発生する。

 その不都合のことは何だろう。

 ...なるほど...


「大丈夫だよ!」俺は紅葉先生に向かって言った。

 俺はあき君の腕を抱き、彼を自分の近くまで引っ張ってきた。


「ほら、こんなことをしても全然大丈夫。何の問題もありません。」


 恐らく、あき君の魔力量は極めて少ないのでしょう。彼に抱き付いても、俺は少しも気持ち悪くならない。彼が滅茶苦茶弱いのは哀れなことだが、俺にとって好都合だ。

 紅葉先生もきっと俺のことを気遣って、彼が一緒の部活に入っても、俺は大丈夫なのかとうかが知りたいだろう。だから、俺は彼に抱き付いて、平気な顔を紅葉先生に見せて安心させよう。

 紅葉先生は「そう」と言って、「入部届」を引き出しに仕舞った。


「えっと、白川さん。おじょ...守澄さんがお前と一緒にいても大丈夫と言ったけど、この学園は『不純異性交遊』禁止なので、清く正しいお付き合いを心掛ける様に、お願いします。」紅葉先生は人でも殺しかねない目であき君を睨んだ。


 へぇ、「不純異性交遊」か。「人間」が変わっても、そういうのはあるのだな。


「では、紅葉先生。私たちはこれにて失礼しますが...ちなみに正式な部活には『部員』何人いるの?」俺はあき君を放して、紅葉ちゃんに問いかけた。

「5人。後3人だが、すでに正式な部の『考古学部』が廃部になる前に、新入部員が入ったから、別に人数の心配はしなくていい。」紅葉先生はいつものような無表情の顔で俺に答えた。


 5人か...

 5人か!

 あれだな...「異世界人」役はもういるので、後は...

 うふふ...


「さあ、戻りましょう!部員を集めましょう!」

 俺はあき君の手を引っ張り、「拠点」に戻った。


「じゃあ、私はものを出していくから、あき君は適当に並んで置いて。」

 部員を集める前に、片づけが先だ。


 面倒...

 とりあえず、俺は楽の仕事を自分に振り分けて、あき君に酷に思える方を任せた。

 窓を開けて、段ボールの上の塵を外に吹き出した。

「お父様」の「神の遺物(コレクション)」をまさぐった時、色んな面白いものを「ナナエ百八(予定)の秘密道具」に加えたが、今回は何が出てくるのだろう?

 楽しみだな。


「ねぇ、あき君。これをちょっとあき君の体に当ててみてもいいですか。」

「何ですか、あれは。」

「スタンガン。」

「『スタンガン』は何ですか。」

「んぅ...軽い電流を流して、人の体をほぐし、リラックスさせるマッサージ機です。」

「マッサージ機なら、自分に当てればいいじゃないか。」

「私はあき君にしたいのです。大丈夫です。痛いのは最初だけですから。」

「痛い?マッサージ機なのに痛いのか。」

「あ、いや...マッサージ機は大体最初は痛いのですよ。」

「うん?何が企んでる?」

「いやいやいやいやいや...」

「...わかった。していいよ。」

「ありがとう♡!」

「なんで手袋をつけるの?」

「万が一のこともありますから。」

「『万が一のこと』って何ですか。」

「特にありません。気にしなくていいですから。」

「やっぱりやめてくれ。何か怖い。」

「怖くないから、大丈夫ですから。」

「当てさせないから、寄って来ないでください。」

「さっき『していい』と言った!」

「そう...言ったけど...」

「だったら、ちゃんと言葉を守って!」

「ごめん...」

「ムー...」


 ......

 ...


 一通り部屋を片付いたら、役に立てそうなのは「扇風機」ぐらい。

 期待させどきながら、この仕打ちはないよね。

 まぁ、「パソコン」と「扇風機」二つの「神の遺産」が出てきたから、十分と言えるか。

 あれ?遺物?遺産?どっちだけ。

 不意に、「明かり」がとても強い気がした。外に目を向くと、真っ暗な闇が俺の目を襲った。


「もうこんな時間か。」

 メイド隊のみんなが心配しているのだろう。


「悪いモモ、今帰る。」

 とりあえず、モモに帰ることを伝えた。


「どうした、ななちゃん?」あき君は不思議そうに俺を見つめる。


 彼は知らない、俺は一人でいても、実は常にメイド隊に守られている。学園そのものが守澄の敷地内にあるから、守澄の敷地内であれば、どんなことでもモモの耳から逃れられない。

