第七節 予定変更③...魂魄降し
「へぇ~」
生死を確認できる?なんでそんなピンポイントな方法があるんだ?
「『猫屋敷家』は|猫種の中でも、ちょっと特殊な家系で、死んだ人を呼び寄せることができる」
きゃっとしゅ?なんですかそれは?
「この特殊な力によって、『猫屋敷』は『ケットシー』になった」
喋りながら、猫屋敷○○さん(名前忘れた)は服の中から、一つ小さな玉を取り出した。
「これは俺が発明した魔道具:『模倣人形』、死んだ者の魂を一時的にこの玉に降ろし、仮初の生を与える。普通の動物の魂を降ろすなら、誰にでもできるので、若い奴らの間ではちょっとしたブーム?になっているようだ。これを作って家計をやりくりしていたが、作るに時間と魔力を大量に消耗するから、大量生産できない。所詮玩具のような魔道具だから、高く売れない。なかなか生きにくい世の中になったもんだ」
何故か愚痴を言い始めた猫屋敷○○さん。
彼がさりげなく言った色々なことが俺に様々な疑問を与えた。
死んだ人を呼び寄せられる?「ケットシー」になった?特殊な家系?
「何で『死んだ人』を呼べるのだ?」とか、「『ケットシー』は最初から『ケットシー』じゃなかったのか。」とか、「『特殊な家系』ってことは、人間に『種族』以外の違いがあるということなのか。」とか...
どうやら、この「異世界」を完全に理解するには時間掛かりそうだ。
まあいいや、聞かなかったことにしよう。
「武術の才能がない俺だが、幸い猫屋敷の『血統魔法』に秀でる。この『模倣人形』を使えば、俺の意識を一時的になくなるが、死んだ人間の魂を降ろせる。これから玉藻の魂を降ろしてみる」
「ちょっと待ってぇ!」
ついに我慢できずに、俺は「待て」と言った。
「ブラッなんとか」という新しい単語が出てきて、流石に自分の疑問を無視して、先に進められない。
くそぅ、俺の好奇心をくすぐりやがって...今更この世界の常識を学んでも、もう遅ぇというのに、何で次から次へと知らない言葉が出てくるの?
「まず、ブ、ブラッ、なんとか、って、なに?」
「『血統魔法』?」
「イ、イエス」
つられて英語で返事したけど、俺そんなに英語力ないんだよ。
「『イエス』ってどういう意味?」
何故か伝わらなかった...
あれ?このおっさんが先に英語を口にしたのに、何で同じ系統の言葉が通じないんだろう?
「あ、いや...その、ブラッドマジックって、なんですか。」
丁寧語で誤魔化した...つもり。
「学校では学ばなかった?」
「すみませんね、不勉強で」
嘘の逆切れをした。
「別に責めていない。そうすると、『種族魔法』から説明した方がいいな」
感動?勘当?
「人間、種族毎に得意とする魔法が存在する。『種族魔法』と書いて、『カインドマジック』と呼ぶ。それらの魔法を使う際、無意識に入力する各属性の量が分かり、その魔法を使う。けど、『無意識』で使っているから、自分の使用した魔法について説明できない。そういう特殊な魔法は各種族に少なくとも一つを持っている」
「へ~」
分かるような分からないような...
つまり分かってないということだな!
「そして、昔から人間は神に近づこうと、異種間交配を推奨している」
交配!
もっとオブラードに言えないのか!
