07:遠足(1)
第7話です。次もなるべく早く更新する予定です。
※レイアウトと文章を加筆修正しました。一番流れがわかりにくい話だったかも。
待ちに待った遠足当日。
天気は晴れ。降水確率も0%だって。
歩く歩く。どんどん歩く。
班ごとに分かれておしゃべりしながら歩くので、どれだけ歩いても疲れないね。
「晴れてよかったねえ」
由美ちゃんは、ポニーテールを犬の尻尾のように揺らしながら上機嫌だ。
「着いたら川でザリガニ取ろうぜ」
遠足でザリガニ捕まえるとか聞いたことないわ。
今向かってる公園には川も流れてるみたい。
ザリガニはどうでもいいけど、川に入ってちょっと遊ぶくらいならいいかも?
「日高さん、今日はおさげにしたんだね」
「こっちのほうが動きやすいと思って。変?」
「ううん、似合ってるよ」
髪の毛が伸びてきてうっとおしかったから、適当に2本に束ねてきただけだったんだけど。
こういう変化にすぐ気付く辺りがモテる秘訣なんだろうな。
先生、ちゃんとメモ取っておいてくださいね。
うわー、伊藤くんと話してたら佐島さんがめっちゃ睨んでる……。
ちょっと離れて歩こう。
******
「よし、到着したな。点呼とるぞー!」
結構広い公園だ。市内にこんな大きな公園あったんだ。
沢木くんはしんどかったみたいで、ゼーゼー言ってる。
これからみんなで遊ぶというのに、そんな調子で大丈夫なんだろうか。
「じゃあ、お昼までは班ごとに自由行動だ。危ないことはしないように。先生達はあっちの休憩所にいるから何かあったらすぐに来るように」
みんなぞろぞろ動き出した。
わたし達はどこから回ろうかな?
そうしてると、佐島さんがうちらの班の方にやってきた。
「伊藤くん、もし良かったらわたし達の班と一緒に回らない?」
なんとなく、こうなりそうな予感はしてたけど。
「悪いけど、君達と一緒に行動する気はないよ」
ばっさり切り捨てる伊藤くん。
「そう言わず、頼むよ……」
古田くんがすがるような目で、伊藤くんに懇願する。
あの眼で見られたら、さすがの伊藤くんもバツが悪そうだ。
「日高さん、どうする?」
なぜかわたしに振ってくる伊藤くん。
うーん、言っていいんだろうか……。
佐島さんも訴えるような目で、こちらを見てくる。
なやんだ結果、わたしは思ったことを正直に言うことにした。
「佐島さんが伊藤くんのこと大好きで、一緒に行動したいってのはわかるよ」
「それじゃあ」
「でもさ、伊藤くんさっき、一緒に行動する気はないって言ったでしょ?それって伊藤くんの本心だと思うんだよ」
「うん……」
がっかりとうなだれる佐島さん。
よっぽど伊藤くんと一緒に回りたいんだね。
ちょっとかわいそうだ。
「わたしがいいよって言ったとするじゃん? たぶん伊藤くんは、班のみんながいいって言うならしょうがないって言うと思うんだよね」
「うん、確かにみんながいいなら我慢するよ」
ちょっと不満そうだけど、伊藤くんはさらっと答えた。
「でも、今も我慢するって言ったでしょ?伊藤くんがそんな状態で一緒に回って、佐島さんは遠足楽しめる?」
伊藤くんの言うこともわかる。
だけど、それだけじゃいけないと思う。
だから、わたしはこう言う。
「わたしはさ、佐島さんの気持ちもわかるよ。せっかくの遠足、好きな人と回りたいよね。でも、そうしたって辛い思いするのは佐島さんなんだよ」
「そう……ね」
「だから、佐島さんのためにもあまりおススメしない。あとね、伊藤くん」
「ん?オレ?」
「佐島さんは本心から伊藤くんのことが大好きだから一緒に居たいって言ってるのに、はっきりしてるのは良いけど、断り方ってもんがあると思うよ」
佐島さんは伊藤くんのことが好きだから何も言わないけど、伊藤くんの言い方はちょっときつかったと思う。
「でも、佐島さんははっきり断らないと、ずっとこうなんだよ。それに、西田のこと悪く言う女のこと優しくできると思うか?」
言ってることもわかるけどさ。
それにしても、伊藤くんはそれをずっと怒ってたんだ。
