第六節 活動発表...部活合宿という名の公費旅行
ゲームなら、ダンジョンに行く時、仲間が集ってくるけど、現実は逆じゃないかと私は思う。
ちなみに、普段喋らないのに、いざという時かっこよく振る舞う男をどう思う?
「合宿をするぞ~!」
俺の一言が考古学部全メンバーを驚愕させた。
...二人だけだけどな。
「先日、めでたく再発足した我が考古学部は、昨日ようやく三人目を迎えて、同好会レベルの人数になれました。
だが、残念ながら部活としての人数はまだまだ足りない。再発足である為、幸いに三人だけでも部として活動はできたが、それと同時に、元の考古学部の成績を引き継ぐ事となります。
最後の考古学部部員が退部してから三か月、考古学部はゼロ人であるにも拘らず、部活が『廃部』とならず、しかし活動を『していない』ということになっています。その結果、部活としての人数も足りない我が部が来月の『部活動査定』で、同好会降格または廃部になる可能性が大。
部として存続するためには、引き続き部員の募集と同時に、活動実績を作らなければなりません。その活動実績を作る為、私は昨日から考古学部の活動内容について色々調べてきました。
その結果、それが主に『遺跡探検』と『遺物研究』の二つに分けられていることが分かりました。
『遺物研究』に関して残念ながら報告書が提出されても、研究成果として認めるまで長い時間をかけます。成果の大きさも評価委員の匙加減によって変わり、中には『成果ゼロ』と判断される場合がある。
従って、手っ取り早く確実に活動実績を作る為、私は『遺跡探検』を行うことを決め、その為の合宿である。」
俺の見事な演説は二人の目を丸くした。長い間、二人は何も喋らず、ただ俺を見つめるだけだった。
あんまりにも無言を徹している二人に、俺の方が先に痺れを切らして、二人に声を掛けた。
「二人は何か意見あります?」
二人はお互いを見て、視線で譲り合った末に、あき君の「先にどうぞ」という言葉で決着がついた。
俺は星を見つめて、笑顔を保ったまま彼女の言葉を待った。彼女は俺の視線に耐え切れず、おずおずと喋りだした。
「すまない、ななえ。話の半分もわからなかった。」
あれ?分かりやすく砕けて話したつもりなのだが、星には難しすぎたのかな。
「あき君は理解できましたか。」
「えっと、もちろんだ。」
急いであき君の方に確認をとるが、あき君もなぜか曖昧な態度で返事をした。
「つまり、合宿をするということだな。」
「え、あぁ、えぇ...そうだね。合宿をする、ということだね。」
俺が最初に言った言葉だな...
ダメだ!あき君も話聞いていない...
何故だ!俺は二人に自分の言葉を理解させようと、今朝寝ながら一所懸命セリフを考えていたのに、二人の心に少しも伝われていない!
この寂しさ、誰かわかってくれるか。
「...では、二人も私の今の言葉を理解したことだし、話の先に進めよう。」
俺は心の痛みを堪えて、気を取り直した。
「此度、我々は火の国の宇摩山区にある一つの探索中のダンジョンに行くこととなった。そのダンジョンはかなり広く、十年前から探索始めたけど、未だに踏破されていません。
我々の予定は担当顧問と共に、そのダンジョンの探索済みの区域に実習し、手伝うことによって、実績を作って、何とか『部活動査定』に生き残って、考古学部を廃部の危機から救うことです。」
一気に喋った...疲れた...
まさか、また「半分もわからない」とかになっていないよね...
「ななちゃん。いきなりそんな話をされても、反応に困るんだが...」
あき君は先に返事した。
返事しなかった星がまたわかってないかもしれないと思うと、怖くて話しかけられない...
「あき君。とりあえず、私の話は分かりましたよね。」
「はい、今回はわかった。
ただ、私達は考古学部に入ってまだ三日目、千条院さんもまだ二日目だから、いきなり『合宿』するのは、ちょっと早すぎないか。」
確かにその通りだと思うけど...でも、考古学部は廃部の危機に瀕しているのは事実だし、何より、俺は退屈なんだよ!
退屈で、退屈で、死にそうだよ!
