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第五節 親友④...俺のダチは「魔王」だぞ

舌の長い女はやっぱりエロいのか。見たことがないから、よくわからない。

 結果を先に言おう...何もなかった。


 俺の服を全部脱がした後、マオちゃんは俺を自分のベットに運び、そのまま俺を抱き枕代わりに使って寝た。


 マオちゃんは百合じゃない、人肌が恋しかっただけだった。

 けど、まだ夏になっていないとはいえ、やはり段々と熱くなっていくこの時期、二人が一つのベットに寝るのは暑い。

 最初は俺を逃がさないようにしっかりと抱き付いたマオちゃんも、深い眠りに入ると、俺を邪魔者扱いして、布団の外に蹴とばした。

 仕方ない子だなっと思った。しばらくの間、俺は彼女の傍に残っていうと、その頭を撫でて、その寝顔を楽しんだ。


 満月の日に、いつも半日のお休みを取る早苗は次の日は必ず朝一番に屋敷に戻る。その早苗に俺とマオちゃんが一緒に寝ているこの状況を見られたら、何を言われるのだろう。

 それはそれで楽しそうだが、朝一番に彼女の小言を聞くのは勘弁だ。恐らく、俺の勘違いじゃないと思うが、早苗は俺にかなり過保護だ。例え普通に、ただ一緒に寝ているだけでも、早苗は理不尽にお説教をするのだろう。

 今日はお風呂に入っていないから、なんだか自分が臭い気がする。そういう理由もあって、俺は一度お風呂に入ってから、自室で寝ることに決めた。


 とりあえず、自室に帰ると、マオちゃんに伝えるメモを残しておこう。

 ーーマオちゃんへ、探さないでくださいーー

 これだけ書いて残したら、きっと後で面白い事が起きる。

 ちょっと頭の中でシミュレーションしてみよう。


「お嬢様が家出しました!」「何ですって!」「おい、昨日お嬢様がお前の部屋に残らなかった?」「残ったけどいつの間にか消えました!」「嘘...お嬢様が...まさか悪魔に攫われましたのですか。」「それはあり得ないですわ。昨日の夜、屋敷に侵入した人はいない筈だわ。」「そうだぞ!いくら悪魔でも、柳殿に気づかれずに結界に入ることは不可能だ。」「何か『不可能』です?昨日だって、猫が侵入したのに気づいていませんでしたでしょう?」「それは猫だからだ!悪魔と違う!」「どうして悪魔は違うと言い切れます?」「二人ともやめなさい!今は最も優先すべきことはお嬢様の捜索です。意味のない喧嘩がしたいなら、お嬢様の無事を確認してからにしなさい。」......


 ......

 書き直そう!

 ーー私は自分の部屋に戻る。用事がある場合、私の部屋に来なさいーー

 よし、これで大丈夫だろう。

 俺はマオちゃんから離れ、風呂場に向かった。



 屋敷内の風呂場は恐ろしいほどに広い。


 元々この屋敷は「私」の為に造ったものだから、風呂場も俺専用だったのだが、その後、流石に親馬鹿しすぎたと反省した「お父様」は、屋敷を学生寮代わりに使った。

 だが、それでも、元々「私」だけの為のこの屋敷は、もちろん風呂場には男女別々に分けていなかった。にもかかわらず、「お父様」は風呂場を改築せず、逆に屋敷の近くに「銭湯」を造った。


 何を考えてこんなことをしたのだろう。


 その「銭湯」は男女別々にしていて、全屋敷に住む生徒達が余裕で入れるほどに広い。だけど、屋敷内の風呂場より小さい。そして生徒達がそこで体を洗うことになった為、風呂場はやはり俺一人が使うことになった。

 最初の何日は楽しかった(Yeah!だった)が、すぐに飽きて、無駄に広い風呂場を一人で使うことに寂しさを感じた。それで「お父様」にメイド達にも使わせるようにお願いしたら、俺と一緒に入る時だけ、風呂場を使用することを許可してくれた。

 一度でも風呂場を経験したメイドの子は、二度と使用人用のシャワー室で満足できない。俺も「お父様」のケチさに頭に来て、「ばれなきゃ犯罪じゃない」ということなので、「お父様」とメイド長ちゃんが見ていない時、他のメイドにこっそり風呂場を使わせてあげている。


 だから、まあ、その...俺が風呂場を使う時、他のメイドと出くわすことは多々ある。

 あくまで「出くわす」!俺が狙ってる訳じゃない!


