第三節 夏休み前日①...イジメっ子と根暗君とらっきーすっ...
1年目4月30日(金)
夏休み前最後の日!明日から夏休み!
青空!海!水着!
そして、俺は明日から夏休み終わるまで、海が広い事が有名な外国に行く予定となっている。つまり、水着女の子を見放題!連れて行く「友達」も全員水着用意が必須!
絶対星を連れて行くぞ!
あのクールビューティーはどんな水着を用意するのだろう?楽しみで仕方がない!
他にも一杯女の子を連れて行くぞ!
メイド隊は残念な事にマオちゃんと紅葉先生しか連れていけないが、美人な紅葉先生と可愛らしいマオちゃんも大分見応えはあるし、メイド隊以外の女の子は連れ放題!未来はまだ明るい!
粘りに粘って、タマも「ペット役」として連れて行く事を、お父様から許しを得られた。彼女の水着姿で理性が飛ぶかもしれないから、基本「猫」のままにいさせるつもりだが、見れる可能性を残しておきたい。
突然彼女の水着姿を見たくなった時、見るかどうかを選べるようにしておきたい。悶え苦しむとしても、「叶わない夢を望む」より、「目の前の甘味に手を伸ばさず耐える」の方が俺的にいい。
叶わない夢を望む...屋敷に残して、「見たい」と思っても「見れない」、タマの水着姿。
目の前の甘味に手を伸ばさず耐える...目の前の猫に、「人間になって」と言わない、折れない信念。
何人でも連れて行って構わないとお父様から許可を得ている。なので、俺はSクラスのカワイコちゃんを全員連れて行こうと一度は思った。
が、彼女達を誘う前に、「事件」が起こった。
...起こした。
始まりは今日の朝。
俺はいつも通りに登校して、Sクラスの教室に入り、自分の席に着こうとした。
しかし、バックを机に掛ける前に、その机の上に「死ね」という二文字がデカデカと書かれているのを見て、手を止めた。
軽くその文字を触れてみたら、少しだけ嫌な気分になった。その事で、この「死ね」の二文字は魔法で書かれていたものだと分かった。
はぁ...
分かりやすすぎるイジメでしょう。
今時、こんなイジメ、小学生だってしないぞ。
それなのに、高校生にもなって、こんな...苛められている俺の方が逆に恥ずかしい。
「あら、守澄。どうしたの、立ち尽くしてて?」
風峰ちゃんがわざとらしく大声で言い、俺に近寄って来た。
そして、俺の机を見て、「まあ!誰がこんな酷い事をしたの?」とクラス全員に聞こえるように大声で言った。
決めつけはよくないと思い、一応「犯人は誰?」と考えないようにしていたが、容疑者がわざわざ「私が犯人だ!」と告白してきた。
別にそんな事をしなくても、お前は第一容疑者だ、風峰ちゃん。こんな幼稚なイジメを見て、ため息しかでないよ、俺。
「こんな事をする人、許せないね。消してあげるね。」
「え?」
急に、風峰ちゃんが「滅」と言って、魔法で机の上の文字を消した。
きっと、この行動自体は珍しいものではないだろう。魔法が盛んだこの世界、何かがあれば魔法で解決する、当たり前の事。
だけど、俺関係の事となれば話も変わる。
魔力耐性のない俺は極力魔法品を使いたくないのに、風峰ちゃんは魔無品だった机を魔法で文字を消して、魔法品に変えた。しかも、彼女は俺の体調の事を知っている。
わざととしか思えない。
「さ、どうぞ座って。礼なんていいよ。私達、友達でしょう?」
風峰ちゃんが綺麗な笑顔を見せて、俺の肩に手を添えた。
風峰ちゃんは頑張り屋さんだな。
三日連続、サボりは決してしないで、俺を苛め続ける。
何かのミッションを課せられたのかな?早くクリアしたくて、寝る間も惜しんで頑張っているって感じだ。
流石の俺も、ここまでの事をされたら、少し反撃したくもなる。
「風峰さん。」
だから、俺は風峰ちゃんに手を伸ばして、その頬に触れた。
「なに、守澄?言いたい事でもあるの?」
風峰ちゃんは不敵な笑みを浮かべて、俺の両手を避けようともしなかった。
全く俺の事を警戒していないな、それも当たり前。魔法も使えないし、体も弱い俺が風峰ちゃんに何かができる訳がない。
だが、「傷つけるだけが反撃ではない」という事、彼女は知らない。その油断が命取りである事、今、教えてやろう。
俺はゆっくり顔を風峰ちゃんに近づけて、彼女が反応する前に、その唇に自分の唇をくっつけた。
「ん」
「むっ!?」
唇と唇をくっつけるだけの子供のキス、最も感覚の鋭い口と口の触れ合い。
かなり驚いたのだろう、同性から、しかもイジメた相手からのキス。
それでなのか、風峰ちゃんは逃げもしないで止まっている。脳が状況を理解するのを拒んでいるのかな?
