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第五節 親友③...いつまでも、友達でいてください!( ̄Д ̄;;

モブキャラはメインキャラになれるのか。

 マオちゃんの部屋まで来たら、リンとモモは既にドアの前にスタンバイしていた。

 正確に言うと、部屋の外に閉め出されていた。


 猫が去っていくのを見つめて、トリップしている俺が正気に戻った時、傍に居たのは柳さん(オジョウ)だけになった。リンとモモの行方を尋ねたら、マオちゃんを追って行ったと教えられた。何で俺に断りもなく行ったのかを聞いたら、逆に俺に「真緒を追っていいですか」って聞いてから行ったらしく、つまりきちんと俺から許可を取って、二人はマオちゃんを追ったのだと。

 心此処に在らず...俺は生返事をしたようだ。

 そんな俺の生返事を、彼女達は真面目に受け止めたのか?

 まあ、実際俺も彼女達にマオちゃんを頼もうとしたし、別にこのくらいで怒ったりしない...


 オジョウに礼を言って、そこで別れた俺はマオちゃんの部屋の前に着いた。何故かモモとリンもそこに居て、部屋の中に入らなかった。


「入れないの?」俺はモモに話しかけた。

「はい。真緒はたまに私を閉め出すことがある。」モモが困った表情で返事した。

 この屋敷に多くの部屋があるが、その多数は部屋を借りる「寮生」にあげている。俺の個室は「寮生」達のと同じタイプの部屋だが、メイド達は使用人なので、使用人用の部屋に住んでいる。セバスチャンが庭で自分の建てた小屋に住んでいる以外、基本三人で一部屋に一緒に住む。玉藻(タマ)が居た時期、タマ・モモ・マオちゃんの三人が一部屋で、オジョウ・リン・プラス一人が一部屋、そして早苗(メイド長ちゃん)を含めた古参の三人が一部屋。そんな感じで分かれて住んでいるが、その所為で一人が意地になって部屋に閉じこもっていたら、他の二人が寝る場所を失うことになる。

 今日は特例として、マオちゃんを許そう。

「モモ。今日、君はリン達の部屋に住め。マオちゃんの事は私に任せて、一晩だけ我慢して。そしてリン、今日はモモに君達の部屋に住まわせて、少しお互いにもっと慣れといて。」

 俺の話を聞いて、リンは少し困った表情を見せた。

 彼女はオジョウとよく話をするが、モモと一緒にいる時、いつもモモに弄られすぎて、キレて終わりになる。モモもモモで、オジョウが苦手っぽくて、オジョウとリンと一緒にいると、必ずオジョウを避けて、リンを弄って時間を潰す。オジョウは二人が喧嘩する時、仲裁役として二人を止めるが、先輩のモモに強く言えないらしくて、被害を負うのはいつもリン一人だけ。

 だから、三人を一つの部屋に住まわせると、リン一人が辛い目に遭うことになるから、ブチキレてオジョウにも手を負えなくなる可能性がある。「混ぜるな危険」、ってな感じでな。

 それは嫌だ。

 俺の前の時だけ仲のいいフをするのはよくない。本当の意味で仲の良い間からであってほしい。

 もちろん、リンもリンの考えがある。

「お嬢様。四人だとベッドが足りなくなります。できれば、別の部屋に...」

 どうせ、部屋はまだ余っているでしょう?という言葉を口に出していないが、リンはモモと一緒に住むのを嫌がった。

「あの変態が殆ど部屋に居ない事を私が知らないとても?」俺はリンの退路を封じるように、彼女の部屋の問題点を指摘した。

 あの部屋の三人目、矢野(やの) 春香(はるか)は痴女だ。男を手当たり次第食い散らかしている悪い女だ。下手に美人な所為で、食らわれた男共は誰も通報しない。だからこそ許せない。

 彼女に「理由があってああなってしまった」と一応知っているが...

 最近屋敷に住んでいる生徒達だけじゃなく、希望する新入生達をも手にかけようとするから、俺は屋敷に新の入居者を受け入れなかった。それで、あの痴女が俺に当たり散らすように、毎晩誰か一人の男子「寮生」のところに寝ることにしている。

 今日に限ってそれは好都合ではある。

痴女(ルカ)はきっと今日も『自室』で寝ないでしょうから、代わりにモモを寝させて、リン。」

 リンは渋々「わかった」と言った。

 とはいえ、リンばかり辛い目に遭わせる訳にはいかない。俺は再びモモの方に向いた。

「モモ、あんまりリンを苛めるな。いくらリンが弄り甲斐があるからって、本人が嫌がっているのだ。度が過ぎるのはよくない。」

「はーい。」モモは「お嬢様に言われたくない」どても言いたげな顔で返事した。そろそろお仕置きが必要のようだ。


 こうして俺は二人に帰ってもらって、今一人でマオちゃんの部屋の前にいる。

「マオちゃーん、私だ。ドアを開けてくださーい。」

 ...

