第六節 活動準備①...根暗君の欝
今後は文字数を気にせず、もっと自由に投稿するので、皆さんどうぞお楽しみください。
ってか、人気ないのに、よく頑張って書き続けているね。自分を褒めてやりたい。
今回は「透視眼鏡」の話。
午前の授業と休み時間を睡眠時間に宛がわれ、昼休みの時間になった。
朝は早苗の言われたままに、手を上げたり、口を開けたりして、いつの間にかクラスルームに着いた。
よくあんな状態で学園に来れたなと自分を褒めたい。
しかし、その所為で休みを三つも無駄にした。でも、別に大切している訳じゃないし、「準備」は今からでも遅くない。
昼休みの時、生徒達はそれぞれ何グループに分けて、教室でお昼を食べるのが普通だが、中には「ぼっち」といういつも一人でトイレで食事をする人種もいる。そんな人、一クラスに何人もいないけど、偶然に俺のクラスに一人いる。
「上村君、ちょっと待って!」
俺は甘い声を出して、「ぼっち」君を呼び止めた。
「え、も、守澄さん!」
俺に呼ばれて、彼はかなり驚いたようだ。
上村君、下の名前は覚えていないが、特徴は根暗で口下手。
根暗で口下手のくせに、彼は目が良いんだ。目の良い彼は何日前にいきなり眼鏡をかけ始めた。
根暗で口下手のくせに、彼が掛けている眼鏡は特注品で、世界に一つしかない代物らしい。
ほんと、根暗で口下手なくせに、贅沢に特注品を使いやがって...絶対に何か裏がある。
「よかった、いなくなる前に捕まえて。お昼休みにいつもどこかに消えちゃうんだもの。」
便所飯を食っているのを知っているけど、わざと知らないフリをした。
「ぼ、ぼぼ、僕に、何か、よ、用事、でも?」
相変わらず、聞いていてイラっとくる口下手さだな。
「えへへ、今日はね、上村君と一緒に食べようかなあと思って。いい?」
ぶりっ子を演じてみた。たぶん、うまく演じていると思う。
「ぼ、僕と!」
「うん。」
根暗君はそわそわして、なかなかオッケーを言ってくれない。
意外とガード高いな。
そうすると、いきなり「メガネ貸してぇ」とか言っても、「だ、ダメですうっ」とか言われそう。
まずはその防御を崩せないと...
「あ、あぁ...ごめなさい。いきなりすぎたね。」
俺は悲しそうな表情を作った。
「別に先約があるなら、無理に誘わないよ。今日はダメなら、また別の...」
「い、いいえ!だ、だいじょっぶ、です。」
よし、引っ掛かった。
「本当に?よかったぁ。じゃあ、一緒に食べよう。」
俺は根暗君を席に押し戻し、彼の前の席に座った。
「今日もお弁当?」
「ど、どうして知ってるの?」
手に持ってんじゃん!
あ、いや、違うか。彼は「も」の方に疑問を感じているのだろうな。
「いつも見ているから。」
クラス全員を...
人間観察は半分趣味でなぁ、些細な変化に敏感なんだ。
「そ、そう...デゥフフ。」
うわぁ、こいつ...視線が下に向いている。俺の顔を見ていない。
女になってから気づいたことその一、男ってバカよね。視線がちょっと下に向いてるってことは、胸の方を見てるってバレバレなのに、相手に気づいていないと思ってる。
はぁ、ここで気づかないフリするのが優しさだろうな。
「で、どんなお弁当なの?見せて見せて!」
根暗君は恥ずかしそうに弁当箱を開けた。
現れたのは、なんと...!
普通の弁当だった。アニメでよく見る、そういう普通の手作り弁当だ。
「すっごーい!これ、手作り?」
「う、うん。自信作。」
「自分で作ったの!本当にすごい!」
こういう無駄な努力をするのよね、男って。
わかる、凄くわかる。俺も昔、女子にモテる為、3か月位自分で弁当を作って、学校に持って行くことがあった。自分は料理上手な男の子だよってアピールしてた。けど、結局誰も俺の弁当に気にせず、逆に料理の腕が上達した所為で、家で週に一回料理当番を任されてしまった。
あの妹も料理ができたら、こっち側に引きずりおろしていた。一緒に辛い思いを味わい、俺も少しは気が晴れるというのに...くそっ!
