47:内通者
第47話です。よろしくお願いいたします。
学校周辺を手分けして探したが、玲美も吉田も見つからなかった。
一度家に連絡入れてみるか?
「謙輔さん、もしかしたらってところがあるんだけど」
急に坂本がそんなことを言い出した。
そういうのはもっと早く言ってくれと思ったが、怒っている暇は無い。
「行ってみるか」
俺と江藤は坂本の言う場所に向かうことにした。
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後をついて行くと、廃材置き場のような場所に出た。
坂本はそこで止まった。
「よお、渡辺」
ガタイのいい、厳つい顔をした男に声を掛けられる。
「誰だお前は。俺達は忙しいんだ。遊んでる暇は無い」
「鬼崎さん、連れてきました」
坂本はそう言い、そのガタイのいい男に近付いて行った。
「おい、坂本?」
追いかけようとすると、いつの間にか出てきた男達に囲まれてしまった。
どいつもこいつも人相が悪い。
俺を騙したのか?
「謙輔さん、ちょっとヤバいかもしれないっスね……」
江藤も知らなかったようだ。
俺達は揃って坂本の罠に嵌ったのか。
「これはどういうつもりだ、坂本!」
ガタイのいい男は、ニヤニヤと笑っている。
「どうもこうも、これは謙輔さんの為でもあるんだけど」
俺の為? 何を言ってるんだこいつは。
それにしても坂本のやつ、最近どうもおかしいと思ったら、こういうことだったのか。
「俺は6年の鬼崎吾朗。 6年をシメてるもんだ」
「6年のボスさんが俺に何の用だ」
「お前を俺の配下に加えてやろうと思ってな。 お前ほどのワルなら幹部クラスで使ってやってもいい」
「へえ、そりゃどうも。 けど、残念ながらワルはもう卒業してるんでね」
俺はもう暴れたりとかそういうのはやめたんだ。
そういうのなら、別の奴を誘ってくれ。川田とか。
「謙輔さんは腑抜けちまった。 前は強い者も弱い者もまとめて挫き、欲しい者は力ずくでも手に入れる。 そういう所に俺は憧れてたんだ」
「俺ってそんなに酷かったか……?」
坂本に言われて、以前の自分のひどさに自分で嫌気がさしてしまう。
ちょっと悲しくなってきた。
「だから、鬼崎さんについて行きましょうよ! 日高達なんかに関わってたら、あんたはどんどん腑抜けになる!」
「そういうことだ。 俺と一緒にこの学校をシメようぜ。 女だってそんな日高とかいうチンチクリンじゃなくて最高の女を用意してある」
あいつ、知らないところで酷い言われようだな……本人が聞いたら怒るぞ。
「生憎、俺は女の好みはうるさいんでね。 その最高の女が誰か知らんが、興味は無い」
「その女が、河村智沙だとしてもか?」
「河村智沙? お前らのバックにはあの女がいるのか?」
意外なところで出た名前に思わず驚いた。ということは、坂本も河村と繋がっていたということか?
だとしたら……俺達の情報は河村に筒抜けだったってことじゃねえのか!?
「坂本……お前ぇ!」
「智沙さんは俺達に楽しめる環境を与えてくれる。 あんただって、最初は俺と一緒に吉田をいじめて楽しんでたじゃないか」
あの頃の俺は馬鹿だった。
弱い者をいじめ、暴力で人を支配し、我儘の限りを尽くしてきた。
だから、坂本に吉田をいじめようって言われた時は、新しいおもちゃが手に入ったくらいにしか考えてなかった。
それがどれだけ相手を傷つけるかも考えてこなかった。
「昔の謙輔さんに戻ってください! 一緒に俺達と楽しくやりましょうよ! 智沙さんと組めば俺達は最強だ!」
そういえばお前は、ボウリングの日にいなかったんだったな。
あの日が俺にとってのターニングポイントだった。
怖かったろうに、玲美はそんな俺に真っ向から歯向かい、目を覚まさせてくれた。
あの時、もしお前も居れば何か変わってたんだろうか。
「江藤、お前だって暴れ足りないだろ? 昔の謙輔さんに戻ってほしいよな?」
「俺は、今の謙輔さんの方が一緒に居て楽しいよ。 充分に満足している」
江藤……ありがとう。
「今でも目を離すと暴れてる時あるから冷や冷やしてるけどな」
それは言わなくていいです。 なるべく気を付けます。
俺はもう生まれ変わったんです。
「そっか、俺以外はみんな腑抜けちまったんだな……」
坂本は俺の子分だ。
子分の不始末を付けるのは、親分である俺の役目。
だとしたら、やることは一つだ。
「お前は大事な変われるチャンスを逃しちまった。 だが安心していい。 俺がお前にチャンスをくれてやる」
「何を言ってるんだ」
「こいよ、お前は俺が直々に躾し直してやる」
「おい、俺を無視して盛りあがってんじゃねえよ!」
ああ、そうか。 鬼崎も居たんだったな。
「まとめて相手してやるから、かかってきなさい。 どうせ玲美達のこともお前達が1枚噛んでるんだろ?
全部吐かせてやるから覚悟しとけ」
「なめるなよ、5年のガキが!」
さて、今日は流石に江藤も止めないだろうし、久しぶりに存分に暴れさせてもらいますか。
ボソッと『やり過ぎは駄目ですよ』と言われたけど気にしない。 相手も人数多いし。
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「日高さん、走って!」
吉田さんに引っ張られて逃げる。 川田は叫びながら追ってきてる。
周りに人もいるのに、まるでお構いなしだ。
「待ちやがれえ!!」
川田はあの巨体からは信じられないスピードで、私達を追ってきた。
追いつかれるのは時間の問題だ。
こちらは二人。 相手は川田一人。
一人が囮になれば、もう一人は逃げられるかもしれない。
……とすれば、取る方法は一つ。
「吉田さん、私が囮になるから逃げて!」
「そんなことできるわけないでしょう!」
「大丈夫、適当に相手してうまく逃げるから!」
「そんなことしないで! 一緒に逃げましょう!」
「いいから早く逃げて!」
私は吉田さんの手を振り払い、川田に対して向き直った。
「日高さん……」
「早くしろ!!」
「…………絶対助けを呼んでくるから」
吉田さんは走って行った。
これでいい……ちょっときつい言い方しちゃったけど、ごめんね。
「逃がさねえぞ!!」
こいつだけは許せない!
小岩井をあんな風にしやがって……刺し違えてもやっつけてやる!
「死ねええええ!!」
突進してくる川田に身構えた時だった。
次の瞬間、川田は蹴り飛ばされて転がっていた。
「お前、オレの大事な彼女になんてこと言ってくれてんの」
悠太郎!?
吉田さんが息を切らせながら戻ってきた。
悠太郎を呼んできてくれた? 悠太郎はまだ部活やってたはず……だよね?
「誰か知らんが……邪魔をするなら殺してやるぞ!!」
「二人とも下がってろ」
悠太郎は私達の前に出た。
でも、あいつはナイフを持っている。
悠太郎一人じゃ危険だ。
川田はナイフを構えてじわじわと近付いてきた。
坂本君はスパイでした。42話で河村さんと話してたのも実は彼です。




