第九節 ダンジョン探検②...出発、自家製ポーション
まだ入れていないところ
朝食を済ませて、偶々部屋の前を通った仲居さんに一言伝えてから、俺は食べきれなかった分のご飯を部屋の中に残したまま、今は居間にいます。
「今は居間にいます」か、自分のオヤジギャグに惚れ惚れするね。
旅館に入ってきた時にも思ったことだが、居間はやはり広い。この広さ、きっと建てた時は大勢な人が一気に入ってきた事を考量して広くしたのだろうが、予想以上に人が入ってきてくれなくて、あまった場所に椅子やソファを設置したのだろう。
受付の数が少ないのも要因として考えれるね。受付が少なくて、客の一人一人に対応時間が長くなりがちで、待ち時間が長い。その所為で、ゆっくり待てる場所――座れる場所が多く用意したと。
ま、素人の俺が暇つぶしに適当に出した結論だ、きっと間違いだらけだろう。
あき君、まだ来ないのかな?
「ななちゃん?」
「やっと来たか。」
あき君の声を聞いて、俺はソファから立ち上がった。
「遅い」
「ごめん!ちょっと寝過ごした。」
あき君は頭を掻きながら謝った。
「女の子の方に待たせてしまった。本当にごめん!」
「あ、いや。そこまで謝らなくても...」
女の子扱いされた。
仕方ない事とはいえ、少し複雑な気分だ。
「しかし、ななちゃんは速いね。女の子のお化粧は時間の掛かるものだと聞いているのだが?」
「化粧?」
あき君に言われて気づいた。俺は今日、ダンジョン探検が楽しみで、朝食の後にそのまま部屋を出たんだ。
しまった!化粧していない!
俺の心は男だから、「化粧」というものは好きではない。
好きではないのだが、今は女の子。
なので、俺はいつも出かける前に最低限の化粧をする。
しかし、今回は忘れた!化粧しないまま長い時間居間にいた!多くの人に化粧していない素顔を見せてしまった!
なんという迂闊!
「ちょ、ちょっと化粧してくる!」
俺は慌てて自分の部屋に戻ろうとしたが、急にあき君に肩を掴まれた。
「べ、別に良いじゃない?」
「え?」
振り向いてあき君を見つめると、何故かあき君の頬が少し赤くなった。
「別に...しなくても、良いじゃない?」
しなくてもいい?
「何で?私、今汚いよ。」
「『汚い』って...あのな、お前は別に化粧しなくても、その...十分にキレイだと、思う...」
「綺麗?」
俺が綺麗?何言っての、あき君は?綺麗という言葉は女の子に使う言葉だぞ。男に使ってどうする?
まぁ、あき君のようなキレイな顔をした男の子なら、その言葉も使えなくもないが、俺には...って、今の俺は女の子か!
化粧しに部屋へ戻ろうとしたのに、自分が女の子である事を忘れるとか、俺はどういう頭をしているんだ?
「あぁ、ありがとう...」
女の子は外見を褒められたら、礼を言わなくてはいけない。一応その暗黙のルールに従って「ありがとう」を言ったが、言い慣れていないからかちょっと恥ずかしい。
「う、うん。」
ありがとうを言われただけで恥ずかしがるあき君、これが年頃の男の子というものだな。
俺にもそんな時期があったな...ダチと一緒に可愛いウェイトレスを目当てに喫茶店に通い、「彼女欲しいな」と言い合う日々。
アレが「楽しかった思い出」になるはずだったのに...
「ナナエお姉ちゃん!」
「あ、ヒスイちゃん?」
ヒスイちゃんの声を聞いて、俺大興奮!
「って、何その大荷物!?」
ヒスイちゃんの身の丈近い程に大きいカバンを見て、俺は思わずツッコミを入れた。
「ヒスイのお荷物です!今日からナナエお姉ちゃんの所にお世話になります。
なので、全部持ってきました!」
弾ける笑顔を見せるヒスイちゃん、可愛い過ぎる!
