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第八節 予想外③...怪しい薬草

今度は良き「予想外」だ。

主人公の「ヒロイン化」がちょっと進むが、苦手な方はお気を付けください。

 それは、俺がヒスイちゃんと出会った次の日の夕方。目覚めると、俺はベッドの上で横になっていた。

 俺は一度、気絶したらしい。


「ヒスイちゃん、抱っこ~」

 手を伸ばして、俺の看病をする可愛いサトリちゃんにハグを要求した。


「だめです、ナナエお姉ちゃん」

 驚くことに、ハグ大好きヒスイちゃんがハグを拒んだ!

「抱っこした所為で一度気絶したのではありませんか」


 そうだ。俺は楽しくヒスイちゃんの柔らかさを堪能している最中に、急に気を失った。起きた今はまた高熱を出していて、手を動かすのも疲れる。

 おのれ、貧弱な体め!どこまでも俺の邪魔をする。


「勝手に気絶したのは体の方で、心はまだヒスイちゃんを抱っこしたいんだよ。」

それでも、俺は諦めない!諦めたら、そこで...


「だめなものはだめです。ヒスイ、ナナエお姉ちゃんに元気になっていてほしいのです」

 俺の為を思ってハグを拒否した可愛らしいヒスイちゃん。それでも、俺はヒスイちゃんを抱っこしたい!


「ケチ!」

 怒ったフリで顔を背けた。

 顔が熱い、頭が痛い。少し動いたから、ちょっと疲れた。

 なにかを落としたような気がする。


「安静にしていてください、ナナエお姉ちゃん。タオル、別のに変えますね」

「タオル?」

 ヒスイちゃんは手を伸ばして、俺の頭の上のものを取った。

 言われて気づいたんだが、俺のお凸のところにぬるいタオルが乗せられていた。顔を背けたから、少しずれて布団の上に落としてしまって、布団をちょっと濡らしたみたい。

 旅館の物を濡らしたのは少し申し訳ない気分になった。でも、ヒスイちゃんが近づいて来てる。チャンス!捕まえて抱っこしてやる。


「お姉ちゃん、ヒスイは『サトリ』ですよ」

「あ...」

 ヒスイちゃんは非情な現実を俺に突き付けた。そうだった。俺の心はヒスイにバレバレだ。


「『サトリ』の読めない思考にしてやる」

 下らないことを考えろ、俺の頭よ!さっ鳥が一匹、さっ鳥が二匹...


 ヒスイちゃんはため息を吐き、ぬるいタオルを取ると同時に、冷たいタオルを代わりに俺のお凸に乗せた。


「本当にもう安静しててください、ナナエお姉ちゃん。頭、おかしくなっておりますわよ」

「言うね~、ヒスイちゃん」

 頭、おかしくなっているみたいだ。

 おのれ、軟弱なこの手!この手がもう少し早く動ければ、ヒスイちゃんを捕まえられるのに...


「ナナエお姉ちゃん、早く元気になって、ダンジョンに降りたくないのですか?」

「むっ、痛い所...」

 ヒスイちゃんはゆっくり俺の汗を拭きながら、俺の「今考えたくない事」を口に出した。

 ダンジョン、降りてみたいな。

 でも、ちょっとヒスイちゃんを抱っこしただけで、熱がぶり返してきた。こんな体で、どうやってダンジョンを突破するんだ?

 一度引いていた熱がまた出てきたので、俺は少しやけくそになっていたみたい。


「ダンジョンを降りたい気持ちとヒスイちゃんを抱っこしたい気持ちは別々だもん」

 意固地になった!


「体は一つなのですので、体の都合も考えてあげてください」

 ヒスイちゃんも譲らない。


「ヒスイちゃんはいつからあたしのお母さんになったの!あたしより年下でしょう?」

 ムキになった!


「ヒスイの精神年齢は今のナナエお姉ちゃんより年上です。目を閉じてて、お休みください」

 ヒスイちゃんの声が優しい。本気で俺の母になったつもりだ。


 退屈だ。

 丸一日、ベッドの上だった。つまらない...


