表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/58

09:遠足(3)

第9話です。遠足編はこれでおしまいです。本編で重要になる登場人物の名前にはルビを振っていたりします。よろしくお願いいたします。※今回一部流血表現があります。苦手な方はご注意下さい※

※レイアウト変更と文章の加筆修正を行いました。

 川に来ると、小岩井がさっそく岩の上に乗ってはしゃいでいる。


「押すなよ!絶対押すなよ!絶対だぞ!」


 それって押せと言ってるようなものだよね。

 井上くんが、後ろで困った顔をしている。


 あ、押すのかな?


「まだその時ではない」


 貫禄のある田中くんが、機は熟していないと言っている。

 なんなんだ、あんたら。



「お、意外と浅いぞこの川」


 靴を脱いで川に入っていく伊藤くん……じゃなかった、悠太郎だったね。冷たくないのかな。


「おい玲美、メダカがいるぞ」


 西田がメダカの群れを見つけたみたい。


「ほんとだ、ちっちゃくてかわいいね。由美ちゃん、見て見て」


「かわいいー」


「皆さん、残念ですがこれはメダカではありません」


 順が得意げに出てきた。

 メダカじゃないの?これ。


「これは、カダヤシと言います。背びれの位置がメダカとちょっと違うでしょう?」


「まったく違いがわかんねえ」


「日本にはもうほとんど純粋なメダカっていないんですよ……」


 遠い目をして話す順。

 良い話をしているっぽいんだけど、別に今はその話どうでもよくない?



「ここ四つ葉のクローバーあるかも。探してみない?」


「うん、探そう」


 男子達は川に夢中みたいだから、わたし達は四つ葉のクローバーを探すことにした。

 見つけると幸運が訪れるっていうしね。



 こうして、残りの時間は穏やかに過ぎて行った。


 みんなで来る遠足は本当に楽しい。

 みんなとも友達になれたし、四つ葉のクローバーは見つからなかったけど、わたしは今、とても幸せだ。


 悠太郎達は川の中に棲んでる昆虫を捕まえたみたいだ。

 順が言うには、これも今じゃあまり見ない珍しい昆虫らしいよ。



「そろそろ時間かな?」


 悠太郎が時計台を見上げて言う。


「楽しかったね。またみんなで来たいね」


「来れるよ。だって友達だもん。ね?」


 思わずそう言ったわたしに、由美も賛同してくれた。


「うん、友達だ」


「おう」


「はい」


 悠太郎も琢也も順も、みんな同じ気持ちみたいだった。



******



 集合場所に向かってると、古田くんがこっちに走って来る。

 取り巻き女子も一緒だ。悠太郎に何か用事かな?


「佐島さんが見当たらないんだ!」


 どういうこと?

 トイレにでも行ったんじゃないの?


「てっきり伊藤くん達のところに行ったのかなって思ってたんだけど……」


「こっちには来てないな」


 ずっと古田くん達と一緒にいると思ってた。

 まさか、そんなことになっていたなんて……。


「探すぞ!おれと順は川の方をもう一度見てくるから、悠太郎と古田は反対側を見てきてくれ!」


「わかった。女子達は先に戻って先生に報告してきてくれ」


 悠太郎達はそれぞれ駆け出して行った。

 佐島さん、どこに行っちゃったの。



「わたし達は悪くないわ……」


「あの子が悪いのよ……」


 古田くんの班の女子二人が何か言ってるのが聞こえた。


「なんかあったの?」


「別に、あの子が悪いんだから」


「つまり、何かあったってことだね?」


 何だか嫌な予感がする。


「せっかく、伊藤くんと一緒に行けると思ってたのに勝手に断っちゃうしさ。わけわかんないよ」


「あーあ、あんた達は楽しくっていいよねえ。わたし達は散々だったんだから」


「……由美ちゃん、悪いけど先に戻ってて」


「え?」


「わたしも佐島さん探してくる」


「ちょ、ちょっと!」



 佐島さんはきっと、あの二人にいろいろ言われたんだ。

 あんなことがあって、傷付いてたはずなのに。


 取り巻きの二人は佐島さんの友達だと思ってたけど、違ったみたいだ。

 友達なら、傷付いた友達の傷を広げるようなことは言わない。


 なぜか、佐島さんのことをほっておけない衝動に駆られた。



 とりあえず、林の方に行ってみる。

 そこにいなかったら、わたしも一旦戻ろう。


「佐島さーん、いたら返事してー!」


 もしかしたら、アスレチックのところのブランコにでもいるかと思ったけど違ったみたいだ。

 もう少し奥の方かな?