「こんばんは、お嬢様。こんな時間に~お一人でご入浴?」

 運悪く、一番一緒にお風呂に入りたくないメイドに遭った。


 矢野(やの)春香(はるか)、種族はエキドナ。なんても元は「翼を持つ蛇」の生き物らしいが、今じゃ翼も蛇の尻尾全く見当たらず、外見では普通の「人間」にしか見えない。

 唯一、彼女が人間だと分かる「神と異なる部分」は、彼女が口内に隠している長い舌だけ。その舌がなかったら、彼女は「最も神に見える」事で有名人になれるかもしれない。


 俺は彼女が苦手だ。それは恐らく女の子になったからではなく、男のままでも、彼女が苦手だったのだろう。その理由はちょっと複雑で、一言では説明できない。


「せぇっかくだし、洗いっこしましょ~。」

 そう言って、彼女は俺を捕らえて、強引に風呂椅子に座らせた。


 彼女の特徴を説明しよう。

 まず、彼女は人と裸同士で触れ合うのを好む。確かめるかのようにその人を体の隅々まで撫でり、その人にくっつきお互いの体温を交換する。

 だから、裸同士になれるお風呂場は彼女の一番のお気に入リ。彼女と一緒にお風呂に入ると、必ずくっつかれる。


「暑い!」俺はささやかな抵抗をした。


 次、彼女は人の反応を観察するのが好き。喜怒哀楽、同意、拒否...全ての反応が彼女の琴線に触れる。


「お風呂ですから、暑いのは当たり前~。」

 俺にお湯を掛けた後、ソープを手につけて、俺の胸と尻に手を回す。


 三に、彼女はエロい。とても男好みのいやらしい体をしているし、よく人を流し目で見ることがある。舌が長い分、早口は得意じゃない。その代わりに、彼女は遅くても人の注意を引き付ける喋り方を身に着けた。その喋り方は男を魅了するエロい喋り方そのものだった。

 身体的特徴で人を区別するのは好きじゃないが、やはり人は見た目に「心」を左右される。

 俺も決して彼女のことを嫌いではない。どちらかというと、好きな方だった。

 初対面の時、彼女は俺の知っているとある二次元のキャラクターによく似ていて、名前の中にもそのキャラクターの名前が入っている為、彼女の事を「ルカ」と呼ぶようにしていた。彼女と仲良くしようと、彼女に近づき、彼女とよく喋ることにした。しかし、その全てが仇となり、「彼女に好かれてる」という実は最悪な状況になった。


 ルカは人を触るのも、人に触られるのも好きだ、人の体温と感触が、人肌が恋しいんだ。女の子になってから、俺も人肌を恋しくて、よく人を抱き付くようになったが、不意に触られるのは苦手なままだ。

 ルカは人の反応を見るのが好きだ。たとえそれが自分への反感や嫌悪だとしても。俺も人の反応を見るのは好きだが、嫌われることを恐れ、自分の意に反して人に嫌われないように振る舞うことがある。


 このように、些細な違いによって、主人である俺が、いつの間にかルカのおもちゃになっていた。


「お嬢様は将来、美人になれます~。こーんなにもいやらしいおっぱいをしているから、ど~んな男でもイチコロですよ〜。」そう言って、俺の胸を揉むルカ。


 一応ソープをつけているから、「洗いっこ」の範疇を越えていない。その手つきは男ならいやらしく感じるが、彼女は別に俺を「攻めて」いない、普通に俺の胸を揉んでいるだけ。


