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第十節 再会②...暴走

今回は短めで

「もういい...」

 紅葉先生がそう呟いて、ゆっくり、手の平を俺達の方に向けて右手を掲げた。


「お嬢様を気遣って、魔法を使わない様にしていたが...もうどうでもいい、無理してしなくていい。ただの『実験』に、感情移入して...研究者失格。」


 その手の平から、突然小さな火の弾が現れて、タマに向かって飛んだ。


「やばっ!」

 急な事だが、タマは直ぐに反応し、一度弟くんと距離を取った。その後、近くに落ちていた光る何かを拾い、自分に向かっている火弾を狙って投げた。

 あの光るモノが火弾とぶつかて、眩い光を放ってから、火弾と一緒に消えた。

 距離を取られたタマの弟は無表情に、ゾンビのようにタマを追い、拳でタマを突く。それに対し、火弾に一瞬気を取られたタマだが、難なくその拳を受け流した。


 突発的な出来事に素早く判断し、行動する。その上に今現在に行なっている事への対応に怠らない。そう考えると、なんたかタマが凄い達人に見える。弟くんだけなら、目を閉じてても相手できそう。


「所詮は人間!どれだけ気にかけても、私の心を理解できない!『理不尽』から救おうとしてるのに、黙って従ってくれない!私を悪人扱いして、私を責めて...私はお嬢様の為に、自分を捧げようとしてるのに、どうして私を責めるの?」

 そう言って、紅葉先生の手の平から今度は氷で出来ている菱形な塊が飛び出た。

 が、その氷の塊が途中で勢いを無くして、タマに届く前に床に落ちた。


 紅葉先生の体が震えている?声も少し泣き声に近い。

 まさか、泣いているのか?何故今頃、そして何の為に泣いているのだ?

 その言葉の中にヒントがあると思う。まさかと思うが、紅葉先生は...


「もう、いい。全員死んで...死んじまえ!」


 紅葉先生の手の平から続々と魔法の弾が発射された。シイちゃんの魔法銃弾程の威力はないが、属性がバラバラで、それによっての飛ぶ速さも違い、読みにくい。

 だけど、最初の一発から大分経ってからのお陰で、俺もタマも、心の準備が出来ていた。


「日暮流拳法型破り、投擲相殺!」

 タマは次々と床に落ちている数々の光るモノを拾い、投げるや蹴るやと俺達に飛んでくる魔法の弾にぶつけていく。同時に弟くんの相手もしているが、流石に余裕がなくなっていたか、途中で弟くんを一回遠くに投げ飛ばした。


「タマ、大丈夫?」

「『大丈夫』...と言いたいが、ななえ...っ、偶然にも私の武器、っや!持ってない?どれでもいいから!」

「武器?」


 タマの武器?何のことだ?

 恐らく、この世界の人々はみんな「自分の武器」という物を持っているのだろう。例えば神月椎奈(シイちゃん)、最初は「双銃」が彼女の武器だと俺が思っていたが、実はその「双銃」は「銃」と「グローブ」の両形態を持つ魔道具であった。

 あき君にも自分だけの武器がある。今はちょっと見えないところでシイちゃんと戦っているが、彼が今も使っている大きな宝石が装飾されている剣が彼の武器なのだろう。

 そんな感じで、タマも多分「自分だけの武器」を持っている。それを欲しがっているみたいだが、俺が持っている訳がないだろう!


「拳闘士なのに、武器いるの?」

「もう破門されてる、シャオッ!それに、魔法には同じ魔法か、魔道具でしか対抗できない。私は、魔法が苦手、っ、魔力が込めてる魔道具がないと、魔法を打ち消せない。」


 へ~、初めて知った。

 でも、考えれば分かる事だから、それほど驚きもない。


「なんかないの?何でもいい!私が未加工の『素材』を使い切る前に、魔道具を...」


 タマが言う「素材」という物は恐らく床に落ちている「光るモノ」の事だろう。

 よく見ると、それは先ほど紅葉先生が「物入れ結界」から取り出して、異様な魔獣に変えた動物の骨や肉だった物。何故か今は光っているが、「素材」って事は、それが「魔道具」の「原材料」であろう。