(元)引きこもりが三か月もパソコンを弄っていない。いざ弄ることになったら、そのパソコンにゲーム一つも入っていなくて、ネトゲーもなければ、生殺しと同じではないか。
だから、俺はこの退屈さから脱出する為に、何かイベントを起こしたいんだ!
「あき君の気持ちも分かります。確かに、部活を始めて一週間も経たないうちに、いきなり『合宿』を行えようとする人は、私位だし。
だけど、来週は『創立記念週間』。ただの『創立記念』にこの学園は贅沢に一週間も使ってお祝いするのだ。
勿体無いと思わないか?たかが『創立記念』に、『一週間も』!」
「ななちゃんは『創立記念週間』が嫌いなのか。」
「いいえ、大好きだ。一週間も休めるのだよ?嫌いな筈がないでしょう。
ただ、学園側の催し物はダメだ。」
「初日と二日が教師陣の演劇、その後は各スポンサーが用意した展示会。
何か不満なんだ?」
「そんなものの為に学園に来る生徒は何人いる?」
「殆どの生徒は来る筈だよ。前回も、前々回も、特に演劇を見に来なかった生徒は百人未満だと発表されている。」
演劇を見る為に?どんだけ娯楽に飢えてんだよこの世界の人間は...
「兎に角、私は興味ないので、絶対に『合宿』する。
部費は結構溜まっていたし...使わない手はない。」
「そこまで言わなくても...俺は別に『合宿』を反対しないよ。」
「そっか。ありがとう、あき君。
では、具体的な日程について...」
「待て、ななえ。」
俺が興に乗って続きを言おうとしたら、なぜか星が俺の話の腰を折った。
「私は無理。」
......
「え!なんで?」
まさか星に反対されるのを思いもしなかった。
「どうして?私、温泉旅館も予約したのに!」
適当なことを口走った。予約はまだしていないが、温泉旅館に入る予定だ。
「予約する前に、私達の意思を先に確認するべきでは?」
「どうせ暇でしょう?」
俺の言葉に星の頭に青筋が立った。
「ななえ。私は一度でも暇そうにしていたか。」
「この部活に入った時点で、君は暇人でしょう。」
「そんな理由で部活に入るか!家の用事で毎日忙しいんだ。」
「家の用事なんて捨てろ!合宿に来い!」
「行けねえつってんだろうか!」
ブチッ。
ダメだ...俺も怒った。
「何で?君の為に予約した温泉宿だよ!君が来ないと意味がないじゃん!」
「僕は頼んでいない!勝手に予約したのはそっちだろう!大体何で僕の為に!?」
「美肌効果とバストアップ効果があるからに決まってるだろ!あんな貧乳のまま、女として恥ずかしくないの?」
「余計なお世話だ!僕のおっぱいはお前の与り知らぬことじゃない!このホルスタイン!」
ホルスタイン?ホルスタインってなに?
とにかく悪口だよな。
「人がせっかく君の為に探した温泉宿なのに、何その態度!バストサイズ全男子に公表しようか!」
「誰の?まさか僕の!?どっからその情報を?」
「理事長の娘だ!その気になれば君の秘密を握る放題!」
「するな!お前を殺して僕も死ぬか!」
「嫌だね。貧乳と一緒に死んだら、貧乳地獄に入っちゃうじゃない!」
「ないよそんな地獄!寧ろ息できなくする乳牛地獄ならあるかも!」
「つまり君は、私と一緒に死んで、巨乳地獄に入りたい訳だね!生きている間に巨乳になれないから、せめて死んでから夢を叶えようと?」
「誰もそんなこと一言も言ってねぇだろうか!なに?巨乳でそんなに偉いの?ただ二つのボールをぶら下がっているだけで?」
「羨ましいなら合宿に来いよ!貧乳コンプレックスのくせに、折角のチャンスを自ら潰す気?」
「僕は貧乳コンプレックスじゃない!何で?おっぱいのことを一度も気にしたことないのに、いつの間にか『巨乳になりたい女の子』扱いされてる!僕、おっぱいを大きくしたいなんて一言でも言ったか。」
「私の胸を鷲掴みしたことあるじゃん!『僕にくれ!』ってことじゃん!」
「あれにそんな深い意味込めてない!ホルスタイン!」
「二人ともやめてください!」
段々ヒートアップしていく俺と星が至近距離で睨み合っていたら、いきなりあき君が間に入った。
「あき君は黙ってて!」
「白川さんは黙ってて!」
昨日の一シーンを再現したかのように、俺はまたも星と一緒にあき君を黙らせようとしたが、今回のあき君はそれで引っ込むことはなかった。
「黙りません!二人は息びったりなほどに仲がいいのに、何で会う度に理由をつけて喧嘩するの?」
至極真っ当な言葉だが、俺は素直にその言葉を聞き入れるつもりはない。
「集団行動に参加しないぼっちが悪い。」
俺はすべての責任を星に押し付けた。
「な!部員の事情を考えない独り善がりな部長が悪い!」
星も反撃するかのように、俺を責めた。
「だからそこでまた喧嘩を始めないでください!」
再び睨み合おうとした俺と星はまたあき君に止められた。
「ななちゃん。千条院さんと一緒に合宿したいのはとても分かります。少しくらいその事情を聞いてみてもいいじゃないか。」
...確かに...
