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第七節 予定変更④...全国練武術大会の略説

 臨んだ以上の情報を手に入った俺は、すぐにでも離れたいのだが、タマの親父さんが放してくれない。


「今日はおめでたい日。是非、うちで食べていてくれ!」

 ...とのことだそうだ。


 面倒くさい...

 祝い事は好きじゃない。いつも俺の予定を狂わせる。みんながはしゃいでいる時、俺はいつも冷静になってしまう。冷静に、みんなを観察し、「バカだな」と他人を見下してしまう。

 別にみんなと一緒にはしゃいでもよかったのに、どうしてもそのテンションに乗れない...


 だから、今回もちゃんと断るつもりだったけど、何故かタマ弟と仲良くなったあき君にまでお願いされた。


「玉藻さんの事はよく知らないが、ななちゃんを大事にしていることが分かった。ななちゃんも玉藻さんを探しにここまで来たんだ、ななちゃんの大切な人ということが分かる。

 その行方不明になった玉藻さんが、少なくともまだ元気で生きていることを知っただけでも、俺は祝うべきことだと思う。

 折角のご好意だし、猫屋敷さんのお気持ちに応えてあげましょう。紅葉先生には連絡しておくから」


 ここまで言われたら、俺も断るに忍びない。まさか、あき君が俺の敵に回るのは、予想できなかった。


 しかし、この二人、仲良すぎじゃないか。

 タマの弟さんがあき君を「兄貴」と呼ぶし、あき君もさっきと違って、よく喋るようになっているし...

 別に腐女子の気持ちは分からないけど...怪しいな、この二人...


「二人は何を話しているの?」

 蚊帳の外は嫌いな俺は、二人に話しかけた。

 二人はお互いに目を配って、どっちが返事をするかを目で相談した結果、結局あき君の方が口を開いた。

 なんで目で分かり合ってんの(-_-メ)


正守(ただもり)の姉について話していた」

「へ~」


 タダモリ?誰だっけ...

 そんなコウモリかなんか知らない誰かさんの姉の話より、俺はタマの話が聞きたい。


「それより、タマの事を私に教えて」

 俺は強引に話を自分の興味のあるものに変えた。


 タマの魂を降ろした時、色々聞くべきことを聞いていなかった。

 例えば「最後の記憶はなに?」とか、「あの日、私と別れた後、どこで何をしていたの?」とか...

 色々あるのに、あの時は雑談で終わらせた。その上「タマは生きている」と嘘を吐いたから、嘘をばらさないようにするなら、二度とタマの魂を降ろして貰えない。

 俺は、自分の想像以上にショックを受けているかもしれない...


 それで、結局タマの(死体の)居場所を見つける為、予定通りにタマの過去について調べることになった。

 手始めに弟さんに話を聞くことにしたが、何故か二人はおかしな顔で俺を見つめてきた。


「姉貴について何が知りたい?」

 一応弟さんはちゃんと返事してくれた。


 でも、「姉貴」かぁ...「お姉ちゃん」って言ったら、ギャップがあって面白そうだけど...


「とりあえず、タマの敵を教えて」

 タマの死に繋がる情報を優先した。


「敵?なぜそんなことを知りたいんだ?」

 弟さんは厳しい顔で、尤もな質問をしてきた。


 そんなことを気にせず、黙って俺の質問を答えるだけでいいのに、余計な好奇心を...

 仕方ない、適当になんか理由を付けておこう。


「タマは無事だってことは確かに分かったけど、まだ行方不明のまま。私は元々その為にここへ来た。それは分かるよね」

「ああ」

「だったら、真っ先に疑うべき人物は、タマに恨みを持つ人達、違うか。」

「そうだな」


「ななちゃんはその人達の誰かが、玉藻さんを誘拐したと考えているのか。」

「絶対にそうだとは言えないが、可能性が高いかと」


「ありえないな」

 弟さんは背中を壁に乗せて俺の推測を反論した。


「言っとくけど、姉貴は超強い(つえぇ)んだよ。ちょっと腕に覚えのある奴でも、姉貴の敵じゃねぇ」


 この小僧、随分と姉に慕っているな。シスコンか?