 知りたい・訊きたい事が色々増えてきて、知識欲がこれ以上無いほどに高ぶっているが、今俺に答えを教えてくれる余裕のある人は居なさそうだ。


「魔道具、魔道具、魔道具...」


 俺が知っている魔道具...今、俺が持っている魔道具...神器(しんき)祝福の指輪(デザイア)、俺の指に付けられている指輪しかない。

 外したら、俺の生命維持魔力(HP)がすぐになくなっていき、一時間も経たない内に死ぬのだろう。

 でも、それ以外の魔道具は今持っていな...いや、持っている!

 持っているが...使いたくない!男にとって、命を捨ててでも欲しい夢の「魔道具」だ!とても魔法を打ち消す為だけの「消耗品」にしたくない!


「タマ、『指輪』でも大丈夫?」

「『指輪』?」光る骨を手にして考えるタマ。そして、俺が言う「指輪」の正体に気づいて、タマは慌てて「ダメ!それは絶対抜くな!」と叫んだ。

 その時に、タマがうっかり「光る骨」を使って、弟くんの頭を叩いた。幾つもの魔法を打ち消して尚壊れていない丈夫な骨だったが、魔法じゃない人の頭を叩いた所為で、折られてしまった。


「オウゥ...」

 痛そうに頭を抱えてしゃがむ弟くんを見て、俺も叩かれた錯覚に陥って、自分の後頭部を触った。


「ごめん、(せい)ちゃん...」

 タマも申し訳なさそうにしていた。が、すぐに別の「光るモノ」を拾い、続けて襲い来る紅葉先生の魔法弾を打ち消していた。


 魔獣、魔法の弾、そしてタマの弟。それらを同時に相手しているタマは実に凄いと思う。

 しかし、魔法の弾を打ち消せる「素材」の数は減っていく。魔獣を一匹倒せば、おまけに「素材」が一個増えるが、減る速さと比べて全然間に合わない。


「どうしましょう、ななえお姉ちゃん?このままでは、『タマ』さんが負けてしまいます。」心配そうな声を出したヒスイちゃん。

 その通りだと思う。このままではジリ貧、「素材」が先に使い切って、タマが魔法の弾に倒されてしまう。


「タマ、『指輪』しか持ってないんだ!本当に要らない?」

「要らない要らない要らない!絶対に外すな!」

 自分の方がピンチなのに、タマはそれでも俺の事を心配してくれる。


 ...それでも、俺は「透視眼鏡」をタマにあげないぞ!


「くっ、このっ...まだある!柳先輩が居たら...くっ、せめて、っ、喋れよ!」

 魔法の弾を打ち消し続けているタマが落ちている「素材」の減り具合を見て、段々と焦りを見せ始めた。今はまだ大きな傷を付けられていないが、言葉遣いが乱暴になり、動きも荒くなった。


「『詠唱省略』、それが純血種ドラゴン族の種族魔法(カインドマジック)だ。魔法の研究が進み、今は多くの呪文が短縮化出来ているが、それでも『詠唱省略』には大きなアドバンテージがある。」

 自分の強みを語る紅葉先生だが、とても自慢しているような語調ではなかった。


「純血種ドラゴン族?アドバンテージ?」タマが紅葉先生の言葉を繰り返した。


「呪文はどれだけ短縮出来ていても、口にしないと魔法が使えない。そして、呪文を口にした以上、使った魔法もある程度相手に読まれる。前もって対処も出来る。」紅葉先生はタマの疑問に答える同時に、魔法の行使も止めていない。「口を使わなくても魔法が使える。どんな魔法が使われるのか、目で見るまで分からない。目で見えない魔法なら、使われる事に気づく事も難しい。」

「なぜ、くっ、その事を私達に教える、ななえお嬢様の先生?」

「もう、どうでもいいのよ。何もかもがどうでもいい...」


 タマがますます苦境に陥っていく...やはり、あげないといけないのか?この、「透視眼鏡」を!


