第六節 活動準備続②...母親気質お姉様、早苗
ウザメガネ
怒鳴り声の方向に目を凝らして見つめると、早苗さんが鬼の形相で走って来るのを目にしてしまった。
何あれ?怖い!綺麗な顔が台無し。
しかし、一呼吸を置かずに、早苗さんは俺とセバスチャンの前に来て、低い声でもう一度セバスチャンにこう言った。
「今すぐお嬢様を降ろしなさい!」
あまりの気迫に高齢のセバスチャンも怯えた様に見えた。俺を降ろしたセバスチャンは自分の孫娘にもなれる早苗さんを前にして、悪戯がばれて母に怯える子供の様だ。
「私は何度も伝えた筈だ、お嬢様は魔力に対する抵抗は殆どないと。立っている場所の影響をも受けるし、長時間に人に触れているだけで、その人の魔力に影響されて、気分悪くなります。
人にもよりますが、基本『最大魔力量』の高い人ほど、影響されやすい。とりわけ『爺』は特にダメだ。
気づいていませんか、お嬢様はすでに『爺』の魔力に影響されて、おかしくなっています!
『爺』はお嬢様を孫のように可愛がっているのは勝手ですが、それでお嬢様に何があったら、私も黙っておりません。
私より何倍の時間をも過ごした『爺』に厳しいことを言いたくありません、人生の大先輩を叱る小娘になりたくありません。
しかし、ことお嬢様の事に関しては、私も無礼になるのを危惧したりしません。
事の大事さ・重要さ・大切さを一から丁寧に説明し、理解するまで、そして二度と同じ間違いを起こさないように心に刻むまで、叱ります!
いいですか、私は『叱る』という言葉を使いました。それは即ち...」
...始まってしまった、メイド長ちゃんの長い説教...
こうなると、その説教は暫く終わらないんだよな...
可哀想なセバスチャン...孫娘に叱られているおじいちゃんになっている。
しかし、俺はまだ早苗さんに話したいことがあるのだが、説教が終わるまで待てない。
「あのぉ、メイド長ちゃん...」
勇気出して俺は早苗さんに声を掛けた。
しかし、それが間違いだった。
「お嬢様。
お嬢様もお嬢様です!どうして気軽に他人に触れ合おうとしますの?
ご自身が気分悪くなったことは何度もありましたのに、一向に学習しません!
誘拐されそうになってから暫くの間メイド達の懐によく飛び込みますし、登校再開後気軽に男子に触れますし、最近、聞けば『千条院』の所のご令嬢と過剰にスキンシップを取っているのではありませんか。
そして今!『音の呪い』を持つ『爺』の肩に乗るとか、何を考えておられますか!
『爺』は喋れない代わりに膨大な魔力を持っております。
かつての雛枝お嬢様には遠く及びませんが、それでもその魔力は常人離れしています。
しかも『呪文』を唱えられないから、その魔力はそのまま『爺』の身体強化に回されており、お嬢様にとって触れれば狂ってしまう麻薬みたいなものです。
なのにどうして...お嬢様はどうしてわざとご自身を苦しませようとしますか。
雛枝お嬢様が母方に引き取られてから、守澄家の正当な継承者はお嬢様しかいませんでした。
奥様が離れる前にお嬢様に与えた神器:『祝福の指輪』のお陰で、お嬢様もようやく人並みの生活が出来るようになりましたが、それでもお嬢様はか弱く、ガラス細工のように割れやすく、砂のお城のように崩れやすい。
そこを踏まえてもっと...」
しまった、早苗さんの説教は俺に矛先を向けた。
うぜぇ...どんだけ眼鏡美人でも、うぜぇ奴は嫌らわれる...
一応自分の体の事情を理解しているつもりだ。
自分の左手の小指に嵌めてる指輪、「祝福の指輪」という名前だ。これは魔力が勝手に外に漏らさずに、俺の体に貯めれるように出来る指輪である。理屈は全く理解できないが、外界の魔力を使用し、俺の体に保護魔法を掛けている。持続性のある魔法なので、指輪を外したりしなければ、俺は普通の人のように動ける。
ちなみに、俺はどうやら喋れないらしいから、この指輪はおまけに言葉を紡ぐ魔法を掛けられている。声を出せる以上、喉の問題ではないでしょうけど...どうしてだろう?