「ねえねえ、取り換えっこしない?」
「えっ!」
「うちのメイドが肉料理が得意なんだ。でもその量が、私に、ちょっと...」
女になって、胃が小さくなった感じだ。今は昔の三分の一も食べられない。
「だから、取り換えっこ。いいでしょう?」
「う、うん。いっ、よ」
「やった。」わざとらしく小さな声で言った。
俺はマオちゃんが用意した今日の弁当を机に乗せて、蓋を開けた。
今日は牛肉の一口ステーキ弁当だ。隅にむりやりに入れられたサラダがちょっぴりある。
昔なら「おいしそう」と思うけど、今は「重っ」と思った。
一瞬、周りからたくさん視線を感じだ。
俺は今更気づいたけれど、俺達は全教室の生徒から注目されている。たぶんステーキの匂いにつられたのだろう。
マオちゃんの料理はいつも良い匂いするから、教室の皆を魅了したのだろう。
「じゃ、ステーキの半分をあげるから、卵とエビをもらうね。」
結構良心的に一対のものだけを選んでやった。
「え、ええ!いいの?」
なぜか根暗君はちょっと拒んだ。
「ダメなの?」
俺結構良心的に選んだよね。もしかして、エビか卵か大好き子なのか。
「い、いや、その、そんな高級のもの、ちょ、ちょと...」
高級?ただのステーキだろう?別に大して高級じゃないと思うか。
「私そんなに食べれないから。残しても勿体無いので、手伝ってくれない?」
嘘はついていない。
「う、うん。いいよ。」
「ありがと~う。」
箸を取り出して、自然を装って一度自分の唇に当てて、悩むフリをした後、ステーキの半分を彼に移した。
「じゃ、いただきま~す。」
彼の弁当箱から、卵を突き刺して、ぱくっと食べた。
「美味しいぃ~。」
ふざけるな!こんなの卵焼きとは呼ばない!
焼きすぎて、中にとろみがない!油を入れすぎて、ちょっとべたべたする。そして何より、砂糖が入っている!
別に甘いものは嫌いじゃないが、料理に砂糖を入れるのはおかしい!特に卵焼き!砂糖入れたら、醤油とかかけられないじゃん!
卵料理をなめるな!卵料理はなぁ、世界で最もおいしい、そして基本である料理なんだよ!卵料理を失敗した奴は料理人失格!
とまあ、俺の個人的感想はもちろん口に出さない。おいしそうに食べる姿を見せるだけでいい。
「じゃあ、エビももらうね。」
俺はエビフライを箸で摘んで、自分の口に入れようとした。
「ね、ねえ。」
口にエビを入れる前に、根暗君は声を掛けて来た。
仕方なく、俺はエビを自分の弁当箱に入れて、笑顔で「なに?」と訊いた。
「どうして、僕なんかと...」
...一緒に昼ご飯を食べるのか、って。
この時を待っていた。
「なんか、最近...上村君、雰囲気変わったよね。なんか、かっこよくなった。」
「え、ぼ、ぼく!」
「そう。」
嘘だけど。
「その眼鏡、似合うね。」
嘘だけど。
「上村君にびったり!」
大嘘だけど。
「ほ、ほんとに?」
「うん!とってもかっこいい!」
「うふ、うへへへ。」
根暗君は顔を赤らめて、俺から視線を逸らした。
よし!今がチャンス!
「ちょっと私に見せて!」
そう言って、間髪入れず、俺は彼の眼鏡を奪って、自分に掛けた。
その瞬間、視野は一変した。
......
...