「佐島さーん!」


「……こ」


 何か聞こえた。


 あんなところに川が流れてる。

 朝アスレチックで遊んでた時は気付かなかったけど。


「佐島さん、どこ?」


「……ここ」


 川辺で足を押えてる佐島さんを見つけた。



「良かったー……大丈夫?」


「大丈夫じゃないわよ……足挫いちゃったし」


「こんなところで何してたの」


「そこ……そこから落ちたの」


 斜面に滑った痕跡があった。

 あー、あそこから落ちたのか。


「わたしも……その、アスレチックしたかったから」


 もしかして、わたし達が遊んでいるところを見ていたのかな。

 気付かなくてごめんね、佐島さん。


「そっか。今度みんなで来ようね」


「うん……」


「さ、立って。みんな心配して待ってるよ」


 立ち上がった瞬間、佐島さんの帽子が川の方に飛んで行ってしまった。



「あ、わたしの帽子」


「いいよ、取って来るからそこでじっとしてて」


 わたしは靴を脱いで川に入って行った。

 さっと帽子を取って戻ろうとしたときだった。



 ザクッ――――

 嫌な音がした。


 足を見ると、割れた瓶の破片が刺さっていた。

 足元が真っ赤に染まる。


「さ、佐島さん……帽子投げるから、取って」


「ど、どうしたの!?」


「ちょ、っと、ケガ、しちゃったみたい」


 やばい、結構血が出てる。

 そっと足を上げ川岸を目指す。


 痛いけど、とりあえず川からでなきゃ。


「ひ、日高さん!血が!血がぁぁああ……!!」


「だ、大丈夫、大丈夫、だから」


「だ、誰か!誰か来てー!!日高さんが!日高さんが死んじゃう!!誰かー!!」


「し、死にはしない、と思うけど……痛い」


 結構深いキズ。

 押えても血が止まりそうにない……どうしよう。

 佐島さんもケガしてるから、私が連れて帰らないといけないのに……。


 そうこうしていると、誰かが来たのが見えた。

 悠太郎達だ。


「おい、どうなってんだこれ!」


 琢也が心配そうにわたしを見てくる。


「結構血が出てる……何で玲美がここに居るのかわかんないけど、叱るのは後だ。血を止めなきゃまずいな。これでいいか」



 ビリッ――――

 シャツを破る音が聞こえた。


 悠太郎が羽織っていたシャツだ。

 それをわたしの足にくくりつける。


 せっかく似合ってたシャツなのにごめん。


 すぐに血で染まるので、そのたびにシャツを破ってわたしの足に巻いてくれた。



「痛いだろうけど、このまま先生のところに戻ろう」


 その場にしゃがむ悠太郎。


「おぶってくぞ」


 恥ずかしいので嫌です。

 それに、おぶるなら佐島さんを先におぶってあげてほしい。


 そう言おうとしたら、無理やり乗せられた。


「佐島も足怪我してるのか?」


「ちょっと挫いただけ……あうっ」


「しょうがねえ、お前はこっちだ」


 佐島さんは琢也が背負う。


「悠太郎じゃなくて悪いな」


「ううん、ありがとう……西田くん、本当にごめんね」

 

 佐島さんは素直に琢也にお礼を言った。



******



 こうして、わたしの3年生の遠足は終わった。


 先生とお母さんにめっちゃ怒られた。

 せっかく友達ができて楽しかったのに、ちょっとしょぼん。


 足の裏の怪我は、何針か縫うことになってしまった。


 佐島さんは軽い捻挫ですんだみたい。よかった。



 あ、そういえば由美ちゃんもめっちゃ怒ってました。

 置いてっちゃってごめんね。

 でも、わたしがすぐ良くなるようにって、四つ葉のクローバーをくれた。


 あの時由美ちゃんががんばって見つけたやつだ。

 これは、もう一生ものの宝物だね。



 大事なものはちゃんとしまっておかなきゃ。

 何かそういうしまっておけるもの、どこかに無かったかな……。

ちなみに小岩井は結局飛び込みました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