「ななえお姉ちゃん、ななえお姉ちゃん」ヒスイちゃんが俺の袖を引っ張る。

 行動は可愛らしいが、俺は今まで生きて来て最も大きな決断をしなければいけない状況で、返事する余裕がなかった。

 でも、ヒスイちゃんは心が読めるから、俺のこの状態に気づいてくれたか、続けて喋った。


「メガネはアクセサリーですから、武器として使えませんよ。」

「なん、だと!?」


 言われてみると、その通りだった。何で気づけなかった、俺?

 いや、気づきたくなかっただけかも。

 心のどこかで、「透視眼鏡」さえ手放せば、今の俺達が不利な状況を何とか変えられると、甘く考えていた。

 指輪もメガネも、どっちもただのアクセサリーで、あげてもタマの助けにはならない。

 認めるべきだ、今の俺達は簡単には挽回できない劣勢に立たされている事に。それを認めた上で、解決策を考えなければいけない。

 ......

 もう少し、紅葉先生に声を掛けてみよう。

 今の不利な状況、元々俺が彼女を弄りすぎた所為によるものだ。彼女をぶち切らせて、魔法を使わせた。俺はこれに対して、責任を取って、なんとかしなければいけない。

 それに、まだ何かを隠しているようだ。隠している事全部、教えてもらおう。


 クールだけど、感情のコントロールが出来ない事がある。甘さである、隙である。

 そして、そういう時に口にした言葉はきっと本音なのだろう。心からの言葉、隠せなかった本心なのだろう。

 それを聞いてから、どうしてだが、俺はもう紅葉先生を「敵」だと思えない。俺達が圧倒的に不利だが、俺は彼女に傷をつけたくない。


「紅葉先生!お願い、もう止めて!どうして私達が戦ってるの?別に私の事が嫌いという訳ではないのでしょう?」

 ピュアガールを装ってみた。


 これに対して、紅葉先生は頭を俯いて、独り言を語るみたいに喋りだした。

「お嬢様の事、嫌いじゃない。だから、殺さなきゃいけない。」


 理屈に合わない事を言う...


「どうして?嫌いじゃないのに、どうして『殺さなきゃ』なの?私を生かせようとしたじゃないの?」

「その考えがいけなかったんだ!その感情がいけなかったんだ。私は...ただの人間に、思い入れしすぎたんだ。」

「『ただの人間』?紅葉先生も『人間』でしょう?ドラゴン族でしょう?」


 パッと見、この世界の「神」と違い、「この世界の人間」が必ずある動物部分のパーツがない。嘘じゃないと思うが、彼女は「ドラゴン族」だという事はあくまで彼女の自称だ、真偽が不明。

 なので、実のところ、彼女の正体を証明できる物がない、と言っても良い。「口先の約束は破る為にある」と同じように。

 ...実は「神」だったりして?「括弧笑い」を付けておこうか?


「私は、私は...人間のフリをした、化け物だ。」

「え?」


「ななえお姉ちゃん、怖い。」

 ヒスイちゃんが体を小さくして、俺の背中に隠れた。サトリの彼女が紅葉先生から、何かを感じ取ったのか?


「純血種のドラゴン族は成長が遅い。九十年を生きて、心が赤ん坊な人もいた。しかし、『人間百年』が決まり、世界共通の認識になってから、純血種のドラゴンもそれに従う事を強いられた。それが嫌で、逆らったら...はは、私だけとなったよ。みんな、殺されて、父も、母も、『邪竜』として...『討伐』された。」

「そんな...」


 俺がこの世界で習った「人間百年」というものは、ただの「寿命」の話ではないのか?

 紅葉先生の話を聞くと、まるで「百歳になったら、死ね」と、人が人の寿命を勝手に決めているようで...まさか?


「だから、私は『人間に復讐』と決めた。人間の魂を喰らい、『寿命検査』の魔法を何度も騙して生きてきた。もうどれくらい喰ったのも覚えていない、正真正銘の化け物だ。」

「っ!」声を上げないように、手で口を塞いだ。


 人間の魂を喰らう!?

