49:恐怖
第49話です。よろしくお願いいたします。
どいつもこいつも使えない……。
私は小岩井の家を抜けだした。
こんなところに居ては捕まってしまう。
小岩井には悪いけど、私はここで捕まるわけにはいかない。
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橋の下に隠れることにした。
近くでパトカーの音や救急車の音が聞こえる。
小岩井と川田なんて使うんじゃなかった……あいつらのせいで、私の計画はボロボロだ。
坂本は上手く行ったのだろうか……。
彼が上手くやれば、渡辺達を日高さんから奪うことができる。
そうすれば、まだ計画は続行できるし彼女にも私を止めることはできなくなるだろう。
私はまだ負けてない……まだ負けてないんだ。
恵利佳だって、私がしっかり管理してあげる。
そうすれば、私の計画は完成だ。
恵利佳が居てくれれば、私は悪夢を見なくて済む。
恵利佳が居てくれれば、私は救われる。
もう少し、もう少しここでほとぼりが冷めるのを待とう……。
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「玲美、大丈夫だったか?」
謙輔達も警察署に来た。
うわ……顔がボロボロだ。 何してたのあんた達。
「すまんな、助けに来るのが遅くなっちまった。小岩井んとこのに居た警官に警察署に行ったって聞いてさ」
「ついでに俺達も事情聴取するらしいっス」
「そうだったんだ。それにしても、その顔、大丈夫なの?」
「名誉の勲章だ。お前の為に戦ってたんだぞ?」
「そっか……ありがとう。でも、無茶はしないでよね」
そして、謙輔達も警察に事情聴衆に連れて行かれた。
あんな顔して……謙輔達も戦ってくれてたんだ。
みんなが居てくれたから、私も吉田さんも助かった。
誰か一人でも欠けていたら、私達は河村さんに勝てなかったかもしれない。
それに……小岩井も居てくれたから。
最後にあいつが助けてくれなかったら、悠太郎も間に合わずにきっと……。
「玲美、大丈夫!?」
由美達も来てくれた。
ああ、めっちゃ心配して怒ってる……。
由美は心配し過ぎると怒りだしちゃうんだよね。
ある意味一番怖いです……。
「でも、無事で良かった……心配したんだから!」
私に抱きつき由美が泣いている。
いつもと逆だね……心配掛けちゃってごめんね……。
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しばらくして謙輔達が戻ってきた。あとは、親の迎えを待つだけだ。
めっちゃ怒られるんだろうなぁ……ちょっと怖い。
「助けに行けなくて悪かったな」
「楽勝だったから大丈夫だ」
「その顔でよく言うよ……ったく」
謙輔と琢也が話している。
あんなに怪我してるのに、謙輔はいつも通りだ。
やせ我慢のような気もするけど、謙輔なりの私達への気遣いなのだろう。
「あー、今になってあちこち痛くなってきた!玲美、看病してくれ!できれば膝枕で」
「そんなことはオレが許さん」
「何で伊藤が許さないんだよ!」
気遣いじゃないのかもしれない……心配して損した。ほっとこ。
「ご苦労さんだったね。もう少し我慢してくれよ」
「はい。あの……河村さんは見つかりましたか?」
「まだ見つかってないんだ。親御さんには連絡付いたんだけどね。家にも帰ってないらしい……」
嫌な予感は的中した。
河村さんは、小岩井の家に行った時は既に居なかったらしい。
彼女は一体どこへ……。
「大丈夫かしら……」
吉田さんはあんな目にあったのに、河村さんを心配している。
うん……まぁ、吉田さんはそういう人だもんね。わかってるよ。
「警察の人も動いてくれてるし、大丈夫だよ」
「うん……」
もう外も真っ暗だ。
こんな時間まで、いくら河村さんとはいえ女の子一人で出歩くのは危険だ。
私も、できれば早く見つかってほしいと思う。
そうしているうちに親達が来たみたいだ。
謙輔のお父さんは一目散に謙輔に駆け寄った。
「あ、親父」
そして、謙輔を思いっきり────
「この馬鹿息子がああああああ!!」
ぶん殴りました!?