いくら温泉シーンに目当てな子が来ないからって、理不尽に怒るのはよくないな。
「千条院さんも、ななちゃんが俺達の考古学部が存続できるように一所懸命頑張っているんだ。部長としてのプレッシャーもきっと大きい。それを理解して、どうしても外せない事情を落ち着いてななちゃんに伝えてくれないか。」
星は何を考えているかわからないけど、無言のまま、視線を下に向いた。
どうも、俺の「事情」をあき君にかなり美化されているが、別に、そんなプレッシャーとか感じていないし、星の裸が見たいだけだし...
...すんません、あき君...
暫くして、あまり時間かけなかったが、俺達は冷静になった。
冷静になって、そして最初に声を出したのは星の方だ。
「ななえ、ごめん。僕は...」
「謝るな!」
俺は謝ろうとした星の言葉を大声で制した。
「星は何も悪くないから、謝るべきじゃない。それに、前も言ったが、星と口喧嘩すること、私は楽しいんだ。なのに謝られたら、私達が本気で喧嘩していることになるじゃないか。」
俺は意地を張った。喧嘩で不愉快になっていることを認めたくなかった。
「だから謝るな!私はどんなことがあっても、星の親友でいるから。私に怒りを抱いても、疚しい気持ちを抱くな。」
...もう二度と本気の「ごめんなさい」を聞きたくない...
それから、俺は何度も頭をあげようとした。あげて、星の表情を見て、その気持ちを確認しようとした。
きっと星は俺のことを理解してくれる、俺に疚しさを二度と抱かなくなる筈!
しかし、その逆のことも俺は予想し、星の表情を確認する勇気を出せなかった。
恐怖していた。
こんな我がままを言って、良い表情をされる筈がない。都合の良いことを期待してはいけない。
そう思っていた...
「自分勝手な人だ。」
ふっとそんな言葉が耳に入った。
「謝ろうとしたら『謝るな』とか、喧嘩したのに楽しいとか、本気の喧嘩じゃないとか、挙句の果てに、どんなことがあっても親友でいるとか...本当に自分勝手な人だ。」
やはり嫌われたのかな...
それも仕方ない。いつものことだ。
「どんなことがあっても親友」か...でことは、例え彼女が俺を親友だと思わなくても、俺の方が彼女を親友だと、そう思わなければならない。
確かに、俺が一方的に彼女を親友と思うことは別に違法とかじゃないし、「友に裏切られる」心配もないから、こっちの方が気楽かもしれない。
だけど...
「だけど、私は、一方的に何かをされることは好きじゃない。私も同じように、どんなことがあっても、ななえを親友だと思うことにする。」
星はとても信じられないことを言った。
俺が自分の耳を疑っている間に、星は俺の片手を掴んで、俺を引っ張り、自分に向かせた後、俺のもう片方の手をも掴み、自分の膝に乗せた。
「ななえはおかしい!普通の人はこんなことを言わない!」
いきなり喧嘩売られた。
「なによ!何がおかしいのだ?」
「何もかも。」
「だからなによ!一つずつ説明して。」
「ふふっ」
どうやら、星は説明する気はないらしい。
「星、知ってる?」
「なに?」
「君がよく言う『私』、という言葉はとても違和感があって...気持ち悪いんだよ。」
星は一回眉を顰めたが、その後、なぜか笑い出した。
「また私を怒らせる気?」
「いいえ、そうじゃない。私が言いたいのは、考古学部メンバーの前くらい、いつもの自分でいてもいいじゃない?」
「いつもの自分?」
「『僕』、だよ。」
俺は星の隠し事をばらしたが、彼女は大して驚いていなかった。
「やはり慣れない。女の子らしく振る舞うように使い始めたが、気が高ぶると『僕』に戻ってしまう。」
「無理に女の子らしく振る舞わなくてもいいじゃない?星は十分女の子らしいよ。」
「ぷふっ、『貧乳』なのに?」
「モデルスタイルだよ。」
とても不思議だ。
先まで喧嘩していた俺達なのに、今は笑い合っていた。
しかも両手が繋いだまま、見つめ合ったまま...