「少しずつ神の姿に似てくると同時に、『種族魔法』が突然変異する事が、偶にあった。基本同性遺伝の『種族魔法』だが、極僅か両方の『種族魔法』を同時に遺伝する場合はある。すぐに異性遺伝した方が消えるけど。
その中で、更に僅かな確率で突然変異が起こり、『血統魔法』が生まれることがある。その『血統魔法』は『種族魔法』と違って、血筋によって代々引き継がれる、イレギュラーな遺伝魔法だ」
「へ~」
Zzzz~
今はこんな感じだな。
でも、一応話はちゃんと耳に入っているが、頭までに辿り着けないっぽい。
「ケットシーの『猫屋敷家』はその中の一つ、死んだ者の魂を己の体に降ろせる魔法を使える」
「へ~」
「ちゃんと聞いている?」
「うん!聞いてる聞いてる」
何故だか分からないが、俺がみんなの話を真面目に聞いている時、真面目であればあるほど、みんなから疑われる。
俺の態度が悪かったのか、タマの親父さんは諦めな溜息を吐いた。
「俺はその魔法を、自分ではなく、この『模倣人形』に降ろすことができる。人間の魂を自分じゃないモノに入れるけど、やはりまだ気絶するけどな」
今朝、ナンパ野郎から「模倣人形」というものを見せられた時、どこかで見たような気がしたが...先までずっと考えていたが、今ようやく思い出した。
「これ、前タマに見せられたよ」
「え?玉藻に!」
余程驚いたが、タマの親父さんは目を大きく開いた。
「いつ?何時見せられた!」
「失踪する前...?」
具体的な日付を忘れたから、適当に返答した。
「俺はつい最近、これを発明したばかりなのに...」
ショックを受けた親父さん!
え?なに?自分の娘に負けたの?笑える、ははは!
「あの子には魔法の才能がないと思ったのは、俺の間違いだったのか。」
そして隠れて笑う親父さん!
この親馬鹿か...
「あの、そろそろ...」
俺は催促した。
「あ、あぁ、すまんな」
親父さんは玉を手に取って、目を閉じた。
「今から俺は、玉藻の魂を降ろす試みをする。その間俺は気絶するが、もし成功したら、お前が玉藻の相手をしてくれ」
あぁぁぁぁ!そうか!そういうことか!
つまりタマの魂を呼んでみて、来たら死んでる、来なかったら生きている、ということ。魔法でタマの生死を確認する。
オーケー、分かった!
俺は姿勢を正して、親父さんの術を待った。
「お嬢様?ななえお嬢様?」
「うおぉ!」
あまりにも突然、タマの声が聞こえた。
周りを探してみたら、座っている岩の上に、手に乗れるくらい小さいタマがそこに居た。
「タマ?タマなのか!」
「はい!あなたのタマですよ、ななえ」
小さい!小さくて可愛い!
初めて会った時から、ネコミミ娘として可愛がっていたが、この大きさになったら、更にキュート!
「もうぅぅぅ!会いたかったよ、タマ!何でこんなッ...」
この時に思い出した...
これは、タマの魂を入れられた「模倣人形」...
「うぅぅ...よく覚えてないんだよな。記憶が曖昧なんだよ」
敬語が下手なタマ...
つまり、タマはもう死んでいた...
......
ツッ、と胸に痛みが走った。
知人が死んだことを知る瞬間って、意外と辛いものだな...
ははは...
「なんだかずっと寝ていた気がする」
「寝ていたのか...」
そうだよな...
「死」って、永遠の眠りだからね...
「タマ...」
「うん?」
「そこの生活はどうなんだ?」
天国なのか、地獄なのか。
「うぅ...殆どの時間で寝ていたよ。何もかもがデカくて、椅子の上で横にできる」
思うがままに寝れるってことは天国だろうな。
天国は神の住処、何もかもがデカいってことは、神は巨人のように大きいってことだろう。
「偶に食事を出されるが、外には行かせてくれないんだ」
雲の上だから、うっかり落ちて、人間界に戻ってしまうから?
「でもね、一回だけ抜け出したことがあった!」
なにしてんの!
もう死んだからさ、天国で大人しくしてろよ!
「途中で迷子になって、感覚で帰ろうとしたけど、全然道が見つからなくって、何日も彷徨っていたよ」
本当何してんの?この子!