「あのタマか。普段のドジっぷりから、とてもそうは見えないんだか。」

「姉貴を『タマ』って呼ぶのはやめてくれる?」

 弟さんは怖い顔で俺を睨んだ。


「ひゅひゅ~。」

 口笛でスルーする。

 この小僧、その程度のことで怒りやがった。

 可愛いね...


「タマは君の姉だが、私のモノだよ。どう呼ぼうか私の自由だ」

 親父さんの時のように、俺は挑発的な笑顔で、流し目で弟さんを見た。


 弟さんは「ムカつくやつだな」とでも言いたげな態度で、俺から目を逸らした。

「ともかく、姉貴は大抵なやつに負けるわけがない。なんだって、第二回の『全国練武大会』の準優勝だからな」


 ゼンコクレンブタイカイ?

 ...あぁ、あれか...(せい)が優勝したあの「天下一武〇会」...

 あんなどっかの漫画のパクリみたいな「大会」は誰が開けたの?


「第二回?いつのことだ?」

「お前の親父が開催したモンだろう?何で覚えてねぇんだ?」

 身内かよ...


「ななちゃん。ずっと前から思っていたけど...」


 やばい!あき君は何か気づいたっぽい!


「悪かったね!見たこともないから、知らなくてもしょうがないじゃない!」

 頭の回転が速い俺はすぐに逆切れ風に誤魔化した。


 「私、病弱です。外に出たことありません。分かってください」的な感じで、それ以上追究させないようにした。

 そして、見事にあき君が口を噤んで、申し訳なさそうにしていた。

 次は「弟さん」だな。


「タマの弟さん。『お前』呼ばわりを止めて貰えます?私は君の恋人でも、女房でもありません」

「っ!そういう意味じゃねえよ!普段は、その...こういう喋り方で...お前だって『君』って人を呼んでるでしょ!」

「また言った!そんなに私の彼氏になりたいの?」

「別に、そういうわけじゃ...」


 ふふん...意外と面白い!

 どうやら、人をからかうことに関して、俺は男でも楽しめるようだ。


「そういうつもりじゃないなら、今後、私のことを『奈苗ちゃま』と呼びなさい」

「『ちゃま』!?」


 鳩が豆鉄砲を食ったような顔はどんな顔だろうな。恐らく、今の弟さんはそんな顔をしていると思う。


「言える訳ねぇだろうか!からかってんのか。」

「おおぅ、君はようやくそれに気づいたね」

「くそっ...」


 この子、不良っぽい感じなのに、怒ってるのに暴力は振るわない。女の子を殴らない善き不良か。


「まあまあ、二人共このくらいって...ななちゃんは『全国練武大会』について知りたいよね」

 ことの収拾がつかない前に抑える為、あき君は仲裁に入った。


 俺も別に喧嘩好きというわけじゃないし、一旦手を引こう。


「そう。少し前にも一回あったらしいけど、『全国練武大会』(あれ)はなに?」


 俺の問いに答える為、あき君は思考を巡らせた。

「凡そ13年前に、ななちゃんのお父さんが開いた四年一度の祭り。目的は分からないけど、参加費なしプラス優勝に賞金。

二回目からは、世界中から参加者が集まるようになった国イベントを超える祭典になった」


 へ~、すげぇ...


「観戦者から金を取ってるけどね。」

「カンセンシャ?」

 試合を見る人達、「観戦者」のことかな。

 弟さん、難しい単語知ってるね。


「一回目の大会『記録』をそのまま宣伝広告となり、人の目を集まるようになったのだ。一人一人に取る料金は高くないが、人数も人数だし、結果的に儲かっていると言われてる」


 ほうほう...

 参加無料に賞金付き、タダでお金を貰えるチャンス。

 この世界の現状は「魔道具技術を重んじて武道を軽視する」。

 この「全国練武大会」は体力バカや武道バカ達にチャンスを与えている。

 我先に参加する結果が簡単に予想できる。

 そして、観戦者に少しだけお金を貰い、参加者達の試合を見せるだけ。見る人の数か大きければ大きいほど儲かる、という寸法か。

 あざとい!