女の子同士のスキンシップはこんなにも「百合くさい」ものなのか。それとも俺と星がおかしいのか。
「でも、ななえ。やはり僕は合宿に行けない。」
「家の事情?」
「うん。」
「よかったら、私に教えてくれないかな?」
「それが...」
星は一度あき君の方に目を向けた。
なるほど、あき君が邪魔なのね。
不憫だ。
俺と星を仲直りさせたのはあき君なのに、邪魔者扱いされている。
そう言えば、考古学部に来るなら、あき君と必ず会える。セバスチャンに会わなくても、今日の「男納め」はあき君になり、どちらにしても、望様が「最後」にはならない。
なのに、俺は何であき君のことを忘れたのだろう?
女顔だからかな...
「あき君。今日は先に帰ってくれない?」
「え?どして?」
「私達は少し秘密な話がしたいのだ。あき君に聞かれたくない女の子同士の秘密の話。」
空気読めっ!と目で訴えてやった。
「あぁ...あ、忘れてた!俺、先生に呼び出されていた!多分もう戻って来れないから、二人共、話が終わったら、俺も待たずに帰っていいよ。」
そう言って、あき君は立ち上がって、部屋を出た。
ドアを閉まる前に、俺と星は同時にあき君に別れを告げた。
真面目な星が「済まない、白川さん」とは逆に、俺は茶目っ気に「愛してる」と言った。
そんな俺達二人に、あき君は微笑みを見せて、「さよなら」を言わず、ただドアを閉めた。
「さて。あき君も帰ったことだし、二人きりになったね、星。」
すけべしようや...とはさすがに言えないな。どんだけ気分が燥いでも、この言葉を口に出せる程ぶっ飛んでいない。
だからノーマルでいくことにした。
「合宿に行けない理由を教えてくれると約束したが、言いたくないなら言わなくてもいいよ。ここで雑談して、時間を潰しても、私は大歓迎だ。」
かわいい女の子とお喋り...おじさん、興奮するよ...おじさんって歳でもないけど...
「大丈夫。その気になれば誰でも知れること。」
「そう。ならよかった。」
意外と俺の予想通りの言葉がくるかもしれん。
「じゃあ、さっそくその『家の事情』とやらを語ってもらいますね。どんな事情だ?」
「うち、三年くらい前から、両親共々死んだ。」
「ほほう...」
両親が死んだか...
...?
「それから、唯一働き手の兄さんを手伝い、僕は弟と妹達の世話をしている。」
「ほえっ!」
俺はようやく頭が回り、驚いて変な声を上げた。
星は俺の変な声に驚いて、両目を見開いて俺を見つめた。
「星のご両親は死んだの?」
「えぇ、そうだが...」
ちょ、重い!
いきなり話が重い!
ちょっと待ってぇ...俺、てっきり「門限が厳しい」とか、「家訓:未成年者の遠出を禁止」とか、そういう「古き時代の悪習」的なものだと思ってた。
まさかいきなり「孤児宣言」がくるとは思わなかった!
「ななえ、どうしたの?」
「ちょっと待って。ごめん!ちょっと待って!頭の整理がしたいので、ちょっと黙っててくれない?」
俺、もしかして聞いちゃういけないことを訊いたのか。めちゃくちゃデリケートな所に踏み込もうとしたのか。
やべぇ、「スケベしようや」とかいう冗談を考える場合じゃない。もっと真剣に星の話を聞かないと...
「ごめん、星。えっと...ごめん。本当に言いたくなければ言わなくていいから。来れないのはもう分かってるから。無理に言わなくて良いから。」
「いや、大丈夫。お願い、聞いて。」
お願いされた!