結構友達思いだもんね、伊藤くん。
「おれのことなら、もういいぜ」
西田はそう言うけど、伊藤くんは納得いかないみたい。
結構頑固だこの人。
「佐島さん、とりあえず西田に謝ったら?わたしも最初、西田って乱暴者であまりいい印象持ってなかったけど、同じ班になって結構面倒見のいいやつだってわかったよ」
「こんな優しそうなおれを捕まえて、乱暴者とはひどいぜ」
どこがだ。
「……ごめんなさい」
佐島さんが絞り出すような声で言った。
ちょっと泣いちゃったっぽい。
「ごめんなさい、伊藤くん取られちゃうと思って……」
その言い方だと二人がホモみたいだ。
「伊藤くんも、佐島さんに言うことあるよね?」
「……ごめん、言いすぎた」
伊藤くんも佐島さんもお互いに謝った。
佐島さんも素直になったし、伊藤くんもちゃんと反省したみたいだ。
「じゃあ伊藤くん、佐島さん達と一緒に回ろうか」
「わたし達は、もういいわ。伊藤くん、日高さん、無理言ってごめんなさい」
あれ?人がせっかく一生懸命仲取り持ったのに。
佐島さん達は古田くん達のところに戻ると、歩いて行ってしまった。
******
「玲美ちゃん、おつかれさま」
なぜか由美ちゃんに頭を撫でられた。
「日高さん、ごめんね。オレのせいで時間取らせちゃって」
ほんとだよ。
こういう問題は、自分達で解決してよね。
「お前、意外と度胸あるのな。まさか佐島が謝ってくるとは思わなかったぜ」
「そ、尊敬します」
沢木くん、尊敬は意味わかんないよ?
ともかく、せっかく遠足来たんだから楽しもう。
佐島さんにとっては、辛い遠足になっちゃったかもしれないけど。
まあ、それまでの態度は佐島さんに問題があったわけだし、自業自得かな。
「まずは、あっちの林の方に行ってみようか。いろいろあるみたいだし」
「おう、お前が班長だ。おれ達をリードしてくれ」
伊藤くんを先頭に、わたし達は歩きだした。
あっちの方にはアスレチックとかもあるみたい。
通りがけ、他のクラスの女子も伊藤くんを見ている。
イケメンパワーすごいな。本人はそれで苦労してるみたいだけど、ぜいたくな悩みだよね。
わたしも、あんなイケメンに生まれてたら……ん?何考えてんだわたしは。
「お、滑車があるぜ!名前は知らないけど滑車!」
「ターザンロープって言うんですよ」
沢木くんは物知りだな。
「伊藤、勝負しようぜ!」
「よし、ちょっとやってみるか!」
「玲美ちゃん、鉄棒もあるよ」
「うん、あるね」
「逆上がり、練習しない?」
「しないよ?」
由美ちゃんみたいな子を天然って言うんだろうか。
「全然進まないぞこれ!」
「難しいな、これ」
西田がクネクネ動いてて笑える。
「それはコツがあるんですよ。ちょっとやってみましょうか」
沢木くんはそういうとロープを手に取り、勢いをつけてロープの団子にまたがった。
そして、状態を綺麗なフォームで揺らし、重心を前に持っていく。
ガシャンと反対側に到達し……落ちた。
「大丈夫!?」
沢木くんはふらふらしながら立ちあがった。
「え、ええ、ちょっとびっくりしました」
「ビックリしたのはこっちだぜ。お前、やるなぁ」
「沢木くん、すごいよ!」
こういうの苦手だと思ってたのに、案外やるねこの人。
「た、たいしたこと、ないです」
「……負けない」
あれ?伊藤くん、何でそんなに対抗意識燃やしてんの?
その後、伊藤くんがターザンロープをマスターするのに時間はかからなかった。
負けず嫌いだこの人。
「次は雲梯に行ってみようか」
「おう、勝負だ!」
あれ?遠足ってなんだっけ?
結局みんなで勝負することになって、雲梯はなんとわたしが勝利してしまった。
「猿か」
西田くん、さすがにそれは傷付きます。
「楽しいね」
由美ちゃんはへらへら喜んでる。
「アスレチック、そんなに楽しい?」
「ううん、みんなとこうやって遊ぶのが楽しいの」
「そっか」
なんだかんだで、わたし達は結構遠足を楽しめてるみたい。
そして、お待ちかねのお昼の時間になりました。