 そんな事が出来るとは思えないが、それはもう「過去」の話だ。

 タマが生き返って、俺の目の前にいる事や、それ以外も色々な事で、俺はもうこの世界に「魂」というものがある事を事実として受け入れていた。

 だから、驚いた。紅葉先生が言う「魂を喰らう」のを聞いて、驚いた。

 驚いて、恐怖を感じた。この世界の他の人と同じように、「魂を喰らう」紅葉先生に恐怖を感じた。


「今まで、お嬢様以外にも沢山、『夭折子』を見てきたよ。どれもこれも、生まれてすぐに死んで、その魂を喰らって『有効利用』してきた。何にも思わなかった。」

 言いながら、紅葉先生は片手で胸を押さえた。彼女が出し続けていた魔法の弾も、同時に襲ってくる数が減っている気がした。


「お嬢様だけだよ、『夭折子』なのに、すぐに死ななかった。しかも生きていて、一所懸命に生きようと頑張っていて...それを見て理解したよ、『夭折子』だって、死ぬ為に生まれたい訳ではないのだと。『夭折子』でも、生きようとしているのだと。」

 紅葉先生が凄く辛そうに、今にも泣き出してしまいそうだった。


 先ほどまで、俺はまだ少し「茶化す」気でいた。自分がピンチでも、他人をおちょくって、面白おかしく物事を進ませるのが俺の趣味だからだ。

 でも、今はとてもそういられない。紅葉先生の言葉を聞いて、彼女の思いに少し触れただけだが、その思いに完全に理解できなくても、その辛そうな声だけで俺も辛い。

 それに、紅葉先生の気持ちが全く理解できない訳でもない。


「だから、生きていてはいけないんだ。」

「......」

「お嬢様が生きようとしているから...私以上に、『理不尽』に押し潰されそうになっているのに、頑張っているから、私がお嬢様に『自分の代わりに生きて欲しい』と思ってしまうのだ。」

「そう。なるほど、ね。」


 自分にとって邪魔なモノなら、例え「好きだったモノ」でも、断捨離しなきゃいけない時がある。

 その気持ちも分かる、大人だからな。


「お嬢様がいけないのだよ!頑張っているから、生きているから!お嬢様の所為だからね!」


 急に、紅葉先生が全ての魔法を止めた。それと同時に、タマと戦っている弟くんも、俺の服を強く掴むアキラ君も、糸が切れた操り人形のようにぶっつりと床に座り込んだ。


「アキラ君?」

 アキラ君の顔を上げて、様子を確認する。

 意識はない。気を失っているようだ。


 まだ動ける魔獣達も突然「足」を止めて、何かに怯えているように身を縮めっている。

 何だ?何が起きるのか?


「大変です、ななえお姉ちゃん!ドラゴンブレイズ!ここに残ってはなりません、またドラゴンブレイスが来ます!今度はこちらに来ます!」

 ヒスイちゃんは酷く怯えている。その怯え様からして、紅葉先生がとんでもない事をしようとしているのが分かる。


 しかし、逃げるにも、どこに逃げればいいんだ?

 ここは細い一本道だ。そのお陰で、ここでタマ一人で「無双」が出来たが、その所為でどこにも隠れる場所がない。


「お嬢様、お願い、死んでください!」

 詠唱を必要としない紅葉先生が大きく息を吸って、俺達にこのダンジョンの通路を埋める程の大きな炎を吐き出した。


 大きな火柱がこっちに延びてくる。通路全体に充満して、予想通りに逃げ場はなかった。

 急いで部屋の中に戻る?いや、間に合わないだろう。

 間に合うとしても、火柱がドアを壁毎を溶かせそうで、意味がないだろう。


 タマが弟くんを抱えて、「ななえ」と叫んで俺に駆け寄ってくる。俺達を火柱から庇って、守ろうとしているのだろう。

 気持ちは嬉しいが、庇い切れないだろう。一緒に燃やされるオチが見えている。


 嫌だ、死にたくない。

 そう思っても、打つ手はない。

 まるで臨死体験をしているようで、何もかもがゆっくりに感じる。走馬灯も見えておかしくないのだが、意外と何も浮かばなかった。


 急に「眠ってる力」が目覚めないかな?

 タマに抱きしめられて、俺はボーっとどんどん近づく炎を見つめて、そんな事を考えた。

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