 だから、俺が普通に大声を叫べば、モモに普通に聞こえる。

「普通」って何だろう。

 でも、伝達事項がある場合かなり楽にできる...一方通行だか。

 携帯程便利じゃないけど...携帯、欲しいな。

 この世界の「携帯電話」俺、使えないんだよね。

 ...気を取り直して。


「何でもないよ、あき君。こんな時間まで付き合わせてごめん。もう帰ろう。」

 俺は手を止めて、床から立ち上がった。


 まだ段ボール二つ開けていないが、結構きれいに片付いたな。

 段ボールの山に埋もれた机を見つけて、椅子を合計5個を揃えさせた、あき君に。

 見つけた小物を本のない本棚に飾ってもらった、あき君に。

 ドアを向かう方に俺用の席を用意し、パソコンをそこに設置すると同時に、隣に扇風機をもおいてもらった、あき君に。

 うむ、なかなか居心地の良い場所に変えたな。

 俺はドアのところまで行って、ボケーと立っているあき君に「さ、もう電気消すよ」と言った。

 あき君は「ああ」と言って、俺の後ろについて部屋を出た。


 女の子が一人夜道を歩くのは危ないとのことで、あき君は俺を屋敷まで送ることになった。

 守澄の敷地内のだから、そんな心配いらないと思って一度を断ったのだが、彼が意地になって、俺は結局彼に送られることになった。

 今頃冷静になった俺は今日のことを振り返ってみたら、俺は結構強引に彼を考古学部に入部させたと思う。

 そのことについて、彼はどう思っているのだろう。


「ごめんね、あき君。強引に入部させたことは迷惑だった?」

 身長的に、俺は彼を仰ぎ見ることになったが、彼はまっすぐに俺の目を見つめて、微笑んでくれた。


「いいえ、俺を誘ってくれるのはとても嬉しいよ。ありがとう、ななちゃん。」

 なるほど、彼は優しい人だな。きっと他の人が彼に酷いことをしても、余程じゃない限り、彼は微笑んで相手を許すでしょう。

 でも、その優しさに付け込む隙がある。俺は正にその隙に付け込んで、彼を入部させた感じた。

 なんだかすごく嫌。


「あき君、これから毎日私と一緒だよ。毎日あの部屋で集まって、しょうもないことをするかもしれない。

 休みの日も、突然招集するかもしれない。イベントの時に、そのイベントに参加しないといけない。私の気分次第で、無茶なお願いをされるかもしれない。あき君の自由時間を奪ってしまうかもしれない。

 だから、部活を辞めたいなら、早い時期に言ってきて。期限が過ぎたら受けつきませんから。」


 言えば言うほど、「付け込んでいる」感じが強くなる。これでは、健気な女の子をぶって、あき君に慰めてもらうようにしか見えない。

 そして、思った通りに、あき君は俺に言った。


「俺は楽しいと思うな。

 ななちゃんと一緒なら、きっと退屈しないだろうし、『無茶なお願い』に関しては、またその時に考えればいい。

 部活をやめるつもりはないよ。でも、ななちゃんがやめてほしいなら、無理に残らないから、俺が嫌だと思ったら、追い出してくれればいい。」

「嫌だと思っていないよ!」


 ダメだ、やっぱり誤解されている。

 だとしたら、何か難しい問題をぶつけて、辞めやすいようにすればいい。


「でも、本気で残りたいなら、『試練』を乗り越えられるよね。」

「試練?」

「そう。」俺は少し考えて、彼に一つ難しそうな「試練」を与えた。

「明日、考古学部に興味のある生徒一人連れてきて、見学だけでもいい。」

「それが『試練』?」

「そう。達成できない場合、残念ながら君に退部してもらうね。」

「え?入部したばかりなのにもう退部?」

「この考古学部に残りたいのなら、それくらい平気でしょう?」

「なんか理不尽だ」とでも言いそうな顔をして、あき君は結局納得して、「わかった」と言ってくれた。


 これで、明日から一人なのか...厭々残されるよりはいい。

 それに、一人の方が気楽だ。

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