55:運動会(4)
第55話です。運動会の続きです。よろしくお願いします。
借り物競走は比較的楽な種目に分類される。
足の速さよりも、どちらかといえば運や判断力に左右されやすい競技だ。
お題は先生達が作成しているので、それほど無茶なことは書いてないはず。
まずは私から。順はアンカーとして出場する。
お題は簡単だった。
【お題】腕時計
すぐにお母さんから借りて、私は1位になることができた。
その後3組は籤運にも恵まれ、今のところ得点は1位をキープ。
あとは順が4位にでもならない限り、このまま逃げ切れる状態になった。
「さて、僕で決めちゃいますか……」
クールな感じに出て行く順。
最悪でも3位になってくれれば私達の勝ちだ。
『それでは、位置に付いてください』
借り物競走なのに、一人だけクラウチングスタートの体勢を取る順。
別にスタートダッシュの練習もしていない。
『パァン!!』
銃声に合わせて一斉にスタート。馴れてない体制をとっていたため順は出遅れた。
「遅れはこれから挽回します。さて、僕のカードには何が書いて……えぇっ!?」
順がお題を見て固まった。
一体何が書いてあったんだろう……そして、順は呼吸を整えると4組の方へと駆けて行った。
「やった、僕のはメガホンだ!川島せんせーい!メガホン貸してくださーい!」
まずい、1組の古田君のお題は簡単な物だ。
順は4組の前で固まっているみたいだ。
「あ、あの……由美さん!」
「どうしたの?順君」
由美から何か借りるのだろうか。
もう2位までゴールしてしまった。2組の田中君は既にお題の三角コーンを持って走っている。
田中君のが一番楽なんじゃないのか。
「ぼ、ぼぼぼ僕と……僕と一緒にゴールまで走って下さい!!」
「え?」
順は由美の手を取って走りだした。これはもしかして……よくマンガとかで見るアレなのか?
無茶なお題はないと聞いていたのに、まさかそんなお題があったなんて……アンカーじゃなくて良かった。
「機は熟した……我々2組の勝利だ!!」
勝利って言っても3位なんだけどね。
順は由美を連れて惜しくもビリでゴールした。
「ごめんね、わたしがもっと速く走っていたら」
「いえ、僕がもっと積極的に行けば良かったんです」
「順、お題には何て書いてあったの?」
何となくわかるけど、やっぱり気になってしまう……順は真っ赤になってなかなか見せてくれない。
「……お題には、【ポニーテールの女の子】と書いてありました」
「えー、てっきり好きな子って書いてあると思ったのにー……」
「それだったら3組にもいるよね?杉本さんとかもそうじゃない?」
由美の言う通り、杉本さんを始めうちのクラスだけでも数人いた。
今日は運動会だから髪を縛ってる子も多い。
「その……馴れてない女子に話し掛けるのが苦手でして……」
何とも順らしい答えが返ってきた。
順はとぼとぼとプラカードを返しに行った。
私達はこの競技でも結局勝てず、1組との差は開いてしまった。
「すみません、負けてしまいました……」
「まだ競技はある!次のパン食い競争に賭けようぜ!」
そう言って、謙輔は順を励ました。
最悪次のパン食い競争で負けてしまっても、午後には団体競技が残っている。
諦めるのはまだ早い。
「あー、あのお題、沢木が引いたか……でも」
「わー!!わー!!次、がんばりましょう!!ねっ!!」
次のパン食い競争が終わったらお昼だね。
なんか大島先生と沢木が騒いでるけど、恵利佳の応援の方を優先しよっと。
「恵利佳、パン食い競争がんばってね!」
「玲美……あなたはこし餡とつぶ餡……どっちが好き?」
質問の意味がよくわかりません。
「つぶ餡かなぁ」
「だよね!やっぱりつぶ餡よね!」
恵利佳はこし餡が嫌いだそうです。
でも、パン食い競争って全部食べなくても咥えるだけでいいんだけど……。
「こし餡だったら負けるわ……」
「別に食べなくてもいいからね?」
恵利佳はルールを把握していなかった。
運動会は保育園以来だという恵利佳。
マシュマロ探しではちゃんと食べていたので、そういう競技だと思っていたようだ。
危うく最下位が決定するところだった。
そろそろ午前の最後の競技、パン食い競争が始まる。
ちなみに先生に聞いてみたところ、パンはつぶ餡のようです。
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私をいじめから救ってくれた玲美達のためにも私は負けられない。
アンカーではないけれど、私は第一走者だ。
ここで勢いを付けて次へ繋いでいきたい。
「あら、吉田じゃん。あんたが運動会に出るなんて珍しいねぇ」
「あなたは……西村さん!」
何てことだ……ここに来て、2年生まで私をいじめていた女子メンバーの一人と再会してしまった。
せっかく治りかけた私の恐怖心が再発し始めた……。
「貧乏だからパン食い競争に立候補したのぉ?」
体が震えてしまって何も言い返せない……理由も当たらずも遠からずだし……。
「あたしと同じ第一走者とは、あんたもついてないねぇ。まぁ、せいぜい怪我しないようにがんばんな」
変われたと思ったのに……私は結局何も変わっていない……このままじゃ負けちゃう……。
ううん、ここで逃げてしまったら私は何も変われない……!
玲美だって、私の為に色んな怖いことに立ち向かってきたんだ!
ここで勝たなきゃ、救ってもらった意味が無い!
「あなたなんかに負けない……貧乏人の食い意地を見せてやるわ!!」
「え、あ、うん……そだね……」
言えた!私はついにトラウマを克服できたんだ!
あの怖い西村春香を黙らせることができたんだ!
玲美、見ててくれた!? 私やったよ!
あ……見てない。野村さん達となんかしゃべってるわ。
……もういいや。私一人でもがんばるもん。
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西村さんとの戦いは、私の圧勝に終わった。
誰も私の食い意地には勝てなかったのだ。
3組は順調に勝利し、パン食い競争は私達の圧勝に終わった。
「恵利佳、やったね!応援してたよ!」
玲美が喜んでハイタッチをしようとしてきたけどスルーする。
悲しそうな顔してるのを見ると少し可哀想だけど、私だって悲しかったんだから。
さてと、お昼ご飯か。
パンは結局食べちゃったけど、つぶ餡だったから別腹としておこう。
まだ私達は1組に負けている。
他の学年ががんばってくれれば、点数の高い団体競技での逆転は可能だ。
あとはうちのクラスの主力達に任せよう。
色んな人物出してみました。こんなところで過去に恵利佳をいじめた人物も出してみたり。運動会は次話で決着です。※順のお題はもちろん、アレで合ってます。




