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第九節 ダンジョン探検①...ヘッドハンティング

次の日になりました♥

 青い空!涼しくない風!眩しい太陽!


「ダンジョンに降りる絶好日和だね」俺はそう呟いて、手で目に陰りを作った。


 太陽に中指・・・・・・出していないよ。今の俺は「お嬢様」だからだ。


「おはようございます、守澄様。ご朝食をお持ちいたしました。」ドアの外から声がした。

「女将さん?」

 俺の目が覚めた瞬間に声が来た事も驚いたが、女将さん自ら俺の朝食を持って来た事も驚きだ。


「入っていいよ。」

「失礼します~」

 ドアが開いた瞬間、おいしそうな匂いが漂ってきた。


 朝食は基本シンプルなものだが、女将さんが持って来た朝食は普通ではありえないくらいに豪勢だった。かといって肉類は多くなく、基本卵と山菜など、味の濃くない料理ばかりだった。


「こんなにいっぱい、食べきれない。」素直な感想を述べた。

 今の俺は女の子、成長期であっても多くは食べれない。


「お好きなものだけ召し上がって頂ければ・・・はい」女将さんがとても素敵な笑顔を見せてくれた。


 こんなお年寄りに料理作らせたくないという思いはあるが、この世界では歳が重ねるにつれて力も体力も落ちるという事はない、気にするだけ無駄なんだ。

 と、思うのだが・・・


「でも、残りはどうする?」

 やはり勿体ないと思う。折角作ってくれた料理だ、食べきれずに捨てたくない。


「私達従業員が処理致します。ご安心下さい」女将さんが笑顔絶やさずに言った。


 処理?どういう意味の処理だろう?結局捨てるという意味の「処理」なら勿体ない事に変わらないが、それ以上突っ込むのは一客として無粋だろうか?

 まあいい。捨てたければ捨てればいい、ちょっと勿体ないくらいで「なんだ?」っていうんだ?

 俺はそれ以上に、別の一つ重要な話がしたい。


「女将さん。君とこの仲居、一人欲しいのだが・・・」

「私とこの、『仲居』?」

 いきなり話を切り替えた所為が、女将さんは訝しい顔を作った。

 その顔が好きじゃない。商売人が損得を考える時の顔だ。


「もしかして、ヒスイの事でしょうか。」料理を机の上に置き、女将さんは憂いだ表情を俺に見せる。

 これはどういう意味の表情だろうか?ヒスイの事に関して少し思うところがあるという憂いの表情だろうか?


「珍しい話でもないかもしれないが・・・私はヒスイちゃんが気に入った、自分の所で雇いたい。」ベッドから降りて、そのまま机に身を寄せる。「君の方はヒスイちゃんと何の契約をした?『絶滅種配慮雇用契約』?」

「いいえ、うちのような小さい旅館では、まだ『絶滅種枠』で人を雇えません。」女将さんは正立して、俺に答えた。


 余計なことを言ったのかもしれない。

「絶滅種配慮雇用契約」とは、今の俺が住むこの国にある特殊な制度。具体的な条件事項とかは覚えられてないが、大まかに説明すると、自営業やら企業やらが一定な規模に足した時、「絶滅種」と認定された人間を何人かを雇わなければいけないが、その代わりに国から補助金を貰えるという制度だ。

 何故かは知らないが、この世界は「絶滅種」達にとって生き難いらしい。なんても、珍しい種族だと企業の方は雇いたがらないとか、仕事が見つからず遂にお金が無くなった時に頼れる人がいないとか、種族由来の生活習慣とかが他人に理解されにくいとか、色々あるらしい。

 なので、「絶滅種」でも普通に生きていけるように、「絶滅種配慮雇用契約」という制度が作られただそうだ。いい事だと思っていたけど、苛められているヒスイちゃんという特殊な例が昨日知った今、「考え改め中」だ。


「あ、座っていいよ。自分が座ってるのに、他の人に立たせているのは好きじゃない。」箸を手にして、別の椅子に指してみた。

「いいえ、お客様の前で寛いだ姿を見せられません。ここで立たせて頂きます。」

 拒否された。


「ふーん。」箸で卵焼きを突いてみた。

 柔らかい。でも、やはり屋敷にいる時に食べた卵焼きと何かが違う。


「ヒスイが守澄様の侍女になられる事、私も誇りに思いますが、彼女はうちの大切な従業員の一人、急に抜けられるとこちらも困ります。できれば、この話をなかった事に・・・」

 全然大事にしていない癖に、いけしゃあしゃあとよく言う。


 別にヒスイから犯人の話を聞いていないが、「虐めに遭ってる」というだけで、俺は犯人が「女将さん」だと決めつけている。そうじゃなくても、見て見ぬふりをしてるか、興味が全くなくて気づいていないのか、「主犯」じゃなくても「共犯」レベルだと決めつける。

 覚えた少ないこの世界の知識を無闇に披露した所為で、女将さんが無理難題な条件を突き付けて来そうだ。


「いくら欲しい?」

 体は女の子でも、心はまっすぐな男。まどろっこしいのは好きじゃない。


「いいえ、お金の問題ではなく、ヒスイは今や私の家族同然。家族と離れ離れになるのは・・・」女将さんが悲しそうな表情を見せた。


 普通なら、俺もこの時点で一度は迷う。自分の考えが本当に正しいものなのか、考え直すのだろう。

 しかし、今回は一つ特殊な条件が加えられた、ヒスイちゃんが「サトリ」という条件だ。

 魔法のない世界ではとても考えられない条件だ。この条件を加えて考えると、女将さんが実は百戦錬磨の嘘つきである可能性が出てくる。

 ヒスイちゃんは「虐められている」、誰からなのかは明言していなかったが、「虐められている」は事実だ。

 女の子の虐めは酷いものだよ、人の前では良い子のふりをして、誰にもばれずに悪い事ができる。

 女将さんは「女」だ、「女の子の虐め」に理解がなく分からなかった訳がない!