淡いバラの良い匂いが漂ってくる。香水なのかな?
一応派手なおしゃれは学園が禁止しているので、香水も恐らく禁止していると思う。
けど、風峰ちゃんの体からバラの花の匂いがする。とても淡い匂いなので、ばれない程度のおしゃれなのかもしれない。
一秒、二秒...暫く経っても、風峰ちゃんからの反応がないから、仕方なく俺の方が顔を離れた。
俺も、何だかんだで理性が限界に近いからだ。
「な、なな...」
風峰ちゃんがようやく動き始めたが、口がアワアワしているだけだった。
俺は女の子とキスした事で、ちょっと興奮気味になっていて、「なに、風峰ちゃん?言いたい事でもあるの?」と挑発的に言ってしまった。
甘い。
味はない筈なのに、風峰ちゃんの唇が甘い。
これは............癖になるな。
「私、初めてだったのに...」
ようやく思考能力が戻ったのか、風峰ちゃんが自分の唇を指で隠してそう言った。
そうか、初めてだったのか。
きっと、「初めては好きな人だ」とか思って、自分を大事にしていたのだろうな。
悪いことしたなぁ。
「ごめんね、私は『初めて』じゃないの。」
だから、意地悪したくなる。
他人を苛める「自分大好きっ子」ちゃんを泣かしたくて、自分を抑えられないんだ。
「っ!」
風峰ちゃんは両目に涙を一杯貯めて、それを隠しながら教室から逃げ出した。
予想通りの反応だが、申し訳ない気分に成れない。
彼女の自業自得とも言えるが、俺の方に邪な気持ちがあるから、少しくらい「悪い」と思うべきなのだが、「楽しい」と思ってしまって仕方がない。
純潔な何かを汚したくなる、ドSな俺でごめんな、風峰ちゃん。俺に関るからこんな目に遭うんだよ。
そして、風峰ちゃんが去った後の教室はとても静かだ。
誰もが先程の出来事に呆気に取られて、思考停止している。
意識して見回ってみると、男子は顔を赤らめて俯せて、女子は青い顔で目を合わせてくれない。
自分の机を触れてみた。
少し気分は悪くなったが、大して辛くはなかった。
このくらいなら、いつも通りに自分の机を使っても大丈夫なんだが、折角一人が逃げ出して席を空けてくれたんだ、無理に自分の席に座らず、その席を使おう。
そう思って、俺は風峰ちゃんの席に座り、授業を受ける事にした。
......
...
「やっっっちまったんだよな、ホント!」
昼休みになると、俺はまた根暗上村君と一緒に昼食して、自分の過ちを告白した。
「もう、絶っ対!クラスのみんなと仲良くなれなくなった!みんな、私を怯えているもん!」
自分を苛める相手にありえない方法で仕返しをして、更にその相手の席を平気で奪って座った。
そんな人と、誰も関わりたくないだろう?威張る取り巻きの貴族女子達も、口噤む臆病な平民女子達も。
誘う気は全くないが、見ているだけの男子諸君も俺と完全に関わりたくなくなったのだろう。
「はぁ...
友達って、どうやって作るんでしたっけ?
なぁ、上村君。どう思う?」
酔っ払いのように、根暗上村君に絡む俺。
「う、うぅ...」
上村君はいつものように、「返事」じゃない返事をした。
「だよね~、私もそう思う。
そう思うが、全然仲良くなってくれないんだ、女子が。」
別に根暗上村君の話が聞きたい訳じゃないが、会話をしているかのような感じを醸し出して、俺が一方的に喋った。
「『自称親友』がXクラスにいるんだけど、部活の時にしか会いに来てくれないんだ。どう思う?」
「あ、あの、守澄さん!」
喋る権利を欲しくなったのか、上村君は大声を出した。
「その...今後、僕と一緒に、い、いない方が、いい。」
「えぇ~!」
まさか上村君にも拒まれたとは...
