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第六節 活動準備続①...祝福、呪い、罰、そして痴女

出場したキャラが多すぎて、少し混乱していると思うので、後書きに話に出たキャラ達を簡単に紹介する。

 (せい)の時間をギリギリまで使って、俺達は楽しくお喋りした。自分は元々女の子と錯覚するほど、俺達は自然に無駄話をした。

 そして今、俺は「セバスチャンの庭」に居て、一人でお茶を楽しんでいた。


 因み、ここを「セバスチャンの庭」に命名したのは俺だ。契約上、屋敷の警備を任されたセバスチャンだが、余暇時間を使って、屋敷内でこの綺麗な庭を造り、庭師の真似事をしている。

 つまり、俺が楽しくお茶会(ティータイム)を開けるこの場所、この庭を造ったのはセバスチャン彼自身だ、「セバスチャンの庭」以外の「誰々の庭」にしたらおかしいでしょう。


 「真似事」と表現したが、ここは決して遊び半分で作られた庭には見えない。多種の花が咲いていて、鯉が泳いでいる池もある。

 余りにも綺麗なこの場所に初めて来た時、俺は行儀悪く草場に座った。それに怒ったセバスチャンは二度とそんなことが起こらないように、彼は椅子も、机も自作して、ここに設置した。


 そして、俺が一人でここに来ると、セバスチャンは余程の用事がない限り、必ず俺より先に机の側に立ち、俺の為に椅子を引いてくれる。その後は当日の一押しハーブティーを淹れて、俺に優雅な一時をプレゼントする。

 夢のような場所だ。

 セバスチャンが喋れるのなら、きっとその渋い顔で老紳士のように、「お呼びでございますか、お嬢様」とか言うよ、きっと!

 きゃあぁぁ...

 ほんと漫画のキャラみたいな人だ!何でみんな俺が造った「セバスチャン」のあだ名を使わないんだ?勿体ない...


 隣のセバスチャンを見上げた。

 少しの肌も見せないように整った執事服に包まれたその体、筋肉質?マッチョ?ま、そんな感じの男の憧れの体型だ。白い手袋まで装着している彼の皮膚は前一度だけ拝見したことがある。

 あの時は確か退院した初日で、記憶と食い違った現実を目にして、混乱していた最中にうっかり彼の手首の肌を見た。あれはただの肌ではなく、鱗肌だった、本物の。

 あれを見た人達はみんな驚くと思うけど、「鱗肌」を服で密封しても大丈夫なのか、っと心配したけど、80年間無事に生きて来れたので、間違いなく大丈夫だ。

 きっと俺の知らない「世界のルール」があるでしょう。

 そもそも「80歳」とかありえない数字の年齢になっているのに、一人で庭を造れるくらい動けてる。皺を隠し、髪を黒く染め、髭を剃ればきっと「大人の男性」くらい若返るだろう。

 この世界の人達は本当、みんな健康優良児ばかりだな。



「ご機嫌麗しゅう、お嬢様。」

 セバスチャンを見とれている内に、まるでお決まりのように、柳さん(オジョウ)が現れる。こいつ、セバスチャンのことが好きなんじゃないかって時々に思う。

 見た目は魅力的な初老男性だし、分からなくもない。


「麗しゅう。昨日はよく眠れました?」

 挨拶を短縮し、そのまま彼女を弄る。


「わかってて訊くお嬢様は意地悪ですわ。」

 オジョウがとても疲れた顔をした。


 メイド服を着こなした彼女は俺の側まで来ず、セバスチャンが造った池の「上」に上り、なにもない空間に座った。

 池の上空に浮かぶ彼女はまるで水の女神のように、竪琴を手にして、曲を紡いだ。その曲は緩やかで、静かに流れる小河のように、周りの人に穏やかな気持ちにさせる。

 不思議なことに、オジョウが魔法を使っても、俺が辛くなることは少ない。例えば、敷地全体に結界を張っていて、その結界は魔力を使うが、俺は特に辛くはなかった。「魔法才能」のある彼女は俺の特殊体質に何か気づいていることがあるのだろう。

 結界が使ってる魔力もオジョウ自身のではなく、土地の自動生成した魔力だ。その上、侵入者が現れた時、結界が反応し、彼女に一早く知らせるようにできている。

 そして、彼女が「非番」じゃない日でも、こうして「サボ」れるのは、彼女が魔法を使わなくても、仕事を素早く終わらせることができるからだ。


 今更だけど、柳さんはやはり凄い。

 昨日の夜もさりげなくマオちゃんの「後始末」――俺の晩御飯を作ってくれたし、何人のメイドを抑える力を持っているし...