「もー、抱きしめちゃえ!」欲望の赴くままにヒスイちゃんを抱きしめた。「逃げないヒスイちゃんも可愛いね。」
「な、ナナエお姉ちゃん、やめて。動けない...」ヒスイちゃんは息が苦しそうにしていた。
なるほど。逃げない訳じゃなくて、重い荷物を背負った所為で逃げられなかったのか。
「女の子が自分より重い物を持っちゃう駄目よ。背が伸びなくなる。」
そう言って、俺はヒスイちゃんの荷物を取ろうとした。
「ヒスイ、そんなに軽くない。」
ヒスイちゃんは拗ねて、俺にその大荷物に触れられないように体を捩る。
「それに、ナナエお姉ちゃんだって女の子じゃない!ヒスイのお荷物を取ろうとしないでください!」
プンプンと顔を膨らむヒスイちゃん、挙動の一つ一つが可愛らしい。
「あ~、その...その荷物、俺が持とうか?」
「あき君が?」
男が荷物番に回されるのが世の常だが、この世界では別に無理にそうしなくてもいい。
「いいえ、私のカバンに入れる。」
手提げバッグを上げて、あき君達に見せた。
「こう見えて、このカバンは何でも入れられる魔法の品よ。」
手提げバックを床に置いて、ヒスイちゃんに手招きする。
「それ、もしかして一時期に流行っていた『貯蔵箱』?安全面に問題があるから、すぐに売れなくなった、アレ?」
「むっ...」
あき君は物知りだな...「売れない物」である事まで知ってるとは、褒美に爪先を踏んであげようか?
「リンク先は私の宝物庫よ。絶対安全だから、余計な心配はするな。」
自分達が魔法の倉庫を作れるからって、それを持たない俺を馬鹿にするな。
「あ、そか!」
ヒスイちゃんが何かを思い出したかのように両目を大きく開き、「ホイ」と言って体を一回捻ったら、彼女の背中にあった大荷物が急に消えた。「ヒスイ、すっかり物入れ結界の事を忘れていました!」
忘れてたんかい!そして、お前もそれを持ってたんかい!
と、ツッコミ所が一杯あるけれど、この時の俺の一番強い気持ちは「ヒスイちゃん可愛すぎ」というものだった。
「ガシッ!」
「ヒャ!」
俺は愛情一杯でヒスイちゃんを抱きしめた。
......
...
外に出て、あき君は指笛を吹いて、馬車を呼んだ。
前回の乗り物は「グリフォン」だったので、今回も何が変てこな乗り物が来るのかな、と期待していたが、普通の馬車だった。
いや、普通じゃない。「馬車」である時点で「普通」じゃない。俺の時代では「馬車」じゃなく「車」が乗り物だから、「馬車」でも「普通」じゃない。
「はい、ななちゃん」
あき君が俺に手を差し出した。
え、何のつもり?物乞い?
何もあげるものはないし、たぶん何かが欲しい訳じゃないと思うので、俺は戸惑うも、一応自分の手を「あげた」。
「足元に気を付けて」
あき君はそう言って、軽く俺の手を引っ張って、自然に俺を馬車を乗る位置までに導いた。
なるほど!彼は「紳士」なのか。
「別に自分で乗れるよ」
無愛想な言葉を口にした俺だが、一応彼に甘えて、彼に支えられて馬車に乗った。
「ヒスイさんも」
あき君はそう言って、今度はヒスイちゃんに手を差し出した。
「ぁ、うん」
小動物のような鳴き声をしたヒスイちゃんはあき君の手を握って、俺と同じように彼に支えられて馬車に乗った。
これが「ナチュラルイケメン」か。おのれ~、あき君メ!
「はい、ヒスイちゃん」
俺はあき君を真似して、ヒスイちゃんに手を差し出した。
ヒスイちゃんは小さく頭を傾いて、俺の行動に戸惑った。
「ナナエお姉ちゃん、ヒスイ、もう上がりましたよ?」
あき君に嫉妬して、真似て同じ事をしようとしても、今はもう遅い。それでも悔しいので、俺は最早やっても「意味不明」になるだけなのに、ヒスイちゃんに手を伸ばした。
「ヒスイちゃんは私のモノ!」
強引にヒスイちゃんの手を掴んで、彼女を懐に入れた。
「もう...ナナエお姉ちゃんはおかしいね、ふふ」
サトリなのに、ヒスイちゃんは俺にされるがまま、あまり逆らって来ない。可愛い子ちゃんだ!
