第十節 脱獄①...試みが捧げに呆然と
基本、異世界に転移・転生する主人公達は何らかのスキルを手に入れてるよね。
「全身が痛い...」
俺は硬いコンクリートの上で目が覚めた。
全身が痛い、あちこちが固くなってて辛い、首も痛い。
いつのまにか、懐にいた小さなコンロちゃんがいなくなっていた。ちょっと寂しい。
タマは?まだ目が覚めない。もう二度と目が覚めないかもしれない。
「それはごめんだな。」
疲れた体にムチを打ち、立ち上がる。
状況を認識し、周りを確認する。
ここはとある「世紀末風」の部屋の中。眩しく光る室内灯のお陰で、部屋の隅々まで良く見える。
出口となるのは紅葉先生が使った扉一つだけ、反対側は壁崩れて、その先が埋もれていた。
まるで電源がまだ生きていた廃墟みたいで、ワクワクする!
でも、今だからワクワク出来たのだが、もし最初に目覚めた時に紅葉先生が側に居なかったら、俺はどうなるだろう?
この性格故に、まずは冷静に自分のいる状況を確認するだろう。
突然に見知らぬ場所で目覚めた事を認識したら、今度は怯えるようになるのだろう。
何も見えない部屋の中、パソコンだけが怪しく光るとか、怖すぎるだろう!
タマ――死体という事で、いきなり目にしたら、めちゃくちゃびっくりするのだろう。涙を流す事だってあり得る。
当然だが、男である俺は涙なんか流さない。恐怖を感じた時点で、いつものように「怒り」という感情を使って、それを消しているだろうし。
だから、「怯えて泣く」とかいう話は俺が女の子ならという前提からの想像。女の子なら、怯えて可愛らしく啜り泣くのだろう。
だが、目覚めた時に、紅葉先生が側にいた。偶々と考えるのも良いが、「故意」である可能性も考えられる。
女の子の俺が目覚めた時に、怯えてパニックに落ちいない為、目覚めるまでに側にいてくれた。
勝手に自分の中で紅葉先生を良い人にして、そのイメージをどんどん膨らませる。
やはり、俺は女の子が好きだな。
結局、紅葉先生は何を研究していたのだろう?
マウスを使って、パソコンを操作していたな。パソコンの中を覗けば、何かが見つかるのかもしれない。
タマは未だに目覚めないし、目を覚まさせるにはどうすればいいのか、その方法は見当もつかない。記憶の事も何とかしなきゃいけないし、「魂」も...訳も分からない事が一杯だ。
どこから手を付ければいいのか、全然分からない!
「ガァ!迷路のど真ん中に放り込まれた気分だ!」
両腕を高く上げて、大きな欠伸をした。
何もしないにも暇なだけなので、まずはパソコンの中身を見る事にした。
俺はタマから離れ、点滅するパソコンに近寄った。
「なにこれ...?」
箱だ。
ずっとパソコンだと思っていた物は四角箱の形をした、ただのモニターだ。
パソコンではなかった、コンピューターだった。
しかし、このコンピュータにキーボードはない、筐体もない。電源はどこかに繋がっているみたいだが、モニターとマウス以外何もない。
マウスは直接にモニターに繋がっている...コンピューターの本体もないのに、どうやってだたのモニターを操作しているんだ!?
「うわ~...」
「ありえない!」という気持ちを表現し、俺は「うわ~」という間抜け声を出してしまった。
まぁ、何事もやってみないと分からないから、とりあえずマウスをクリックしてみた。
「あ、動くんだ。」
どうやら、ただのモニターではなかったようだ。
マウスだけで操作できるモニターは俺の持っている知識の中にはない。でも、実はそういうモニターもあるけど、ただ俺が無学なだけの所為で、それを知らなかったかもしれない。
ただのモニターではなく、パソコンに近い簡易化したコンピューターかもしれない。とても持ち運びやすいように見えないが、電源コードが一つだけで、使い手によっては「ややこしくなく使いやすい」という意見も出てくるかもしれない。
それはさておいて。
「操作できるのなら、話が別だ。異世界にある電子機械操作術というやつを魅せてやる。」
拳を握り、できる人っぽく指を鳴らそうと思ったが、今の俺の手が女の子の手で、柔らかくて中々音が出せない。
まあいい。誰にも見られていないし、恥ずかしくない。
「どれどれ?」
近くの椅子に腰かけて、マウスをクリックして、モニターが見せたあるファイルを開く。
......