 凄く優秀なメイドだ。

 メイド長じゃないので、「一番」じゃないけど...


 他のメイド()は心の中でも「モモ」とか、「タマ」とか、「リン」とか舐めているが、彼女と早苗さん(メイド長ちゃん)だけは「さんつけ」している、心の中で。

 やっぱり柳と早苗(この二人)は格別だな...マオちゃんはこの二人を超えようとしているの?無理じゃん!


 しかし、俺の弄りから逃げようとすることはとても頂けないな。


 俺は椅子を持って、池の近くまで場所を移した。彼女が俺を無視できないほどの距離まで近づいた。

「何のことかな?ちゃんと言ってくれないと分からないね。」


 オジョウは竪琴を弾く手を止めず、口を開いた。

「どうして高村様を(わたくし)達のお部屋に?」


 いつの間にかティーセットが机ごと俺の目の前に移された為、俺はハーブティーを一口飲んでから、オジョウの質問に答える。


高村桃子(モモ)藤林凛(リン)がもっと仲良くなってほしいから...」

「昨日の惨状、お嬢様にも御見せしたかったのですが...」

 オジョウは何かを思い出しながら、語りだした。


「高村様とご一緒した凛ちゃんが常にびくびくして、お話もできませんでしたわ。

 それを目にした高村様は最初はご自身の行動を慎んでおられましたが、途中で堪えられず、いつものように凛ちゃんでお戯れを始めました。

 到頭暴れだしました凛ちゃんを何とか抑えている最中に、春香様までがお部屋にお戻りになりまして、いきなり高村様に抱き付きましたわ。

 春香様から逃れる為に、高村様は最初と反対側、つまり凛ちゃんのいるこちらに跳んで来まして、高村様を捕まえようとしている凛ちゃんが逆に逃げ出して、高速でドアの方に走り出しました。

 凛ちゃんを必死に掴んでいる(わたくし)は、その勢いに逆らえず、ドアの近くにいる春香様と衝突してしまいましたわ。

 その後、凛ちゃんのベッドに頭をぶつけました高村様、廊下の壁にぶつけました凛ちゃん、そしてお互いにぶつけました春香様と(わたくし)...ご興味ありましたら(わたくし)達のお部屋にいらっしゃいませ、(わたくし)の全魔力を注ぎ込んで一番綺麗な『記録』を御見せ致しますわ。」


 うわぁ、見たくねぇ...

 そこまで詳細に説明されたら、見なくてもその光景が目に浮かぶ。

 しかも「全魔力を」って、俺を苦しませる気満々だ!

 笑っているけど、かなり怒っているな、オジョウ。


 やっぱ難しいよね、人間関係ってやつは。


矢野春香(ルカ)もいつも通りの『痴女』ぶりだね。性別関係なく人に抱き付く...」

「お嬢様。あまり春香様を責めないであげて下さいませ。他人に抱き付くことを、春香様のご事情を考えれば、致し方のないことだと存じます。」


 ルカの事情?何の話だ?


「なに?人に抱き付かないといけない病気でも患ってるの、あの子?」

「そのような病を耳にしたことがありませんが、春香様は『(すい)の呪い』を受けております。体温は時間の流れと共に少しずつ下がっていきます故、人肌の温度を恋しく思い、人に抱き付くのも無理もございません。」


 呪い?呪いって何?


「もしかして、ご存じありませんの?」

 オジョウの言葉に俺は頷いた。

「では、『祝福』という言葉をお聞きになったこと、ありますか。」

「何ですか、それは?」

 剣と魔法の世界ではよく聞く言葉だが...

 そう言えば、時々勘違いするが、ここは剣と魔法の(そういう)世界だった。


「それでは、(わたくし)が少し『祝福』と『呪い』についてご説明致しますが、よろしいでしょうか。」

「おおう!助かる!お願いします!」

 設定を聞くことほど疲れるものはないが、少しオジョウの機嫌を取りたい。ので、偶に我慢をしよう。


「先ずは『祝福』から致しましょう。『祝福』は『神様のギフト』と呼ばれ、とある属性の魔法に過度の才能や適性を持つのが一般的で御座います。解り易い様に具体的な例をあげますわ。(わたくし)の同期である赤羽(あかばね)様は『()の祝福』を持っております。()属性の魔法を素早く正確に発動でき、更に『精確化呪文(単語)』を詠まずに、『基本呪文(単語)』のみで行うことが出来ます。」

 へぇ、あのマオちゃんがね...料理長程度の職に就かせるに勿体ない才能だな。


「その上、赤羽様はファルコンの種族優勢――(かぜ)属性耐性もきちんと持っておる故、()との適性は完全に『おまけに貰ったもの』ということです。彼女は『()』に『祝福』されていると言っても過言ではありません。即ち、赤羽様は『()の祝福』を持っている、ということで御座います。」

 ほう、ほう...


