第十節 再会③...終わり良ければ全てよし?
お待ちかねの〜〜〜
お喋りタイム!
「『疾』」
大きな火柱の中から、小さな人影が現れた。
その人影が信じられないくらいの速さで、炎より先に俺の前に着いた。
「『水壁』!」
その人は魔法の呪文を唱えて、半球体の水の壁を作り、俺達全員をその後ろに隠した。
間一髪、水の壁が紅葉先生のドラゴンブレイズ?ドラゴンフレイム?を防いで、術者の彼はそのまま俺達の前に立ち、背中を見せつけられた。
誰?
こんなビッタリなタイミングに現れて、俺の主人公の座を奪おうとしているこの人は、誰?
眩しい炎の光の所為で、俺はまともに目も開けられない。謎の彼の顔を確認しようにも、紅葉先生の「炎」が止まるまで、待たないといけない。
しかし、その炎は一向に終わる気配がない。それどころか、更に勢いが増していく様な感じがする。
このままでは、水の壁が保たないじゃないのか?
「『加護』!」
同じ事を思ったのか、彼は別の呪文を唱え魔法を強化し、「水の壁」を「滝の壁」に変えた。
滝?
その壁を見た瞬間、正直眩しい炎の所為による目の錯覚じゃないかと思った。
ただ、確かに「滝」だ。「源はどこだよ!」と突っ込みたくなったが、それは同時に俺がまだこの世界の常識に慣れていない事の証明だな。
長く、長く続く魔法の鍔迫り合い、紅葉先生の押し負けが終わりとなった。
炎の光が消えて、俺はようやく目の前の人を確認する事が出来たんだが、その人が持つ剣に付けられている宝石が真っ先に目に入った。
やはり、「彼」なんた。
「ななちゃん、大丈夫だった?」
「あき君......」
やばい、自分の心臓の鼓動が判る。きっと「死」を直面した事で、「生きたい」という思いが我が心臓の鼓動を速めているだろう。
そうに違いない。
俺も三十手間の良い年した男だから、「吊り橋効果」を知っている。このドキドキ、あき君に向けるものではない事くらい、理解している。
そもそも、俺は外見が女でも、中身が男だから、男に惚れる訳無い。
そう、男にドキドキなんかしていない。絶対!
「私は大丈夫よ。ヒスイちゃんは?」
「だ、大丈夫です、ななえお姉ちゃん。」
ヒスイちゃんは慌てて返事をする。あき君が来てから、少しボンヤリしていたみたいだ。
「タマ?」
「みんな無事みたい、ななえ。この人のお陰で。」
タマもすぐに返事した。何故か競争意識を匂わせるイライラした口調だった。
「みんなは大丈夫だよ、あき君。で、シイちゃんの方は?」
「神月さんも大丈夫だ。気絶して倒れているが、大事はない。」
「そう?」
「気絶した原因は恐らく、ななちゃんの方の二人と同じだろう。心配しないで」
同じ?あき君はアキラ君と弟くんが気を失っている原因を知っているのか?
というか、あき君が魔法を使える事も、俺は初めて知った。あき君も俺に色々隠しているみたいだ。
「あき君は魔法が使えたんだね。」
「まぁ、ちょっと...」
「『ちょっと』?」
詠唱しないで魔法が使える紅葉先生の魔法を防いだのに?抱きついたら、俺が十秒で気分が悪くなるくらいの魔力を持つ紅葉先生の魔法を防いだのに?
「ぁ!」
何かを隠しているあき君を睨んでいたら、彼の袖の肩辺りに焼け焦げの跡を見つけた。
きっと、駆けつけて来る時に作った跡だろう。炎の中を突っ切って助けに来たんだ、普通なら「焼死体」なってもおかしくないんだ。
この世界の人間が頑丈で、本当に良かった......
俺はタマを押し退けて、ヒスイちゃんと寝ているアキラ君を放して立ち上がった。まだ紅葉先生の炎で少し暑くなっているあき君のいる方向に手を伸ばして、彼の肩を触れようとした。
変な事をするつもりはなかった。ただ、炎に焼かれた彼の肩が心配で、火傷が出来ているかどうかを確かめたかっただけだった。
だけど、彼は体をずらして、あからさまに俺の手を避けた。
「ごめん、今は触らないで。」
あき君は俺を拒絶した。
......