昔から、一度俺の側から離れたら、自分から帰ってくるまで、こっちからは絶対に見つからないんだ。
その放浪癖、死んでも治らないのか...
「そして最後、またまたデカい屋敷の前で、巨大な人間達に捕まれて、元の場所まで連れ戻された」
よかった...無事に帰れた...
......
タマらしいなぁ...色々と...
「タマ...君がいなくなってから、私、寂しかったよ」
涙を堪えて、できるだけ笑顔で話しかけた。
「あ、タマも!ななえに会えなくて寂しいよ!」
とても元気で、ハイテンションで返事するタマ...
こっちの気も知らないで...
「...また会えてよかった...」
「本当!嬉しいな。普段のお嬢様のその態度、メイド隊に興味ないと思ってた!」
タマにまで言われた...
俺は寧ろ、手を出さないように気を付けていたのに...
「ねぇ!ななえは今どこにいる?」
どこ...?
「...とても遠い場所」
「今すぐ会いたいよ!」
今すぐ...か。
「ごめんね、タマ。まだ会えないんだ」
死んだら会えれるけど...自殺は俺のポリシーに反する。
「そっかぁ...でもいつか会えるでしょ?」
「うん。いつか、会いに行く」
「それならいい!タマはずっとお嬢様を待ってま~す」
タマは笑顔で踊り出した。
段々と、タマの姿が点滅し始めた。
タマは多分、消えかかっていた。
早いな...短いな...
「そろそろ時間みたい...」
「時間?なんの時間?」
「タマ、必ず会いに行くから」
「え?うん」
「じゃあね、バイバイ...」
「え...?」
次の瞬間、タマの姿が完全に消えた。
......
...
「どうだった?」
タマの親父が俺に話しかけてきた。
真実を言うべきなのかな...
「玉藻は...来たか...なにか言ったのか...」
ふと思い出した、タマの為に俺に殴りかかってきた(タマの)親父さんの姿。
タマは彼の娘。
外に出したくないほど、大事な娘。
そんな彼が、娘の死を受け入れられるのか。
ただちょっと仲が良かった俺ですら、こんなにも辛い気持ちになるのに...
「なぁ、守澄の...何が言ってくれねぇのかよ」
...決めた。
「え?何も起こらなかったけど?」
嘘をつくことにした。
「なにも、おこらなかった?」
「そうなんだよ!失敗したんじゃないか。」
親父さんの厳しい顔が、段々と穏やかな顔に変わっていく。
「いや。『血統魔法』や『種族魔法』に失敗はない。何も起こらなかった場合、『降ろせなかった』ということになる」
「つまり?」
「玉藻は生きている」
親父さんが笑顔になった。
そして、その笑顔を隠す為に、顔を背けた。
「そうか、はは、生きてた。ははは、生きてたんだ!はぁ~、よかった、ははは」
親父さんは嬉しい感情を隠そうとしているが、隠しきれず何度も口を開け、笑顔になった。
そして、彼は遂に大声で笑い出した。
「はっはっはっはっはっ!すまん、守澄の。サユリにもこのことを教えるので...一人で帰れる?」
「はい、大丈夫です」
「そか!悪いな!」
親父さんは笑いながら走っていた。
ここから猫屋敷邸まで大した距離じゃないのに...
本当に嬉しいんだな...
タマが死んだと思っている旦那の方でもここまで喜んでいるなら、そのことを受け入れようとしない奥さんの方はどれだけ喜ぶだろう。
そして、真実を知った時、きっと俺の想像を超える程悲しむだろう。
......
もし、タマの死体を見つけても、絶対にこの二人に見つからないように、跡形もなく消さなければ、ならないかもしれない...
タマの行方を聞いて来ても、「わからない」・「きっとどこかで幸せに生きているだろう」とても言おう...
大丈夫...簡単なことだ...
息を吐くように嘘をつく。
そんなこと、俺にとって...
...大して難しくはない...