なるほど、透視眼鏡なんた。
「ねぇ、上村く~ん。これはどういうことでしょう。」
俺は片手で眼鏡を弄り、妖艶な?笑みを見せた。
先まで赤く染まった根暗君の顔は、今は真っ青になっていた。自分のしたことが俺にばれて、金魚みたいに口をパクパクして、返事もできなかった。
俺はちょっと眼鏡のレンズをちょっと弄って、もう一度周りの生徒達を見まわした。主に女子を...
なるほど。レンズを包むリムを弄れば、透視度を調整できるんだ。壁をも透視できるのに、人の肉体だけは絶対透視できないように造られている。
「魔道具製作の得意な君だ。こういうものを造れても、私は全然驚かないよ。ねぇ、これは君が造ったものだよね。違うなら反論して。」
彼は何も言わなかった。
予想通り。この眼鏡は「特注品」ではなく、彼の弁当と同じ、彼の手作りだ。
「ふふ、こんなものを造って、いったい何をするつもりだ?」
根暗君はやはり口をパクパクして、返事できなかった。
「そんなの言うまでもないよね。さぞかし会う人会う人が好きで好きで、見るのを止められないでしょう。」
彼の顔がどんどん青くなっていき、俯いて俺と目を合わせない。
楽しいなぁ。人を苛めるのは本当に楽しい!
「黙っててあげようか。」
彼にチャンスをあげた。
いや、元々あげるつもりだった。
はは、笑いが止まらない。
「黙って、て、くれる、の?」
怯えながらも彼は精一杯声を出した。
「うん!もちろん条件はあるよ。」
自然に笑顔になっていた俺...
「条件、とは?」
「一つ、この眼鏡を私にくれること。」
寧ろその為に、わざわざ彼に話しかけたからね。
「一つ、在学中にまたこんな眼鏡を造って、学園内で掛けないこと。」
学園内で不祥事を起こしたら困るから。
「一つ、私の言うことを一つ、絶対従うこと。」
弱みを握らせてくれたんだ、俺もきちんとそれを掴んでやるよ。
「この三つが条件だ。」
俺の出した条件を聞いて、彼はしぶしぶ、しぶしぶ、しぶしぶ!「わかりました」と言った。
しかし、本当に凄い。彼は男の夢を叶える魔道具を造った。
この世界の魔法も、別に万能じゃない。分かりやすい例をあげると、死人を生き返らせないことだな。
それ以外にも、様々のことは魔法でもできない。よくもまあ「魔法」と言えたモノだな。
けど、彼が造ったこの眼鏡は、「魔法でもできない」ことの一つを「できた」。今まで誰も造れなかったものを不完全だが造った。
才能があるのだろう。
この才能をもっと真面目なことに活かせば、彼はきっと有名人に成れるだろうに、勿体無い。
この透視眼鏡だって、少し改造したら、精密機械の中身を透視し、修理することができる。人の体の内部を透視し、癌の早期発見とか、内出血有無の確認とか、色々できる。
そんなことを考えながら、俺はパパッと昼ご飯を済ませた。
......