「洗いっこに同意していないんだが...ッ!」

 まるで俺に喋らせないように、彼女はびったりのタイミングで俺の尻の脂肪を抓った。


「せぇっかくの安産型なお尻なのに、最近のお嬢様は運動ばかりしてぇ、少しお肉が減ったのでは~?」


 これは、男のいない場での女の子同士の普通の会話なのに、彼女の口から言われると、何故かエロい言葉に変化してしまう。

 俺はそれ以降、口を開かなくなった。男の心がこれ以上彼女に魅かれないように、彼女を見ず、彼女の言葉を引き出さないようにした。


「肌がすべすべて、とっても柔らか~い。」


「小柄なのに、足が長~い。」


「『波状毛』というのですかね、お嬢様に似合ていますぅ。」


 暫くしたら、ルカは俺の体にお湯を掛けて、泡を流した。


「お風呂に入るといっつも無口ですね~。」

 すっかり綺麗にされた俺の体を、ルカが舌を出して舐め始めた。


 これが俺が最も彼女を苦手と感じている所だ。彼女は人の体を舌で感じるのが好きらしい。


 初めて彼女に頬を舐められた時、俺は驚いて逃げ出した。あの時の俺は彼女が知らない男子生徒とエロい雰囲気を出しているから、男の独占欲に身を任せ、衝動的に彼女を警告しただけだった。まさかいきなり彼女に頬を舐められるとは、夢にも思わなかった。

 まるで蛙を睨む蛇のように見つめられて、しかも微笑みを浮かんでいたから、彼女から狂気染みたモノを感じた。だからあの時は逃げ出した。


 今、彼女に舐められることにも慣れて...いや、まだ慣れていないけど、彼女に舐められることに恐怖を感じなくなっている。彼女は別に「食人族」ではないから、俺を舐めていても、味わっていない。

 ルカにとって、舐めることはスキンシップみたいなもの、別にエロいことをしようとしている訳じゃない。

 しかし、殆どの人にとって、それはエロいことだ。なのに、彼女はそれに気にせず、誰をも舐めたがる。それを拒まなかった人に懐く。

 だから、俺は彼女を「痴女」だという。


 人肌が好きだから、前は偶に、今は毎日、彼女は誰かと一緒に寝ていた。覗きの趣味のない俺はまだ彼女がセックスしている所を見たことがないが、男共が阿呆じゃない限り、彼女程の美人とただ寝るだけでは済まさないだろう。


 俺の鎖骨から少しずつ下がっていく彼女の舌は遂に尻あたりまで近づいていた時、俺は彼女を止めた。


「もうこの辺で止めて。」


 信じられないことだが、彼女は意外と従順なんだ。俺が何かを言ったら、彼女はそれが命令かどうかの確認はしないで、すぐに従うだけ。


 言わせない時はあるけど...


 しかし、これも俺が彼女を苦手と感じている所の一つだ。迂闊に彼女に話できない。

 少し前に、俺は彼女に「歌って」と言ったことがあった。舌の長い彼女は歌う事が苦手と知りながら、エロい彼女に八つ当たりして言ったんだ。その時の彼女は何度も舌を噛んで、しかし最後まで歌い切ったんだ。その姿が痛々しくて見てられなかった。

 だから、彼女に近づかないようにした。いっそぞんざいに扱うことにし、いつも他のメイドを通して彼女に伝言する。


 今日は、私の「始まりの日」なのかもしれない。


 俺は自分の事はやはり男だと思っている。体は女の子でも、心は男、欲情する相手はきっと女の子だけだろうと思っていた。

 しかし、今日、マオちゃんと触れ合って、(せい)と触れ合って、俺はようやく気づいた。自分は女の子と触れ合っても、もうドキドキしない。自分が女の子に触れることに、もう怖くない。自分は女の子に近づいている。


「ルカ、代わるよ。」


 俺は立ち上がり、ルカの手を掴んだ。一瞬揺れたルカの胸に目移りしたが、ちゃんと冷静に戻れた。


「洗いっこだから、今度は私がルカの体を洗うよ。」


 自分の体を洗うも恥ずかしいから、いつもメイドの誰かに洗ってもらっていた。だから、いつもなら、俺はルカに体を洗ってもらうだけで終わりだが、今後はメイド隊の皆にちゃんと気を配ると決めた俺は、勇気を出して、ルカの体を洗ってやることにした。