「でも、亡くなったご両親の話でしょう?辛くないの?」
しまった!また無神経なことを口走った!
「平気。母が死んだのはかなり昔なので、もう辛くない。」
「あぁ、そう?」
父は?
いや、訊くのは止めよう。
とりあえず、星の話を聞くことにした。
「先ほど言ったと思うが、兄がうちの唯一の働き手。僕達兄弟全員の生活費を稼いでいる。」
「へー。」
流石望様。
「僕は兄さんの力になるように、下の兄弟達の世話をしている。」
「えっと...確か、弟一人と妹二人、でしたね。」
「うん。まだ幼いあの子達を家に残せない、いつも兄が朝晩幼稚園に送り迎え。僕が買い出しと家事を担当している。」
む?
「待て!星が家事担当?」
「えぇ。」
「おかしくない?」
「?」
どう見ても料理ができるキャラじゃない!
星はもっと、こーお嬢様っぽく、「この料理を作ったのは誰かしら」、「責任者を呼んで頂けないかしら」的なことをいうようなキャラクターだ。
実際は「無口少女」だったけど、それでも家事のできるイメージが沸かない。
「僕が家事できる何か不都合でも?」
「だってキャラじゃないじゃん!『僕』とか言ってるし...」
あ...また喧嘩売っちゃった...
懲りないな、俺も。
「僕はそんなに女の子っぽくない?」
「いや、そうじゃない!美人だから、おかしいんだ!普通バランスを崩さない為に、美人すぎるキャラクターは大体家事ができないという弱点がある。そうでないとギャップがなくて萌えない!」
「ななえの言葉がよくわからない。」
チッ、一般人じゃ、オタク用語が分からないか。
「えっと、ありがとう。褒めてくれて...」
「え?」
俺、彼女を褒めたっけ?
「ななえもとてもかわいい...」
「はぁ?」
なんでいきなり「かわいい」と言われた?
「星の言葉がよくわからない。」
正確に言うと頭の中身が分からない。
「褒めてるのに...」
なぜか星がへこんだ。
何故だ?
「あぁ、ははぁ...話を戻そう!星は家事ができて、料理...はできるよね。それで?」
「家族の世話や家の掃除、一番重要なのは家計のやりくり。兄さんはそういうの苦手、僕がお金を管理している。」
女房?
ああ、いや、普通か。うちも俺の妹が管理してたしなぁ...
「だから合宿に来れないのか。」
「うん。兄さん一人に押し付けたくない。」
結構良い子だな。見た目と違って、家庭的な女の子。
いいね。お嫁さんにしたい。
「わかった。合宿参加者は私とあき君だけにする。」
「済まない。僕もななえと...遠出...してみたい。」
星は悲しそうに俯いた。
彼女の家の事情、その事情によって、彼女の弟達が大人になるまで、彼女は自由になれない。ずっと家に縛られて、どこにも行けない。
本当に可哀想...
俺じゃ、彼女を慰めることができるかな。
俺は彼女の後頭部に手で押さえて、彼女のオデコと自分のオデコをくっつけて、目を見つめて話しかけた。
「星、たまには私の我がままに付き合ってもらうけど、構わないよね。」
「我がまま?」
星は不審そうに俺を見る。
「次からの私が作った行事、全部参加してもらうよ。」
自分でも無茶なことを言ってると思うが...
「でも、僕には『家の事情』が...」
「その事情は私が何とかする。大丈夫、守澄メイド隊にまだ8人もいる。私のいない日は彼女達絶対暇してると思う。」
魔法を使い放題だもんなぁ...仕事なんて5分も掛からないだろう。
「だからその時だけ、星のご兄弟達を扱っとくから、心配は不要!」
「でも、迷惑...」
「私の我がままだよ、星。私が星と一緒に遠出がしたいから、無理に星を外に連れ出す為だから、ご兄弟を『人質』にした。だから、星に選択権はないんだ。」
「僕の兄弟を『人質』に?」
「そう。だから、次から一緒に遊ぼうね。」
暫くの間、星は俺を見つめていたが、その後小さく笑った。
「自分勝手な人だ。」
「ふふ。」
商人が商売する時、まず時価の分からない客にバカ高い値段を教える。そしたら、例え値切りされても、それなりの価格で売れる。(by 俺)
だから俺は、星にいきなり無茶なことを言った。お陰で、星を説得できた。
流石俺。
それともう一つ。人と話す時、目をしっかり見つめて話すと、高確率でその人を説得できる。しかも距離が近ければ近いほど、効果がある。
これはこの世界に来てから気づいたことだ。元の世界でこれを使えば、俺も彼女ができるのかしら...