...
「ダメだ!」
想像以上に操作が難しくて、思い通りにコンピューターが使えない!
「大体!紅葉先生も紅葉先生だよ!ちゃんとファイルを名前別に分類して、整理整頓しろっての!」
コンピューターの中のファイルはみんな真っ白な紙のアイコンしていて、点もその後ろにある拡張子も何もない!ファイルを開けるプログラムがない!
紅葉先生は一体どうやってこのコンピュータを操作していたんだ?開けないのに、どうやって誰の記憶とか、確認するのだ?
もしかしたら、タマの記憶も見つけるのかなと思ったのに、ファイルが多すぎて名前が適当で、その上にチェックも出来ないから、見つけられる訳がない!
USBもない。接続できるUSBポートらしき穴はあるが、周りを隈なく探して、マウス以外に何も見つからなかった。
全く役に立たない工具箱は見つけた。中からドライバーを触った瞬間、そのままドライバーをモニターに突き刺したくなっていたが、な!
「ハァアアアア。」
引き籠りの時期に培ったパソコン技術が全く役に立たなかった。この世界に、「太古の遺産」を操作する事に俺以上出来る人はいないと思っていたが、俺も出来ないじゃ意味がない!
「にゃ~」
茶色の猫が俺の足に頬ずりする。
「猫ちゃ~ん。」
猫を見ただけで、俺の荒れた心が癒される。
少し体をずらして、猫ちゃんが俺の膝に乗れやすい状態にした。
「おいて、猫ちゃん」軽く自分の太ももを叩いた。
「うにゃ~」
俺の意思を組んだのか、猫ちゃんは俺の思い描いた通りに膝の上に乗ってくれた。
毛の流れに沿って撫でる。頭から尻尾まで、全身隈なく撫でる。
そうしている内に、猫ちゃんの方もゴロゴロと喉を鳴らし始めた。気持ちのいい証拠だ。
「君が『癒し』だ~」
「~~~」
猫ちゃんを抱きしめて、ベッドにダイブイン。
「にゃ!」
「おお、大丈夫大丈夫。」猫ちゃんの体を撫でる、「怖がらなくていいから、大丈夫だから。」
「ゴロゴロ。」
猫ちゃんをびっくりさせてしまった。でも、逃げられていない、大人しく俺と一緒にベッドの上でリラックスしてくれた。
可愛いな、猫ちゃん。
疲れた。
大して動いていないのに、疲れた。
無力の自分に疲れた。
......
...
...暇だ!
「暇、暇、暇、暇、暇!」
何もしないのは辛い!
そういえば、この室内の電源はどこだ?普通なら、スイッチは室内に設置する筈なのに、紅葉先生は一度外に出てから電気を付けたんだよな。なら、スイッチは外にあるだろう。
それはおかしい。きっとどこかにスイッチが隠れているに違いない。
「探すか。」
猫ちゃんを放して、体を起こす。いざ、灯りのスイッチを探す旅へ。
「あ!」
二秒も経たない内に見つかった。
ドアの近くに壊れた電源スイッチが剥き出しな状態で、そのまま放置されていた。
「はぁ、暇だ!」
仰向けして、ベッドに倒れこむ。
いっそ、その剥き出ししているスイッチを触って、感電死でもしよっか?
「はぁ。」
アホな考えだ。
このまま、ずっとここに閉じ込められたままなのか?いつになったら、ここから出られるのだろう?
紅葉先生は俺を外に出す気はあるのか?
