第七節 予定変更①...猫のお家
転移魔法陣を通って、俺達は宇摩山区に着いた。平均的に少し高い場所である為か、この区の異常に涼しい。
というか、寒い!
夏ならば、きっと避暑の名所になるだろうが、今はちょっと肌寒い。
ううぅ、寒い...
何でこんなにも寒いのに、女性の皆さんはスカートだろう...
次から、ダサいと言われようと、自分で服を選ぼう。
此処で紅葉先生と待ち合わせの筈だが、人が意外と多くて、先生の姿が見当たらない。
「あき君、先生、居た?」
試しにあき君に聞いたら、あき君の顔が一気に真っ赤になって、慌てて「いいえ、わかりません」と返して来た。
先のことをまだ引きずっているだろう。
その後、すぐシイちゃんに目を向くと、「まだこちらに着いていないと思われます」とのことだ。
また待つのか...嫌だな。
でも今回、俺はただ「待つだけ」をしなくてもよくなった。
「先生の『念話印』を持っている?」
「はい。」
「じゃ、ちょっと念話して、事情を聞いて来て。」
「かしこまりました。」
シイちゃんは手を耳に当てて、何かをし始めた。
「......」
......
「......」
......
「...神月椎奈だ。お嬢様がお待ちですけど、今どこに居る?」
わお...なに、この言葉遣い?俺に話をしている時と全然違う。
やっぱ「最古参」ともなれば、「平メイド」でも、偉そうにできるのか。
「お嬢様との約束より重要な用事なのか?」
......
「何の用事だ?」
...
「は?未だに終わってないのか。」
......
「何でもっと早く言わなかった?」
......
「...仮にもかつて『メイド長』を任された人なんだから、もっとテキパキ出来るようにならないの?」
......
「分かった。ちょっと待て。」
シイちゃんは一度念話を止め、俺に話しかけてきた。
「お嬢様。紅葉さんは『ダンジョン入り』の手続きをまだ済ませていないとのことで、今、それを行っております。どう致しましょう?」
そのことか...
シイちゃんが怒っているみたいだから、「何事?」だと思ったのに。蓋を開ければ、その程度のことだ。
「じゃあ、仕方ないね。合流場所は...もう、『旅館』に変えよう。紅葉先生に『頑張って』と伝えといて。」
「しかしお嬢様!このようなこと、一日も掛かりません。もはや、彼女が今まで何もしていないとしか考えられません。」
シイちゃんは何をそんなに怒っているのだ?今日は別に「ダンジョンに入らない」から、手続きがまだ残っても何の問題もない。彼女も日程を教えたはずなのに...
「いいよ。『ありがとう』も伝えといて。」
「...了解しました。」
渋々、シイちゃんは俺の言葉を紅葉先生に伝えた。
「...寛大なお嬢様が、お前の過失を許した上に、『頑張って』・『ありがとう』とまで言った。さっさと手続きを済ませて、『隠れの里』でお嬢様への謝罪の言葉でも考えておけ。」
何だが...何だろう...
ぶっちゃけ、今のシイちゃん嫌いだ。
「人に失礼」というか...人によって態度が違うのが嫌いだ。
やっぱ「最古参」だからか...
「平メイド」だけど、「一番目」のメイドだから、その後入ってきたメイド達を、例え「メイド長」でも、見下しているのだろうか。
「私」は彼女をよく知っていても、俺は何日前に早苗さんに紹介されたばかりだから、彼女の人となりをよく知らない。一通り彼女のことを早苗さんから教わっても、彼女本人のことを知らない。
でも、正直、俺は今シイちゃんは好きじゃない。彼女は自分が他のメイド達に嫌われていることを、知っているのだろうか。
「終わりました、お嬢様。これから私達はどう致しましょうか。」
「シイちゃんは先に『旅館』に行って、チェックインしといて。」
今俺と一緒に居ても、邪魔になりそうだから、彼女に「仕事」を任せることにした。
「私一人ですか。」
「えぇ、そうよ。私とあき君は...」
うむ、何と言おう?
適当に嘘を吐こう...