「どうしてぇ?私、気に障るような事した?」
「や、違っ!ぼ、僕が、僕...僕と一緒にいると、嫌われる。」
「何で?一緒にいるだけで嫌われる訳ないだろう?」
上村君に「忍び恋」している女の子はいないと思うが、まさか!?
「僕、みんなに嫌われているから。僕と一緒だと、守澄さんも嫌われる。」
「『嫌われる』?嫌われるような事をしたの、上村君?」
「いや、してない、と思う...」
嫌われるような事をしていないのに、嫌われる?
まぁ、あるだろうな。俺も学生時代にあるクラスメイトを毛嫌いしていた。
その人も確かに人に嫌われるような事をした訳じゃないが、なんというか...近くに居るだけでも耐えられないくらい、酷く匂う!
臭いんだよ!理由は分からないか。
自分の気の所為じゃないかって、本気でその人の匂いを嗅いだ事がある。そして、それで「気の所為じゃない」と分かったので、俺は他のみんなと一緒にその人を無視するようにしたんだ。
まさか、上村君は匂うのか?
確証はない。なら、確認するしかない。
俺は立ち上がって、上村君の方に手を伸ばした。
「も、守澄さん!」
「ちょ、動かないで、上村君!」
逃げようとした上村君の後頭部に手を添えて、動けないように押さえた。
そして、彼の頭に近づけて、その髪の毛の匂いを嗅いでみた。
臭くない。というか、良い匂い。
良いシャンプーを使ってるかも。しかも、ちゃんとした男性用タイプかも。
「別に臭くもないね。」
「え!?く、臭い?」
「いえ、臭くない。
臭くないし、嫌われるような事もしていない、でしょう?」
「...たぶん。」
「なら、私は君と距離を取る理由はない。
あまり喋らないから、その所為でクラスメイト達が君を嫌ったかもしれないが、そんな理由で、私は君と距離を取る訳にはいけない。」
特別な理由がなければ、誰かを嫌ってはいけない。
そう思っても、それでも無意識に他の人に合わせて誰かと距離を取っちまうかもしれない。
でも、その誰かさんがそれを知って、俺に「一緒に居ない方がいい」と言って来たんだ。それで距離を取ったら、俺は自分が許せなくなる。
俺のプライドが許さないんだ。
「でも、僕はダメだ!
僕は、守澄さんが大変な時に、何もしないで...逃げたんだ!」
「あぁ、アレの事?」
昨日の昼、俺を助けようとしたが、結局何も言えずに席に戻った時の事を言っているのだろう。
「い~や、一番偉かったよ、上村君が。他の男子はもっと腑抜けだよ。」
「しなかったのは、しなかった。
一緒に居ても、僕は...」
上村君は黙り込んだ。
ふむ。弱いのに、力になろうとしているのか。
「気持ちは分かるが、何かできる訳じゃないでしょう?」
「ぅっ...」
「結局何もできないなら、助けに入っても無駄じゃん?被害者が一人増えるだけだよ。」
「ごめん...」
こういうことに関して、正直俺は今も迷っている。
何が正しいのか、何が間違いのか、分からない。
だから、俺はとりあえず今の俺の考えを上村君に伝えた。
「助けるのなら、きちんと助けられる方法を考えてから、助けに入らなければいけない。
人の助太刀がしたいなら、腕を磨くでしょ?
お腹を空かしている人にパンをあげたいなら、パンを持って来なきゃ、でしょ?
寒い日に服を、暑い日に水を。雨の日に傘を、風の日に...」
あれ?風の日なら、何を用意すればいいだろう?
くっ、思いつかない!
「...えっと、何でも良い!
兎に角。あの時、君が助けに入っても無駄だから、しない方がいいし、しないのが普通。」
「じゃ、誰かが助けが欲しい時も、何もしないのが正しい?」
「そう言いたい訳じゃない。正しくない。
ただ、考え無しに助けに入っても意味がないという事。
努力は褒めるが、結果に繋がらなければ評価されない。
だから、あの時に私を助けられなかったが、次に助けられるように頭を回せばいいという事。
君には才能があるでしょう?鏡に関係する魔道具の発明の才能。」
あ、急に思い出した。
上村君は「透視眼鏡」を偶然とはいえ、作ったんだ。
その事が世間に知られたら、男子から大変歓迎されるようになれるのだろうが、女子からはきっと死んでも許されないくらいに嫌われるだろう。
彼は確かに、「嫌われるような事」をした。俺以外の誰にも知られていなかったが、「した」のはした。
どうしよう?伝える?