...え?
これはどういう意味だろう?
俺は別におかしな事をしようとしている訳じゃないのに、避けられた?
人を虐めようとして、その考えがうっかり表情に出たのなら、避けられても構わないが、本気で心配で手を伸ばしたのに避けられるとか、めっちゃ傷ついたよ。
そんなに俺に触られたくないのか?「イケメン」で「モデメン(決め付け)」だから、俺なんかを相手にしたくない、とか!?
「ななえお姉ちゃん、そうではないのです!輝明お兄ちゃんは......」
俺に声を掛けたヒスイちゃんが不自然に口を閉じた。何かを脳に浮かんだのか、真っ直ぐ前を見つめていた。
ん、前?
宙に舞う塵が落ち着きを見せ、向こうにいる紅葉先生の姿も露わになった。どうして「ドラゴンフレイム」?の後に、追撃をして来なかったんだろうと一瞬思ったが、彼女は何故か俯いて、床に座り込んでいた。
「えっと...?」
周りにいた沢山の魔獣は紅葉先生の魔法に一掃されて、このダンジョンの所々に光る「素材」となっていた。
紅葉先生に操られていたタマの弟くんも、星の小さい弟のアキラ君も動かないで目を閉じている。寝ているようだ。
これは一体、どういう状況なんたろう?紅葉先生はどうしたんだ?
「『魔力枯渇』、魔力を限界までに消耗した人に起こる無気力状態。」まるで俺の心を読んだかのように、あき君が大きな独り言を始めた。「もし、竜ヶ峰紅葉先生が自力でこの状態から抜け出せなかったら、例え魔力が回復できても、『廃人』に成る可能性がある。」
廃人?
その単語を聞いて、俺が真っ先に頭に浮かんだのは、俺に轢かれた男の顔だった。写真でしか見た事のないその顔が、何度も俺の夢の中に入り、無機質に俺を見つめた。
俺自身、一度も「廃人」を見た事がない。なのにその男の幻影が、今の紅葉先生に重なっていく。
「それはどういう意味だ、あき君?」
「ななちゃんの想像通りの意味だよ。俺達が何もしなかったら、紅葉先生が二度と動かないかもしれない。死ぬまで、ずっとあの体勢のまま。」
平坦な声で、冷たい目つきで紅葉先生を見つめるあき君。心配そうに俺の名を呼ぶ先の彼と別人のようだった。
この人、あき君なのか?
いや、考えすぎだ。淡々と語っていた所為で、勝手に「冷たい」目つきに見えただけなんた。
「じゃ、何をすればいい?紅葉先生を『廃人』にしない為に、何をすればいいんだ?」
「それは、俺達が気にするような事か?」
「え?」
あき君の声がどこまでも冷たい。やはり、さっきのは見間違いじゃない?
「魔族と繋がりを持つ連続殺人鬼が正体を隠し、俺達の先生となり身を隠す。沢山の人の命を奪い、一人だけ長々と生きてきた。
ななちゃんも、殺そうとしていた。
そんな人、普通に生きていても法に裁かれて死刑になるだけ、俺達が気にする事はあるのか?寧ろ廃人となった事で、その口から『真実』を聞き出そうとする人達がきっと現れる。死刑が先延ばしにされて、命を奪われた人達よりも長生きして、死ぬ。
そんな人、気に掛けるのか?」
「......」
何故だろう?
あき君の言葉が正しいと分かるのに、その言葉を聞きたくない。
俺が紅葉先生と同じ「罪人」だからなのか?だから、「紅葉先生に不利な言葉」を聞きたくないでいるのか?