「...ちょっとデート。」
シイちゃんは「あぁ」と頷いた。
「お嬢様のお傍に離れることは些か不安ですが、どうかご許しを...」
そう言って、シイちゃんは俺の前で片膝を地面に着けた。
俺の命令で「離れる」のに、俺の許しが必要なのか。でも、この従順すぎる所は、めんどいと思っても、そんなに嫌いじゃない。
今の場合、「許す」と言えば終わりなのだが、シイちゃんの頭が俺の下にあるというのが意外と新鮮だ。180cm超えるシイちゃんを、140cm超えた程度の「私」はいつも仰ぎ見していたから...俺はやはり見下ろす方が好きだな。
俺はシイちゃんの角に触れないように、彼女の頭を撫でた。ただ手を他人の頭に乗せてるだけなのに、楽しい。
「頼みますね。」
「はい!了解しました!」
そう言って、歩いて行こうとしているシイちゃんを見て、俺は慌てて彼女を呼び止めた。
「お金のことを気にしなくていいんだからね。早くて楽な方を選んでいいんだからね。終わったら一人で遊んでも構わないからね。」
「ありがとうございます、お優しいお嬢様。」
所詮メイドは「家族」じゃない。給料を貰って仕事をしているだけだから、「仕事」の時に発生した費用は「公費」となるので、彼女はその分のお金を思うように使えない。
特に彼女の場合は、両親が「公費を横取り」で行方不明になった疑いがあるから、細心の注意を払わねばならない。
俺の言葉を聞いたからかどうかわからないが、彼女は「飛べるタクシー」:グリフォンに乗って行った。一応喋れない...人間じゃない方のグリフォンなので、「人力車」ではなく、「馬車」に属する。
動物扱いのグリフォンに関して、貴族「グリフォン」の人間はどう思っているのだろう?
そして、シイちゃんが去った後、俺は未だに俺を真直ぐに見れないあき君を見つめて、その手を掴んだ。
「さあ、行こうか。」
「え?行くって、どこに?」
「デート。」
「で、デート!?」
「そ。」
「でも、日程では、デートの予定はない...」
「そうだね。ちょっと予定が変わった。」
さらっと言った。
予定がいきなり変更になることは最初から「予定」していた。ただ、完全に私用だし、関係者が一緒に来ると感情的に動く可能性があるから、あき君と星以外の人に知られたくない。
星が居なくて、あき君と二人で尋ねることになるのを、最初は予想していなかったが、それくらいはただの誤差だ。
「あき君。これはまだ誰にも話していないことだが、実は...」
でも、本当に伝えていいのか。あき君にとって、完全に無関係な人なのに...
......
俺は、あき君に知ってほしいかもしれない。俺の、一つの秘密。
「今回の合宿、『合宿』だけが目的じゃないんだ。私は別の、もう一つの目的があって、ここに来た。」
「もう一つ目的...」
「私は、行方不明になった一人のメイドを探すために、ここに来た。
私が最も信じて、そして、私を裏切ったメイドを。」
......
...
「馬車」に乗って、俺達は山を下り、宇摩山区の離れに着いた。
かつて貴族であった猫屋敷家にはもっとまともな屋敷があったものの、今では都会から離れ、安いだけの小さな家に移っていた。
と言っても、そんなの「私」が生まれる前の話だから、「元猫屋敷邸」なんてものはすでに存在していない。
現猫屋敷家は「道場」を経営して、何とか生活している。
道場...
見た限り、住める部屋一つ以外、何もないんだが...
整備されていなく、無駄に広い空き地ならあるけど、まさかそこで「野外道場」?
まあいい。
俺は別にタマのご家族がどんな生活していようと、気にしていない。タマの情報さえ手に入れれば、もう彼らに用はない。
「頼もう!」
違うな。
これじゃ「道場破り」みたいだ。
「ななちゃん?突然何を言い出したの?」
「ごめんごめん!ちょっと間違えた。」
笑って誤魔化した。
「すみません、誰かいますか。」
...へんじがこない、ただのあきやのようだ。
「お邪魔しま~す!」
「ななちゃん!」
俺はあき君を無視して、勝手に「猫屋敷邸」に入った。
誰もいない...
本当に誰もいない...
まさか、本当に空き屋なのか。
早苗さんから得た情報だから、絶対大丈夫と思っていたのに...
「誰だ!」
後ろからいきなり重く力強い声が響いた。
驚いて振り返れば、あき君が俺を庇うように俺と声を出した人の間に立っていた。
...お陰様で、相手の顔が全く見えない...邪魔...
仕方なく、俺はあき君の腕を少し挙げて、彼の脇から相手を確認した。
そこに居たのは顔に皺だらけの爺だ。腰が曲がってて、立っているのも奇跡に思えるほど足が震えている。
こんな老いぼれが先の力強い声を出せると到底思えないが...とりあえず、当たり障りのない態度で話しかけよう。
「お初にお目にかかります。私の名前は守澄奈苗。今日は猫屋敷家の御当主様に会う為、お宅に参った次第でございます。申し訳ありませんが、御老人は猫屋敷家の御当主様であらせられますか。」
メイド達の喋り方の真似であるが、意外とイケてるんじゃない、俺?