言ったら、俺が今まで言った事の何もかもが「大革命」されてしまうかもしれないが、気づいた以上、言わなきゃダメだろう?
い~や、でも~...
「鏡の、魔道具...あ!」
「あ、気づいた?」
「ご、ごめださい!」
どうやら、上村君自身がこの事に気づいたようだ。
なら、その話はこれで終わる事にしよう。ちゃんと...してないが、「ごめんなさい」と言ったから。
「私が何を言いたいというと、つまり...あれ、何だっけ?」
「あ、えっと...」
「あ、思い出した!
つまり、あの時の悔しさを発条に、次の時にちゃんと力になれるよう、努力すればいい、という事。
努力するだけでいい。でも、ちゃんと意味のある努力をしましょう。ね?」
「あ~、うん。」
曖昧な返事だな。
このくらいの歳の子なら、こんなものかな?
「でも、僕は何を、作れば、いい?」
「え~?分かんないよ。自分で考えて。」
「そ、そうだな!ごめん。」
上村君はよく謝る。それが彼の個性かもしれない。
しかし、俺はよく謝られるのは好きじゃない。「ごめんなさい」と言われる度に、蕁麻疹が出そう。
だから、一応今考えたアイデアを上村君に伝える。
「例えば、見せる相手を怖がらせる鏡とか?人の醜い一面を映し出す鏡とか?
でも、そういうものを作り出したら、嫌われるかもしれない。なので、発動に難しい特殊な呪文を組み込むとか、ある時間でしか発揮しないようにするとか?
色々考えられるでしょう?」
「そ、そうだな!色々、あるな。」
「でも、ちゃんと自分で考えて、ね。
私が言ったから作るのは止めてよ。私はただの君のクラスメイトだから、君に無理強いは出来ないよ。」
「そぅ、だな。うん、分かった。」
上村君がちょっと「頷き人形」になっているっぽい。よくない症候だ。
どうしてだか、俺の周りによくこういう人が現れる。自分では物事を考えずに、よく俺に「どうすればいい?」と訊いて来る。
そういう人は扱いやすいが、実は少し嫌いだ。でも、扱いやすいから、その所為で好きでもある。
...上村君とちょっと距離を取った方がいいかも。
夏休みの時、彼も海に誘おうかなとちょっと思ったが、やっぱり止めよう。
男だし。
「はい、上村君、お肉食べて。」
「え、また!?」
罪の意識に駆られて、俺は肉一切れを箸で摘まんで、上村君に差し出した。
......
...
放課後、俺は今、考古学部の部室にいる。
結局、風峰ちゃんはそれ以降、教室に戻る事はなかった。
余程ショックな出来事だったんだろうか、彼女は一限目の教科書を机に残したままに、たぶん家に逃げ帰ったのだろう。
悪い事したな。
でも、可愛かった。
そして、俺は残りの部員達が来る前に、ホワイトボードの上に大きく「夏休み」と書いてから、机の上で肩を組んで立っていた。
カラーッ。
ノックという単語を知らない星が二番に部室に入ってきた。
「ようやく来たね、星。体の弱い私より後に部室に着くとか、どこで油売っていた?」
「ななえ...ふふっ、売ってない。軽く校舎三週、走ってきた。」
凄い告白をして来た。
いや、多分これは嘘だろう。汗一滴も流していないから!
でも、星なら出来るかも?全国優勝だし、ケンタウロス族だし。
ケンタウロス族は足が自慢だと、望様が言ってたし。もしかしたら、本当に校舎三週を走ってきたかも。
それはさて置き。
「あき君は?一緒じゃないの?」
「もうすぐだと思う。競争をしてた。」
「競争?『校舎三週』?」
「えぇ。」
言いながら、星は自分の席に座った。両手で前髪を解して、後ろの長い金髪を背もたれの向こうに置いた。
動きがエロいな。
よく見ると、少し息が弾んでいる。本当に走って来たのかも。
「星は本当に美人だよね、胸以外。」
ちょっと恥ずかしくなったので、星をちょっと弄ってみた。
「ななえ、下着見えてるよ。」
言われ慣れてしまったか、星は怒りを全く見せずに、俺を見上げて反撃を試みた。
「見られて恥ずかしいところないもん!」
星の反撃は心が男の俺にダメージを与えられなかった。
だけど、一応あき君も後で来る事だし、青少年の健全な成長の為に、俺は机から降りる事にした。
「あれ?」
しかし、降りる時に踏み所を間違えて、机をちょっと動かしてしまった。その所為でバランスが崩れて、俺は後ろ向きに倒れた。
あ、ヤバい。
後ろには俺の椅子がある。このままでは、椅子の背もたれに頭がぶつかる。
当たるところが悪かったら、死ぬ...