「いってぇぇええーーーー!? 俺怪我してるんだぞ!!」
「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、遂に警察の世話になんぞなりよって! うちの息子が迷惑をお掛けして申し訳ない!!」
「話を聞け!馬鹿親父!!」
あーあ……謙輔可哀想に。日ごろの行いが悪かったからだよ。
「あ、あの、渡辺さん。違うんです。謙輔君はこの子達の為に……」
警察の人が止めに入り、謙輔の誤解は解けた。
息子にめっちゃ謝ってる親父さん。初めて会った時の威厳はどこに行ってしまったのだろう。
「渡辺さん……この度は娘の為にで息子さんにまで怪我を負わせてしまって、何とお詫びしたらいいのか……」
あ、吉田さんのお母さんだ。
ついに土下座の体制に入っていた親父さんは、その姿勢のまま吉田さんのお母さんを見て硬直している。
そして、何事も無かったのようにスッと立ち上がりスーツを整える親父さん。
「いえ、うちの馬鹿息子で良かったら幾らでも使ってやってください。あいつは男として当然のことをしたまでです」
「あ、えっと……そうですか」
そして、吉田さんのお母さんの手をそっと握る親父さん。
これにはさすがに吉田さんのお母さんも困惑している。
「……何これ」
吉田さんも呆れた顔で見ている。ほんとに何なんだ、この茶番。
「うちの娘は!? 智沙は見つかったんですか!?」
あれは、河村さんのお母さんだろうか。
いかにもキャリアウーマンと言った感じで、ちょっとキツイ印象を受けるお母さんだ。
あの親にして、この子有りって感じ。
「捜索中です。見つかり次第保護します」
「あの、娘が何かしたみたいですけど、きっと騙されていただけです!何とか穏便に……あの子には私立の受験も控えてるんです!」
「ですが……娘さんが主犯だという供述もありますし、そういうわけには……」
「お金ですか!? わかりました、皆さんに慰謝料を払います!それでどうか無かったことにしてください!あの子には輝かしい未来があるんです!その為にここまで育ててきたんです!」
ちょっと何言ってるのか分からない。
将来のことよりも、娘の心配をするのが親でしょうが。
「玲美……無事だったのね」
「お母さん、心配させてごめんなさい……」
「お説教は後ね……あなたが無事でよかったわ……」
お母さんは私を抱きしめてくれた。今日はよく抱きつかれる日だ。
ああ、でも……無事だったからこうしていられる。
お説教は怖いけど、その分心配してくれたってことだよね。
お母さん、心配掛けてごめんなさい。
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まだパトカーの音が聞こえる。
私を探しているのだろうか。
ここに居ては駄目だ、もっと遠くに逃げなくちゃ……。
「おいお前、俺の住処に何の用だ」
みすぼらしい姿をした男が立っていた。
ここは彼の住処だったようだ。早々に立ち去ることにしよう。
「何でもありません。失礼します」
「おい、待てよ」
男は腕を掴んできた。
「離しなさい、警察呼ぶわよ」
「ああ、さっきからパトカーがうるせえな」
とんだマッチポンプだ。私が警察など呼べるはずもない。
でも、この場はそう言って逃げるしかない。
「こんなところまで警察は来ねえよ。それより、俺といい事しようぜ……」
「は、離して!やめなさい!!」
男の腕の力はどんどん強まる……大人の力に子供の私が対抗できるはずがない。
……怖い……これが怖さだというの?
私が日高さんにしようとしたこと、恵利佳にしてしまったこと。
少し違うかもしれないけれど、彼女達も似たような恐怖を味わったはずだ。
それを、私は今までやってきたんだ……。
「た、助けて……」
「声を出されると厄介だ。黙らせてしまうか」
男は何か布のようなものを出し、それを私の口に詰めようとする。
怖い……怖い、怖い、怖い、怖い!!
誰か、誰か助けて!
「だ、誰か! 助けて!!」
「黙れ! 静かにするんだ!!」
「あっちの方で声がしたぞ!」
「おい、何をしてるんだ!!」
「ちくしょう!捕まってたまるか!」
男は私を離し逃げて行った。
まだ震えが止まらない……腕には男が掴んでいた痕がくっきりと残っていた。
「大丈夫か、君……ん?」
「どうした?」
「河村……智沙さんだね?」
「……はい」
「ちょっと署まで来てもらえるかな?」
私は、ついに警察に捕まった。
捕まったって言っても補導です。小学生ですからね。もう1話あります。引き続きお楽しみいただけたら幸いです。※今回試験的に投稿時間を朝7時に変更しております。