「そうか...名乗らないか...」
あれ?
「ならば、拳で語るのみ。」
あれぇぇぇぇ?
目の前の老いぼれがいきなり拳を俺に向けて振った。
俺は目を閉じる暇すら貰えず、拳が迫ってくるのを見つめていたが、「当てられる」と思った瞬間、急に立っている位置から二、三歩横にずらされた。
目を閉じなかったお陰で、俺は起こったことを目で捉えることができた。
あき君だ。
爺の拳が先まで俺の立っている位置から、今の俺と逆方向の場所にずらされた。状況からの推測でしかないが、恐らく爺の拳が俺にぶつけそうになった時、あき君の両手が片手ずつ俺と爺の拳をずらしたと思う。
だが、この推測は多分間違っていないでしょう。何せ、あき君の俺を掴んでいない方の手が、ぽたぽたと血を流している。
「ふん、軟弱者か。」
そう言って、何故か爺が去って行く。
何なの、あの爺?
でも、今はそんなことどうでもいい。
「あき君!」
俺は速やかにあき君の前に回り込んで、彼の血を流れている手を掴んで、どのくらいな怪我をしたのかを確認する。
しかし、俺がその手を見た時、怪我の方はすでに治っていて、残っているのは血だけだった。
早い!どういうこと?
この世界の人達はみんな怪我の治りが早いのか。それともあき君が特別なのか。
何を聞けばいいのかをわからないまま、俺はあき君の顔と手を交互に見つめて、彼の答えをオドオドに待っていた。
「大丈夫だよ、ななちゃん。俺、怪我の治りが早いんだ。」
その言葉を聞いて、俺は安心した。やはり異世界ともなると、自然治癒力も違うみたいだ。
でも、大丈夫と分かっていても、その掌の所々を突いて、その肉質を確かめた。
まだ血が残ってて、ベタベタしているけど、それでも無事を確認できることが心地よい。
よかった...この世界の人達が頑丈で、本当に良かった...
「ななちゃん。もうそろそろ手を放しても...」
あき君の言葉を聞いて、俺は我に返った。すぐに彼の手を放して、彼と距離を取った後、今の自分の現状を確認する冷静さを取り戻した。
そして、自分達の現状を確認した後、俺はすぐに決断をした。
「あき君!この小屋を出よう。」
「こ、小屋?」
「そう!ここに未知な危険がある!もう少し情報を集めてから、ここを訪ねよう。」
そう言って、俺は強引にあき君の手を引っ張って、「小屋」から出ようとした。
だが、玄関の所で、知らない女性の人と出会った。
「あら、お客さん?」
普通の反応だ。
だけど、先の爺も最初は普通だったのに、急におかしなことをしてきたから、この女性も同じことをしかねない。
俺と同じことを考えたのか、彼はまた俺の前に立った。
同じことが起こったら、きっとまた怪我させちゃう...
「すみません!私達は怪しい人じゃないから、すぐに出ますから。」
そう言って、俺はあき君の手を引っ張って、女性の横に通ろうとした。
「お客さんじゃないなら、泥棒さん?」
しかしまわりこまれてしまった。
女性は俺達の道を塞ぎ、ニコニコしていた。
そのような行動を取られたら、俺もあき君も警戒せざる負えない。
あき君は俺を自分の後ろに隠し、俺もいつでもあき君を引っ張って逃げられるように、両手でしっかり彼の手を掴んだ。
今日ここに来たのは悪手だった。平和な世界だから、危険なんてないと高を括った結果、「人食い小屋」に入ってしまった。
兎に角、ここを何とかして、離れないと...
「泥棒ではありません。私達はこの屋敷の主に用があって訪ねてきました。生憎ご都合が悪いようなので、また出直します。」
これで道を譲ってくれないなら、かの女性を敵と認識しよう。
「あら?主人はまだ帰って来ていないはずですか。」
主人?帰って来ていない?