「太古の時代、今とは異なる文明がありました。しかし、大いなる力によって、その文明が滅び、多くの遺産を残して歴史から消え去りました。私はその文明の生き残り、何の手違いか、病弱な少女の体に囚われてしまった哀れな男...はぁぁ」

「お姉ちゃんは物語を作る天才ですね。でも、あまり口に出さないでください。頭のおかしな人だと思われてしまいますわよ」

「うん」


 ヒスイちゃん、可愛い。

 心を開いてくれたのか、ヒスイちゃんは少し毒舌になった。まだ二日目なのに、凄い進歩だ。

 駄目だ...俺の頭は「ヒスイちゃん可愛い」しか考えられなくなっている。


 コンコンコン、ドアを叩く音がした。


「ななちゃん、輝明だが。入ってもいい?」

「あき君?」

 あき君の声がした。

 早いな!一日も経っていないのに、もう戻れた?

 意外と浅いダンジョンなのかもしれない。


 体を起こしてみた。手に力が入らない。


「ゆっくり、ナナエお姉ちゃん」

 ヒスイちゃんは俺のお凸にあるタオルを取って、体を起こすのを手伝ってくれた。お陰で何とか起きれて、俺はドアの外に向かって「どうぞ」と言った。

 ドアノブが回り、あき君より先に何かの草が入ってきた。


「ななちゃん、少し元気になった?」

「うん、よくなった」

 呼吸するかのように嘘をついた。


「顔色は朝と変わらないんだが...」

「...少し前まで、よくなっていた」

 鋭いあき君の所為で、俺は仕方なく「時期」を付け加えた。


「やはり...ななちゃん。今日、実は俺、ダンジョンに入らないで、ななちゃんに元気を取り戻す方法はないか、探してきたんだ。そして多分、ななちゃんの体を治せる薬草を見つけたんだが、試してみる?」

「なに、そんなものがあるのか?試す!」

 一瞬の迷いもなかった。

 それで元気になれるのなら、寿命一年減っても構わない!


「可能性はあるが、必ず治れる保証はない。もう少し考えて...」

「可能性はあるでしょう?食べて試す」

「いや、直接食べるものではないんだ。お湯で煮込み、出汁を取って飲む物なんだが、まだ取ったばかりで、何もしていない」

「そう。じゃ、作らなきゃ...」

 出汁を取るだけなら簡単だ。

 一人暮らしのニート時期にどんな料理も作れるようになったからだ!和中洋以外!


 腕に力を入れて立ち上がろうとしたが、体が重くて起きられなかった。


「ナナエお姉ちゃん、無理をなさらないでください!今から、ヒスイが作ってきますから、座っててください」

「むぅぅ...」

 俺、猫の手なら喜んで借りるが、幼い女の子の手は借りたくない。包丁持てる?手を切ったらどうする?

 でも、仮にも旅館の娘だ。きっと、今の俺だけじゃなくて、健康状態の俺でも、ヒスイちゃんに勝てないだろう。

 ヒスイちゃん、可愛い。頼ろう。


「ごめんね、ヒスイちゃん。またいじめられたら、すぐに私のところに来いよ」

「はい。では、少し待っていてください、ナナエお姉ちゃん」

 ヒスイちゃんを立ち上がって、あき君の方に行った。


「ヒスイは構うよ」

 気のせいか、ヒスイちゃんが俺から離れる前に、そんなことを言ったような気がする。


 その後、ヒスイがあき君から草を受け取り、小走りで部屋を出ていた。少し小躍りしているにも見えるので、あき君も何かに気づいたらしい。


「ななちゃん、なにがあった?」

「うん。ヒスイちゃんを妹にした。羨ましいでしょう?」

 あき君に自慢しながら、手で自分の顔を触ってみた。

 やはり笑顔になっている。

 男なのに、可愛いものも好きなんだ、俺は。


「昨日出会った時から『お気に入り』だったもんな。何となくあの子を屋敷に雇うだろうと思っていたが、まさか妹とは...」


 あき君が俺の側に来て、俺の手を取った。


「少し冷たいわ」

「少しでも、お手伝いができたらと思って...」

 外は寒かったんだろうか?ずっと旅館の部屋の中では分からないな。

 そういえば、この「隠れの里」という旅館は山の奥に建てていたな。あき君、寒がったんだろうか?