「あき君は紅葉先生の事がどうでもいいと思っているのか?」
「そう思えたら、気持ちも少しは楽になれたんだけど...」
あき君は剣を鞘に収めて、背中を壁に寄りかかる。
「先生の授業、とても分かりやすかったよ。」
俺はこの時に気づいた。今のあき君は「冷たい」のではなく、悲しい感情を押し殺そうと、「無感情」になろうとしているだけだった。
喜びを見せない、怒りも見せない。安心も、焦りも、何の感情も見せないようにしている。紅葉先生に無関心な態度をとっている。
それは「子供ではないが、大人に成り切れていない」少年の顔だ。世界の理不尽を知っていたが、まだ納得できていない「大人未満」な顔だ。
「俺だって、先生を『魔力枯渇』状態に追い詰める事、したくなかった。みんなを守る為に、仕方なかったんだ。」
あき君の体が少し震えて、しかしすぐに力が抜いた状態になって、壁に体重を預けた。
そうか、彼は紅葉先生を大事に思っているのか。やはり、彼は優しい男の子なのだな。
彼を傷つける言葉を口にする前に気づけてよかった。
俺はこの世界の人じゃない、この世界の常識を持ち合わせていない。だけど、「夭折子」とか、「貴族・平民」とか、「人生百年」とか、俺の世界と似ていた部分が多かれ少なかれあるものだから、ついつい「常識」も同じものだと勘違いしてしまう。
この世界の「人生百年」は、「人の命がおよそ百年」というものではなく、「人は百年しか生きていてはいけない」という、人の手によって作られたルール。長生きできる種族の人に、長生きできない自分達に合わせてもらう、身勝手なモノだ。
その割に、短命な種族の人間達へのフォローがない。平均寿命三十年のクローンという種族がいい例だ。
しかし、長生きできる人達に長生きさせる事は、その他の人達への「不公平」だ。その事、俺も「長生きできる種族」じゃないから、すぐに考え付いた。
だから「人生百年」というルールが定められたんだろう、「公平」の為に。
何だろうな...分からない。おかしな点が沢山あるのに、どうしておかしいのか、説明が出来ない。
きっと、これは「罰」なんた...神様が俺への罰。
異世界に来た人には力も与えられる、それが異世界モノの王道だが、俺には何にもなかった。
説明も無し、死因も分からない。転生したが、人一倍、体が弱い。鍛えて強くなることもできない。
もし、不慮の事故で人が死に、そのお詫びに異世界にもう一度の生と力が与えられるとしたら、人を殺した俺が異世界に行かされるのは逆に「罰を受ける」為なのだろう。
目をそらして引き籠る俺に、更に大きな理不尽を沢山見せて、俺を苦しめる。
そう考えると、「神」というモノは実に最低で、最悪で、捻くれ者で...貶す言葉が見つからないくらいに最悪なモノなのだろう。
「すぅ、はぁ...」
馬鹿だな、俺は。恨む相手が見つからなかったから、神の所為にしようとしている。
何が正しいのかは分からないが、俺も紅葉先生を大事にしている。あき君と違って、「紳士」じゃない分、可愛い女の子に贔屓する。
「ななえ?ななえ、どこに行くの?」
「大丈夫だ、タマ。大丈夫だから...」
紅葉先生を助けたい、廃人になって欲しくない。
その思いがあって、俺は警戒をしながらだが、紅葉先生に近づく事にした。
「お嬢様...」
「っ!」
びっくりした事に、自分の近くに来た俺を、紅葉先生が先に声を掛けてきた。
「私の体...要らない?傷ついても、すぐに治る...魔法を自由に使える...詠唱も要らない...王族並みの力が手に入る...死ぬ恐れが、無くなる...」
「先生っ...」
「私は、生きてはいけない人間...
親・同族の仇は全員、見つける前に死んでいた...
手を下した方も、命令を出した方も...
私は、恨む相手が見つからず、多く罪のない人の命を奪った...
悪魔の囁きを聞き入れ、人の魂を飲み込んで、今日まで生きていた...
本当の私は、もうとっくの昔に死んでいたかもしれん...
魂が変質して、自分を...『竜ヶ峰紅葉』という人物だと思い込んでいる、全く違う命...」
紅葉先生の息が途切れ途切れで、今にも途絶えそうで怖い。
だけど、これは彼女の罪の告白だ。それを邪魔してはいけなかった。
膝を曲げて、紅葉先生の前に正座する。手を伸ばして、彼女の頬に添える。
......