 ヒスイちゃんは俺と一緒にいて「楽しい」と感じている。俺の心がドス黒いのに、俺といて「楽しい」と。俺に「妹になって」と誘われて、戸惑いはあったが喜んで受け入れてくれた。旅館に残るより、俺の傍の方が良いと思ってくれたんだ。

 それ程に、ヒスイちゃんはこの旅館に未練がない!という事が分かる。

 以上の事を考えれば、女将さんは大嘘を吐いてると考えられる、よほど鈍感な人じゃない限り。


「そうだったのですか、それはすみませんでした。」俺は箸を箸置に乗せて、一度謝るふりをした。


 俺は「お嬢様」だ。「お父様」に頼めば、幾らでもお金が使えるだろう。しかし、俺は「お嬢様」であっても、「当主様」ではない。前もって頼んだのなら兎も角、許可を貰う前に勝手なことをしたら、「お父様」の指導が入る。その指導は意外にも怖いものだとつい先日に知った。娘に甘いけれど、躾はきちんとするという俺にとって都合の悪い「お父様」。

 なので、勝手にヒスイちゃんを「買って帰ったら」、「お父様」はきっと「最後まで面倒を見る覚悟はあるのか!」的な、犬猫を拾ったパタンの怒りを見せるのだろう。最悪の場合、「元の場所に返してきなさい」的に、敢えてヒスイちゃんを旅館に返す事も考えられる。

 ヒスイちゃんは犬猫じゃないから、同じ人間の「お父様」がそんな酷い事はしないと思うが、「父」というものは基本「自分の娘」にだけ甘いんだ。自分の娘にだけ甘い故に、自分の娘の為なら、他人を犬猫扱いするのはあり得る、「自分の娘じゃないからどうでもいい」と思う事ができる。俺なら、俺が誰かのお父さんなら・・・それができなくもない。


「お父様」はどういう人間なのか、俺はまだよく知らない。知らないが、この事に関して「冒険」したくない。なので、昨晩寝ながら考えたプランAを実行する事にした。


「では、ヒスイちゃんは君にとって『家族同然』なら、私の屋敷に来てもらい、勉強させてあげたらどう?」俺は女将さんに勧める。


「『勉強』?」

「そう、『勉強』、守澄家で礼儀作法を学ばせる。残念だが、やはり歳は歳だから、ちゃんと出来ていないところが沢山ある。体力的の問題も、心理的の問題もでちょくちょくサボっているじゃないのか?」

「それは・・・・・・流石守澄様、良き観察眼をお持ちです。」

「無理に褒めなくてもいい。ただ、それほどに分かりやすいものだったという事だ。」


 俺はヒスイちゃんを貶すような事を言っているが、それは後でヒスイちゃん本人に謝ればいいだけの事なので、今はまず罪悪感を感じずに女将さんを落とす事に集中だ。


「なので、ヒスイちゃんを私の屋敷で働かせて、きちんと礼儀作法を学ばせる。大人になって一人前になったら、またそちらに返すよ。別にタダでいいよ、俺はヒスイちゃんが気に入ったから、お金は要らない。」

 さらに畳みかける。

「序に学校にも行かせてあげよう。よく勉強して、経営に関する知識を身につかせるとか、多くの人と触れ合い『接客業』の腕を磨かせるとか。」


 俺の話を聞いている女将さんは必死に隠しているけど、目がキラキラしている。扱いにくい「サトリ」を外に放り出せる上に、「退職金」や「絶滅種解雇」によるペナルティなど、更に「子供を見捨てる」という風評被害も受けずに済むからだ。

 しかも、「家族同然」だから、「家族」の為と思って「絶滅種」を世界有名の「守澄家」に預けるという事で、評判上昇。将来、もしヒスイちゃんが「旅館で働きたい」と思っているなら、一人前になったヒスイちゃんは必ず旅館に沢山のメリットを齎すし、「世界の守澄家」と接点を持つだけでも十分すぎるほどに良い影響が出る。

 女将さんにとって、本当のデメリットなんて一つもないという事だ。


 だが、俺はそこで更に一押し!


「そうだ!いっそのこと、私の『妹』にしよう!どうせ『絶滅種』でしょ?『守澄』という苗字を上げようじゃないか。」

「『守澄』!?」流石に動揺が激しいようで、女将さんは嬉しい悲鳴を上げた。「そ、そのような名誉、私なんてとても・・・」

「いいよ。私はヒスイちゃんが気に入ったから。」さもお嬢様っぽい発言をしてみた。

「そ、そこまでヒスイの事を考えて下さって、きっとヒスイも喜んで守澄様の所に行くのでしょう。私もあの子が幸せになるのは嬉しいです。」


「幸せになるのは嬉しい」?「もっと幸せに」の間違いでしょう。その言い方だと、まるで今までのヒスイちゃんが「不幸せ」みたいじゃないか。

 俺はそう心の中で女将さんにツッコミを入れて、しかし外面は「笑顔」のままだ。


「では、話は纏まったという事で良いのね?ハイなら、もうヒスイちゃんをこっちに寄越してくれない?」

「はい、すぐにヒスイにこの事を伝えて来ます。荷物が纏まり次第、守澄様の所に行かせます。」女将さんは一度頭を下げて、「それでは失礼します。」と、ドアのところでもう一度頭を下げて、この場から去った。


「ふぅ。見た目が『少女』でも、心が『社会人』だったからな、俺は。」

 再び箸を手にして、俺は少し冷めた卵焼きを突いた。

まだ降りておりません。すみません!

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