51:そして、少女は過去を取り戻す
第51話です。最終回っぽいタイトルですが、もう少し続きます。
今回の騒動は、匿名として全校集会で扱われることとなった。
差別であったり、暴力であったり、世の中には様々ないじめがある。
いじめをした者にとっては些細なことでも、いじめをされた側はその事を忘れる事は無い。
ずっと心に深い楔となって突き刺さったままとなり、それは大人になってもずっと残ってしまう。
いじめられる側の気持ちを知りなさいと校長先生は語った。
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河村さんは転校して行った。
なんでも、お母さんの故郷にある小学校に通うのだそうだ。
知らされたのは、既に引っ越した後だった。
送別会も何も無く、彼女は静かに去って行った。
河村さんの起こした事件が明るみに出ることは無かった。
小岩井も無事退院し、縫ったところはちょっと禿げてしまったけど、それを逆にネタにして楽しんでいた。
川田はあれからすっかり大人しくなった。
妙な動きをすれば謙輔が常に見張ってるので、怯えてしまったようだ。
悠太郎を見ても怖がって逃げようとする。
あの時駄目になってしまった靴は、意地でも川田に弁償させるそうな。
6年生のボスを倒したという謙輔は、6年生の先輩達からも敬語で挨拶されるようになってしまった。
勘弁してくれと本人は言ってるけど、残念ながらやまりそうにない。
それから、私達は合同授業の一環として、いじめに関するビデオを見せられた。
ビデオ観賞が終わった後、大島先生は、いじめの仕組みと対策について図で説明をしながら、生徒の質問にもよく答えてくれた。
大島先生は中山先生と協力して、いじめの相談窓口も開設した。
利用者は多いようで、学校からいじめを無くすことの難しさを改めて痛感した。
私達が知らないだけで、いじめは学校内に無数に存在する。
もしかしたら、いじめてる方はそれをいじめだと認識していないかもしれない。
でも、いじめられてる側にとって苦痛であれば、それはもういじめに他ならないのだ。
大島先生も中山先生もやる気満々だ。
いじめを完全に撲滅することは難しいだろうけど、少なくともいじめによる負の連鎖を抑止することはできると思う。
そして────────
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私は、吉田さんと一緒に思い出の神社に来ていた。
「ここで日高さんに初めて会ったのよね……」
境内に二人で座る。
そこからは、謎の石碑も、一本だけあるクヌギの木も、神社のあらゆる場所を全部一望できた。
「初めて会った時の吉田さんは、まるでお人形さんが歩いてるかと思ったよ」
「ふふっ、それは褒めているのかしら?」
「もちろん」
あれから吉田さんはよく笑うようになった。
女子達も積極的に吉田さんと話すようになってきた。
最初は吉田さんも戸惑っていたけど、徐々に本来の明るさを取り戻して行った。
学校に吉田さんを悪く言う人が居なくなるのも、時間の問題だと思う。
「そういえば、日高さんにまだ話して無かったわね」
「何を?」
「私が見た夢の話────────」
◆◇◆◇
私は時々悪夢を見ることがあった。
毎回内容は同じで、全てに絶望して学校の屋上から飛び降りる夢。
飛び降りたはずなのに、いつの間にかまた屋上に戻されてしまう。
私はまた、屋上から飛び降りる。
そんなことを延々と続けるだけの辛くて苦しい夢だった。
あの事件の後、久しぶりにその夢を見たの。
ああ、また私は学校の屋上から飛び降りるんだ。
いつも自分の意志とは関係なく、その行動に出てしまう。
でも、その日に見た夢は違った。
私は屋上から飛び降りることは無かった。
初めて自分の意思で踏みとどまることができた。
、そして、私の前に一人の男の人が現れた。
白い衣装を身に纏い、眼鏡をかけた優しそうな男の人だった。
『もう、飛び降りる必要は無いよ』
その男の人は、全てを悟ったような顔でそう言った。
『君は救われた。悪夢はもう、終わったんだ』
そう言われた瞬間、学校の屋上だと思っていた場所は、何も無い不思議な空間に変わった。
次の瞬間、まぶしい光に包まれたかと思ったら、目が覚めてたの。
◇◆◇◆
「不思議な夢でしょ?」
照れくさそうに話す吉田さん。
でも、すぐ真面目な顔に変わった。
「もう、きっとあの悪夢を見ることは無い……そんな気がするの」
私もそう思う。
吉田さんの話してくれた夢の内容は、前世の私の記憶にあった彼女の悲惨な未来そのものだった。
現実に起こりえた悪夢……それが終わりを告げたんだ。
「そうだ。私さ、吉田さんに言わなくちゃいけないことがあったんだ」
「何? そんな改まって」
前世の私と吉田さんが交わした“あの約束”。
それを果たす時が来た。
「私と……友達になってください!」
私は吉田さんに手を差し出した。
そんな私を見て、吉田さんは驚いたような顔をしていた。
でも、すぐに笑顔になると、私の手をぎゅっと握ってくれた。
「そんな……断るわけないじゃない。これからも、よろしくね」
吉田さんは、笑顔で答えてくれた。
「私から言おうと思ってたのに……もう!」
そう言って、いたずらっぽく笑う吉田さん。
初めて出会ったこの神社で、この日、私達は友達になった。
女同士なのに、愛の告白のようでちょっと照れてしまう。
吉田さんも恥ずかしかったみたいで、頬を赤く染めていた。
それから、私達は他愛のない話を楽しんだ。
何でも無い会話だけど、それが無性に楽しい。
そして、時間はあっという間に過ぎて行き、私達は別れた。
「また明日、学校で」
「うん、また明日ね」
また明日。
言ってしまえば何でも無い言葉だけど、私達にとっては平穏を取り戻した証なんだ。
夕焼けに染まる境内。
その上に光る何かを見た。
光はまるで、私達の明るい未来を祝福しているように輝いていた────────
プロット分はこれで終わりですが、もう少しだけ彼女達の取り戻した日常を見ていただけましたら幸いです。
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