「続いて、『呪い』についてご説明しますわ。先ほど、(わたくし)は『春香様は「(すい)の呪い」を受けている』とお嬢様にお伝え致しました。その呪いのお陰で、春香様は(みず)属性の魔法に『過度の才能や適性』を持っておりますが、『時間と共に体温が下がっていく』というペナルティをも持っておりますわ。この様に、何かの長所を持っていると同時に何かのペナルティを持っている場合は、『呪い持ち』ということになり、『○○(なになに)の呪い』を受けている、ということで御座います。」

 へぇ...


「不公平だね。」

 俺は素直な感想を口にした。

「?同じ種族の人間に特別扱いされるのは確かに不公平で御座いますわ。」

 一瞬戸惑った顔を見せたが、オジョウは俺の言葉に同意した。

 けど、俺は「祝福」と「呪い」のあんまりの差について「不公平」と言ったつもりだったが、オジョウの言葉じゃまるで「祝福」か「呪い」を持っていることが「不公平」みたいだ。


「それで?だからルカが人に抱き付くのを許せっと?」

「服を厚く身に着けても、体温を保つことのできない春香様の苦労をご理解頂きたく存じます。」

「そかわかた。それでも、誰彼構わず抱き付くのはよくない。」


 可愛い女の子には「節操」というものがある。それを無くすような行動を許す気にならない。

 ルカは可愛いので、彼女の抱き付く癖を許せない。ブスだったら別に「節操」を捨てても、俺は一向に気にしないのに...


「でも、私も鬼じゃないから、ルカの事情を知って尚『痴女』と罵ったりしないが、何とかならないのか。」

「と、仰いますと...」

「彼女の『抱き付き癖』を治したい。」


 しかし、人に抱き付かないと、ルカは寒い思いをすることになる。「冷え性」みたいなものだが、もしかして、彼女にとって死活問題なのかもしれんな。

 誰彼構わず抱き付いて欲しくない、けれど彼女が寒さに震える姿も見たくない、となると...


「相手を絞ればいいのだ!」

「相手を...絞る...?」


 要は男に抱き付かなければいいんだから、「女性のみに抱き付いて良い!」...と言いたいが、口に出してしまったら俺の変態心がばれるので、別の単語に変えた。


「ルカが抱き付いても良い相手は私...とメイド隊の皆だけ、ってのはどう?」


 オジョウが少し深く?考えた後、弾いてた曲をいきなり激しい旋律に変えて、一回演奏を止めた。

「流石奈苗お嬢様!(わたくし)ではとても出来ない発想をいとも簡単に思いつきますわ。」

「はぁ...」

 これは「媚」なのか。「思いつかない」じゃなくて「考えてない」だけじゃないのか。

 まあいいか。


「ちなみにぃ、なんだけどさぁ...『祝福』や『呪い』以外、何か...えっとぉ、特別な何か?はあるのか。例えば、ペナルティだけを受けている人間とかに...」

「御座います。」

 彼女はなぜか少し迷いを見せたが、何も言ってこなかった。


「『祝福』を受けていなく、かつペナルティだけ与えられている人間には、神様が『罰』を(くだ)されてた、ということになっておりますわ。」

「えっと、『祝福』・『呪い』...『罰』?」

「はい。『罰』で御座います。『神様の怒り』とも呼ばれて居ります。」


「神のギフト」に「神の怒り」?統一していないのか。


「じゃ、『呪い』は?『呪い』は『神の○○(なに)』?」

「そっちに興味ありますのか」みたいな目でオジョウに見つめられた。

「『神様の試練』で御座いますわ、お嬢様。」

 試練(笑)、ぷぷっ。「気まぐれ」に変えた方がよくない?