「お父様は根っからの商人だからね。でも、大会そのものが面白くなければ、見る人も少なく儲からないじゃない?」

「一回目はそうだけど、強者と戦いたい欲求は武芸を嗜む者達皆が持っているものだから、二回目から参加者も観戦者も何倍も増えた」


 第一回は宣伝、先行投資みたいなもの。

 誰にでも気軽に記録を見れるように低価格で提供することによって、人々の闘争心を煽る。次の大会の参加者はそれで増える、従って観戦者も増える、大儲けする。

 あざとい!


「お父様は汚いね。」

「ななちゃん、自分の父親のことをそんな風に...」


「いいじゃねぇか。あの男を嫌ってる方が、逆に好感を持てると思う。あの男の娘というだけで、皆に嫌われたくないでしょ?」


 弟さんはやはり「お父様」嫌い方の人間に属している。


「それで?確かタマの話をしていると思うが、どこでタマと繋がってるの?」

「...第二回の準優勝、姉貴だよ。」

「それは凄いの?」


「ななちゃん、二回目から参加者が倍増、有名な武道家も多く参加している。その玉藻さんがその時の準優勝、かなりの実力者であることの証明になっていると思わないか?」

 そういうものなのかな。


「あの頃の姉貴はまだ十七だ。大の大人何人も負かして、準優勝になったんだ、すげぇに決まってんだろう。」

 シスコンめ...


「あき君も参加してなかったっけ?何位?」

「...去年の大会で、第十位...」


 低ッ!めっちゃ低ッ!

 準優勝を取ったタマはマジですげぇんだな。

 もしくは、「あき君を見縊っている」と思っているのは間違いなのかな。


「賞金を貰えるのは一位だけ?」

「そう。」

「準優勝には何もない?」

「なにもない。」

「タマの苦労意味ないじゃん?」

「それがどうした?姉貴の強さを証明するには十分じゃん!」

「まあ、そうなんだけど...『その後の大会に参加したのかな』と思って。」

「しようとしたけど、なにか?」


 一々突っかかるなよ、弟さん。ちょっと君の姉の事が知りたいだけなのに...


「『しようとした』ってことは参加しなかったな。どうして?」

「お前の親父に勧誘されたからだ。」


 お父様に勧誘された?

 ってことはメイドになったから、「練武大会」に参加しなくなった?

「練武大会」そのものが「私」のメイド選びの為のモノなのかな。

 もしそうだったら、お父様はとんでもない親馬鹿ということになるし、優勝者にしか賞金を与えない行動は、準優勝を勧誘する為の罠!

 あざとい!


 タマは「博打」より「安定職」を選んだ。

 ...つうか弟さん、また「お前」を使ったな!


「お父様のことを嫌いにならないで、あ・な・た♡」

 悲しそうな笑顔を作った。

 弟さんの顔が一気に赤くなったことから、いい演技ができたことを確認できた。


 小僧。本当なら、こっちは君より五年も年上なんだぞ!

 今は一歳下だけど...


「ふざけてんじゃねぇ!」

 弟さんは逆切れに俺に吠えた。

 フシャーッ...って怒っている猫みたいだ。

 ......

 ネコ...


 よく見ると、弟さんはその生意気小僧な顔以外、タマと同じように猫の耳がついている。

 しかし、その耳はタマと違うタイプの耳で、全然違う品種の猫の耳だ。

 タマの耳は普段垂れていて、俺に呼ばれた時にしか立たないが、弟さんの耳は常に立てている。タマの耳は黒と白の二色だが、弟さんのは灰色一色。タマに尻尾はないが、弟さんに尻尾がある。


 ...尻尾!

 本気で弟さんを猫に見えてきた...


 触りたい...

 モフモフしたい...

 その耳と尻尾が本物かどうかを確かめたい...