先の爺は小屋の持ち主じゃないのか。
予想外のことを口にした女性は俺達の体を見て、下の方を目にする時、「あ」と驚いた声を出した。
「その手、どうしたの?血まみれじゃないか!」
そう言って、女性は俺達に近づいてくるが、あき君は手を開けて前に差し出して、彼女を止まらせた。
「こっちの手も真っ赤...怪我したの?」
本気で心配しているように見えるが、まだ油断はできない。
「彼を怪我させたのは君の身内ではありませんか。」
責めてみた。
「もしかして、お義父さんに遭ったの?怪我させてしまって申し訳ありません。お義父さんはもうかなりの年なので、体は元気なのだが、重度の老人ボケです。お義父さんの代わりに謝ります。どうか許してください。」
そんな事情があったのか。
そう言えば、タマも確か「爺さんがボケ始めた」とか言っていたな。そして、それはタマがメイドになるほぼ直前の時、早苗さんから「五年も(タマが)メイドをやっていたのに」とか言ったから、あの爺、少なくともボケで五年以上なのか。
なるほど。なら許せる...訳がないでしょう。
「つまり、あき君...彼を怪我させた爺さんはただボケで、彼を傷つけた。そう言うことなのか。」
「申し訳ありません。」
「彼は治りが早い方だから、もう何事もなかったが、あの拳を受けたら、私なら死んでいたよ。それはただの『ボケ』なのか。」
「申し訳ありません。」
「大抵のことなら許せると思っていたが、私はそこまで度量の広い人間じゃないみたい。あの血まみれな手をよく見て!ねえ、どうすればいいと思う?」
「大変、ご迷惑をおかけしました。」
怒りを心に宿したまま、俺は暫く目の前の女性を睨んでいた。
「ななちゃん。もういいよ、大丈夫。俺の怪我は大したことない。」
最終的に、あき君のこの言葉を聞いて、俺は冷静に戻ることにした。
「ごめん。責めるつもりはないんだ。年を取ると、ボケてしまうのは仕方のないことだし、君に悪い所はない。意地悪してすみません。」
「いいえ、こちらこそ、大変ご迷惑をおかけして、すみませんでした。」
お互い最後に一度謝り合って、俺は自己紹介をした。
「私は奈苗、守澄奈苗。猫屋敷家の御当主に話があって来ました。先の爺さんは御当主ではないなら、今一度御当主様に会いたいと思います。ご都合は大丈夫ですか。」
「すみません。主人は今頃息子と一緒に外出しております。晩ご飯の時には戻りますゆえ、ゆっくりしていてください。」
そう言って、女性は俺とあき君を客室まで案内した。
......
...
「ななちゃん、そろそろ事情を話してくれない?」
リビングに招かれた俺達はお茶と茶菓子を貰って、二人きりにさせられた。
「主人が帰ってきたらすぐ会わせます」と言った奥さんは、晩ご飯の支度の為離れたが、その前にあき君に「清潔魔法」をかけて、手に付いてる血を「消した」。
俺にも「清潔魔法」をかけようとしたが、幸いその前にあき君に止められて、俺が気絶せずに済んだ。
魔法が苦手であること、俺何時あき君に伝えたのだろう。
そして、奥さんが離れて、俺が貰った濡れタオルで手を拭いている時、あき君に何かを質問された。
「え?何を?」
余りにもいきなりなので、何を話せばいいか分からなかった。
「今回の合宿の『もう一つ目的』。俺、まだ何も説明されていないんだが。」
成程、そう言えば、「馬車」に乗った後、俺はすぐに寝たから、あき君に何も説明していないんだけ。
「そんな面白い話じゃないよ。つまんないだけだ。」
「『一番信頼していた人に裏切られた』と聞かされれば、どうしてもその理由が気になる。一体ななちゃんに何があったんだ?」
「どうしても聞きたい?」
「出来れば話してほしい。」
「足舐めてくれる?」
「え?」
俺の突然のカミングアウトにあき君は目を丸くした。
「ごめん!冗談!冗談です!」
引かれたのかな?
引かれたのだろうな...
「自分は変態です」と告白しているようなものだし、もう少し仲良くしてからするべき冗談だった。
「冗談、だね。はは...びっくりした。」
苦笑いを浮かびながら返事したあき君...よかった、冗談ということにしてくれた。あき君優しい!
「ごめんね。冗談はこの辺にしておいて...あき君にとってどうでもいい話なのだけど、聞いてくれる?」
「うん。」
「ありがとう。」
さて、どこから始めようか。
「えっと、あき君。まず、私はとても弱い。それは知っているよね。」
「えぇ、よく知っている。」
ナメられているのかな...