 この冷たさ、タオル代わりにできそうだなと思って、お凸に当てた。

 気持ちいい。

 意外だ。男の手を自分に触れさせるに抵抗がない。

 あき君は俺の体に殆ど影響がない上に、男なのに、俺はあき君に触れられるの嫌いじゃない。

 やっぱ女顔か?女顔が俺の嫌悪感をゼロにしたのか?


「あき君。あたし、退屈だったよ。一日、ベッドから起きられなくて、無駄に十数時間を消費した。勿体ないよ」

 言いながら、自分の手が震えるようになっていることに気が付いた。今の言葉、俺が装っている「私」の言葉ではなく、俺自身の言葉だ。

 部屋に篭りっきりはだめだ。絶対にだめなんだ。

 体が楽でも、気持ちは重い。自分はこうやって毎日を過ごしていくのだろうなと。そう思うと、死にたくなる。


「なんか面白い話をして。私、聞いた事のないお話がいい」

 俺にとて、この世界には未知な物が溢れている。だから、ただこの世界の歴史を知るだけでも楽しくて、だから「考古学部」を作ったんだ。


「いきなりハードルの高いお願いをしてきたな。そうだな。俺は別に、物語を語るのが得意じゃないが...ケンタウロスの話とかはどうだ?」

「お、(せい)の話だ!聞きたい」

「ふふ、少し違うけど...日の国のケンタウロスは速さが特徴でな、転移魔法陣のない時代でも数分で町から町へと走って着く。その中で一番有名なのは...」


 俺に物語を語るあき君、まるで吟遊詩人みたいに感情豊かに語り、俺を夢中にさせる。時々俺の顔を見るや目を背き、顔を赤らめる姿、やはり彼も男だと微笑む気持ちになる。

 不思議だ。一緒にいるのが平気所か、心地よさすら感じる。やはり幼馴染だからか、頭の中に「私」としての記憶がなくても、体にあき君と一緒いた時期の記憶が残っているんだ。

 あき君と一緒にいるのが楽しい。「私」が俺にそう語っているような気がする。俺は不意にも、「私」という女の子に会ってみたくなった。

 「私」は、どこに行った?俺はどうして「私」の中にいる?

 謎がどんどん増えていきハイテンションになっていくが、あき君の声が心を落ち着かせてくれる。


「...おしまい」

「パチパチパチパチ」

 手に力が入らないから、口で「拍手」した。


「ごめんね、あき君。手でパチパチしたいが、力が入らなくて、口で我慢して」

「そんな、気を使わなくていいよ。俺はただ読んだ本に書いたものを語っただけだし、別に特には...」

 あき君が顔を赤らめて、照れていた。


 ふっと、病院という場所を思い出した。彩ねー、今はどうしているのだろう?


「今の私達は、まるでずっと入院している病弱な少女と、つい先日に怪我して入院してきたバカ小僧みたいだね」

「俺が『バカ小僧』について、まだ議論する余地があると思うが、お前は正に『病弱な少女』だ」

「そうだね」


 あき君の体を上から下まで見た。

 魔力はそれ程ではないが、しっかりした痩せマッチョな体、中性的な顔つきで、女にモテそうな優しい性格。我が儘を聞いてくれるが、しっかりと自分の考えも持っていて、俺の「病弱」を治す薬草を先に探してきた。そして、(せい)の話から、あき君は頑張り屋さんだと伺えるし、(せい)の相手を務めるほど腕も立つ様だ。

 転生ものなら、こういうのが主人公だろう?何で俺は逆に主人公を見る方に入っているんだ?


「失礼します」

 ドアが静かに開かれて、ヒスイちゃんが入ってきた。


「ごめんなさい、ナナエお姉ちゃん。できればもう少し後で入りたかったのですが、スープが冷めてしまいますので...」

 外で待ってていたのか?どうして?


「ヒスイぃ!抱っこぉ!」考えるのをやめた。

 可愛いヒスイが料理を持ってきた。

 ん?料理?


「あれ、晩御飯?」

「はい。丁度いい時間なので、料理も一緒にお持ちしましたの」

「ヒスイちゃんの手料理!?」

 女の子の手料理だ!


「い、いいえ。女将さんが作りました」

「うん、女将か」

 女の...手料理だ...


 でも、何で女将自ら?当番?