「では」と言って、最後はあき君が馬車に乗るが、俺はその時、彼に手を伸ばした。
「はい」
「え?」
俺の手を見つめて、あき君がフリーズした。
俺は「イケメン」が嫌いだ。相手が誰であろうと、嫌いなものは嫌いだ。
だから、イケメンには負けたくないという気持ちが俺をアホにする。女の子でもないのに、俺はあき君に手を差し出した。
「なによ?さっき私にした事なのに、いざ自分の番になると嫌なの?」
「いや!俺は自分一人で乗れるし...」
「私だって一人で乗れる。だけど、私は君の手を掴んだでしょう?なら、今回は君も私の手を掴むべきだ。」
「......」
あき君が無言になった。しかし、暫くして、彼は俺の手を掴んだ。
「あ、ありがとう」
そう言いながら馬車に上がった彼だが、俺の方を直視しないように顔をそらし、その顔が微かに赤くなっていた。
ふん、勝った!
「ナナエお姉ちゃん、勝ってませんよ。」
ヒスイちゃんが俺の心にツッコミを入れた。
勝手に人の心を読んで、勝手にツッコミを入れるヒスイちゃんだが、俺は怒りより、ヒスイちゃんの愛らしさに愛おしく感じで、更に彼女を愛でてあげた。
「ヒスイちゃん。口に出していない以上、『ボケ』じゃないよ」
逃げられないように強くヒスイちゃんにを抱きしめて、その脇腹を指で弄った。
「きゃはは!ごめんなさい、ナナエお姉ちゃん!きゃぁあ!」
ヒスイちゃんが激しく俺に逆らって、遂に俺の抱擁から逃れて、俺と少し距離を取った。
ヒスイちゃんに逃げられた俺は、更に他の楽しい事を探すべく周りを見た。
その時、あき君が馬車のオーナー兼馭者に銅貨と共に、一つ怪しい小瓶を渡しているところを見た。
小瓶を貰った馭者は嬉しそうにしていた。あき君も一緒に笑っていた。何となく、それが怪しい商売をしているように見えた。
「なに渡したの?」
馬車が走り出して、そしてあき君が俺の向かい席に座った時にすぐに聞いた。
もし怪しい商売をしていたのなら、気を遣って、タイミング見て聞くのが正しいんだろう。が、俺は「気遣い」しない人なので...
「俺の魔力の小瓶だ。あまりお金を持っていなくて、な」
そう答えるあき君は何故か恥ずかしそうに指で自分の頬を掻いた。
「『魔力の小瓶』?ポーションの事?」
「あ~、そんな高級な物じゃない。俺が毎日貯めた、俺個人の魔力だ」
あき君の言葉に俺は戸惑った。個人の魔力?貯める?ポーションが高級な物?
どうやら俺の戸惑いの感情は顔にまで出てしまっているようで、ヒスイちゃんはもちろん、あき君も少し驚いたような表情を見せた。
「毎日余った分の魔力を少しずつ貯めて、必要な時に使う。他人に渡して、お金の代わりにもできる自前の『ポーション』。そういうの、作ったことがない?」
「うん。ない」
「なら、毎日余った分の魔力はいつもどうしているんだ?お金にもなれるのに、ただ捨てるだけ?」
「別に、余らないよ」
「あ!」
俺が「余らない」と言った途端、あき君が「しまった!」って顔した。そして、ヒスイちゃんが何故か少し怒った顔をして、俺とあき君の間に入った。
「ナナエお姉ちゃんは他のお金持ち達と違います!失礼な考えはやめてください!」
「...ごめなさい」
失礼な考えとは何なんだろう?そして、なぜあき君も素直に謝る?俺に謝らなければいけないような事をしたのか?「イケメン」である事以外、謝れるような事はないと思うが。
だけど、あき君とヒスイちゃんはそれぞれ相手の言っていることが分かる、俺だけが蚊帳の外だ。それなら、俺が知らない「その事」はこの世界の常識に等しい。
それを知らないままでは、俺がこの世界の人間じゃない事がばれる。もしくは、バカ扱いされる。
どっちも嫌だ!
「で、何の話?『世間知らずのお嬢様』にも教えてくださらない?」
「ナナエお姉ちゃん...」
ヒスイちゃんが泣きそうな顔になった。え、なぜ?