 俺の提案を耳にしたルカは「かしこま~」と答えて、椅子に座った。

 いい加減「タマ」のことから抜け出して、もっとみんなのことをも見よう。



 ルカと一緒にお風呂を出た後、俺は一人で厨房を通って自室に戻った。

 あれから、俺は結局ルカの髪だけを洗った。胸やお尻に触る勇気がなくて、結局「洗いっこ」は最後までできなかった。

 意気地なしでごめんなさい。


 外の色は変わっていなくて、すっかり深夜になっているこの時間に、俺は晩御飯を食べていないことに気が付いた。そう思って、一応厨房に通った。

 料理長のマオちゃんが引きこもっているから、晩御飯にあまり期待していなかったが、厨房には柳さん(オジョウ)が作ったおにぎりが残っていた。

 ご丁寧に俺への手紙まで残していて、本当に気が回る良きメイドだ。マオちゃんがオジョウに追いつくのはまだまだ先だな。


 そして、自室に戻ったら、そこには予期せぬ人が居た。


「こんばんは~、お久しぶり、ななえちゃん。」


 いや、人ではなかった。


「本当に久しぶりだ。自称『ティシェ・沫莉(まつり)』、私のファーストキスの人。」


「チッチッチッ、」彼女は袖から出していない右手を「左・右・左」って動かした、「人じゃないよ~、悪魔だよ~。」


 それもそうだな。


「で?前回会ってから何か月も経った今更、私に何か用事なのか。」


 彼女に好感を持てない。どことなく、彼女が俺の嫌いな人と雰囲気が似ているから、彼女に愛想笑いすらできない。


「あれぇ?冷たいね。私達は親友だよね。」


 記憶を戻っていないとはいえ、あの時の俺は何を考えて、初対面の人と友達になったんだろう。


「本当の名前も名乗らないのに、いきなり人の唇を奪った奴だ。友達でい続けていいのか、ちょっと悩むよ。」


 人は誰しも秘密の一つや二つを持っているものだが、秘密しかない人を信じ、友達にすることはできない。

 別に彼女が悪魔だから、嫌っている訳じゃない。寧ろ彼女が悪魔だから、ちょっとかっこいいなっとか思っている。


「やっぱり気づかれたか。」彼女は左手を肩と平行にし、右手を前から自分の腰に回して、左足を後ろに下がって、右足を少ししゃがんで、頭を深く垂らした。


「本名はないが、悪魔の間で、(わらわ)はアワリティアと呼ばれている。強欲の『アワリティア』だ。」


 くはっ!吐血...

 彼女が一気にかっこよく見えた。

 強欲(アワリティア)(わらわ)?なんだ、そのラノベ的名前と個性!


「驚いた...『妾』、なのか。」

「あははは、そこに驚くのか。」


 まったくその通りだな。せめて「強欲(アワリティア)」の方に驚くべきだな。


「えっと、君達はそういう名前なのか。」

「そういう名前?」

「その、アワリティア、とか...」


 人間の名前と違って、なんか特別っていうか、変っていうか...うまく説明できない。


「まあ、名前でお互い区別するのは、人間ぐらいだもの。私達は基本相手の魔力量で、相手を覚えているから。」


 あれ?「私」?「妾」じゃなくなっている。

 それより...


「魔力量で人を区別するのか?そんなことをできるのか。」

「自分達をどんどん弱くしている人間と違って、私達は昔のまま、お互いの魔力を感じ取れるのだ。」

「へー。」


 きっと目に見えるとか、気配を感じ取れるとか、そんなところだろう。


「てか、思い出した。そもそもなんで、今まで会いに来なかった?」


 気まぐれのところがある彼女なら、きっと「その気になれなかった」とか、「用事があったから」とかの適当な答えがくるっと思ったのだが、彼女の答えは俺の想像もしなかった意外なものだった。


「悪魔は半年に一回、しかも満月の日から三日しか、こっちの世界に来れない。」


「君は、だから今まで私に会いに来なかったの?」

「親友に会いたいけど、来れないんだ。」


 そういえば、満月の日になると、いつも「魔物が来る」とか、「きちんと窓を閉めて」とか、先生が朝のホームルームで言っていた。それは彼女達を警戒する為だったのか。


「でも、君達は人に害を成すものなのだろう?私を殺さないのか?どうして私を親友と呼ぶの?」

「私達は別に人間をわざわざ殺したりはしない。寧ろ人間の願いを叶えたいと思って、人間に会いに来ているんだ。ただ、その願いを叶える為に、手段を選ばないだけ。会った人間を気に入らなかったら、偶に殺すことがあるだけ。」


 うわぁ、「殺す」とか、物騒なこと。


「私は気に入られたのか。」

「一番のお気に入り!」


 喜んでいのかな。


「でもね、偶に満月の夜に、私達を召喚する魔法陣を書く人がいるけど。あれさ、私達から見れば、ただ『どうしてそこだけ異様に魔力が溜まっているだろう』と思い、好奇心で見に行っているだけだし。別に召喚されたとか、契約を交わしたとか、そんなの一切ないから、ななえちゃんはしないでね。私以外を呼び寄せたら、死ぬよ。」


 おおう...


