54:運動会(3)
第54話です。運動会の続きとなります。
二人三脚は意外な事に苦戦し、勝負の行方は最終組の恵利佳と森山さんの組に託された。
「ちょっと緊張するわ……」
「大丈夫よ吉田さん、あれだけ練習したんだもの。私達のコンビネーションを見せつけてやりましょう」
今のところ1組が若干リード、それを追うように3組、4組、2組と続いている。
「みんなー、勝ち負けにこだわらずに最後まで頑張りましょう!」
「「「はーい!!」」」
2組の生徒達は、中山先生の教育の方針もあって素直な子達が多い。殺伐としたこの5年生クラスの中の唯一の癒しと言える。
「みんな、まだ諦めるな!吉田と森山を信じるんだ!」
「オッシャァァァアアア!!」
大島先生は檄を飛ばす。それに呼応するように謙輔も声を出す。走るのお前じゃないけどな。
「ふっふっふ、この競技は我々1組がいただきましたな」
1組の担任、川島先生だ。正直私はこの先生が苦手だ。なんか気色悪い。
「みなさん、私達4組を忘れてもらっちゃ困ります」
4組の橘川昌之先生は不敵な笑みを浮かべる。
「我々4組のアンカーは、校内では常にお互いの足をバンドで繋ぎ、鍛えてきた猛者達です。あなた方に負けようはずもありません。さあ、目に物見せてやりなさい!」」
橘川先生に促されるようにアンカーの選手が登場した。
「わたし達にかかれば、二人三脚なんてお茶の子さいさいだよ!」
「二人三脚で踏み台昇降運動までこなす私達の敵じゃないわ!」
そこに現れたのは由美と朱音だった。
二人三脚での踏み台昇降運動って、超見てみたいんだけど。
「吉田さん相手でも手加減しないよ!」
恵利佳を挑発する由美。ポニーテールがわさわさ揺れる。
「3組が1位で通過する為には負けるわけにいかないの」
恵利佳も負けてはいない。冷静に由美の挑発に答える。
そして、二人三脚のアンカー達は各々のスタート地点に向かって行った。
──────────
『位置に付いてください』
緊張の中アナウンスが流れる。
『よーい……』
『パァンッ!!』
ピストルの音が鳴った。
2組以外の選手達は、それぞれ横一直線に並んだ。恵利佳達もいいスタートを切れたようだ。
「「いちにーいちにー」」
「あら、掛け声を出さないと合わせられないの?」
「私達なんて、もう掛け声なんてなくても阿吽の呼吸で合わせられてよ?」
「「いち!にー!いち!にー!」」
由美達が何か言ってる。それに呼応して声を大きくする恵利佳達。
なんでみんな走ってる最中にしゃべろうとするんだ。
「さあ!スパートだよ朱音!」
「私達の勝利は目前よ!由美さん!」
速度を上げる二人、これは勝負あったかと思われたその時だった。
『バチンッ!!』
弾けるような音が響いて、由美達のゴムバンドは千切れた。
「「えっ!?」」
衝撃でコテンと転ぶ由美と朱音。
そこをすかさずかわして追い抜く恵利佳と森山さん。
「なぜだぁぁぁあああ!?」
川島先生は頭を抱える。
そういえば『校内では常にお互いの足をバンドで繋ぎ』って言ってたっけ。
そんなことしてるからゴムバンドが弱ってたんじゃないの?
「「いちにー♪いちにー♪」」
心なしか嬉しそうな声で走る二人。
たぶん、ざまぁとか思ってるなあれ。
トップは恵利佳と森山さんだ。このまま勝利となるか。
「「ワンツーワンツー!ワンツーワンツー!」」
ここで1組の宮島鞠子・新垣里香のペアが追い上げてきた。
なぜか英語でステップを踏むように掛け声を上げる。
「「いち!!にー!!いち!!にー!!いち!!にー!!いち!!にー!!」」
「「ワン!!ツー!!スリー!!フォー!!ファイ!!シックス!!セブン!!エイッ!!」」
ゴール前で二人三脚らしからぬデッドヒートが繰り広げられる。
そして、ほぼ同着でふた組はゴールした。
『これは……判定になりますので、少々お待ち下さい!』
どうやら写真での判定となるようだ。
審査員の先生達が協議に移る。
そして、結果が出たようだ。
『胸の差で、1組の勝利です!!』
「「「ッシャァァァアアア!!」」」
盛りあがる1組の生徒達。
胸の差で3組は負けてしまった。言われてみれば二人とも……いえ、言えた義理じゃないのでやめておきます。
「クソーッ!負けたか!」
「申し訳ございませんわ……」
「数年後だったらきっと負けなかったのに……」
二人三脚は惜しくも2位に終わった。
これまでの総合点は、1組のがリードしている。
3組のは他の学年があまり強くないため苦戦している。
「これで負けたわけじゃねえ!次の借り物競争で俺達3組が逆転するぜ!!」
「いよいよ僕達の出番ですね、玲美さん」
「ああ、うん……」
波乱の運動会は、まだまだ続く。
何気に一番長いシリーズになりそうな予感がします。ついに5年4組の先生も明らかになりましたが、出番はそんなに無さそうです。次回は懐かしいキャラが登場します。