「で、どうします、星?太陽はまだあそこにいるけど...」
俺は空高く、図々しく残っている「火の玉」を指差して、星の予定を訊いた。
星は自分の時計(魔道具)を見て、時間を確認した。
「値下げ時間までまだ時間あるが、もう帰る。」
そう言って、星は席から立ち上がった。
「え?帰るの?」
俺は寂しそうな表情を作った。
星は迷った。俺が迷わせた。
「時間があるなら、もう少し話がしたい!」
この言葉が決め手となり、星は恥ずかしそうに席に戻った。
「僕、人と話すの苦手。」
「うん!私も!」
嘘は言っていないよ!何せ「元引きこもり」だもの。
でも、なぜか今、こういうことを言うとみんなから不審がられる。
何故だろう?
「でも、星ともっと話がしたい。色々雑談がしたい。話題が切れたら、また次の話題を考えればいい。別に誰かに見られている訳でもないし、適当に話をして、無くなったら馬鹿みたいに笑い合っても良い。二人で慣れていこう、人と話すことを。」
無理に仲良くすることは全くない、自分のしたいように話す。
友達って、そういうものでしょう?
「つまらないかもしれんが、頑張って見る。」
ようやく星は折れて、俺に従った。
「大丈夫。私は決して『つまらない』と思わないから。」
よっしゃああああああああ!可愛い子と話ができるうううううううう!
やった!
元の世界では、いっつも女子から避けられていて、目が合う瞬間に逃げられる!
悲しくも、俺の相手をしてくれる女性は家族だけだった。
しかし、女の子になったとはいえ、この世界で俺はようやく女子と話しができた。しかもこんな美人!
やった!
「星、大好き!」
正直に申そう、俺は可愛い子が大好きだ!自分がドスケベだと思う!
だってかわいいじゃん!
そして、その...かわいいじゃん!
だから、女子と話ができるだけで、もう最高だよ!
そして、俺は楽しい一時を過ごした。
「でも、ななえ。合宿はお前と白川さん二人だけになったが、大丈夫か。」
「え?何か。」
「年頃の男女が...その...」
「ああ、それなら大丈夫。一応紅葉先生も一緒に来るよ。」
「もみじ先生?」
「考古学講師で、この部の顧問している人だよ。」
「そう。それならいいけど...」
「あらら、星はもしかして嫉妬しているの?」
「...していない...」
「怪しいのう。」
「僕はななえの心配をしている。白川さんのではない!」
「それは嬉しいけど。もし私達が変な関係になったら、やっぱ嫌でしょう?」
「...ななえと白川さんが両想いなら、僕が口を出す立場じゃない...」
「でも、旅行は人を開放的な気分にさせるよ。私がその気じゃなくても、あき君が先生の目を盗んで、私に『あんなこと』や『こんなこと』をしたら、流されて、無理矢理あき君の彼女にされちゃうかもしれないよ。」
「白川さんはそんなことをする人じゃない!彼の剣は真っ直ぐだ。あんな真っ直ぐな剣技を使う彼が卑怯なことをする筈がない!」
「随分とあき君を庇うね。怪しいぃ。」
「怪しくなあい!僕のことはいい。ななえは彼のことをどう思う?」
「『どう思う』って、何とも思わないよ。」
「嘘だ!あんなに親しそうに話をしてたじゃないか。何とも思わない筈がない。」
「そう言われてもなぁ...多分私、あき君を男として思わないと思う。」
「どうして?」
「あき君は結構女顔じゃない?だから、私は彼を女の子として扱っているかも。」
「確かに、見た目は頼りなさそうだけど...彼はかなりの剣の使い手、頼りになれる人だと思う。」
「やっぱり星はあき君に高評価。自分に正直になれよ、素直にあき君のことが好きと言えば?」
「だから好きじゃない!ななえ、しつこい。」