「よしっ、出る方法を考えよう!」
俺は体を起こし、出る方法を考える事にした。
ここは室内。
基本、部屋の設計考えれば、ロックのある部屋は必ず室内から開錠しやすく、室外からは開けにくい筈。
室内なら手でロックを外せる仕組みで、室外なら鍵がないと開けられないのが決まりだ。
なら、普通に鍵を開けて、外に出れば良いじゃない?
「大した問題ではなかったな。」
俺はそう思って、ドアに手を掛けた。
「...何で?」
鍵穴がある。
え、室内なのに鍵穴?何で?
二重ロック?にしては、鍵穴の必要性が感じられない。中からロックを掛けるのに、鍵とか使うの?使わないよな!
なら、どうして鍵穴?
すぐに考えられる可能性は一つある。
「ここは元々『室内』じゃなくて、『室外』というような所かな?」
反対側の壁が崩れているし、その向こうに何があるのかは分からない。ここは「室外」である可能性は十分にある。
そして、ここが室外なら、鍵穴がこっち側にあるのも理解できる。
「しかし、鍵穴か。まだまだ甘いね、この世界!」
電子ロックだったら、そこで「お終い」かもしれないが、電子じゃないロックなら、開錠は使えるね。
丁度工具箱がある。ドライバーやハンマーなど、色んなものが入っている。それらを使って、開錠して、ロック開錠して、外に出ようじゃないか!
よし!ゲームの時のように上手くいくとは思わないが、何回・何十回続ければ、いつかはコツを掴んで、鍵を開けられるだろう。
「偶然に、このタイミングで帰ってくるなよ、紅葉先生。」
初めての開錠作業、開始。
......
...
「カァアアア!ダメだ!」
俺はドライバーを投げ捨てた。
甘く見ないつもりで始めたピッキング作業だが、いつか開けられると思っている時点で、すでに「甘く見てる」という事みたいだ。
試行錯誤を重ねれば、いつかは成功すると信じていたが、そう簡単ではなかった。穴に何かを差し込めば開けられるなら、「何の為の鍵だ」っつうの!
ゲームのようにいかないとか、そもそもゲームの方は「開けられる事を前提」にプレイヤーにピッキングさせているのだから、開けられないように作られた現実の錠前と混同してはいけない。そんな簡単な事に、何で気づかなかった、俺?
「万事休す...」
もはややれる事はなくなった。そう思って、俺はタマのところに戻った。
このまま、タマと一緒に寝よう。寝ていれば、時間がすぐに過ぎていくのだろう。
「にゃお~」猫ちゃんが寄ってきた。
「ん?どうした?」
「にゃお~」
「うんうん、なるほどね~。」
全然分からないけど、猫語を一所懸命喋る猫ちゃんが可愛い!可愛いが全てだ。
「ん、また床で寝る?」
素直に自分の今の行動に疑問を感じた。
折角ベッドがあるのに、無理に床で寝なくてもいいじゃない?
そうだな。タマを運んで、一緒にベッドで寝れば良いじゃないか。
「それを俺に伝えようとしていたのか、猫ちゃん?」
「にゃ~」
「そかそか、可愛いね~!」
何言っているのか、全然分からない!
でも、可愛い!