まあ、それは置いておいて...
この指輪が外された場合、俺はすぐさま全身の力が抜けて、気分も低迷してしまい、何もしたくなくなる。そして最後は虚弱死するらしい。
そんなよわっちぃ俺の命を長らえることができるから、この「祝福の指輪」という名前の指輪は最高級の魔道具:「神器」の一つとして数えられている
でも、別に良い事だけではない。
俺の体は魔力の影響を受けやすい。
魔力の薄い場所で魔力が漏れると同時に、魔力の濃い場所で強引に魔力が注がれる。
つまり、人に触れていなければ魔力が漏れていくが、人に触れて、または魔力の充実した場所:魔力点にいると、魔力が強引に注入される。
その時の俺は先ずテンションが高くなり、体も熱くなっていく。何の対処もせずにそのまましたら、次は満腹感に襲われ、吐き気がするようになる。
酔っ払いみたいだな...
そして最後は熱が出て、体が燃えてるような感覚になる。一糸纏わぬ姿になっても、熱が冷めることはない。
その時は例えすぐに指輪を外しても、熱が冷めることはなく、逆に熱を出したまま魔力が尽きて死ぬかもしれないから、指輪を付けたまま我慢するしかない。
この指輪、「保つ」ことができても、「弾く」ことはできない。
はぁ...
この体になってから、俺は気軽に人に触れることもできない。
本気で元の世界に戻りたくなった。
「私はお嬢様に『メイド長ちゃん』というあだ名を付けられてから、常にメイド長であることを心に刻み、お嬢様の為に尽くしていますが、それでも部下の躾、お嬢様の教育を完璧にできておりませんでした故に、この様な失態を犯すことに繋がりました。
今後はもっときちんとしたマニュアルを作って、部下にお嬢様との接し方を徹底して管理します。
従って、先ず使用人達の最大魔力量を数値化し、上中下に分けて...」
はぁ...まだ終わらない...
メイドの皆が早苗さんの説教を恐れている理由がよくわかりました!
確かに、終わりが一向に見えないのに、説教だから中断できない!仕事後に説教されるから、徹夜の可能性が高い、睡眠をきちんと取れそうにない。夢にまで出そうで、本当に恐ろしい!
もう!今、早苗さんは何の話をしているの?俺はただセバスチャンの背中に乗っただけなのに、どこまで話を発展するつもりだろう?
「メイド長。私にもお叱りをくださいませ。」
突然、今のうちに逃げても良い柳さんが頭を下げて、早苗さんに話しかけた。
「この場に居ましたが、お嬢様をお止しなかった私にも責任あります。どうかお叱りを...」
「え?いや、寧ろ柳には感謝している。」
怒りが消えていないままオジョウに目を向けた早苗さんだが、意外にお礼を言い出した。
「お嬢様を止めなかったけれど、『爺』の影響を最小限に抑えるように『壁』を張ったのを気づいている。お陰でお嬢様が熱を出さずに済んだ。」
よかった、早苗さんは無差別に他人を叱る人じゃなくて。
「しかし!」
ピクッと...早苗さんはオジョウに話しかけているのに、俺とセバスチャンの方まで体が反応した。
「次からはお嬢様の機嫌を損なうことを恐れず、ちゃんとお嬢様を止めることを肝に銘じておけ。」
「お許しを頂き、感謝致しますわ。」
これで、柳さんはこの場から離れることができるんだが、彼女は姿勢を保ったまま、また早苗さんに話しかけた。
「先ほど念話でお伝えしたことではありますが、お嬢様からメイド長に急ぎの用事が御座いますわ。今日一日、お嬢様も大変お疲れでしょうから、先にお嬢様の用事をお聞きして頂けませんでしょうか。」
うん?「合宿」の話?
そう言えば、オジョウには何の話なのかを、まだ伝えていなかったな。
まあ、重要な話だが、別に急ぎじゃない、けど...