 返事がない。

「君の愛しいお嬢様だよ、ドアを開けてくださーい。」

 ...

 やはり、返事がない。

 メンドクセイ...

「命令だ、赤羽(あかばね)真緒(まお)。ドアを開けなさい。」

 子供の我儘に付き合いたくない、手っ取り早く「命令」した。

 これでも開けてくれないなら、今日は諦めようか。

 あ、いや。「窓から侵入」をも考えられる。どうせ「私」の屋敷だし、気にせず窓を割れるな。

 と、そんなことを考えているうちに、ドアの鍵が外された音がした。

「命令」ともなると、「下」にいる人間はそれに従うしかない。俺は何故か最初からそのことが嫌って、あまり「命令」をメイドに出さない。

 出したら、必ず相手に従わせる。それはあんまりにも...なんだろう...つまらない?つまらないんだから?

 自分の気持ちはよくわからないんだけど、とにかく「命令」は嫌いだ。

 鍵を外したマオちゃんは隙間からこちらを覗き込んでいた。片目しか見えなかったけど、すっっっっごく嫌そうな顔をしていた。

「あたしを笑いに来たのですか、お嬢様。」

 自分から喧嘩を売って、飛ばされたのに、俺に八つ当たりするなよ!

 でも、なんだろう。彼女が「可愛いな」と思ってしまった。

「っぷ。」

 あ、しまった。あまりの可愛さに思わず笑ってしまった!笑っちゃいけないタイミングで...

「むぅぅぅぅぅ!お嬢様大っ嫌い!」マオちゃんは顔真っ赤にして、涙を堪えて俺を睨んだ。

 それでも、ドアを閉めない。

 これが「権力(命令の力)」だ...嫌だな...

「ごめん、マオちゃん。そういうつもりで笑った訳じゃないんだ。」俺は慌ててフォローする、「中に入れてくれる?」いつ、また閉め出されるのも分からないから。

 マオちゃんは俺を睨み、「それは命令ですか」と俺に確認した。

「命令」なら、間違いなく「入室許可」を取れるでしょうけど...

「おねがい♡」俺は拝むように両手を合わせて、元の世界の「アイドル」風にマオちゃんに「お願い」をした。

 俺の曖昧な返事から、マオちゃんは結局それを「命令」として扱ったか。彼女は少し迷った後、ドアを全開して、俺を部屋内に迎え入れてくれた。


 部屋はとってもシンプルだ。シンプルすぎて、ベッド三つと窓一つしかない...

 ドアの方にベッド一つ、窓の方にベッド二つ。それ以外のものは本っ当に何もない。

 つまらない部屋だ。

「部屋のリメイクは別に禁止していないんだから、ポスターを張ったり、盆栽を育てたりしても良いのよ。」

 嘘です!禁止されてるかどうかの確認をしていない。

 俺は「お父様」に許可を取らずに勝手に辛気臭い部屋を弄る事を許したが、もしそれで「お父様」と闘うことになっても、俺は一向に構わない。

 大体、ラノベの主人公は殆ど全員が「父」と闘う運命なんだ。「私」の「お父様」もなんだか「ラスボス」っぽい雰囲気を持っているし、いつか決着の日が来るのでしょう。


 しかし、マオちゃんは俺の言葉に全く反応をくれなない。彼女は鍵を掛けた後、自分のベッドに座り、俺を見ないように壁を見つめていた。

 自ら鍵を掛けて、自分の退路を断ったことに気づいていない彼女。もう何をしても、彼女を助ける人は来ないぜ。げっへっへっ...

 まぁ、俺も同じだけど...


 俺はわざとマオちゃんの隣に座って、彼女の片手を握った。

「マオちゃん、大丈夫ですか。」


 彼女は返事しなかった。彼女の望む言葉が出てくるまで、きっとだんまりを続けるのだろう。

 さて、シンキングタイムだな。

 まず、彼女はなぜ泣いていたのだろう。

 見たところ、怪我一つない。殴られた場所...は動きが速すぎて、見えなかったが、彼女の肌の見えるところに痕がない。先ほど彼女の体を隈なく触ったが、彼女が痛みを感じた様子も一度もなかったことから、見えないところにも傷はないと思える。

 でも、結構遠くまで飛ばされたのだから、全く傷がないのはおかしい。彼女は本当に大丈夫なのか?