「それで、私には護衛として『専属メイド』一人配られていた。その人の名前は猫屋敷玉藻、私は『タマ』と呼んでいる。」
「『タマ』、か...失礼だが、その呼び方、まるでペットに付けられそうな名前だが、そのメイドさんは何も意見しなかった?」
「軽いおしおきも込めているので、あの娘も納得している。」
「そうなんだ。」
「それで、メイド隊の中私に一番近いのはタマということで、私達はとても仲が良かった。少なくとも私はそう思っている。」
静かに俺の話を聞くあき君。
「今になって思うと、あの日がちょっと特別な日だったのかもしれない。私はいつも通り下校し、自主鍛錬を行うつもりだったのだが、いつも側に居るタマがいなかった。私も、突然の用事で屋上に行くことになって、その時に、事件が起きた。」
目をお~きく見開いて話を聞くあき君。
「私は、私の盗撮犯に保健室に引っ張られて、犯されそうになった。」
「っ!大丈夫だったのか、ななちゃん!」
立ち上がって心配するあき君。
「落ち着いて、何もなかったよ。一番肝心な時、星に助けられた。」
安心して坐り直したあき君。
心の思うまま素直に反応できるあき君が羨ましい。
これが若さか。
「その後、恩知らずに喧嘩売っちゃったけどな、私は。」
俺はどうも恥ずかしくなって、茶化してしまった。
高校生は本当に、まだまだ子供で...羨ましい。
「...もしかして、その日はななちゃんが千条院さんに勝った日なのか。」
「そ。あの星が『友達になろう』という言葉を言い出した日。色々とおかしかった...」
タマいなくなったし...ラブレター貰ったのに捨てずに、しかも相手の顔を確認しようと屋上に行くし...盗撮犯が勇気出して俺を誘拐しようとしたし...急に星と決着付けようと決めたするし...星が「友達になろう」と言い出したし...
そして、俺が自分を思い出した日...
「あの日から...タマは私の前からいなくなった...メイド隊の他のみんなに頼って、全国全ての区に調べを入れたが、結局行方不明のままだった...『盗撮犯』の共犯じゃないかって、みんなに疑われているが、私はそれがどうしても信じられなくて...タマを見つけて、もう一度話がしたい...あの日、あの時、彼女はどこで、何をしていたのかを...」
「ななちゃん。」
あき君が俺の手を握ってきた。
...あざといな、あき君...
俺はその手を握り返した。
「それがこの屋敷に尋ねた理由なのか?」
「えぇ、そうよ。他のメイドを送った時、追い返されたから、一度自分で訪ねてみたくなった。」
「それで、もしそのメイドさんに会って、本当に裏切られたとしたら、それを知って、また傷つくことになると思わなかったのか。」
本当に裏切られたら、か...
そんなの...
「...もう慣れたよ。」
無感情で言った。
「俺はもう、誰にも期待しない。」
期待しても、失望するだけだ...
「ななちゃん...?」
おっと、あき君が引いている。
「ごめんね、あき君。変な意味じゃないんだ。」
速やかにフォローする。
「実はまだ、単純にタマを信じているだけ。タマが私を裏切る筈がないと、まだそれを信じているんだ。」
嘘をついた...
「そうか。そこまであのメイドさんを信じているなら、きっと大丈夫と思うよ。」
あき君は穏やかな声で言った。
「でも...」
不意に、あき君がとても真剣な表情で、俺の手を強く握って、目を見つめてきた。
「俺は何があっても、ずっと奈苗の味方だ。命を掛けて誓える。」
とても真摯な顔で、彼が言った。
「ぷっ、ふふふぅ...」
まったく...何でそんなに真剣になっているの?
別にそんな大したことじゃないのに...
「はははははぁ...」
やはり、こういう恥ずかしいセリフを恥かしげもなく言えるのは、若い頃だけね...まったくだ。
「そんなに笑わなくてもいいでしょう...」
あき君も遂に恥かしくなって、目を逸らした。
「はは、ごめん、あき君。つい、楽しくて、はは...」
俺は、彼の手を放した。
そして...
「でもね、あき君。私は...」
俺は自分の意思を彼に伝えようとした時、突然、玄関から大きな怒鳴り声が響いた。
「守澄?何しに来た!」
その野太い怒鳴り声が段々とこっちに近づいてきて、障子のドアがいきなり壁に叩かれたように開かれた。
現れたのはシイちゃんと同じくらい高い男の人、しかもごっつい筋肉を持つ「キン肉マン」。
「お前か?玉藻を犯人にでっち上げした上、『失踪』させた守澄の『お嬢様』!?」
再び、俺は拳を見舞われることになった。
さっきと同じ、今の俺はそれを避けれるほどの運動神経を持っていない。
でも、例え避けられても、俺はもう避けるつもりはない。
ぼおっと、その拳が自分に近づいてくるのを見つめて、俺はそっと目を閉じた。