オジョウの言葉に「目が覚めた」早苗さんはすぐに俺に頭を下げた。
「私事でお嬢様のお時間を使わせてしまって申し訳ありません。」
「い、いいよいいよ。気にしないで。」
私事?俺の話しかしてないような気がするが、「私事」なのか。
「では、お嬢様の話を伺わせて頂けますか。」
...そっか!
俺はオジョウに助けられたのか、あの早苗の説教から。
感謝しないとな。
ふと周りを見る。
ここにいるセバスチャンも、柳さんも待機している。離れたいのに離れない、という感じだ。
今から「合宿」の話を始めたら、二人共も無理矢理聞かされることになる。
「そうだな...」
きっかけを作って、二人を助けてやろう。
「ご飯の後で話をしよう。お腹空いた。」
「...かしこまりました。」
俺の提案に少し戸惑ったが、早苗さんは最終的に折れて、みんなを解散させた。
「『爺』、柳。今日のようなことが二度と起こらないように、気を付けてください。」
「了解いたしましたわ。」
「......」
柳さんとセバスチャンは一礼をして、それぞれの場所に戻った。ちなみに、セバスチャンは花に水やりに、オジョウは屋敷の外に出た。
水やりも俺が来る前に終わった筈だし、オジョウが外出する用事があるのも聞いてない。でことは、二人はそれぞれ次の用事がある風に動いてたってことだな。
みんな、余程今の早苗さんと一緒に居たくないらしい。
俺も正直今の早苗さんと一緒に屋敷に帰りたくないが...別の何かが彼女をイラつかせているとか?
「メイド長ちゃん、どうしたの?機嫌悪いよ?」
悪くしたのは俺なのだけど、それだけじゃない気がする。
今までも何度も使用人に抱き付いたことがあるが、早苗さんは叱ることがあっても、怒ることは滅多にない。しかし今回、セバスチャンにあそこまでの怒りを撒き散らした、異常に思えるレベルだ。特にセバスチャンの「ご年齢」を考えれば、メイド長であっても、早苗はそれなりに怒りを抑える筈だと思う。
だから、早苗さんは最初から気が立っていると判断する!彼女が口にした「私事」というのも気になる。
「今日の早苗、ちょっと変...」
上目遣いで悲しそうな表情を、作った。
案の定、早苗さんは俺の表情に騙されて、慌てて真実を口にした。
「ごめなさい、お嬢様!先まで、ちょっと嫌なことがあって...申し訳ありません。」
「どうしよう」「どうしよう」って慌てている早苗さんを見て、「ちょろいな」と思った。彼女はきっと俺のことが好きで好きでしょうがないだろう。
「嫌なこと?私に教えてくれない?」
「お嬢様に?」
「うん!人に話せば、少しは気が楽になりますよ!」
「しかし、これはお嬢様に聞かせるような事ではありません。」
意外と早苗さんは答えるのを渋った。
「私を仲間はずれ?」
「いいえ!決してそんなことありません!元々私の心にしまって誰にも言わないつもりでしたから、お嬢様を仲間はずれとか、そんな事はしたりしません。」
「でも、教えてくれないでしょう?」
「えっと...醜い大人達の争いなので、お嬢様のお耳を汚してしまいます。」
醜い大人達の争い?
今日どこかで聞いたような言葉だな。
ここで「命令」すれば、もしかして教えてもらえるかもしれないが、あまりそういうの好きじゃない。
「ねぇ、教えてぇ!お願い、教えてぇ!」
だから、「駄々っ子」攻撃を行った。
「知りたいの!早苗の秘密を知りたいの!」
今の俺はまだ「14歳」の小娘、早苗さんとの歳の差もそれなりにあるから、この「攻撃」は意外と効果があるのだよ。
「...わかりました。少しだけ、お話します。」
よしゃっ!聞きだした!流石俺。
「実は、先ほど旦那様と学園の教師達とミーティングをしていました。」
「へぇ~。」
あれ?