 あ!この世界の常識はそうじゃないんだ。

 この世界の人間は俺の世界の「人間」と姿形近いから、つい勘違いしてしまうが、彼らは男も女も体は頑丈に出来ているんだ。もちろん、少数ではあるが、体の弱い種族もいる。だが、それは特例だ。マオちゃんはごく「一般的」な頑丈さを持っている、飛ばされたくらいで傷つかないんだ。


 ...度外視されていいところなんだが、マオちゃんが飛ばされた時、地面にお尻をつけて、メイド服を破いてしまっている。その為、今は下着のみを身につけている状態だ。

 ...ふむ、素晴らしい。


 体に傷がないなら、涙の理由はやはり「心の傷」によるものだろう。モブキャラみたいなセリフを口にした奴だけど、彼女は実にプライドが高い。そんな彼女が人に喧嘩を売っといて、あっさり飛ばされたら、情けなくて恥ずかしくて、泣いてしまうのも無理はない。

 俺は彼女じゃないから、彼女の泣く理由を推測しかできない。もし、本当にそんな理由で泣いたのなら、慰めようがない。何を言っても、きっと彼女のプライドを傷つけてしまうから。


 はぁ...どうしよう...

 どんな言葉を掛ければいいのだろう...

 ......

 面倒くさい...

 もういいよ、適当で...


「マオちゃんが屋敷に来る前の話を教えて。」俺は投げやりに彼女に言葉を掛けた。


 マオちゃんは涙によってさらに赤くなっている眼で俺を一瞥して、「どうして突然にそんなことを聞くのですか。」


 おかしいと思うよね...


「さっきのことなのだけれど...」

「ピクッ」


 俺の言葉にマオちゃんが体をぴくっと跳ねて大袈裟に反応した。やはりこれは彼女にとって触れてほしくない話のようだ。

 俺はそれに気にせず、彼女の心に「土足」で踏み込んでいく。


 「私はマオちゃんがどうして知らない人に喧嘩を売るのかが分からない。負けると恥ずかしい目に遭うのに、どうしてそれでも自ら人に絡むのかが分からない。」


 プライドが傷つけられて、お嬢様に泣き顔を見られて、恥ずかしいでしょうね。

 ああ、恥ずかしい。恥ずかしいな、おい。本当に恥ずかしい奴だな、マオちゃんは。

 っと、適当に心の中でマオちゃんを嘲笑しておくが、別に本気で彼女を馬鹿にするつもりはない。


「マオちゃんのことを知りたい。マオちゃんの気持ちを知りたい。マオちゃんの過去を知りたい。」マオちゃんの顔を自分の方に向けてもらって、「マオちゃん、私に君の事を教えて。」


 普段なら、ここまで言ったら、殆どの人達は俺に「秘密」を話すが、マオちゃんの守りはちょっと固い。


「お嬢様はあたしを馬鹿にする為に来たのではないのですか?」


 そんなことに何か意味はあるの?


「マオちゃん。人を馬鹿にする行為はその人を傷つける行為だ。相手に苦しんでもらうための行動、それ以外の効果はない。そんなの、嫌いな相手にしかする筈がないでしょう?」


 俺は空いてる手を伸ばし、マオちゃんのもう片方の手を掴んだ、「私はマオちゃんの事を嫌い所か、好きだよ。マオちゃんを苦しませる筈がないだろう。」


 マオちゃんの両手を恋人繋ぎでしっかり握って、目を見て真摯に語った。

 俺に手を掴まれた時はかなり慌てていたが、俺の言葉に心を打たれて、頬を染めて微笑んだ。


 「お嬢様になら、言っても...いいですよ。」

 その言葉が幕開けとなり、マオちゃんが語り始めた。



 「あたし、昔から『選ばれた人間』と呼ばれていたのです。」

 「へー。」

 っぷ、選ばれた人間(笑)。


 「別に自慢したい訳じゃないけど、同級生と比べて、確かにあたしが人一倍優秀です。」

 うっわぁ...


 「勉強はあまり好きじゃないから、殆どしないけど、ちょっと授業を聞いただけで、満点を取れる、というか、賢いんです、あたし。みんなが解ける問題をたまにミスするが、みんなが解けない問題を難なく解けるのです。」


 ...俺、ミスを犯したのかもしれない...