 不意に、皺くちゃになっている女将の顔を思い出す。セバスチャン程ではないが、年を取っている。しかし、「まだまだ現役だ」と思わせるその凛々しい顔、確かに今も厨房で一汗流しできそうだ。

 でも、料理を作るのは普通「板前」じゃないのか?


「あ、えっと、『かいこ』、されました。昨日、ナナエお姉ちゃんが一口しか、板前さんの料理を食べなかったので、それで...」

「私の所為!?」

 恐るべし、「守澄」という苗字。ご飯を食べなかっただけで、人一人の人生を狂わせた。


 まあいいや。それで料理がおいしくなるのなら、何の問題もない。


「ヒスイちゃん」

 ヒスイちゃんに手招きした。


 心が読めるんだから、俺が何をしたいのか、分かるよね。


「へへ」

 俺に抱っこされる事に、ヒスイちゃんも嬉しそうだ。


 料理を近くに置いて、ヒスイちゃんは背中を俺に預けた。

 俺は胸をヒスイちゃんの肩に置いた。俺も少し楽になるし、ヒスイちゃんも柔らかい枕を得られて、うぃんうぃんだ。


「たった一日で、随分と仲良くなったな」

 あき君が言う。


「へへ、羨ましいでしょう?」

 俺は強くヒスイちゃんを抱きしめて、あき君に見せつけた。

 しかし、何故かあき君が急に顔を赤らめて、目を逸らした。


「ナナエお姉ちゃん、胸」

「胸?あぁ...」


 なるほど、あき君は「私」の巨乳に注目してた。

 見て欲しいのは可愛いヒスイちゃんの方なのに...


「ヒスイちゃん、アレだね」

 ヒスイちゃんに小声で話しかけた。


「えぇ、アレです、ナナエお姉ちゃん」

 ヒスイちゃんも小声で返事をした。


 クスクス。


「ふ、二人は何の話をしてるんだ?」

 クスクス笑う俺とヒスイちゃんを見て、あき君が焦って大声を出した。


「あき君、イヤらしいんだ」

 俺は挑発するような笑みをあき君に魅せた。


「いや、そういうわけじゃ...」

 顔を真っ赤にして反論するあき君。男なのに、ちょっと可愛いんだ。

 ......

 ...


「あ、そうだ」

 ヒスイちゃんと餌付け餌付かれて料理を平らげた俺は大分元気になった。それで、一つやりたい事を思い出した。


「あき君、今日はダンジョンに入ったのは先生とシイちゃんだけだよね。二人がどこまで潜ったのかを、ちょっと連絡して聞いてみてくれない?」

 明日、俺もダンジョンに入るから。合流地点を前もって知っておきたい。


「あぁ、そうだな。じゃ、ちょっと待ってて」

 あき君が手を耳に当てて、紅葉先生とシイちゃんのどっちかに連絡を取った。

 ......

 長い...

 暇なので、ヒスイちゃんを弄ってやろう。


「ヒスイちゃん」

「は~い」

「くすぐってやろうか?」

「嫌~、も~う」

 ヒスイちゃんは笑いながら、俺から逃げた。

 ......

 まだ終わらない...

 あき君は手を耳に当ててから、全く動かなくなった。「(バンゴウ)」間違えた?


「ト~ウ」

「えい」

 俺とヒスイちゃんは枕投げ大戦を始めた。


 あき君が持ってきた草を飲んでから、俺はすっかりに元気になっていた。動きも楽々、呼吸も平穏。先までの「病弱」は嘘のようだ。


「おかしい」

 ようやく再び動いたあき君がそんな事を呟いた。


「どうした?」

「先生と連絡が取れないんだ」あき君が手を下して、腕を組んで考える。「何かあったのかな?」


 あれか?今は魔力希薄(デンパのよわい)のところにいるとか?


「じゃ、シイちゃんは?シイちゃんと連絡取れる?」

 別口を勧めたが、よくよく考えたら...