「じゃ、タマを運ぶから、ちょっと離れててね。」
俺は片手をタマの首に、もう片手をタマの膝の下に入れた。
「むっ...」
持ち上がれない。
「ふん!」
全力を出したが、タマの体はピクリともしない。
忘れた訳じゃないが...いや、忘れてたな、今の俺はとびっきり体の弱い女の子である事を。
どうしよう?一人ではとてもタマを持ち上がれない。
「タマ重っ!」
八つ当たりした。
「にゃあ~」
「おおう、よしよし。どうしたの、猫ちゃん?」
どうやら本当に俺に何かを伝えようとしている猫ちゃんだが、申し訳ない!俺は猫語が分からないんだ。
持ち上がれないなら、引っ張るしか手がないが、タマの綺麗な肌に擦り傷を増やしたくないんだよな。
でも、待って!引っ張るより、転がしたら、どう?その方が擦り傷も少なく済むし、力もそれ程いらない。
なら、転がすか、そうしよう。
「ふむ...」
やり方は決まったが、やはり女の子の肌に傷を残したくないという自分がいる。それ故に、更に良い方法はないかと、また頭を回してしまった。
「掛け布団、だな。」
転がすなら、別にタマ自体をそのまま転がす必要は全くない。布団でグルグルして、布団ごと転がせばいい。
「OKだ。」
今の俺にとって、まだ「持ち上げられる」くらいに軽い布団を取ってきて、タマに被せた。
「巻き寿司って、こんな感じで作られたのかな?」
タマに被せた布団の一部を床に付けて、少しだけタマを転がして、布団の上に乗せた。その後は布団と一緒にタマを転がすが、何故が子供の頃の運動会で、『玉転がし』という競技を思い出した。
俺は一度もその競技に出た事がないが、今と同じ感じなのかな?同じタマを転がす行為だからね。
そして、ベッドの隣までタマを転がした。
「ここで問題です!『私』はどうやってタマをベッドの上に乗せれば良い?」
詰んだ。もう打つ手がない。
カチャッ。
扉のロックが開錠された。
紅葉先生が戻ってきた!?
「...何している?」
「あ、アハハ...『タマ転がし』?」
見られると、すごく恥ずかしい。
しかし、紅葉先生は特に気にしていないようだ。彼女は何かを引っ張って、その何かを部屋の中に入れた。
「痛っ」
入ってきたのはまだ幼い男の子だった。金髪で、珍しい緑の瞳をしている。
将来イケメンになるのだろうな。生まれた時から勝ち組だ、ケッ。
しかし、どうして紅葉先生は幼い男の子を連れてきたのだ?遂に未成年に手を出すつもり?
「今日からここ、逃げられると思うな。」
「ベェ~」
男の子は紅葉先生に舌を出して、部屋の隅っこまで逃げていた。
見た感じ、恐らく小学生程度の歳だろう。その歳の男の子なら、誰から見ても「可愛い」と思うだろうから、俺もうっかりその子を目で追ってしまった。
誰からもきっと「可愛い!」と思うから、俺もきっと「可愛い」と思ったんだ!決して見惚れた訳ではない!
「あ!ちょっと待って、紅葉先生!」部屋から出ようとした紅葉先生を慌てて呼び止めた、「ちょっと運ぶの、手伝ってくれない?」
「ん?」
「タマをベッドの上に乗せたいが、重くて持ち上がれない。一緒に、重いタマをベッドの上に乗せよう!」
紅葉先生は暫く俺を見つめて、何故が溜息を一回した。
そして、服の大きい右ポケットの中から鍵らしきものを取り出して、ドアの鍵穴に差し込んだ。
カチャッ、ロックする音がした。
紅葉先生はその後、その鍵らしきものを抜いて、再び自分の服の右ポケットの中にソレを落とした。
なるほど、やはり「鍵」だったのだな。これで、鍵がどこにあるのかが分かった。
ちょっと俺の窃盗スキルを試してみよう。
紅葉先生は何も言わずに俺の方に歩いてきて、ベッドの周りを通って、そのままタマの足に手を伸ばした。
「あ、待って!」俺は急いで紅葉先生を止めた。「こっちの——頭の方を持ってくれない?」
紅葉先生にタマの足を持たせたら、鍵が入ってるポケットが反対側になる。手が長く伸ばさないといけないから、窃盗の失敗率が高くなる。
「ちょっと、えと、重くて!うっかり手の力が緩んで、タマの頭を落としたら、大変!タマがもっと馬鹿になる!」
それなりにいい言訳をしたつもりだが、信じてくれるのかな?
「......」
「......」
「......」
「......」
沈黙がキツイ!空気が重い!告白したくなる!
しか~し、ここで耐えなきゃ!耐えられなかった方が負けとなる!