 「例えば、小学校の時、先生が特別な問題を出したことがある。クラス内でもあたしを含めて三人しか答えられなかったが、その回答はとてもややこしい書き方をしている。もっと簡単な書き方はないのかってみんなが先生に尋ねたら、先生も『答えの書き方はこれしかない』と言って、諦めていた。その時!あたしは『こういう書き方はどうですか』って自分の答えを()せた。あたしの答えは明らかに先生や他の二人が出した答えより書き方が簡単で、みんなをびっくりさせた。お嬢様にも見せたかったけど、あの問題はもう忘れてしまって、お嬢様にあたしの答えがどれだけ簡単な書き方をしているのかが見せられないのです。あの場にお嬢様も居たらよかったのに...」


 ...始まった...

 始めさせてしまった、ナルシストの「過去の栄光語り」。

 普通は四十を過ぎたおじさん達が「昔の俺は凄かったよ」って語るものなのだが、ナルシスト達にとっては「そんなの関係ない」みたいだ。

 その結果、俺の「マオちゃんの過去が知りたい」という言葉が彼女の「ナルシスト心」に火をつけた。きっと彼女の気が済むまで、何を言っても彼女を止められないだろう。


 「五年生の時、あたしは...」


 ...はぁ、俺が知りたいのはそんなことじゃないんだけどな...

 あの時、マオちゃんが紅葉先生に喧嘩を売らなければ、こんなことにもならなかったな。喧嘩を売られても、紅葉先生がそれを買わなければ、こんなことにもならなかった。

 ...俺がマオちゃんを止めていたら、こんなことにも...

 そもそも、紅葉先生は大人げなかったな。いくら喧嘩を売られたから、あそこまで怒ることないのに。

 ...

 いや、怒るよな。俺が紅葉先生なら、きっともっと早く怒るでしょう。

 例えば、ある日、鶏がいきなり喋るようになった。一匹のひよこがお前の目の前に来て、いきなりこう言った。


 「You are CHICKEN! Your mother is CHICKEN,too!Your father is CHICKEN,too!So,

 you are CHICKEN!」

 とか言われたら、怒るよね。

 ひよこ(チキン)臆病者(チキン)呼ばわりされたくねぇよ!

 ってな感じで。


 だから、まあ...紅葉先生は全く悪くない。悪いのはやはりマオちゃん一人だ。


 「お嬢様、聞いていますか。」

 いきなり耳元に声がした。


 気が付くと、マオちゃんが訝しむような目で俺を見つめていた。


 「あ、うん。聞いてる聞いてる。」咄嗟に出た言葉だが、これだけではさらに怪しまれるだけだ。

 だから、付け加えた。

 「マオちゃんは凄いなっと思って。」

 この言葉に一気にご機嫌になったマオちゃんは「いや、それほどでもありません」と言って照れた。


 予想以上にちょろい。

 「でも、この屋敷に来てから、自分の限界を知りました。いくら優れた素質を持っていても、いくら種族性超えの魔法才能を持っていても、認めてくれる人がいないと発揮できない。だから、あたしは誰よりも優れているのを証明する。すぐに柳を超えて、いずれ早苗メイド長も超えて見せる。」


 ほほう、意外と野心があるのね。


 「だから、お嬢様にも、あたしの優秀さを分かってもらいたいんです。なのに、お嬢様はあたしの事を気にせず、柳にばかり構う...」

 あれ?俺はそんなに贔屓していたっけ?


 「待て、マオちゃん。私はメイド隊の誰かを贔屓した覚えはないんだけど。」

 「覚えてもいらっしゃっていないのですか。」マオちゃんは凄く悲しい顔を見せた、「あたしが作った肉料理はあまり口につけないのに、柳がたまに作った魚料理をいつも平らげてる。あたしとあまり喋らないのに、よく柳と一緒に庭に居る。あたしをマオ『ちゃん』と子供扱いするのに、柳を『オジョウ』と頼る。猫を見つけた時、あたしの事を無視して、柳に話を聞く。色々あるのに、覚えていませんか。」


 うわ、痛いところを突かれた。全てには理由があるのに。

 俺ではなく「私」は少食だ、いつも多くは食べられない。熱量の高い肉料理は特に、美味しいけど食べきれない。

 それに比べて、オジョウの魚料理はバランスがよく丁度良かった。「私」の舌に合うように作るだけじゃなく、食べれる量も考慮してくれている。残さずに食べれる。


 ただ、屋敷の料理長はマオちゃんだから、マオちゃんの料理はよく口にする。たまに「飽き」もする。料理長ではないオジョウはマオちゃんの非番の時しか料理しない、「飽き」になりにくい。