「一研学園の教育水準は世界一だが、その教師達の人格までが『世界一』という訳ではありません。
今日のミーティングは教師達が始めた『給料昇給会議』ですか...実際、旦那様の学園の教師達は他の学校の教師達と比べて、かなり高給を貰っています。普通の学校の何倍の給料を貰っています。
なのに、『まだ足りない』と旦那様に意見を出しました。くそぅ...あいつら...旦那様の...ぶつぶつ...」
後の言葉が段々と聞えなくなっているが、どうやら愚痴に変わっていたらしい。
このメイド長ちゃん、俺の存在を忘れているな。
「メイド長ちゃん。ねぇ、メイド長ちゃん!」
「は!失礼しました、お嬢様!少し我を忘れてしまいました。」
「いいの。で?結果はどうだった?」
「旦那様が見事に全員を口説き伏せました!」
「へぇ~。」
教師達とお父様との話し合い...
ここで俺はようやく気付いた。これは望様が言っていた「醜い大人の醜い話し合い」であること。
なるほど、このことを俺に隠そうとしていたのか。
別に本当に「14歳の小娘」じゃないから、この程度のことで、ショックなんて受けないよ。
「別に昇給してあげてもよかったのに...もしや、お金がないのか!」
「いいえ。最近の事業は益々上りの勢い、金銭面の問題はありません。」
「なら、どうして『昇給』してあげないの?ケチか。」
「そのようなことも御座いません!」
そう言って、早苗さんはいきなり俺の両肩を掴んで、自分の方に向かせて、まっすぐ見つめてきた。
「お嬢様。世間が旦那様をどう評価していても、どうか旦那様を信じてください。旦那様は決して世間の人々が言っていたような『家族も顧みない冷血漢』ではありません。
離婚だって、奥様の方から提出したことだし、お嬢様のことも、常日頃気にかけております。
どうか、お嬢様だけでも、旦那様のことを信じてください。」
え?え!どしたの!?何で急にお父様の話に変わった?
別にお父様のことをそこまで思ってないよ!「冷血漢」だろうか、そうじゃなかろうか。別にどうでもいいんだけど?
「うん、わかった。信じるよ。」
一応早苗さんを落ち着かせる為に言ったのだけど、あの「プレイボーイ」のことをまだ信じるか信じないかの前の話だよ。
俺の話を聞いて、早苗さんはほっとしたような表情を見せた。
「お嬢様が将来守澄家を継いだ後、きっと『他のカメレオンから養子を貰う』という話が出てきます。
しかし、これだけは覚えててください。重要なのは『種族』ではなく、『血縁』であります。
守澄家の家財を狙い、己の子を守澄家に入れようとするカメレオンはごまんといます。
そういう人達の言葉に耳を貸さずに、好きな人と結婚し、自分の子に守澄家を継がせてください。」
はぁ...急に「結婚」の話になっている。これだから早苗さんはうぜぇんだよ。
わかるよ、母の方の「種族性」は基本、息子に遺伝しない。だから、「女児」の俺しかいない守澄家は「カメレオン」であることを続けられない。将来に「養子」の話が出てくるのも、まあ、予想はできる。
けど、それは今する話なの?まだ高校一年の小娘だよ、俺は。もう少し「青春」というものを楽しませろよ。
ダメだ。早苗に任せれば、話はどんどん別の方向に発展されていく。
仕方ない。ご飯の後に「合宿」の話すつもりだが、今話そう。
「メイド長ちゃん、そろそろ私の話を聞いてくれる?」
俺の言葉を聞いて、すぐ俺の両肩から手を離して、メイドのスタンダードの立ち姿勢に戻った。
「はい!どうぞ、お願いします。」
そんなに力まなくてもいいんだけどな。
「『創立記念週間』の間、少し家を出たい。」
俺はそう言った。
暫く、時間が止まったように感じた。
俺の言葉を聞いた早苗さんは全く動かず、そのままの姿勢で、人形のように立っていた。
そして、ようやく我に返った早苗さんが発した最初の言葉は「はぁ?」の一言だった。