さあ、折れろ!紅葉先生!
「はぁ...」
また溜息を吐かれた。
しかし、どうやら沈黙に勝ったのが俺のようで、紅葉先生はタマの足に触らず、俺の方に歩いてきた。
「すまない、助かる。」
俺は体をずらして、紅葉先生と位置を交換した。
今日の紅葉先生は俺に一言も喋らなかった。
なんか怖いな、今何を考えているのかが分からない。
紅葉先生はタマの背中に右手を添えて、左手でタマの頭を支える。俺も一緒にタマの膝裏に右手を入れて、しかし左手をゆっくり紅葉先生の右ポケットに近づける。
勝負は一瞬で決まる。紅葉先生と一緒に力を入れる瞬間、どさぐさにポケットに手を入れて、鍵を取り出す。それしかない!
もし、失敗したら?今まで一度も他人のポケットの中に手を入れた事がないのに、初めてで成功すると思う?
いや、弱音を吐くな!このままここに閉じ込められるくらいなら、自分のラッキーステータスに全てを掛けた方がいい。
大体、例え失敗しても、紅葉先生相手なら死ぬことはないだろう。
よし、覚悟を決めった。
「では、三で一緒に上げるね。一、二の...三!」
「むっ」
俺と紅葉先生は一斉に力を入れる。
そして、タマがベッドの上に上げて、まだ降ろしていないタイミングに、俺は紅葉先生のポケットに素早く手を入れる!
見つけた!幸いな事に、ポケットの中にあの鍵しか入ってなかった。
「よいしょっと。」
手を放す瞬間、ワザとらしく大声を出して、鍵を掴んだ左手を紅葉先生のポケットから抜いた。
後はこの鍵をどこに隠すのか、だな。とりあえず、左手を拳に...
「え!」
「......」
紅葉先生が俺の左手首を掴んで、俺の目の前に上げた。
「これはなに?」
紅葉先生は視線で見るべきものを俺に教えた。俺はその視線に従い、そのものを見つめる。
そこには、間抜けに鍵を親指と示指で鍵を握る俺の左手があった。
「あ、アハハハ...」苦笑いしか出来なかった。
「......」そのままの体勢で、紅葉先生は俺を睨む。
睨む、睨む。
冷や汗がドバドバと流してる気分だ。実際流れていたら、床が大洪水だろう。
しかし、最後は紅葉先生がまた溜息をして、俺の手から鍵を取り返す事だけをした。
「『カメレオン』でも、お嬢様は盗人に向いていない。」
そう言って、紅葉先生は歩き出した。
お終いだ。今度こそ、本当のお終いだ。
鍵がなければ、外に出られない。イチかバチかの賭けがいとも簡単に見抜かれた。
結局、ここで助けを待つしかないのか?もしくは、ここで一生終わるのか?
嫌だな。すっごく、いやだな。
「お嬢様。」
「ほえ?」
外に出ようとしている紅葉先生は何故がまだ外に出ていなくて、俺に声を掛けた。
「目を逸らせずに、しっかり見て欲しいのだが...」
「はー...」
見て欲しい?何を?
俺は出来るだけ頭を速く回転して、紅葉先生の言葉を理解しようとしたが、紅葉先生はその前に、とんでもない事をし始めた。
なんと、紅葉先生は突然服を脱ぎ始めた!
「ちょ、先生!何を...?」
一瞬だけ、紅葉先生の白い肌が目に入ったが、俺は素早くに目を逸らした。
「目を逸らさず、しっかり見て!」
しかし、紅葉先生は強く俺に言った。
「何でそんなこと...」それでも、俺は「理性」を振り絞って質問した。
「いいから、見なさい」紅葉先生は答えず、ただ「見ろ」とだけを言った。
理由は分からない、しかし、女の子に「見ろ」と言われたら、見ない訳にはいきません!それが、例え女の子の裸であっても、です!
俺は恥ずかしさを耐えて、紅葉先生が服を一枚一枚脱ぐところを見つめた。
......