 よし。メイドとのコミュニケーションをここで一旦終わりにして、そろそろ俺の用事に入ろう。


「オジョウ。悪いがちょっとメイド長ちゃんを呼んでくれない?」

「かしこまりました。そして、(わたくし)を『オジョウ』と呼ぶのを止めて頂きたく思います。」

 彼女も諦めが悪いな。けど、余計なことを多くを喋らず、彼女は俺の命令を優先して、手を耳に当てて、「念話」のポーズを取った。


 ......

 ......

 ......

「ご機嫌麗しゅう、メイド長。こちらは柳で御座います。」

 ......

「お嬢様が呼んでおります。急ぎのご帰宅をお願い致しますわ。」

 ......

「では。」

 ......


「お嬢様。早苗メイド長はもうすぐお戻りになられますわ。どうぞお部屋にお戻りになってお待ちくださいませ。」

「いやいい、ここで待つ。」

 早苗さんはいつも早いからな。部屋に戻る前に帰ってくるかもしれない。


「それより、メイド長ちゃんは屋敷にいないの?」

「はい。昼頃に旦那様に呼ばれて、何か大事なミーティングの給仕を任されました、だそうですわ。」

「大事なミーティング?何のミーティングだ?」

「申し訳ございません。詳しいことを(わたくし)に教えてくれませんでした。」

「そう。」


 まあいい。帰ってくる早苗さんに聞けばいいだけのこと。

 話が終わり、俺は一口お茶を啜って、空を仰いだ。

 ...のつもりだが、たまたまそこにセバスチャンが立っていて、空があまり見れなかった。


「うわお...」

 150cmを届かない今の体じゃ、180cmを超えると巨人に見えるな。

 なんだが子供の時に父を見ているようだ。


 ...懐かしいな。

 プライドの高い父だが、俺がまだ子供の頃、よく俺を肩に乗せていた。子供ではどうしても得られない高い視点がとても楽しくて、一度乗ったら二度と降りたくなくなっていた。

 母もいつも隣にいて、俺が落ちないように背中を支えていて、父と一緒に降りようとしない俺を降ろす手伝いをしていた。

 とても楽しくて、普通の家庭だった時期の思い出だ。


「ふむ。セバスチャン!肩に乗せて!」

 今の体なら、あの頃の楽しい感覚をもう一度味わえない?

 そう思って、俺はセバスチャンに甘えた。


「...」

 喋れないセバスチャンは目で俺に何かを訴えているが、言わないと分からないので無視した。


「のせてぇ~」

 子供の様に高い声で語尾を伸ばして「お願い」した。


 俺の強引さに結局断れないセバスチャンは仕方なく俺に背中を見せてしゃがんだ。


「わ~い!」

 俺は慎重にセバスチャンの肩に両足を乗せて、手と胸をその頭に置いて待った。

 俺がしっかり自分に掴んでいるのを確認したセバスチャンはゆっくり立ち上がって、俺を担いで歩き回った。


「うわぁ~」

 高い!何もかもがちょっと小さく見える!

 セバスチャンが立ち上がる時に、離れていく地面を見て少し眩暈がしたが、姿勢が安定してからもう「新鮮」の感覚しか心に残っていない。どんなに高い場所にあるものでも、手を伸ばせば届く感じがした。

 今なら天すら掴める気がする。


「あは!あははははは!」

 もう完全に言葉を忘れた子供の様に、俺はセバスチャンの上に燥いでた。両手を空に向かって伸ばし、上半身を左右に揺らして遊んでた。


「わ~い!イエェ!あははははは!」

 酒を飲んだことはないが、きっと酔っ払いもこんな楽しい気持ちで燥いでたのだろう。

 本当に楽しい!


 しかし、その楽しい時間が突然の怒鳴り声で中止された。


「今すぐお嬢様を降ろしなさい!『爺』!」

 っと、そんな声が遠くから聞こえてきた。

(せい):千条院(せんじょういん)(ひかり)、ケンタウロス、生徒。

セバスチャン:「爺」、クロコダイル、門番。

オジョウ:(やなぎ)玲子(れいこ)、アイギス、メイド。

マオちゃん:赤羽(あかばね)真緒(まお)、ファルコン、メイド。

モモ:高村(たかむら)桃子(ももこ)、ラビット、メイド。

タマ:猫屋敷(ねこやしき)玉藻(たまも)、ケットシー、元メイド。

リン:藤林(ふじばやし)(りん)、バイコーン、メイド。

メイド長ちゃん:早苗(さなえ)、メイド長。

ルカ:矢野(やの)春香(はるか)、エキドナ、メイド。

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