気が変わった。
「ねぇ、上村君。私と友達に成りましょう。」
俺の言葉に彼は過剰に驚いた。
「ど、どうして?今更ぼくと?」
「この眼鏡を造った君の才能に惚れた。それじゃダメか。」
根暗君はキョトンとした、俺の言葉が分からないみたいな顔をした。
少し疲れを感じだので、俺は眼鏡を外した。まだ5分も経っていないのに、俺の魔力はもう尽きそうだ。
やはりこの眼鏡は魔力を使用する。そして、俺がこれを掛けて1分以上でも平気ってことは、魔力消耗量がかなり少ないってことだ。
彼はこんな凄いものを造ったのか。
「君には才能がある。この眼鏡を造る程の才能を、君が持っている。だから、こんなものばかり造ってほしくない。君なら、もっと凄いものを一杯造れる。人の役に立つものを山ほど造れる。歴史に名を残れる!私はそんな君を見たい。有名人に成った君と友達に成りたい。寧ろ、私は君を有名人にする手助けをしたい。君の才能を殺したくない。」
俺は根暗君をべた褒めした。いや、自分の思うがままに言葉を口から出した。
「君はこのままでいいのか。」
「このまま、で?」
「言わなくても分かるでしょう?クラスでの君の立ち位置。」
根暗君は無言になった。「ぼっち」であることを屈辱だと思っているのだろう。
「私と友達になったからって、別に何か変わるわけではない。君がいきなり明るくなるわけでもないし、クラスメイトが突然話しかけてくるわけでもない。私は君と友達になりたいが、君の為に何かをするつもりはない。ただ単純に、君が外れすぎた道に行かないように、時々君を引っ張るくらいのことがしたい。君はどう思う?」
根暗君は無言のままだったが、俺は彼が返事するのを待った。
ダメだな、俺は。才能を持っている人・努力する人を見かけると、遂構いたくなる。
夢を叶える為に努力しているが、お金がないから諦めようとする人にお金をあげたい。
スポーツに一生捧げるつもりの人が不慮の事故に遭い、足や腕をなくしたら、自分の四肢を切り取ってあげたい。
天才的アーティストが心不全で命の危機に遭ったら、自分の心臓を代えてやりたい。
どうせ同じ一つの命だ、才能のある人が死ぬ位なら、俺の命を引き換えてやりたい。
しかし、やはり俺も自分のことが好きだ。見ず知らずの人の為に、命をあげられない。だから、他人の為に何かしたいのは俺の自己満足だ。その自己満足を叶い、命を懸けられない俺ができることがあるとしたら、才能ある人・努力する人を支える位だ。
だから、俺は彼らを支えてやりたい。努力する彼らが好きで好きで、仕方がないんだ。
「も、守澄さんは、こんなぼくとでも、友達になりたいと、言うのか。」
「そうだ。」俺ははっきりと言った。
「別に人として君のことを好きな訳じゃないけど...」
グサッという音を聞こえたような気がするが、気のせいだろう。
「ただ、やはり君の才能がほしいから、君と友達になりたい。私のモノにならないか、上村君。」
俺は机に両手を乗せて、体を前に傾けて、根暗君をまっすぐに見つめた。彼はチラチラッとしか俺を見てしばらく悩んだら、俺の真摯な気持ちに心を撃たれて、「ぼくでよければ」と言ってくれた。
よしッ!と俺は両手を叩いた。
「ありがとう!でも、都合上、私は『念話』できないから、君の『念話印』を教えて。用事のある時にうちのメイドを通して君に連絡するから。」
根暗君は「え?あれ?」と戸惑う表情を見せた。
仕方ないでしょう、「念話」を使う程度の魔力すらないから、俺は。
「後、基本私は人に興味がないから、殆ど人に『念話』を掛けない。私と話がある時、普通に教室で声を掛けていいから。『うざい』と思っても、『無視』はしないから、安心していいよ。」
根暗君のことをほっておいて、俺は話を進み、「念話帳」を取り出して、彼に渡した。
俺の口、容赦ないな。どこら辺が「安心」だろう。
まあいいか。どうせ第二の人生だし、気楽に生きよう。
根暗君は俺の言葉に不安を感じるのも、結局「友達ができる」という誘惑に負けて、素直に自分の「念話印」を「念話帳」に記した。
この世界で、魔力があれば何でも簡単にできる。指を念話帳に押すだけで、彼と念話できる彼自身の「印」が紙に現れる。
この「印」に触れれば、すぐ「印」が示した人と「念話」できるから、とっても便利。
俺以外の人にとってな...
上村 龍也。この文字とともに、念話帳の空白のページに変な図形が現れた。でも、その図形より、俺は別のことに注目した。
上村?「上村」じゃないんだ!
しまったな。ずっと勘違いして、彼を上村と呼んでいた!
...まあいいか。最後まで「上村」を貫き通そう。
「ありがとう、上村君。じゃあ、私はまだ用事があるから、失礼するね。」
そう言って、俺は根暗君を放置し、次の場所に向かった。
後ろから「ぼくは『かみむら』...」というような声が聞こえたが、聞こえなかったフリをした。