「ごめんね、もうからかったりしないから。」

 俺は笑顔で謝り、弟さんに近づいてみた。


 しかし、弟さんの警戒心は想像したより高い。

 俺が笑顔で謝っているのに、はって一歩近づけば睨んで来て、二歩近づけば三歩ほど遠ざけられる。

 距離が詰められない!


 ちょっと策を講じる必要があるな。


「そう言えば!」

 俺は策を実行すべく、話題を変える言葉を口にした。

「ずっとタマの話をしていたら、一つ、思い出したことがあります。」


 何事ッ?と思ったのか、二人は音を出さないように、全身を動かず俺を注目した。


「実はタマから一つ、とても人には言えない恥かしい秘密を聞いた。」


「人には言えない...」

「...恥かしい秘密。」


 二人はやはり男の子。俺の曖昧な言い方に気を取られ、頬を赤く染めながら、俺の言葉を復唱した。

 変なことを考えているのがバレバレだ。


「あ!あき君は完全に他人なので、ちょっと離れてくれます?」

 今はとりあえずあき君いらない。


 俺の言葉にショックを受けたか、あき君はしょんぼりして、黙り込んだ。

 弟さんはあき君に同情しているけど、好奇心に逆らえず、最後は俺の話に集中した。


「この話を聞いた時、耳を疑いました。タマにそんな秘密を持っていることがとても信じられませんでした。」

「...(ごっくり)」

「その信憑性を確認したいのですが、事も事だけに、迂闊に人には話せません。」


「ななちゃん、それほどの事なら、黙ったままの方がよくないか。」


 あき君は尤も正しいことを言った。

 まったく...知らない人に余計な気遣いをしなくていいのに、こういう時のお人よしは邪魔だな...

 これで強引に「あき君は黙ってて」とか言ったら、弟さんの警戒心を高めてしまう。

 上手い返しをしなくては...


「これは...その...この秘密はとても私一人では抱え込めません。」

 よし!ギリギリ、思いついた。

 では、どう発展していこうか。


「私、もう耐えられません!誰かにこれを伝えないと、私、死んでしまいます!」


 言葉を無駄に長くして、考える時間を増やすつもりだが、喋っている途中から「別にわざわざ話を作らなくてもよくない?」と思った。


「それでも、タマにとって赤の他人のあき君には、この秘密を伝えられません。弟さんにだけ、この秘密を聞いてほしい!」


 俺の言葉を聞いて何かを納得したか、あき君は「それなら、仕方がない」と言って引き下がった。


「俺、少し外に出ようか。」

 しかし、効果覿面すぎてしまって、あき君は席を外そうとした。


「いや!出ないで!そこに居て!」

 俺は慌ててあき君を引き留めた。


 今、あき君が部屋を出たら、俺の策が破れることになる。ここに居てもらわないと困る!

 けど、今の慌てっぷりはよくない!弟さんに怪しまれてしまう!


 そう思って、弟さんの方も目を向けたが、彼はなぜがあき君に耳打ちをした。


 何を話しているのだろう?


 耳に「集中力」を集めて、彼らの会話を拾う試みをした。


「そんなことないよ。」

「いや、絶対そうだよ、兄貴!俺を信じて。」


 彼らの会話はそこで終わり、俺は結局、最後の中身のない言葉だけを聞き取れた。

「そんなことない」「絶対そうだよ」...何の話をしているのだろう?

 まあいい。今は策を完遂するのが先だ。


「ごめんね、あき君。我がままですけど、話を聞かせてやれないのに、外に行って欲しくもない。そこに居てくれます?」

「はぁ、わかった。」

 まず、あき君をここに引き留めることに成功。

 次は...


「弟さん。ちょっと耳を貸して」

 弟さん(ネコ)を呼び寄せる。


 俺を警戒しているけれど、シスコンの弟さんは「姉の秘密を知りたい」という欲求に逆らえるはずがない。

 一歩、また一歩、弟さんはゆっくりに俺に近づいてくる。

 俺は飛び出す欲求を全力で抑え、ただ只管に、弟さんが寄ってくるのを待った。

 そして、遂に至近距離になって、俺は...

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