「何を考えておられますか、お嬢様!外出などしたら、お体に障ります。」
予想外か、案の定か、早苗さんは俺が外出したい事に猛反対した。
「お嬢様のお体は魔力への耐性は皆無、それは接触しているものの魔力量多寡だけじゃなく、その魔力の性質にも関わります。気軽に別の区に入って、その区の『土地属性』に合わなかったら、最悪、死ぬこともあり得ます。」
めんどい事だが、この「魔力」というものには「属性」がある。例えば火の国の王都の土地属性は「火3・土4・水1・風0.5・木1.5」であり、専門家が特殊な魔道具を使って、測ったらしい。
測り方は全く分からんが、その専門家達は各地の「土地属性」を合計10ポイントで、中味の五つの属性がそれぞれどのくらいの割合を占めているのを数値化している。
それのお陰でわかったことは、俺の体がちょっと遠出しただけで病気になり、その理由は土地属性が変わったからだそうだ。云わば:慣れない環境で体調不良。
はあ...不便な体だな。
「でも、いつまでも屋敷に籠るのもよくないでしょう?『守澄家』をいつか継ぐ以上、色んな場所に行くこともあろう。」
「それは今すぐやることではありません。もう少し成長して、『身体作り』が終わった頃からでも...その時でも遅くはありません。」
「身体作り」。
この世界の人達は一定の年齢を超えれば、体内の魔力が安定し、変化しなくなる。
つまりこの世界での「成人」というものだ。
その前は同じ種族でも、高い人と低い人、足の速い人と遅い人、空を飛べるが墜ちるが得意人と昇が得意人、頭の回転の速い人と遅い人...様々な所が違い、けれど勉強・運動などのことですぐ逆転できる年齢は「成長期」という。その年齢では人々は自分を少しでも強くするために、体を鍛え、知識を蓄えるに勤しんでいるが、体内の魔力が安定していない為、外界の魔力の影響を受けやすい。
とはいえ、その影響は人にとって悪いものではない。寧ろ「逆転」する為の要素と言える。
その為、勉学する「成長期」の内、よき環境とよき師匠は自分達にとってとても重要なものである。
...超えたら、「成長」がかな~り遅くなるから、がむしゃらに頑張らないと、後で後悔する。
ただ、俺はその「外界の魔力の影響」で病気になるから、さっさと「成人」した方がいい。
でも問題は、「成人」の時期は種族に関係なく、人それぞれ。早い人は中学生で終わり、遅い人は50歳を超えてようやく。それを正確に確認するすべはない。
だから、メイド長ちゃんの言葉はつまり、俺に「50歳になるまでどこにも行くな」という解釈ができる。
それを従ったら、俺は退屈で死ぬ!
「メイド長ちゃん。私をいつまでこの屋敷に閉じ込めるつもり?」
「い、いいえ。あの...」
「君が安心して私を外に出した時、私はもうお婆さんだよ。私を飼い殺すつもりなのか。」
「...でも、私はお嬢様が心配で...」
「私はもう高校生だよ。基本、高校生になれば、『身体作り』が終わり、魔力が安定するのだろう?だからいい機会だ。外出して、『身体作り』が終わっているかどうかを確認したい。」
「そうは言っても...もし、外出して何があったら、取り返しのつかないことになったら...」
ふむ。このままの説得では早苗さんの意見を変えられないようだ。別のことで攻めてみよう。
「私一人じゃないよ。最近入った『考古学部』のみんなと顧問も一緒に行く。」
「多人数で行くのですか!尚更ダメです!」
「顧問の名前は『竜ヶ峰紅葉』。確か...前、ここでメイド長を務めてた人だそうだな。彼女が一緒でも不安か。」
「紅葉メイド長?」
その名前を聞いて、早苗さんは少し考え込んだ。
「......」
まったく喋らない...
少しくらい考えていることを口に出してもいいのに...そうすれば対策も練れるが、彼女がそのようなスキを見せる人ではなかった。
そして、考えた末に...