「ななえ!」
しかし、危機一髪な時に、星が顧みずに俺に向かって跳んだ。何とか俺を抱きかかえてから、体を無理やりに回して、自分の背中を椅子と机にぶつけた。
そして、俺と星は一緒に床に倒れた。
「いてて...ごめん、星!大丈夫?」
「あぁ、僕は何ともない。
もうちょっと気を付けろ、ななえ。お前は体、弱いから。」
「あはは...」
この世界の人は俺以外、誰もが健康優良児、転んだ程度で怪我にはならない。
この事はちゃんと理解しているが、女の子に庇われるのはまだ慣れない。
しかも、女の子に抱きしめられている!胸が肩にくっつけてきた!
「小さい」とよく弄ってきたが、こうして体をくっつけられると、やはりあると実感する。
「星もきちんとした女の子だね。」
「何それ?どういう意味?」
「胸とか、太ももとか、くっつかれている。」
俺を守る為なのか、星は自分のスカートが捲れている事も気にしないで、ストッキングを履いている長い足を俺のお腹に当てている。
きっと何かが落ちてきて、その足で俺のお腹を守るつもりでいたのだろう。いくら健康優良児でも、鋭い何かに刺されたら傷口も出来る。
なのに、俺を優先した...
「ごめん、星。ありがとう。」
「いい。
親友だろう、僕達?」
懐かしい響。前の世界の事を思い出す。
...結局喧嘩別れしたが、アイツはどんな人生を過ごしたのだろう...
「どうした!?ななちゃん、千条院さん?」
よりにもよって、このタイミングにあき君がようやく部室に着き、入って来た。
そして、そのまま俺と星のあられもない姿を目撃する。
「あ、ご、ごめん!何も見えてません!」
そう言って、あき君は慌てて外に出て、ドアを閉めた。
俺は今の自分の姿を確認する。
お股、潰れたカエルみたいに開けている。あき君の位置からだと、パンツ丸見え...
何でうちの部員、どいつもこいつもノックを知らないのだろう?
星の方に目を向けると、彼女が顔を真っ赤にして、歯を食いしばっていた。
涙こそ流していないが、耳まで真っ赤になっている。
クールビューティでも、彼女は年頃の娘、こんな反応するのも仕方ない。が、ギャップで凄く可愛い。
あー、顔が熱い...
まさか、俺も恥ずかしがっている?
体は女の子でも、俺は男だぞ!パンツを見られたくらいで、恥ずかしがるなよ!
......
...いや、無理!恥ずかしい!
家族じゃない人に下着姿を見られたら、例え男でも恥ずかしいだろう!
「あき君、いる?」
俺は大声でドアの外の人に声を掛けた。
「はい!」
とても元気な声が返ってきた。
あき君がまだいる事と分かった俺は、星の腕と足を退かして立ち上がり、ドアの側まで歩いた。
そして、ドア越しにあき君に声を掛ける。
「今回の事は事故、あき君は何も悪くない。私が悪い。
でも、ごめん。少しの間に外に居てください。私も星も、少し冷静になれる時間が欲しい。
君は何も悪くないが、我慢して帰らないでください。
お願い。」
先程の光景が脳に浮かび、俺は唇を強く噛んで、あき君の返事を待つ。
そして、ドアの向こうから、今度はちょっと小さな声が流れてきた。
「分かった。ごめん、ななちゃん。」
「うん。次から叩いてから入ってね。」
凄く疲れた気分で、俺はスカートが汚れる事も気にせず、床に座った。
心臓がドキドキで、落ち着かない。深呼吸を繰り返しても、なかなか弱めてくれない。
星の方を見てみると、彼女は俺と同じく深呼吸を繰り返していて、目を強く瞑っている。
はぁ、何という日だ。
「国外旅行に付いて来てほしい」と、しかも「明日からいきなりだ」と、それを言おうとしたのに...
...恥ずかしくて死にたい!というか、殺して!
すーはー、すーはー...
時間を戻したい...