 つまり、レア度が高いんだ!今回食べなかったら、次はいつになるのか、分からないんだ。


 俺がオジョウとよく一緒に庭にいる事も、別にオジョウとお喋りしたくてそこで会う約束をしていない。本当偶々!オジョウがよくそこで音楽を演奏するから、それを聞いているだけ。交わした言葉の数は寧ろマオちゃんとより少ないかも。


 呼び方に関しては、どちらかというと「マオちゃん」の方が愛称に近い。「オジョウ」の方はその喋り方を馬鹿にするようなあだ名に近い。


 先ほどの猫の時は...まあ、周りにもっと気を配るべきだと反省しよう。

 自分の行動の一つ一つはよくメイド達に見られ、そして勘違いされやすい。かと言って、多く語り過ぎると、元オタクの俺が持たない。


 「お嬢様」になってから、初めて味わう苦労。これが管理職?の苦労なのかな。


 「マオちゃん、私は...」

 うむ、何を言えばいいのだろう。

「...私はマオちゃんが好きだよ。」

 旨く慰める言葉が出てこないので、適当な事を言った。


 いや、別に嘘じゃないよ。マオちゃん可愛いし、今は下着姿で俺の前に居るし...おじさん、興奮しちゃうよ。

 おじさんの歳でもないけど。


「何を、仰るのですか。」

 俺はマオちゃんの手を掴んだまま、彼女を自分の元に引っ張った。マオちゃんの目を見つめて、おでこを彼女のおでこにくっ付けた。

 彼女は少し震えたが、俺の行為を拒まなかった。


「聞いてマオちゃん。私は決して君達の誰かを贔屓していない。君達を冷たくしていたのは、どう接触すればいいのかが分からないからだ。私は一度記憶を失っていて、君達の事を全部忘れてしまったからだ。だから、今までどう接していたのか、君達をどういう風に呼んでいたのか、そのすべてが分からないんだ。」


 再び、俺は「記憶喪失」という自分の特殊な出来事を利用した。他大勢には教えていないが、メイド隊の全員はあの事を知っている。


 自分を思い出していない時期の「私」がタマに「記憶喪失の事を誰にも言わないで」と頼んだのは、このように、俺が悪用しない為なのかもしれない。にも関わらず、俺は「知ってる人」に悪用している。

 最低だな、俺は。ゲッヘッヘッ。


 「だから、マオちゃん。私を許して。君達全員に気を配れなかった私を許せ。」


 マオちゃんの顔はゆっくりと落ち着いた表情になり、その後笑顔になった。


 「昔のお嬢様はあたしと一言も交わしていなかったね。あぁ、失礼しました。『していませんでした』と。」


 その顔を見て、俺もようやく安心した。

 「じゃ、私はそろそろ自分の部屋に戻るね。」そう言って、俺は立ち上がった。

 けど、すぐにマオちゃんに引っ張られて、ベッドの上に押し倒された。


 「何を仰います?お嬢様。今日はあたしと一緒に寝ますよね。」

 マオちゃんは俺の手を放さず、恋人繋ぎのままに手を掴んで、そして俺の上に乗って、微笑んだ。


 あれ?もしかして、俺の「処女」のピンチ?

 いや、冗談でしょう?リアルで女同士がそんなことをしないでしょう?


 「マオちゃん。私はまだお風呂も入ってないよ。お風呂に入って、自分の部屋で寝ないと...」

 「大丈夫ですよ、お嬢様。あたしはもう身を清めました。」


 いや、何か「大丈夫」なのか全然分からないんですけど!


 「あたしはお嬢様の匂いが好きですから、お嬢様がお風呂に入っていなくても、あたしは気にしません。」


 気にして!脇の匂いとか、気にして!

 いや、まさか...まさか!


 「あたしと一緒に寝て、お嬢様。」

 そう言って、マオちゃんは俺の両手を左手で掴み、右手で俺の服を脱ぎ始めた。


 俺のこの「鶏にも勝てない体」では、彼女に逆らえるはずがない。どう懇願しても、服は一枚ずつ脱がされていく。

 この時、「命令」とかしたら、一発で彼女を止められるかもしれなかったが、テンパっている今の俺はそのことに気づける程に賢くない。

 ...正直、少し期待もしていた。


 「お休みなさい、お嬢様。」


 後で早苗に聞いたことだが、ファルコンにとって、手を握って見つめることは求愛行動に近い行為だとか...俺、自分のメイド達に求愛しまっくているな。


 今夜、俺は一体どうなるのでしょう?

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