何も感じられない。気分が悪くならない。
彼女の魔力が、俺が何も感じられなくなる程に消耗していた。
この状態になっている人間は魔力を先に回復しないと、喋る事も大変で、食事を取る事も出来ない。栄養液を直接注入、つまりこの世界では、ポーションの点滴もしくはお注射で魔力を補充しないと、ずっと弱ったままで、最悪「衰弱死」もあり得る。
俺はその事を誰よりも知っている。左小指の指輪を外せば、俺がその状態になるからだ。
「お嬢様...私の体、貰ってくれませんか?」
「......」
やはり...
「私はもう、死にたい...
自分が、自分であるかどうかすら分からない...
体だけが強靭で、最大魔力量も高い...
魔法使うに呪文も要らない、自然回復力もある...」
自然回復力、か。
ポーションのお注射がなくても、そのうち元気になれる種族だな、紅葉先生は。これで、今の紅葉先生が喋れる理由も分かった。
「お嬢様の魂をこの体に移す術は分かってます...
記憶の上書をせず、魂を移すだけなら、お嬢様にこの体を捧げられます...
弱いカメレオンの体を捨てて、ドラゴンの体にしませんか?」
「......」
聞けば聞くほど、いい条件に聞こえる。彼女の話に乗れば、この世界の他の人と同じように魔法が使えるだけじゃなく、体も強く、自然回復力もある。
世界頂点に立つ五大王族に匹敵する体が手に入る。
その言葉が本心からかどうか、ヒスイちゃんに確かめれば簡単に分かる。だけど、ヒスイちゃんに確認したくない。常に他人を疑う自分だからこそ、確かめようとする自分の考えが嫌い。
それに、そもそも「確かめる」必要はない。
「紅葉先生?」
小さな声で紅葉先生を呼んでみた。返事は戻って来なかったが、先生の目が俺を見ようと少し動いていた。
きっと、俺の言葉を待っているのだろう。
なので、俺は続けて言葉を紡ぐ。
「私は嫌よ、先生が死ぬなんて。」
「......」
無反応。
もういい。言いたい事を思い切り言おう。
「私、先生が好きなんだ。好きな人が自分より先に死ぬなんて、絶対に嫌。大体なんだ、私に体を渡すだなんて?されても嬉しくないし、そうなった私はまだ『私』と言えるのか?」
今の俺が既にそんな状態だ、自分が「自分」なのかが分からない。
「俺は俺だ!」と何度も自分に言い聞かせて、深く考えないようにしているが、また紅葉先生の体に乗り換える事でもしたら、いよいよ自分が何なのかが分からなくなるのだろう。
紅葉先生の命と引き換えになら、尚更ごめんだな。
「先生は頑張って来たんだ。
生きるに一所懸命で、『理不尽』と戦って、普通の幸せをまだ体験していないでしょう?
彼氏を作って、結婚して、子供を育てて...『死にたい』だなんて、言わないでくれ。」
「私は...大勢の人を殺してきた...」
「だから?」
「自分が生きたいから、人の魂を喰らって...
『夭折子』を先に選ぶようになったのは、多くの魂を喰らってきた後だ...
必要なら、夭折子じゃない方も喰らうつもりだ...」
「だから?」
「私は、多くの命を奪った悪人、死ぬべきだ...」
「そんなの、私知らない。
私にとって、既に死んでいる多くの人より、今生きている紅葉先生の方が大事!
出来るだけ『夭折子』を選ぶようにしたでしょう?それは『改心した』という事!
悪戯に人の命を奪う悪人ではない。」
「でも、」
「先生だって、両親は人に殺されたんでしょう?それで人を恨み、復讐しようと人の命を奪ってきた。
家族の仇に死の裁きを望まない人なんていない!
先生が悪人なら、先生の両親を殺した人達も悪人、『人生百年』というルールを作った人達も悪人、それに愚直に従う人達も悪人、それを変えようとしない人達も悪人。」
「......」
「本当の事を言うと、分からないんだよ、私も。
先生の告白を聞いて、あき君の正論を聞いて、悩んで、頭の中がごちゃごちゃになって、訳が分からなくなっているんだ。」
俺が持つ俺の世界の常識をそのままこっちの世界に当てはめてはいけないと、紅葉先生の過去を聞いて気付いた。前提条件が違えば、ルールも違うべきだ。
...違う種族で違う命、寿命の長さが違うのに、同じ寿命に限定するのが勝手だ...