「あの、俺、神月さんの念話(でんわ)知らないんだ」

「『こうずき』?あ、シイちゃんか!」

 本名が神月こうずき椎奈しいな、別に忘れた訳じゃない。


 そうだ。あき君はシイちゃんの念話(でんわ)まで知らない。そして、俺は誰にも念話(でんわ)できない。

 詰んだ。


「まあいい。明日、探しに行こう」

 十三番のバックを持っていこう。あのアイテムがあれば、すぐに見つかるだろう。


「やはり、行くのか?」当たり前の事をあき君が聞いてきた。

「そうだよ。私が楽しくなきゃ、この合宿に意味がなくなるでしょう?」しれっと言った。


「ふふ、そっか。そうだな」

 なんと!あき君は俺の言葉に賛同した。


「もちろん、それだけじゃないよ!」

 俺は逆に慌ててしまい、自分の言葉に反論した。

「紅葉先生とシイちゃんが仲良くダンジョン探検すると思う、あき君?」


「いや、思わない...」

 シイちゃんの事が全く知らないあき君でも、シイちゃんが紅葉先生を嫌っている事に気づいてる。

 シイちゃんの紅葉先生への態度はそれ程分かりやすいものである。


「だから、行くのだよ。二人が心配という点からも、私達はダンジョンに降りないといけない」

「ななちゃんが無理に降りなくても...」


 あき君が俺をダンジョンに降りて欲しくない様だ。

「やはり、一部は探索済みとはいえ、ダンジョンには危険が沢山。魔物もきっと、また一杯いると思う」


「魔物?」

 初めて聞く言葉じゃないが、それでも少し驚いた。

 今回のダンジョン、学生が許可を取れば気楽に入れるダンジョンなんだ。魔物なんて、ないと思っていた。

 魔物か...見てみたいな。


「ナナエお姉ちゃんは怖いもの知らず?」

 ヒスイちゃんが勝手に俺の思考を読んだ。この勝手な行動に、俺は喜びを覚えた。


「ヒスイちゃんは見てみたくない?魔物だよ!魔力を持つ動物だよ」

「魔物は嫌いです。思考がごちゃごちゃで、読むと頭が痛くなります」

 サトリらしい感想だ。


「読む?頭が痛い?」

 ヒスイちゃんの言葉に、あき君が反応した。

 あき君がヒスイちゃんに興味を持った?


「バカあき君には関係のない話だ!」

 俺のヒスイちゃんに、手を出させない!


「何でいきなり怒る?俺、怒られるような事をしたのか?」

「そもそも、あき君だけで、あの二人を――先生とシイちゃんを止められると思う?一学生のあき君が?」

「そ...確かに」


 あき君がしょんぼり。

 やりすぎ?


「あき君、あの二人を止められるのは私だけ。私はシイちゃんの主で、私のお父様は先生の雇い主...いや、正確にはシイちゃんの雇い主でもあるね...」

 俺はお嬢様だけど、「当主様」じゃない。

 シイちゃんの主は俺じゃなくて、「お父様」だ。


「...と、とにかく!私なら、あの二人の仲裁役になれる。親の七光りだけど...私はシイちゃんと紅葉先生と喧嘩させないであげられる!親の七光りだけど...私は!」

「わ、分かった!ななちゃん。もういいから、落ち着いて」

「あ」

 俺はあき君とキス出来る程に近づけていた。


「ぃ、嫌!」

 あき君を押しぬけた。

 危ない!男とキスする所だった!


「いっ...」あき君は後頭部を押さえてる。

 あき君は俺の所為で、少し頭を打ったようだ。


「わ、私は女の子だから、悪くないからな!」

 意味不明な言い訳をして、俺はヒスイちゃんを捕まえて、「女の子成分」を補充した。


「ナナエお姉ちゃん、どうしましたの?」

「え?」

 サトリのヒスイちゃんが質問した。心を読めるなら、「質問」なんて、しない筈じゃないのか?


「ナナエお姉ちゃんの心を読めますわ。でも、分からなかったのです。感情の色と心の考えが一致しないのです。おかしいのです」ヒスイちゃんは小声で俺に言った。


 でも...

「あぁ...」

 俺もヒスイちゃんが何を言っているのか、分からない。


「何でしょう?」

「何だろう?」

 頭を傾ける俺とヒスイちゃん。

 あ、あき君を放置してた。


「あ、あき君?」

「大丈夫、大したことはない」

 あき君は平気そうな顔をした。

 でも、俺の所為で怪我でもしたら...