「わかった。そもそもできないし...それより、もっと悪魔のことを教えて!すっごく興味がある!」俺は自分の知っている悪魔の話を思い返して、彼女の語る「悪魔」と比べたくなった。


「例えば、『魔王』とか、悪魔を統べる最強の魔族とか、やっぱいるのか?」


 彼女はとても驚いた顔を見せた。


「『魔王』という言葉はまだ人間に知られていない筈だけど...」


 え?そうなの?


「他の悪魔と比べたら、確かに魔王は凄い悪魔だ。」


 よかった!大して気にしていないみたい。


「でも、別に悪魔を統べるような『最強』ではないよ。」

「嘘!」

「そもそも自称だし、名乗ったら他の悪魔の恨みを買うし...今、まだ魔王名乗る酔狂な奴は七人だけだよ。」

 そんなにいっぱい居るの!


「で、でも、それなりに実力のあるものじゃないと、名乗らないじゃなくて?」

「ははっ、ないない、ただのファッションだよ。実際私も、七魔王の一人だし...」

「え!?だから『強欲(アワリティア)』なの!」


 すごいよ!

 俺が羨望の眼差しを彼女に送るが、彼女は逆に嫌そうに顔を逸らした。


「あの頃はまだ若かったから、流行(はや)りに敏感なんだ...」


 流行(はや)り、ファッション...この世界の悪魔にとって、「魔王」は別に大したものじゃないのか。

 そんなこんなで、俺は太陽が昇りそうな時間まで、彼女と語り合った。

 ちなみに、「アワリティア」は呼びにくいので、やっぱり彼女のことを「ティシェ」と呼ぶようにした。

 うっかり「ティッシュ」と呼ばないように気をつけよう。



「今日久しぶりに猫に会えた!」

「猫?どこで?」

「屋敷の中。迷い込んだみたい。」

「おかしい。猫はもう絶滅した筈だ。」

「絶滅した!?」

「そう。最後の一匹は何十年前に死んだ。」

「嘘でしょう...この世に神も仏もないのか...」

「居るかどうかわからんが、猫はもういない。」

「ネコ科の他の動物は!?」

「ネコ科?」

「虎とか、獅子とか、狸とか!」

「虎は居たかな。他の二つは知らない。」

「よかった。ネコ科は絶滅していなかった...ごめん、狸はネコ科じゃなかった。」

「それより、その猫は今どこに?」

「元の持ち主の所に帰った。」

「誰なの?」

「うちの学校の先生。『竜ヶ峰紅葉』という名前だ。」

「へぇ、あの人か。」

「知っているのか。」

「悪魔の間でも有名だから、あの人は。」

「やっぱり凄い人なのか。」

「まあね...でも、あまりあの人に近づかない方がいい。」

「どうして?」

「ななえちゃんの為だ。」

「だから『どうして』って訊いているのだが?」

「ふむ...言いたくな~い。」

「ええぇ~。」


「じゃあ、私帰るね。」

 ティシェは窓に座り、俺に手を振った。

「バイバイ。ふはあ...」

 俺は大きなあくびをした。

 眠い...

「あはは、もうすぐ朝になるから、寝ない方がいいよ。」

「うん...」

 そうだな。今日から「イベント」の為の準備を始めないといけないし、元気を出さなきゃ。

 眠い...

「では、また明日ぁ~。」

「バイバイ。」

 俺の別れの挨拶を聞いた後、ティシェは後ろに倒れて、そのまま翼を広げて、月に向かって飛んで行った。

 よし、後5分!

 そう思って、俺は布団に潜り込んだ。

 明日...もう今日になるけど...とっても忙しい一日になるな...

 自分のやろうとしていることを頭でもう一度整理して、俺は瞼を閉じた。

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