何だろう、このドキドキする気持ち?
実は、「女の子の裸」というものは俺にとってもう珍しい見物ではなかった。今の自分の裸ももちろん、積極的に俺と裸の付き合いをしようとするメイド達の裸も何度も見た。
メイド達も美人揃いで、美人の裸に耐性が出来ている。なのに、どうして紅葉先生が服をただ無造作に脱ぐだけ光景が、煽情的に見えるのだろう?
そして、予想通りに最後の一枚まで脱いだ紅葉先生の裸体が、俺の目の前に!
「どう?」
「ど、『どう』って?」
「この体の事、どう思う?」
ゆっくり回りながら、紅葉先生は俺に話しかける。
体?裸体の事?
微かな赤みを含む白い滑らかな肌、適度に細い四肢。俺の今の体程ではない、それなりに豊かな母性を感じる胸、細いお腹、柔らかそうな桃尻。
今までよく見ていなかったが、紅葉先生の指も長くて、睫毛も長い。あまり喋らないから、その小さなお口の可愛らしさに気がつかなかった。
「き、綺麗だと、思う...」
頭が上手く回らない。
突然すぎて、パニックになっている。
「このまま、この体を自分のモノにしたくない?」
「じ、自分のモノ!?」
自分のモノってどういう意味?自分のモノにするって、まさか...まさか!?
いや、待って!待て待て!俺は心が男でも、見た目は女の子だよ!心が男である事を誰にもばらしていないし、誰にもばれていない筈!
なら、どうして紅葉先生が「この体を自分のモノにしたくない?」と言ったの?今の俺は女の子なのに!?
女の子なのに...女の子に「私の身体、欲しくない?」と言ったの?どうして?まさか、ユリ!ゆりゆり!?
まぁ、確かに、百合は花として綺麗な方だと思う。女の子同士が仲良くするのも、美しいするものだと思う!
しかし、しか~し!俺はユリを見る・愛でるのは好きだが、ユリユリされるのは好きじゃない!ユリユリられるのは嫌だ!
やっぱ、同性はダメだ!同性は、あれだ...将来がない!子供が作れない!二人だけで一生が終わる!
ゆり...ユリはダメ!花としてオッケーでも、行為としてダメだ!絶対ダメ!
「あうあうあうあう...」
「お嬢様?」
「はい!」
自然と「お嬢様」という単語に反応した。パニックになっても、女の子のフリは忘れていない。
「この体、傷一つない、誰にも付けられた事がない。そして、頑丈、傷を付けようとしても、中々付けられない。とても使いやすい体だと思う。」
「使いやすい!?」
どゆ意味?どゆ意味どゆ意味?
頑丈で傷つけにくいとか、使いやすいとか、まるで傷を付けて欲しいみたいに言う。
まさか、俺がサディストである事が紅葉先生にばれていたのか?言った記憶がないんだが!
まさか、寝言?実は、俺は寝言を言いながら寝る人なの?
それで、俺に合わせようとしたの?何で?そこまで俺の事が好きなの?フラグを建てた記憶がないんだけど!?
「お嬢様の体、柔らかくて、傷つきやすい。不便だと思わない?」
「え、え、え?」
「ちょっと、考えておいてください。」
そう言った紅葉先生は脱いだ服に手を伸ばし、また身に着けた。
下着、上着、靴...何故だろう?脱いだ服を着るだけの動作なのに、やはりエロさを感じる!
「ゴクン。」
唾を飲む。
紅葉先生は一体何がしたいのだろう?
知らない男の子を連れ込んで、てっきりショタコンだと思ったら、女の子の俺に見せつけ乍ら服を脱ぐ。一体どんな性癖を持っているんだ?
カチャッ。
そうしている内に、紅葉先生は外に出て、また鍵を掛けた。俺は訳が分からず、ぼうっとしていた。
「異世界って、スゴイ...」
そんな感想を、うっかり口に出してしまった。