「ちょっと見せて」

「ななちゃん!?」


 あき君の後ろに回って、無理矢理彼の髪の毛を弄った。

 傷らしい傷はないみたい。これで「十円ハゲ」でも出来たら...彼が女の子と付き合えなくなり、俺は仕方なく彼の彼女になりかねない!


「よかった。ハゲてない」

「ハゲないよ、頭をぶつかる位で...」


 何故だろう?今のあき君はとても大人しい。俺にされるか儘だ。

 髪の毛、サラサラ...男の分際で、サラサラヘアー?


「くんくん」

「!ななちゃん?」


 しかもいい匂い...羨ましいぞ!


「ふん!」

 ムカついたので、その頭を叩いてから、ヒスイちゃんの所に戻った。


「えぇぇ」

 あき君は「何故頭を叩かれたんだろう」という顔を見せた。


「ななちゃんは、本当に力が弱いな」

 あき君はそんな事を呟いた。

 聞こえてた!


「ま~だ叩かれたいのかな~?」

 怒りを隠して、笑顔であき君に訊いた。

 俺の手が疼く、イケメンの頭を叩きたくて、仕方がないんだ!


「え、遠慮します!」

 あき君が丁寧語を使って謝った。

 仕方ない、許してやる。


「あれ、何の話だった?」

 話が本題から逸れたのが、これで何回目だ?

 俺、もしかしてコミュ力低い?


「お姉ちゃん。ダンジョンの話」

「あぁ」

 ヒスイちゃんのお陰で、本題を思い出した。


「兎に角、私はダンジョンを降りるよ。誰かなんと言おうと!」

 意思表明をした。

 もし、それでもあき君は俺に反抗してくるのなら、いよいよ「ナナエ百八(予定)の秘密道具」、そのスタンガン(七番)の出番だな。


「本気でななちゃんを止めるつもりなら、俺はそもそも『薬草』なんか探して来なかったよ」

「そ、そう言えば...」


 尤もの事だ。

 俺が元気を取り戻したのはあき君のお陰だ。彼は元から「俺を止める側」にいる方ではない。


「ごめんなさい、あき君」

 俺の勝手な決めつけで、貴方を邪険にした。痺れさせようと思った。

 貴方は、「私」の味方なのですね。


「あ、謝ることないよ!俺は別に、大したことをしてない」

 この程度の事で、あき君はテレだ。まだまだ子供なんだな。


「したよ。君のお陰で、私は元気になれた。君がいなければ、私は明日もベッドの上で無意味に一日を過ごすんだろう。ありがとう」

「れ、礼を言うような事でもねえよ。俺達、友達だろ?」

「ん?」


 友達?


「私達、幼馴染だよ」

「えぇ。友達だ」


 幼馴染が、友達、だと?


「あき君は...」

「ん?」


 この女顔男はだめだな。幼馴染の価値が全然分かってない!

 友達?幼馴染が、ただの「友達」の筈がないだろ!世の中に、どれだけの人が「友達」より、「幼馴染」を欲しがっていると思う?


「バカ!寝る!」

 俺は布団に潜った。

 明日の為の体力補充だ。


「ななちゃん?」

「はいはい。ナナエお姉ちゃんが寝ますので、男は出ていてください」

「え?いや、もうちょっとお話...」

「お休み!」


 ドン、ドアの閉める音。

 ヒスイちゃんグッジョブ。帰ったら何でも買ってあげよう。


「ヒスイは十分な物をもらいましたから、何もいりません」

 部屋を出る前に、ヒスイちゃんは最後に一度、俺のお凸に手を当てた。俺の体調を気遣ってくれた。


「ヒスイちゃんは良い子だな」

「ナナエお姉ちゃんのお陰です」

 そう言ったヒスイちゃんは明かりを消して、ドアの側に行った。


「お休み、お姉ちゃん」

「お休み。次から、逆の方がいいな」

 小さい女の子が寝るまで、側でお話をして寝かしつける。昔、妹によくしていたことだ...思春期入るまでの妹がな!


「ふふ、分かりました」

 そう言って、ヒスイちゃんは外に出て、ドアを閉めた。


 あ!鍵、掛けとかなきゃ...

 まあいいか。俺を襲おうとする人とかがいたら、きっと、ヒスイちゃんが先に気づいて、何か手を打つはずだ。

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