「...普通は、余るんだよ」と、あき君も大袈裟に沈痛な面持ちで語りだした。
「毎日、魔力の増減は常にプラスになる筈で、それ故に人の身体能力も上昇する。
そうじゃなかったら、長く生きていられないが、生まれてすぐに死ぬはずだ」
「ふーん」
なんた、また「私」の体質の事か。
一々それで憐れまれたら、誰も楽しく俺と遊べないじゃん。
でも、なんとなく話が分かった。
「その余った魔力があの『小瓶』に貯めれる。貯まった魔力はお金になれる」
ん?待ってよ?
何もしなくても貯まっていく魔力を「小瓶」の中に詰めて、そのまま金になるって...この世界のニートは仕事しなくても、お金が入ってくる!という訳!?
「実に生きやすい世界で、羨ましいね」
生まれた世界がここだったらなぁ、と一瞬思った。しかし、どうだろう?本当にここで生まれたら「イージーモード」?
違うな。んな事はありえないな。
実質、今ここで生きている「私」は魔力が余らない・体が弱い・魔法を使えない・魔力が上手く操れない・簡単に死ぬと、全然「イージー」じゃない。
この世界でも、俺の人生は「ハードモード」だな。憐れまれて当然な状況だ。
「ごめん、ななちゃん。俺、ななちゃんの事をちゃんと考えていなくて、『お金持ちで浪費家』だと、一瞬考えてしまって、本当にごめん!」
「あ、いや...逆に今、『余計な事』を言わなかったら、私も怒りを覚えずに済んだんだが...」
お金持ちで浪費家?そんなイメージだった?
「一昨日のお食事が気に入られなくて、一口しか食べなかったのも、実は自分の健康を気遣った故だったのか。
馴染んでない場所に着くと熱が出るのを知ってるのに。本当、考えが足りなかった!
ごめん、ななちゃん」
あき君が止めずに謝る。見ていたら、イライラして来た。
「ストップ!」
「む?」
動くあき君の唇を指で止めた。
「謝るの禁止!私はこれでいいんだ」
俺は視線を馬車の外に移した。
「別にそれほど不自由じゃない。
私は『お嬢様』だ、この『生まれ』自体が君達にとって『不公平』だ。」
ムカつく、気分が悪い。
「......」
あき君は気まずそうにしている。彼は何も悪くないのに、俺が勝手に怒って、空気を悪くしてしまって、彼に申し訳ない気持ちにさせた。
「ナナエお姉ちゃん?」
ヒスイちゃんがすり寄って来た!可愛い!
その頭をなでて、心が穏やかになっていく。
「ヒスイちゃんは良い子だね」
お陰で、俺は少し落ち着いた。
なので、さっきの出来事を「夢オチ」にする。
「あの『魔力の小瓶』はなに製?特殊な素材?」
「え?あ、いや、自家製。銅貨一枚で百個も買えるよ」
「へ~」
銅貨の下には更に「小銭」がある。目にした事はまだないが、きっとそれで買える安物だろう、「小瓶」が。
なのに、「自家製」か。その程度のお金すら使いたくないあき君って、意外と貧乏?
「一日何瓶貯めれる?」
「『何瓶』もないよ。一か月で一瓶が貯まれば『万々歳』って感じ?」
「一か月に一瓶?」
意外とあまり貯めれないのか。
「さっき、一瓶をオーナーさんに渡したよね。それでいくらになるの?」
「精々銅貨一枚、かな?」
「安っ!」
一か月でようやく貯まった魔力が銅貨一枚程度?
「あ、もちろん有名人の魔力なら高く取引される事もあるよ。
ただ魔力として使うだけの『魔力の小瓶』は銅貨一枚になるかならないか、そのくらいだよ」
「一所懸命貯めた魔力が、そんな粗末に扱われていいの?」
「相性というものもあるから。
それを気にしないでお金の代わりにしてくれたんだ、寧ろオーナーさんの優しさに感謝だよ」
有名人の魔力ならとか、オーナーさんの優しさとか...
「おじさん!」馬車のオーナーさんに声を掛けた。「それ、守澄家次期当主である私の友達の魔力です!お釣りください!」
馬車が酷く揺れた。
「ご、ごめん、おじさん!冗談です」あき君がすぐにオーナーさんのフォローをした。「ななちゃん、無茶な事を言わないであげて」
「へいへい」
呆然と外を見つめて、ダンジョン探検の為に精神を休ませる。
怒るのは力を使うのだ。
......
...