「やはりダメです。例え紅葉メイド...元メイド長がいて、危険を未然に防げても、あの方自身の魔力量が多すぎます。常にお嬢様の側に居させません。もし、お嬢様が魔力点に入ったら、あの方が助けに入ったら、逆にお嬢様の体調を更に悪くしてしまいます。」
マジか...これでも説得できないのか。
いや、この程度で説得できると思っている俺の方がまだ甘ちゃんだったでことか。
「早苗。私、今回、『ダンジョン』に潜るつもりだ。よく知っていると思うが、ダンジョンは魔力が最も希薄な場所だ。そこに魔力点はまずない。その上に、魔力が希薄な為、私が熱を出すこともないでしょう。そして一緒に行く部員は一人だけ、しかも私が抱き付いても、何も感じないような殆ど魔力のない人間だ。ここまで言って、まだ反対するの?」
メイド長ちゃんはまた考え込んだ。ただ、今回は眉をどんどん顰めて、何かに耐えているような表情を見せた。
その結果、なんとなく考えていることが読める。
おそらく、俺が外出しても大丈夫だとわかっているけど、心配で行かせたくないだけでしょう。
つまり、「頭でわかっていても、気持ちが納得できない」ということだ。
「早苗、外出したいの。お願い、外出させて。記憶にないけど、もう14年もこの敷地内に閉じ込められていたよ。もう耐えられない!お願い、何でも一つ言うことを聞くから、外出させて。」
ぷっ...我ながら凄い紛らわしい言い方をしていたけど、ピュアな「メイド長たん」には分からないでしょうねぇ...ぷぷっ。
そして、「純真な」俺のお願いを聞いて、早苗さんは...
「わかりました。一度外出の件を旦那様に報告して、許可が降りたら、行くことを許しましょう。」
やた!
「ただし、一つ条件があります!」
あらら...早速「何でも一つ言うことを聞く」のを使ったのか。
「お嬢様の今回の『合宿』に『守澄メイド隊』の一人に同行させますので、彼女からお嬢様の行動を一つ一つ、報告してもらいます。よろしいですか。」
え?他のメイドを連れて行くの?
めんとくせぇ...
今回の「合宿」に「メイド」を連れて行ったら、やりたいことを自由にやれない、ちょっと面倒くさいことになる...
「メイド長ちゃん。紅葉先生も一緒に行くのよ。皆さんのお手を煩わさなくても...」
「ダメです!『何でも一つ言うことを聞く』と約束したじゃありませんか。」
うは、マジでその言葉をネタにしやかった。
軽々しく「何でも」を口にするものじゃないな。
「わかった。でもモモはダメだよ、絶対。」
「高村ですか。てっきりお嬢様と仲が良いと思っておりましたか。」
「あぁ、うぅん、仲良しだよ...でも、彼女だけは絶対にダメ。」
言葉を濁してしまった。
今回の「合宿」はもう一つ目的がある。その目的、モモにだけは知られたくない。
「わかりました。では、お嬢様はゆっくりお食事を...私は今から旦那様に念話で今の話をお伝えして来ます。」
話している間に、俺達はすでに食堂に就いた。運よく、他のメイド一人とも逢わずに就いた。
そして、俺が着席した瞬間、タイミングよくマオちゃんが料理を運んできて、俺は一分一秒も待たなかった。
それは焼き加減びったりの「焼き魚料理」、何の魚を焼いたのかは全く分からないが、美味しそうだ。
もう慣れだけどな、メイド隊の優秀さに。
「お願い!具体的な日程は後で話しても大丈夫?」
「まだ旦那様の許可が降りておりません。もう行く前提で話をしないでください。」
あのお父様なら、二つ返事で許可をくれるでしょう。
「では、私は一旦失礼します。よい食事を。」
「ご苦労さまぁ。」
早苗さんが退室してから、俺はマオちゃんに見られながら、魚に箸を伸ばした。
メイド長ちゃん:早苗、メイド長
セバスチャン:「爺」、クロコダイル、門番
オジョウ:柳玲子、アイギス、メイド
望様:千条院望、ケンタウロス、教師
お父様:守澄隆弘、カメレオン、守澄家当主・学園理事長
「奥様」と「雛枝お嬢様」を無視してください