...同じ知性ある命、言葉を交わせる生き物なのに、一部だけが長生きできるなんて不公平だ...
こんな感じで、今の俺の頭の中では混沌そのもの。訳が分からない。
「それでも分かる事は、私は先生に死んでほしくないということだけ。あれだけの事をされても、私は君に生きていて欲しい。
君がただ人を恨む『化け物』などではないっ!
人と一緒に暮らして、言葉を交わせて、普通に生きていて、私達と同じ『人間』じゃないか。」
「でも、私は多くの人の命を奪ってきた。その数、間違いなく極刑...」
「そんなの知らないっ!
私、法律の話なんて知らないっ!しかも、その法律は『人生百年』というルールを作った人達が作ったモノでしょう?
紅葉先生がそれに従う義理がないっ!」
「...じゃ、私に殺された人達の家族は?その人達に、どうするつもり?」
「つ、償う...『死』以外の方法で償うっ!
私も手伝うから、紅葉先生の償いに力を貸すから!」
「私の『死』以外はダメという人が現れたら?」
「そもそも、私は紅葉先生の事を世間に公開するつもりはないっ!黙っていれば、誰も知らないっ!」
「...それは、間違いなく『間違い』だ。正しくない。」
「知らない知らない知らないっ!分からない!
『間違い』だからなんだっ?『正しくない』だからなんだっ?
元々『間違い』から発生した『間違い』、『ここで断ち切る』なんて、解決策じゃないっ!
紅葉先生にだって、報われるべきだ!」
感情に任せて言いたい放題。いい大人の俺が、何言ってんだろうな?
「結論なんて出さない!分からない事に『とりあえずこうしよ』なんてしない!
後回しだ、後回しっ!
紅葉先生はこのまま生き続けてください、後の事は私が何とかする。お父様に頼んで、お金の力で被害者達に償いをする。
出来る分は全部する、出来ない分は、えっと...何とかするっ!
兎に角、紅葉先生は生きててください!これは私の我が儘だ!」
「私は、もう生きたくない、死にたい...」
「嫌だ、死なせない、死んで欲しくない。
どうせ要らない命なら、私が貰う。
考え疲れたなら、何も考えるな、私に従いなさい。再び生きる気力が沸いた時に私に言いなさい、また自由にしてあげるから。」
紅葉先生の頭を抱えて、真っ直ぐにその両目を見つめる。
「お願いだから、私に守らせてよ...」
ふっと、自分が今泣いている事に気付いた俺だが、それでも両目を閉じる事をせず、先生が頷くのを待ち、ずっと紅葉先生を見つめた。
「やっぱり、お嬢様はお優しいですね。」
そんな俺の気持ちがようやく通じたが、暫くして、紅葉先生は顔を赤らめながら、小さく頷いてくれた。
「こんな私でよければ、また、お嬢様のメイドにして頂けませんか?」
「め、メイド?」
どういう意味?
紅葉先生が俺のメイドになりたい、ということよね。
元々守澄家のメイドの一人だと聞いているが、どうして急にまたメイドをやりたいと言い出したんだろう?
......
あー、もー!訳が分からない!
何か色んな事が起きてて、頭の整理がつかない!やけに暑いし、ここ!
もういいよ!自分の欲望に従う!
「別に私としては構わないが、『給料』に関する話は早苗ちゃんと相談してくれよ。」
「ふふ、分かりました。」
「それに、本気で紅葉先生の事を隠すつもりだよ。自分からバラすなよ。」
「お嬢様の仰せのままに。」
「う、うん。」
何だろう?「勝負に勝ったら、先生がメイドになってくれる」って話、なんかの作品で読んだ事があるような、ないような...
謎の展開だが、万事OKでいいのかな?
「じゃー、まー...先生の仕事も続けてくれる?」
「はい。」
「分かった、君を私の直属のメイドにする。それでお父様に反対されたら、大喧嘩する。
絶対、君を私のメイドにする事を約束する。」
「有難き幸せ。守澄メイド隊四番、竜ヶ峰紅葉、只今をもって復職致します。」
こうして、俺と紅葉先生の戦いが終わりました...あき君達をおいてけぼりにしているけれどね。
四番が今までずっと欠番だったんだ