「ななちゃん、ダンジョンに入る前の注意事項は覚えてるか?」雇った馬車に乗り込んで、ダンジョンに向かう間に、あき君は俺に「心得」を確認する。
「知らない人に付いて行ってはダメ、でしょう?」道歩く人の流れを見ながら、俺はふざけてみた。
「それは幼子への親からの言葉、ダンジョンに入る前の『注意事項』じゃない」
「うん、知ってる」
あ、頭の上に花冠を乗せる女の人がいた!面白いな!
「ななちゃん、真面目に答えて欲しい。ダンジョンの門番には冗談が通じないぞ」
あき君が少し語気を強めに言った。
「大丈夫だよ、あき君。門番には真面目に答えるよ」
「俺に対しても真面目に答えて欲しいのだが...」
「何度も確認されると、私を馬鹿にしているように感じるわ。だから、答えたくない」
実際、俺はこの区に来る前にあき君に「心得」を一度聞かれて、昨日の夜にも一度聞かれたから、今日の「三回目」がちょっと俺の怒りケージの限度値に触れてしまった。
慎重なのは別に悪い事じゃないと思うけど、慎重すぎるのも考えものだ。仏の顔も三度までってゆうじゃない?
「なら、俺は信じることにするよ。
弱い魔物しか出ない安全区域なら二人だけでも。だが、危険な大型魔物が出る警戒区域では必ず四人以上で臨む事とサポーターが必須。
門番に会ったら大人しくして、紅葉先生に会うまで警戒区域に近づかない事をちゃんとフリでも門番と約束する事。
安全区域の中でも、危険と思えたら助けを呼び、サポーターがいればサポーターに伝える事。
無闇に魔物を探さない事。
ポーションの所存量が半分以下になった時は必ず帰路に着く事。
そして、万が一『魔族』と出会ったら、何とか逃げて門番とダンジョンの管理者にその事を伝える事。いい?」
「はぁぁ...」
全く「信じて」ないじゃないか!
「警戒区域なんかしらねぇ、うっかり入ってしまっても私は悪くない」
「...門番の前では絶対にそんな事を言うなよ」
「へーい」
あき君はうるさいなぁ。俺のオカンかよって。
「ナナエお姉ちゃん、ヒスイはどうしましょう?」
ヒスイちゃんが寄ってきた。
「そうね。どうしよう?」俺はヒスイちゃんの頭を撫でながら考える、「危険のダンジョン内に連れて行きたくないけど、側に置いておきたいのよね」
「お言葉ですが、ナナエお姉ちゃん。ヒスイ、間違いなくナナエお姉ちゃんより強いですよ」
「な!」
幼い少女、略して幼女のヒスイちゃんが俺より強いと言い出した!とんでもない位に舐められている!
「それに、ヒスイの種族は、恐らく誰よりも強いと言えます。もしナナエお姉ちゃんがダンジョンに降りるのでしたら、ヒスイもダンジョンに降りていいと思います。」
そう言って、ヒスイちゃんは頑張って凛々しい顔を作って、俺に見せた。
可愛い!なんでも買ってあげちゃう!
しかし、彼女の言うことも尤もだ。人の心を読めるサトリなら、「攻撃」なんて簡単に避けられるだろう。
「ヒスイちゃんは『現場』決定!で、『サポーター』はどうする?」
ここにいるメンバーは後俺とあき君だけ。俺は絶対「サポーター」は嫌だけど、あき君という戦力も失くしたくない。
「紅葉先生がサポーターを担当しているから、サポーターの事は心配しなくて大丈夫だ」
「そか!」
あき君に言われて思い出した。元々の予定では竜ヶ峰紅葉先生が「サポーター担当」だから、今はきっとダンジョンに入っていなく、シイちゃん達をサポートしながら、俺達を待っているに違いない。
一足先にダンジョンに入ったシイちゃん達と合流すれば、警戒区域にも行ける。俺が心配する事なんて、特になかったんだ。
「なんた、全然大丈夫じゃない」
馬車の物見ののれんを手で上げて、段々とこっちに近づくダンジョンの正門を覗く。
「ななちゃんが悪戯とかしないで、ちゃんと門番の質問を正しく答えれば、何の問題もない。」そう言って、あき君は見えないところから自前の剣を取り出した。「少しでもふざけたら、一発でアウトだからな」
「分~かりました~」
そして、馬車が止まった。




